複数の履行義務と変動対価
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
出題区分表 商業簿記 第二 8「様々な財又はサービスの顧客への移転」
カ(複数の履行義務を含む顧客との契約)・キ(変動対価)。
0. どういう処理か
複数の履行義務
1 つの契約に、義務が 2 つ以上入っていることがあります。
たとえば「機械を ¥800,000 で販売し、2 年間の保守サービスも付ける」という契約。
これは機械の引き渡しと保守の提供という 2 つの義務です。
義務ごとに果たすタイミングが違うので、代金を義務ごとに分ける必要があります。
分け方は独立販売価格の比です。
各義務への配分額 = 取引価格 × その義務の独立販売価格 ÷ 独立販売価格の合計
独立販売価格とは「それを単独で売るならいくらか」という値段です。
変動対価
代金が後から変わる可能性がある契約です。売上割戻(リベート)が典型で、
「年間 1,000 個以上買ったら 5% 返す」という約束があるとき、
返すことになりそうな金額は最初から売上に入れません。
返す見込みの額は返金負債として負債に立てます。
なぜか。 返すお金は自社の収益ではないからです。
全額を売上にしてしまうと、あとで取り消すことになり、期をまたぐと利益がゆがみます。
引っかけの分かれ目は次の 3 つ。
- 配分は独立販売価格の比(取引価格の比ではない)
- 変動対価は見込み額を売上から除く(あとで取り消すのではない)
- 返金負債は負債(売掛金と相殺しない)
1. 複数の履行義務への配分
根拠: 出題区分表 商-二-8-カ
義務を数える → 独立販売価格で按分する → 果たしたものだけ収益にする、の 3 手順です。
1 つの契約に複数の履行義務がある場合、取引価格はどう配分する?
それぞれの独立販売価格の比で按分する
配分額 = 取引価格 × その義務の独立販売価格 ÷ 独立販売価格の合計
独立販売価格とは?
その財またはサービスを単独で販売する場合の価格
セット販売の値引き前の、ばら売りの値段。
問題文で与えられる。
機械と 2 年間の保守をセットで ¥900,000 で販売した。独立販売価格は機械 ¥800,000、保守 ¥200,000。それぞれへの配分額は?
機械 ¥720,000、保守 ¥180,000
合計 ¥1,000,000 に対して、
- 機械 = 900,000 × 800,000/1,000,000 = ¥720,000
- 保守 = 900,000 × 200,000/1,000,000 = ¥180,000
セット価格の値引きを、両方に比例配分する。
上の契約で機械を引き渡した(保守はこれから)。仕訳は?
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 売掛金 900,000 | 売上 720,000 |
| 契約負債 180,000 |
果たした義務のぶんだけ売上にする。
保守のぶんは、これから提供する義務なので契約負債。
上の契約で、1 年が経過した。決算時の仕訳は?
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 契約負債 90,000 | 役務収益(または売上) 90,000 |
保守は 2 年間にわたる履行義務なので、経過した 1 年ぶん(¥180,000 ÷ 2)を収益にする。
1 つの契約でも、履行義務を分けなくてよい場合は?
財やサービスが一体で、単独では意味をなさない場合
たとえば建物の設計と施工が一体の契約など。
2 級では「別個の履行義務である」と問題文で示されることがほとんど。
2. 変動対価
根拠: 出題区分表 商-二-8-キ
返すつもりのお金を、最初から売上に入れない。これだけです。
変動対価とは?
顧客と約束した対価のうち、金額が変動する可能性のある部分
売上割戻(リベート)、返品権付き販売、値引きの見込みなど。
商品 ¥1,000,000 を掛け販売した。年間目標達成時に 5%(¥50,000)を返金する見込みが高い。仕訳は?
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 売掛金 1,000,000 | 売上 950,000 |
| 返金負債 50,000 |
返す見込みの額は最初から売上に入れない。
返金負債はどんな勘定か?
負債
顧客に返すことになる金額なので、返す義務=負債。
貸借対照表では流動負債に載る。売掛金と相殺しない。
上の例で、実際に ¥50,000 を返金(売掛金と相殺)した。仕訳は?
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 返金負債 50,000 | 売掛金 50,000 |
見込みどおりなら、返金負債を取り崩すだけで損益は動かない。
最初に見込んでおいたことの意味がここに出る。
返金の見込みが外れて、実際の返金が ¥40,000 で済んだ場合は?
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 返金負債 50,000 | 売掛金 40,000 |
| 売上 10,000 |
見込みより返金が少なかったぶんは、その時点で売上に戻す。
変動対価を見積もる方法は?
最頻値法(もっとも可能性の高い単一の金額)または期待値法(確率で加重平均)
どちらを使うかは、その見積りをより適切に予測できるほうを選ぶ。
2 級では問題文が金額を与えることがほとんど。