漢詩の表現
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
0. どういうまとまりか
漢詩は、短い字数の中に、音の響きと意味の対応を重ねて作られています。
形式の決まり(→ 近体詩の形式)を知ったうえで、ここではその表現が読むときにどう役立つかを確かめます。
| 表現 | 何をそろえるか | 読むときの使い方 |
|---|---|---|
| 押韻 | 句末の字の響き | 句のまとまりをつかむ。空欄の韻字を決める |
| 対句 | 2 つの句の組み立てと、同じ位置の語の意味 | 分からない語を、対になる語から推し量る |
| 双声語・畳韻語・畳語 | 2 字の語の中の響き | ようすや音を表す語だと見当をつける |
| 典故 | 故事や先行する作品を踏まえる | もとの話を重ねて、短い語の意味を補う |
| 題材 | 月・柳・雁など、くり返し詠まれるもの | 題材から詩の心情の見当をつける |
分かれ目は次の 3 つ。
- 押韻は音、対句は意味と組み立て。対句は飾りであると同時に、語の意味を決める手がかりになる。
- 双声語は語頭の子音、畳韻語は母音から後ろの響き、畳語は同じ字をそろえた 2 字の語。
- 絶句は転句で向きが変わる。前半が景色、後半が心情という詩が多く、主題は結句に出やすい。
1. 押韻と対句
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-エ
漢詩の基本のリズムは、四言・五言・七言という句の字数(音数律)です。そこに、句末の響きをそろえる押韻と、2 句を対応させる対句が重なります。
杜甫「春望」(五言律詩)の前半
国破山河在 城春草木深
感時花濺涙 恨別鳥驚心
書き下し文: 国破れて山河在り 城春にして草木深し 時に感じては花にも涙を濺ぎ 別れを恨んでは鳥にも心を驚かす
現代語訳: 都は戦乱で壊れたが、山や川は変わらずにある。町には春が来て、草木が深く茂っている。この時世を思うと花を見ても涙がこぼれ、家族との別れを嘆いては鳥の声にも胸が騒ぐ。
押韻は、漢詩の中でどんなはたらきをするか?
句末の響きをそろえて、詩にリズムとまとまりを与える。
韻字の置かれる句の末は、意味のうえでも区切りになることが多い。
書き下し文を読むだけでは、押韻が分からないのはなぜか? どう確かめるか?
訓読は日本語の語順と訓で読むので、句末の字の音が出てこないから。白文で句末の字を音読みして比べる。
杜甫「春望」なら、偶数句の末の深(シン)・心(シン)・金(キン)・簪(シン)が韻字。
漢詩の対句の 2 句は、訓読するとき、返り点の付き方がどうなることが多いか? それはなぜか?
同じになることが多い。対句は、2 句の文の組み立て(語の並び方)が同じだから。
「感時花濺涙/恨別鳥驚心」は、どちらも 2 字目から 1 字目へ、5 字目から 4 字目へ返る。片方の句の読み方が分かれば、もう片方も同じ順で読める。
杜甫「春望」の頷聯「感時花濺涙/恨別鳥驚心」で、対応している語の組を挙げると?
「感時」と「恨別」、「花」と「鳥」、「濺涙」と「驚心」
どちらの句も「〜しては、〜にも、〜する」という同じ組み立てになっている。
杜甫「春望」の首聯「国破山河在/城春草木深」は対句である。「国」が指すものを、対になる語からどう推し量るか?
同じ位置にある「城」(城壁で囲まれた町。ここでは長安)と対になるので、「国」も国全体ではなく、国の都(長安)を指すと考える。
対句では、片方の句で意味の決めにくい語を、もう片方の同じ位置の語から推し量れる。教科書の語注も、この「国」を国都とするものが多い。
2. 響きをそろえた語
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-エ
漢詩や漢文には、2 字の中で響きをそろえた語がよく出てきます。多くはようすや音を表す語で、訓読では「〜として」「〜たり」と読みます。
| 種類 | そろえるところ | 例 |
|---|---|---|
| 双声語 | 2 字の語頭の子音 | 彷彿(ホウフツ)・玲瓏(レイロウ)・躊躇(チュウチョ) |
| 畳韻語 | 2 字の母音から後ろの響き | 混沌(コントン)・徘徊(ハイカイ)・逍遥(ショウヨウ) |
| 畳語 | 同じ字を重ねる | 悠悠・青青・蕭蕭 |
「彷彿」「玲瓏」のように、2 字の語頭の子音が同じ語を何というか?
双声語
彷彿(ホウフツ)、玲瓏(レイロウ)のように、音読みの出だしがそろう。
「混沌」「徘徊」のように、2 字の母音から後ろの響きが同じ語を何というか?
