思想の文章
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
0. どういうまとまりか
漢詩は五言・七言といった句の字数で形が決まりますが、散文はどういう形で考えを述べるかで種類が分かれます。
諸子百家の書物は、同じ「思想の文章」でも、問答の記録、長い議論、短い章句、たとえ話と、書き方がまったく違います。
ここでは思想の中身ではなく、文章の形と、その形に合った読み方を扱います。
| 書物 | 文章の形 | 読むときに見るところ |
|---|---|---|
| 論語 | 語録体。短い言葉と問答 | だれが、だれに言ったか |
| 孟子 | 対話を重ねた長い議論。比喩が多い | たとえが何を指しているか |
| 老子 | 短い章句。人名も場面もほとんど無い。逆説と対句 | どの常識を裏返しているか |
| 荘子 | 寓話(寓言)。架空の人物や動物が語る | 話の落ちが何を言おうとしているか |
| 荀子・墨子 | 題を立てて筋道を追う論文の形 | 篇の題と、くり返される主張 |
| 韓非子 | 論文の形に、寓話を根拠として並べる | 寓話のあとに来る主張 |
分かれ目は次の 3 つ。
- 論語は記録、孟子は議論。論語は短い言葉が前後の説明なしに並び、孟子は相手を説き伏せるために話を長く展開する。
- 寓話は、それだけで終わらない。荘子も韓非子も、話のあとに(あるいは話そのもので)言いたいことがある。話と主張を対応させて読む。
- 論・説・記・序は、文章の目的による種類。唐の韓愈・柳宗元が唱えた古文の代表的な形で、題の末尾の字が種類を示す。
1. 問答で進む文章(論語・孟子)
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-イ
論語と孟子は、どちらも問答の形をとりますが、長さと進め方が違います。
『論語』の文章の形を何というか? どんな特徴があるか?
語録体。孔子と弟子たちの言葉や問答を、弟子たちが記録した短い章の集まり。
「子曰、巧言令色、鮮矣仁。」(子曰はく、巧言令色、鮮なし仁。『論語』学而)のように、場面の説明なしに言葉だけが置かれる章が多い。
『論語』の章が「弟子の名、問ひて曰はく…。子曰はく…。」の形になっているとき、どこに注意して読むか?
だれが問い、孔子がその相手にどう答えたかを確かめる。
前後の説明が無いので、問いと答えの組がそのまま文脈になる。孔子は相手に合わせて答えを変えることがある。
『孟子』の文章は、『論語』と比べてどんな形か?
王や論敵との対話を長く展開し、比喩やたとえ話を使って相手を説き伏せる議論の文章。
短い言葉の記録である論語に対し、問いと答えを何度も重ねて結論へ運ぶ。
『孟子』で、梁の恵王に「五十歩百歩」のたとえ(戦場で五十歩逃げた者が、百歩逃げた者を笑う話)を語ったのは、何を言うためか?
王の政治も隣の国の政治も、民のためになっていない点では大差が無いと言うため。
孟子のたとえ話は、「たとえの中のだれが、現実のだれにあたるか」を対応させて読む。
2. 章句と寓話(老子・荘子・韓非子・荀子)
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-イ
問答の記録でない書物は、書き手の考えを別の形で伝えます。老子は短い言葉で、荘子と韓非子はたとえ話で、荀子は論文で語ります。
『老子』の文章には、どんな形の特徴があるか?
短い章句の集まりで、人名や問答・具体的な場面がほとんど出てこない。対句と逆説が多い。
全部で 81 章。だれがどこで言ったかという手がかりが無いので、言葉そのものの組み立てから読む。
『老子』の「柔弱勝剛強。」を書き下すと? この言い方のどこが逆説か?
「柔弱は剛強に勝つ」。ふつうは「強く堅いものが勝つ」と考えるのに、柔らかく弱いもののほうが勝つと言っているところ。
老子の逆説は、「世の中で当たり前とされているどの見方を裏返しているか」をつかむと読める。
『荘子』が考えを述べるのに多く使う形は何か? 例を 1 つ挙げると?
寓話(寓言)。架空の人物や動物の話に考えを託す。例は「胡蝶の夢」。
荘周が夢で蝶になり、覚めたあと、自分が蝶の夢を見たのか、蝶が自分になった夢を見ているのか分からなくなる話。
『韓非子』の「守株」(切り株にぶつかった兎を得た農夫が、また兎を得ようと株を見張り続ける話)は、何を言うために置かれた寓話か?
昔の聖王のやり方をそのまま今の政治に当てはめようとするのは、株を見張るのと同じだと言うため。
韓非子の寓話は主張の根拠として置かれるので、話のあとに来る結論までを読む。「矛盾」も韓非子の寓話。
『荀子』や『韓非子』の文章は、『論語』『孟子』と比べて、形がどう違うか?
問答の記録ではなく、篇ごとに題を立てて、筋道を追って論じる論文の形になっている。
『荀子』勧学の「青取之於藍、而青於藍。」(青は之を藍より取りて、藍よりも青し)は、学問によって人がもとの自分を超えていくことのたとえ。
3. 古文の文体(論・説・記・序)
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-イ
唐の中ごろ、韓愈と柳宗元は、飾りの多い文体をやめて、漢より前の簡潔な散文に立ち返ろうと唱えました。
こうした散文は、目的によって種類が分かれ、題の末尾の字がその種類を示します。種類そのものは韓愈たちより前からあり、表の例には東晋の陶淵明・王羲之の文章も入っています。
| 種類 | どんな文章か | 例 |
|---|---|---|
| 論 | 物事の道理や是非を論じる | 蘇洵「六国論」 |
| 説 | ある事柄についての考えを、たとえを使って述べる | 韓愈「雑説」「師説」、柳宗元「捕蛇者説」 |
| 記 | 出来事や風景、建物などを書きとめる | 陶淵明「桃花源記」、范仲淹「岳陽楼記」 |
| 序 | 書物や詩の前に置き、趣旨やいきさつを述べる | 王羲之「蘭亭序」、李白「春夜宴桃李園序」 |
六朝から唐にかけて盛んだった、4 字と 6 字の句を基本にして対句と典故を多く使う、飾りの多い文体を何というか?
駢文(四六駢儷文)
形の美しさを重んじる文体で、韓愈たちはこれを批判した。
唐の中ごろ、駢文に対して、漢より前の簡潔な散文に立ち返ることを唱えた 2 人はだれか?
韓愈と柳宗元
この動きを古文復興という。2 人に宋の欧陽脩・蘇洵・蘇軾・蘇轍・曾鞏・王安石を加えて唐宋八大家と呼ぶ。
「説」とはどんな文体か? 韓愈「雑説」の「世有伯楽、然後有千里馬。」を書き下すと?
ある事柄についての自分の考えを、たとえなどを使って述べる文章。書き下しは「世に伯楽有りて、然る後に千里の馬有り」。
訳: 世に馬を見分ける名人がいて、はじめて千里を走る名馬が現れる。名馬はすぐれた人材、伯楽はそれを見抜く人のたとえ。
「記」と「序」は、それぞれどんな文章か?
記は、出来事や風景、建物などを書きとめる文章。序は、書物や詩の前に置いて、その趣旨やいきさつを述べる文章。
題が「〜記」「〜序」で終わる。記は事実を述べたあとに、書き手の感想や考えが続くことが多い。