X 線
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
学習指導要領 物理 (4) ア (ア) ㋑「電子や光の粒子性と波動性について理解すること。」。内容の取扱いは「X線にも触れること」としています。
0. どういうまとまりか
X 線は、紫外線よりもさらに波長の短い電磁波です。目には見えませんが、可視光と同じ「光」の仲間で、波としての顔と粒子としての顔の両方を、可視光よりもはっきり見せます。
発生のしかたには光電効果と逆向きの関係(電子のエネルギーが光子になる)が、結晶での回折には波の性質が、コンプトン効果には粒子の性質が現れます。
プランク定数を 、真空中の光の速さを 、電気素量を とします。
| 現象 | X 線のどちらの顔が現れるか | 式 |
|---|---|---|
| X 線の発生(連続 X 線の最短波長) | 粒子性。電子 1 個のエネルギー が、光子 1 個のエネルギーになる | |
| 結晶による回折(X 線回折) | 波動性。格子面で反射した X 線が干渉する | |
| コンプトン効果 | 粒子性。光子は運動量をもち、電子と衝突する |
分かれ目は次の 3 つ。
- 最短波長は加速電圧だけで決まり、固有 X 線の波長は陽極の金属の種類だけで決まる
- ブラッグの条件の は、格子面と X 線のなす角。面に立てた垂線から測る入射角ではない
- コンプトン効果で散乱された X 線は、波長が長くなる。光子がエネルギーの一部を電子に渡すから
1. X 線の発生
根拠: 学習指導要領 物理-(4)-ア-(ア)-㋑
X 線は 1895 年にレントゲンが発見しました。物質を通り抜ける力が強く、写真のフィルムを感光させ、気体を電離させます。正体が分からなかったので「X」と名づけられましたが、のちに電磁波であることが確かめられました。
X 線とは何か?
紫外線より波長の短い電磁波
光の仲間なので、電界や磁界では曲がらない(電荷をもたない)。波長が短いぶん、光子 1 個のエネルギーは可視光よりはるかに大きい。
X 線は、どうやって発生させるか?
高い電圧で加速した電子を、陽極の金属に衝突させる
真空にした管(X 線管)の陰極を熱して電子を出し、数万 V の電圧で加速する。電子が陽極で急に止められるとき、運動エネルギーの一部が X 線になる。大部分は熱になる。
X 線管から出る X 線のスペクトルには、2 種類の成分がある。それぞれ何というか。どう違うか?
連続 X 線は、ある最短波長より長い側に連続して広がる成分。固有 X 線(特性 X 線)は、特定の波長にだけ鋭く強く現れる成分
連続 X 線は、電子が止められるときに失うエネルギーがさまざまであることから生じる。固有 X 線は、陽極の金属の原子に固有の波長をもつ。
加速電圧 の X 線管から出る連続 X 線の、最短波長 を表す式は。なぜそうなるか?
。電子 1 個の運動エネルギー が、すべて光子 1 個のエネルギーになったときが、波長のいちばん短い場合だから
を について解いたもの。光子は より大きなエネルギーをもてないので、これより短い波長の X 線は出ない。
連続 X 線の最短波長と、固有 X 線の波長は、それぞれ何で決まるか?
最短波長は加速電圧だけで決まる(陽極の金属によらない)。固有 X 線の波長は陽極の金属の種類だけで決まる(加速電圧によらない)
加速電圧を上げると、最短波長は短いほうへ移るが、固有 X 線の現れる波長は動かない。
2. X 線の波動性
根拠: 学習指導要領 物理-(4)-ア-(ア)-㋑
X 線が波なら、干渉や回折を起こすはずです。ところが波長が短すぎて、人がつくった回折格子では間隔が広すぎます。そこで、原子が規則正しく並んだ結晶を、天然の回折格子として使います。
X 線が波であることは、どんな現象から分かるか?
結晶に X 線を当てると、回折して、特定の方向にだけ強い X 線が出る(X 線回折)
結晶の中で原子が並ぶ間隔が、X 線の波長と同じくらいなので、結晶が回折格子の役目をする。結晶を通した X 線をフィルムに当てると、規則正しい斑点の模様(ラウエ斑点)が写る。
ブラッグの条件とは何か。式と、文字の意味は?
()のとき、反射した X 線が強め合う。 は格子面の間隔、 は格子面と X 線のなす角、 は X 線の波長
格子面とは、結晶の中で原子が並んでつくる、平行で等間隔な面のこと。反射の法則どおり、反射する X 線も格子面と角 をなす。
ブラッグの条件の左辺 は、何を表しているか?
