電磁誘導の法則
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
学習指導要領 物理 (3) ア (イ) ㋒「電磁誘導に関する実験などを行い,磁束の変化と誘導起電力の向きや大きさとの関係を見いだして理解するとともに,電磁誘導の法則を理解すること。また,交流の発生について理解すること。」。
0. どういうまとまりか
コイルを貫く磁束が変化すると、コイルに起電力が生じます。これが電磁誘導で、生じる起電力を誘導起電力、流れる電流を誘導電流といいます。
決めることは 2 つだけです。向きはレンツの法則で、大きさはファラデーの電磁誘導の法則で決めます。
磁界を横切って動く導体棒に生じる起電力も、同じ法則の別の姿です。
| 知りたいもの | 式・決まり | 補足 |
|---|---|---|
| 磁束 | 磁束密度 の磁界に垂直な面積 の面を貫く磁束。単位は | |
| 誘導起電力の向き | レンツの法則 | 磁束の変化を妨げる向きの磁界をつくる電流を流そうとする向き |
| 誘導起電力の大きさ | はコイルの巻数、 は 1 巻きを貫く磁束。負号は向き(レンツの法則)を表す | |
| 磁界を横切る導体棒 | 速さ 、磁束密度 、棒の長さ 。3 つが互いに垂直なとき | |
| 導体棒が受ける力 | 棒の運動を妨げる向き | |
| エネルギーの関係 | 外力のする仕事が、抵抗で発生するジュール熱になる |
このノートでは、紙面内で右向きを 軸の正の向き、上向きを 軸の正の向きとし、回る向きは紙面の表から見た時計回り・反時計回りで書きます。
分かれ目は次の 3 つ。
- 誘導電流がつくる磁界が妨げるのは、磁束そのものではなく、磁束の変化。磁束が増えるときはもとの磁界と逆向き、減るときはもとの磁界と同じ向きの磁界をつくる
- 起電力の大きさを決めるのは、磁束の大きさではなく、変化の速さ 。磁束がどれだけ大きくても、変化しなければ起電力は 0
- 磁界を横切る導体棒は電池と同じ。高電位になるのは、棒の中の正電荷がローレンツ力で押される側の端。棒の中の電流は、低電位の端から高電位の端へ流れる
1. 磁束
根拠: 学習指導要領 物理-(3)-ア-(イ)-㋒
電磁誘導を決めるのは、磁界の強さそのものではなく、コイルの面を貫く磁束です。
磁束 とは何か? 式と単位は?
磁界に垂直な面を貫く磁束線の量。磁束密度 の一様な磁界に垂直な、面積 の面を貫く磁束は 。単位はウェーバ()
面が磁界に垂直でないときは、面に垂直な磁束密度の成分を使う。面が磁界に平行なら、貫く磁束は 0 である。例えば の磁界に垂直な の面なら、。
磁束 を変化させる方法は 3 つあります。磁束密度 を変える(磁石を近づける・遠ざける、電磁石の電流を変える)、磁界中にある面積 を変える(回路の一部を動かす)、面の向きを変える(コイルを回転させる)です。
2 つ目が磁界を横切る導体棒、3 つ目が交流の発電機にあたります。
2. レンツの法則(向き)
根拠: 学習指導要領 物理-(3)-ア-(イ)-㋒
誘導起電力の向きは、「変化を妨げる」という 1 つの決まりで決まります。図が無くても、決まった 3 段の手順で向きを出せます。
レンツの法則とは?
誘導起電力は、コイルを貫く磁束の変化を妨げる向きの磁界をつくるような電流を、流そうとする向きに生じる
回路が閉じていれば、その向きに誘導電流が流れる。回路が開いていても、起電力は同じ向きに生じている。
誘導電流の向きを決める手順を、順に 3 つ言うと?
①コイルを貫く磁束が、どちら向きで、増えているか減っているかを確かめる ②その変化を妨げる磁界の向きを決める(増えるなら逆向き、減るなら同じ向き) ③右ねじの法則で、その磁界をつくる電流の向きを求める
③は、右手の親指を②の磁界の向きに向けたとき、残りの 4 本の指が回る向きが電流の向き。
誘導電流がつくる磁界は、もとの磁界といつも逆向きか?
逆向きとは限らない。磁束が増えるときは逆向き、磁束が減るときはもとの磁界と同じ向きになる
妨げるのは磁束の「変化」だからである。減っていく磁束を補おうとするので、減るときは同じ向きの磁界をつくる。
水平に置いたコイルの真上から、棒磁石の N 極を下に向けて近づける。コイルを上から見て、誘導電流はどちら回りか? 遠ざけるときは?