畳韻語
混沌(コントン)、徘徊(ハイカイ)のように、音読みの終わりがそろう。双声語と向きが逆。
杜甫「登高」の「無辺落木蕭蕭下/不尽長江滾滾来」(無辺の落木蕭蕭として下り 不尽の長江滾滾として来たる)の「蕭蕭」「滾滾」のように、同じ字を重ねた語を何というか? どんなはたらきをするか?
畳語。ようすや音を表し、響きのくり返しでリズムを作る。
「蕭蕭」は木の葉がものさびしく散るようす、「滾滾」は水が尽きずに流れるようす。この 2 句は対句でもある。
3. 典故
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-エ
典故は、故事や先行する作品を踏まえて表現することです。字数の限られた詩では、1 語でもとの話の全体を呼び出せるので、よく使われます。
| 典故による語 | もとの話 | 意味 |
|---|---|---|
| 雁書(雁信) | 匈奴に捕らえられた前漢の蘇武の手紙が、雁の足に結ばれて届いたという話(『漢書』) | 手紙、便り |
| 知音 | 琴の名手の伯牙の音色を、鍾子期だけが聞き分けた話(『列子』) | 自分を本当に分かってくれる友 |
| 断腸 | 子を奪われた母猿の腸が、悲しみのあまりちぎれていた話(『世説新語』) | はらわたがちぎれるほどの悲しみ |
漢詩で典故がよく使われるのは、詩のどんな性質に合っているからか?
字数が限られているから。典故を使えば、2 字ほどの語で、もとの話の内容や心情をまるごと呼び込める。
「知音」の 2 字で、伯牙と鍾子期の話の全体が重なる。字面だけでは意味が通らない語に出会ったら、典故を疑って語注を見る。
漢詩で、雁が「手紙」「便り」と結びつくのは、だれの故事によるか?
前漢の蘇武の故事。匈奴に捕らえられていた蘇武を帰させるために、漢の使者が「天子の射た雁の足に、蘇武の手紙が結ばれていた」と言った(『漢書』)。
ここから手紙を「雁書」「雁信」という。雁は秋に北から渡ってくる鳥なので、故郷を思う詩にも出てくる。
4. 題材と、転句の読み方
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-エ
漢詩には、くり返し詠まれる題材があります。題材が分かると、どんな心情の詩かの見当がつきます。
| 題材 | 結びつくことの多い心情 |
|---|---|
| 月 | 遠く離れた故郷・家族・友を思う |
| 柳 | 別れ。旅立つ人に柳の枝を折って贈る習わしがあった |
| 雁 | 便り、故郷への思い、秋 |
| 秋 | もの悲しさ、老い、旅のわびしさ |
| 白髪 | 老いと、積もった憂い |
| 辺塞(辺境のとりで) | 遠い戦地にいる兵士のつらさと、故郷への思い |
| 送別 | 旅立つ友を見送る惜しみ |
王維「送元二使安西」(七言絶句)
渭城朝雨浥軽塵 客舎青青柳色新
勧君更尽一杯酒 西出陽関無故人
書き下し文: 渭城の朝雨軽塵を浥し 客舎青青柳色新たなり 君に勧む更に尽くせ一杯の酒 西のかた陽関を出づれば故人無からん
現代語訳: 渭城の町に朝の雨が降って、軽い土ぼこりをしっとりと湿らせた。宿のあたりは青々として、柳の色がみずみずしい。さあ君、もう一杯この酒を飲みほしてくれ。西へ向かって陽関を出てしまえば、もう古くからの友人はいないのだから。
李白「静夜思」の後半「挙頭望山月/低頭思故郷」(頭を挙げて山月を望み 頭を低れて故郷を思ふ)のように、漢詩で月はどんな心情と結びつくことが多いか?
遠く離れた故郷や、家族・友を思う心情
離れた土地でも同じ月を見ている、という思いが背景にある。
王維「送元二使安西」の承句「客舎青青柳色新」の「柳」は、この詩の題材とどう結びつくか?
柳は別れの場面と結びつく題材で、この詩が友を見送る送別の詩であることと響き合っている。
旅立つ人に柳の枝を折って贈る習わしがあった。「青青」は畳語。
王維「送元二使安西」では、転句「勧君更尽一杯酒」で何が変わるか? 結句は、転句とどうつながるか?
前半の朝の景色(雨に湿った道、宿の柳)の描写から、旅立つ友への呼びかけに変わる。結句「西出陽関無故人」は、もう一杯と勧める理由を述べている。
絶句は転句で向きが変わるので、そこから先に何が持ち出されたかを見る。この詩は、別れを惜しむ気持ちを「悲しい」と言わず、酒を勧める言葉で表している。
絶句で、作者の心情はどの句に表れやすいか?
後半(転句・結句)、とくに結句。
前半で景色を述べ、後半で心情を述べる組み立ての詩が多い。心情を問われたら、まず結句を読む。