隣り合う 2 枚の格子面で反射した X 線の、経路の差
奥の面で反射する X 線は、手前の面で反射する X 線より、行きに 、帰りに だけ長く進む。この差が波長の整数倍なら、山と山が重なって強め合う。
3. コンプトン効果と光子の運動量
根拠: 学習指導要領 物理-(4)-ア-(ア)-㋑
光電効果は、光子がエネルギーをもつ粒子であることを示しました。コンプトン効果は、さらに光子が運動量ももつことを示します。
コンプトン効果とは何か?
X 線を物質に当てたとき、散乱された X 線の中に、入射した X 線より波長の長いものが含まれる現象
光を波と考えると、散乱された波の波長は元と同じになるはずで、説明できない。散乱される向きが入射の向きから大きくずれるほど、波長の伸びは大きい。
波長 (振動数 )の光子の、運動量の大きさ を表す式は?
光子のエネルギー を光の速さ で割った値でもある()。光子は質量をもたないので、 では表せない。
コンプトン効果で、散乱された X 線の波長が長くなるのはなぜか。この現象は何を示しているか?
X 線の光子が電子と衝突して、エネルギーの一部を電子に渡すから。光子が、エネルギーと運動量をもつ粒子としてふるまうことを示している
光子のエネルギーは なので、エネルギーが減ると波長は長くなる。光子と電子の衝突として、エネルギー保存の法則と運動量保存の法則を立てると、波長の伸びが実験と合う。
【発展】コンプトン効果の式(波長の伸びは、どんな式で表されるか)
散乱の角を 、電子の質量を とすると、
入射した X 線の波長を 、散乱された X 線の波長を とする。 は、入射の向きと散乱の向きのなす角である。はじめ静止していた電子が、衝突のあと速さ で、入射の向きと角 をなす向きへ飛ぶとして、次の 3 つの式を立てる。
- エネルギー保存の法則:
- 運動量保存の法則(入射の向きの成分):
- 運動量保存の法則(入射の向きに垂直な成分):
この 3 つから と を消し、波長の伸びが波長そのものに比べて小さいとして整理すると、上の式になる。
(まっすぐ進む)なら伸びは 0、(はね返る)なら伸びは最大で になる。伸びは入射した X 線の波長によらず、角だけで決まる。
練習問題
根拠: 学習指導要領 物理-(4)-ア-(ア)-㋑
以下、プランク定数を 、真空中の光の速さを 、電気素量を とします。
問 1 X 線管で、電子を の電圧で加速して陽極に当てた。(1) 発生する連続 X 線の最短波長を求めよ。(2) 加速電圧を 2 倍にすると、最短波長は何倍になるか。
(1) (2) 倍
方針 電子 1 個の運動エネルギー がすべて光子 1 個のエネルギーになるとき、波長が最短になる。 を立てて について解く。
- (1) 電子の運動エネルギーは 。値を入れると、
- は
- から
- 値を入れると、
- (2) は に反比例する。 を 2 倍にすると、 は 倍になる
問 2 格子面の間隔が の結晶に、波長 の X 線を当てる。格子面と X 線のなす角 を、 から少しずつ大きくしていった。(1) 最初に強い反射が起こるときの を求めよ。(2) のときにも強い反射が起こった。これはブラッグの条件の がいくつの場合か。 とする。
(1) (2)
方針 ブラッグの条件 を使う。 を から大きくしていくと、 も大きくなるので、最初に条件を満たすのは のときである。
- (1) として、 から
- 値を入れると、
- (2) から
- 値を入れると、
ここで間違えやすい 回折格子の式 と混ぜて、左辺の 2 を落としてしまうこと。ブラッグの条件の経路の差は、行きと帰りの 2 回ぶんである。角の測り方も、回折格子とは違う。
問 3 波長 の X 線の、光子 1 個の (1) 運動量の大きさ、(2) エネルギー を求めよ。
(1) (2)
方針 光子の運動量は 。エネルギーは で、これは運動量に光の速さを掛けたものと同じである。
- (1) に値を入れると、
- (2) なので、(1) の値に光の速さを掛ける
- 値を入れると、
問 4 波長 の X 線を、静止している電子に当てたところ、ある向きに散乱された X 線の波長は だった。(1) 入射した X 線の光子 1 個のエネルギーを求めよ。(2) 散乱された X 線の光子 1 個のエネルギーを求めよ。(3) 電子が得た運動エネルギーを求めよ。
(1) (2) (3)
方針 コンプトン効果は、光子と電子の衝突である。光子のエネルギーは で、衝突の前後でエネルギーが保存するので、光子が失ったぶんが電子の運動エネルギーになる。
- は
- (1) 入射した光子は、
- (2) 散乱された光子は、
- (3) エネルギー保存の法則から、電子が得た運動エネルギーは光子が失ったエネルギーに等しい
- 差を取ると、。つまり
ここで間違えやすい 波長が長くなったので、エネルギーも増えたと考えてしまうこと。光子のエネルギーは波長に反比例するので、波長が伸びた散乱 X 線のほうがエネルギーは小さい。