近づけるときは反時計回り。遠ざけるときは時計回り
近づけるとコイルを下向きに貫く磁束が増えるので、上向きの磁界をつくる電流(上から見て反時計回り)が流れる。このときコイルの上側が N 極になり、磁石を押し返す。遠ざけるときはコイルの上側が S 極になり、磁石を引きとめる。
3. ファラデーの電磁誘導の法則(大きさ)
根拠: 学習指導要領 物理-(3)-ア-(イ)-㋒
誘導起電力の大きさは、磁束が変化する速さで決まります。同じだけ磁束を変えても、短い時間で変えるほど起電力は大きくなります。
ファラデーの電磁誘導の法則を、式で書くと?(巻数 のコイルで、1 巻きを貫く磁束が時間 のあいだに だけ変化する)
。誘導起電力の大きさは、磁束の変化の速さと巻数に比例する
大きさだけなら 。 巻きのコイルは、1 巻きの起電力が 個直列につながったものと考える。
の負号は、何を表しているか?
誘導起電力が、磁束の変化を妨げる向きに生じること(レンツの法則)
磁束の正の向きに進む右ねじが回る向きを、起電力の正の向きと約束する。磁束が増える()と で、起電力は逆回りに生じる。実際に解くときは、大きさを式で、向きをレンツの法則で、別々に求めればよい。
強い磁界の中にコイルを置いたまま、何も変化させない。誘導起電力は生じるか?
生じない。磁束が大きくても、変化していなければ で、起電力は 0
起電力を決めるのは、磁束の大きさではなく変化の速さ。磁束の時間変化のグラフでは、傾きが起電力の大きさにあたる。
4. 磁界を横切る導体棒
根拠: 学習指導要領 物理-(3)-ア-(イ)-㋒
磁界の中で導体棒を動かすと、棒の両端に起電力が生じます。棒と一緒に動く電荷が、磁界からローレンツ力を受けるからです。
磁束密度 の一様な磁界の中で、長さ の導体棒を、磁界と棒の両方に垂直な向きに速さ で動かす。棒に生じる誘導起電力の大きさは?
棒が時間 のあいだに通りすぎる面積は なので、横切る磁束は 。これを で割ると になる。棒を磁界と平行に動かしたときや、棒ののびる方向に動かしたときは、磁束を横切らないので起電力は 0。
磁界を横切って動く導体棒の、どちらの端が高電位になるか。決め方は?
棒と一緒に速度 で動く正電荷が受けるローレンツ力の向きを求める。その力が向かう側の端が高電位
力の向きは、速度の向きから磁界の向きへ右ねじを回したときに、ねじが進む向き(速度の向きを電流の向きとみなして、フレミングの左手の法則を使ってもよい)。実際に動くのは自由電子で、逆向きに押されて反対側の端に集まるが、結論は同じになる。
紙面の裏から表へ向かう磁界の中で、上下方向にのびる導体棒を右へ動かす。高電位になるのは、棒の上端と下端のどちらか?
下端
速度(右向き)から磁界(裏から表)へ右ねじを回すと、ねじは下向きに進む。正電荷は下向きに押されるので、下端が高電位になる。磁界の向きか、動かす向きのどちらか一方を逆にすると、上端が高電位になる。
磁界を横切って動く導体棒を回路につないだ。棒の中を流れる電流は、高電位の端と低電位の端の、どちらからどちらへ向かうか?
低電位の端から高電位の端へ向かう。棒は起電力 の電池のはたらきをしていて、高電位の端が電池の正極にあたる
電池の内部と同じである。棒の外の回路では、電流は高電位の端から出て、抵抗を通り、低電位の端へ戻る。
誘導電流が流れている導体棒は、磁界からどんな力を受けるか? 一定の速さで動かし続けるには?
棒の運動を妨げる向きに、大きさ の力を受ける。一定の速さで動かし続けるには、運動の向きに同じ大きさの外力を加え続ける
これもレンツの法則の現れである。外力が単位時間にする仕事 は、回路の抵抗で単位時間に発生するジュール熱 に等しい(エネルギーの保存)。
5. 渦電流
根拠: 学習指導要領 物理-(3)-ア-(イ)-㋒
電磁誘導は、コイルや導線でなくても、金属の板の中で起こります。
渦電流とは何か? どんなはたらきをするか?
