史伝と寓話
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
0. どういうまとまりか
漢文の散文のうち、物語として読むものが史伝(歴史と伝記)・寓話・小説です。
詩が五言・七言などの句の字数で形を示すのに対し、これらは話をどう組み立てるかに種類ごとの型があります。型を知っていると、次に何が書かれるかの見当がつきます。
| 書物 | 編著者・時代 | 形 |
|---|---|---|
| 『史記』 | 司馬遷・前漢 | 紀伝体。太古から前漢の武帝までの通史 |
| 『漢書』 | 班固・後漢 | 紀伝体。前漢だけを記す |
| 『三国志』 | 陳寿・西晋 | 紀伝体。魏・蜀・呉の歴史 |
| 『資治通鑑』 | 司馬光・北宋 | 編年体 |
| 『十八史略』 | 曾先之・元 | 18 の歴史書を短くまとめた入門書 |
| 『戦国策』 | 劉向(編)・前漢 | 戦国時代の遊説家の弁論を国別に集める |
分かれ目は次の 3 つ。
- 紀伝体は人物ごと、編年体は年月の順。『史記』が紀伝体の始まりで、のちの正式な歴史書はこの形にならった。
- 列伝は、人物の紹介・逸話の積み重ね・書き手の評の順に進む。「太史公曰」から後ろは司馬遷自身の言葉。
- 寓話は、話の外に言いたいことがある。だれが、だれを説得するために語った話かを確かめる。
1. 紀伝体と編年体
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-イ
歴史の書き方には大きく 2 つの形があります。教科書に載る史伝の多くは、紀伝体の『史記』と、それを短くまとめた『十八史略』から採られています。
「紀伝体」という呼び名は、何から来ているか? この形で書かれた最初の歴史書は?
「本紀」(帝王の記録)と「列伝」(人物の伝記)から 1 字ずつ取った名。最初は『史記』。
のちの正式な歴史書は、この形にならって書かれた。人物ごとに書くか、年月の順に書くかという違いは、古文の歴史物語(大鏡と栄花物語)で確かめたのと同じ。
中国の歴史書で、編年体で書かれた代表的なものを 2 つ挙げると? 編年体と紀伝体は、それぞれ何を追うのに向いているか?
『春秋』と、北宋の司馬光の『資治通鑑』。編年体は出来事の前後のつながり、紀伝体は 1 人の人物の一生を追うのに向いている。
『春秋』は魯の国の年代記で、孔子が手を入れたと伝えられる。
『史記』の作者と時代は? どこからどこまでを記した歴史書か?
司馬遷、前漢(武帝のころ)。伝説上の帝王の黄帝から、前漢の武帝までを記す通史。
全 130 巻。
『史記』の「本紀」「世家」「列伝」は、それぞれ何を記すか?
本紀は帝王、世家は諸侯、列伝は個人(臣下・学者・刺客など)の事績を記す。
ほかに、年表にあたる「表」と、制度や文化を記す「書」があり、合わせて 5 つの部分からなる。
皇帝にならなかった項羽の伝記は、『史記』のどの部分に置かれているか?
本紀(項羽本紀)
司馬遷は、実際に天下を動かした人物として項羽を帝王と同じ扱いにした。諸侯でない孔子と陳渉も、世家に置かれている。
『史記』と『漢書』は、どちらも紀伝体である。扱う時代の範囲はどう違うか?
『史記』はいくつもの王朝にわたる通史、『漢書』は前漢 1 つの王朝だけを記す(断代史)。
『漢書』は後漢の班固の作。のちの正式な歴史書は、『漢書』と同じく王朝ごとに書かれた。
『十八史略』は、どんな書物か?
『史記』から宋の時代までの 18 の歴史書を、短くまとめた入門書。元の曾先之の作。
話が短く整理されているので、教科書によく採られる。「臥薪嘗胆」「鶏口牛後」など。
歴史書の『三国志』と、『三国志演義』は、どう違うか?
『三国志』は西晋の陳寿が書いた紀伝体の歴史書。『三国志演義』は明の時代にまとめられた長編の小説(羅貫中の作とされる)。
演義は歴史をもとにした物語で、話し言葉に近い文体で書かれている。
2. 列伝の構成
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-イ
列伝は、1 人(または数人)の人物を、いくつかの逸話で描きます。書き手は人物の性格を説明せず、その人が何をし、何と言ったかで示すので、会話と行動を追って読みます。
| 位置 | 書かれること | 目印 |
|---|---|---|
| 冒頭 | 人物の名・出身・身分 | 「A 者、B 也。」「A 者、B 人也。」 |
| 中ほど | 逸話の積み重ね。会話が多い | 「曰」 |
| 末尾 | 書き手の評(論賛) | 「太史公曰」 |
『史記』廉頗藺相如列伝は「廉頗者、趙之良将也。」で始まる。書き下すと? 列伝の冒頭には、ふつう何が書かれるか?
「廉頗は、趙の良将なり」。列伝の冒頭には、人物の名と、出身や身分の紹介が置かれる。
「A 者、B 也」(A は B なり)の形。ここで紹介された人物が、その後の文の主語になる。
『史記』の列伝などの末尾にある「太史公曰」で始まる部分を何というか? だれの言葉か?
論賛。司馬遷自身が、その人物や出来事について述べた評。
太史公は司馬遷のこと。ここまでの逸話は事実の叙述、ここから後ろは書き手の考えと分けて読む。
3. 寓話と小説
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-イ
寓話は、言いたいことを別の話に託した短い話です。説話は言い伝えられた話を書きとめたもので、そこから怪異の記録や、作り話としての小説が育ちました。
寓話とは、どんな話か? どんな書物に多いか?
教訓や主張を、動物や架空の人物などの別の話に託して語る短い話。『戦国策』『韓非子』『列子』『荘子』などに多い。
話そのものより、話を通して言おうとしていることが主題になる。
『戦国策』の「虎求百獣而食之、得狐。」(虎百獣を求めて之を食らひ、狐を得たり。)で始まる「虎の威を借る狐」の話は、だれが、何を説明するために語った話か?
楚の臣の江乙が、楚の宣王に、「北方の国々が恐れているのは重臣の昭奚恤ではなく、その背後にある王の兵力だ」と説明するために語った。
虎が王、狐が昭奚恤、百獣が北方の国々にあたる。『戦国策』の寓話は、遊説家が君主を説得する言葉の中に出てくるので、現実のだれにあたるかを対応させて読む。
六朝の時代に書かれた、不思議な出来事や怪異を書きとめた短い話を何というか? 代表的な書物は?
志怪小説。代表は干宝の『捜神記』。
言い伝えを事実の記録として短く書きとめたもので、作り話として書かれたものではない。
唐の時代に、文人が筋や人物を工夫して書いた短編の物語を何というか? 例を挙げると?
伝奇小説。例は「枕中記」(「邯鄲の夢」のもとの話)、「人虎伝」(中島敦『山月記』のもとの話)。
志怪小説が短い記録であるのに対し、作者が物語として組み立てている。