金属板を貫く磁束が変化するとき、板の中に渦を巻くように流れる誘導電流。磁石と金属板の相対的な運動を妨げる向きの力を生み、板にはジュール熱が発生する
運動を妨げる力は電磁ブレーキに、ジュール熱は IH 調理器に利用される。変圧器の鉄心では損失になるので、薄い鉄板を絶縁して重ねて渦電流を小さくしている。
練習問題
根拠: 学習指導要領 物理-(3)-ア-(イ)-㋒
回る向きは、紙面の表から見た向きで答えます。
問 1 巻数 100 回、断面積 のコイルが紙面上に置いてあり、コイルの面を垂直に、紙面の表から裏へ向かう一様な磁界が貫いている。磁束密度を のあいだに、一定の割合で から まで強くした。(1) コイルに生じる誘導起電力の大きさを求めよ。(2) コイルの両端を の抵抗でつないであるとき、流れる誘導電流の大きさと、コイルを回る向きを求めよ。コイルの抵抗は無視する。
(1) (2) 、反時計回り
方針 大きさはファラデーの電磁誘導の法則 で求める。面積は変わらないので、磁束の変化は 。向きは、レンツの法則の 3 段の手順で別に求める。
- (1) 磁束密度の変化は
- 1 巻きを貫く磁束の変化は なので、
- 起電力の大きさは なので、
- (2) オームの法則から、電流の大きさは
- 向き。紙面の表から裏へ向かう磁束が増えている。これを妨げるのは、紙面の裏から表へ向かう磁界である。
- 右手の親指を裏から表へ(自分のほうへ)向けると、残りの指は反時計回りに回る。よって誘導電流は反時計回り。
ここで間違えやすい 巻数 100 を掛け忘れて としてしまうこと。 は 1 巻きを貫く磁束で、起電力は巻数の分だけ足しあわされる。
問 2 紙面内に、左右にのびる 2 本の平行な導体のレールが、 の間隔で上下に並んでいる。2 本のレールの左端どうしは の抵抗でつないである。レールの上に、レールと垂直に(上下方向に)導体棒をのせた。全体に、紙面の裏から表へ向かう磁束密度 の一様な磁界がかかっている。棒を、レールに沿って右向きに一定の速さ で動かし続けた。レールと棒の抵抗、摩擦は無視する。(1) 棒に生じる誘導起電力の大きさと、棒のどちらの端が高電位かを求めよ。(2) 棒を流れる電流の大きさと向きを求めよ。(3) 棒が磁界から受ける力の大きさと向きを求めよ。(4) 棒を動かし続ける外力の仕事率と、抵抗で単位時間に発生するジュール熱を求め、比べよ。
(1) 、下端が高電位 (2) 、棒の中を上端から下端へ(回路を時計回り) (3) 、左向き (4) どちらも で等しい
方針 棒を起電力 の電池とみなして回路を解く。向きは、棒の中の正電荷が受けるローレンツ力で決め、レンツの法則でも確かめる。棒が受ける力は で、等速なので外力はこれとつり合う。
- (1) に値を入れると、
- 棒の中の正電荷は、棒と一緒に右向きに動く。速度(右向き)から磁界(裏から表)へ右ねじを回すと、ねじは下向きに進む。正電荷は下端へ押されるので、下端が高電位。
- (2) オームの法則から、電流の大きさは
- 棒は電池のはたらきをするので、棒の中の電流は低電位の上端から高電位の下端へ向かう。回路全体では、下のレールを左へ、抵抗を下から上へ、上のレールを右へと流れ、時計回りになる。
- レンツの法則で確かめる。棒が右へ動くと回路の面積が増え、裏から表へ向かう磁束が増える。これを妨げるのは表から裏へ向かう磁界で、それをつくる電流は時計回り。手順 4 と一致する。
- (3) 力の大きさは なので、
- 向きは、電流(下向き)から磁界(裏から表)へ右ねじを回したときにねじが進む向きで、左向き。棒の運動を妨げる向きになっている。
- (4) 等速なので、外力は右向きに 。仕事率は で、
- ジュール熱は で、。外力のした仕事が、すべてジュール熱になっている。
ここで間違えやすい 「下端が高電位だから、棒の中の電流は下端から上端へ流れる」としてしまうこと。高電位から低電位へ流れるのは棒の外の回路で、棒の中(電池の内部)では低電位から高電位へ流れる。
問 3 紙面上に円形のコイルが置いてあり、コイルの面を垂直に一様な磁界が貫いている。次のそれぞれの場合について、コイルに流れる誘導電流の向きを答えよ。流れない場合は「流れない」と答えよ。(1) 紙面の表から裏へ向かう磁界が、強くなっていく。(2) 紙面の表から裏へ向かう磁界が、弱くなっていく。(3) 紙面の裏から表へ向かう磁界が、強くなっていく。(4) 紙面の裏から表へ向かう磁界が、弱くなっていく。(5) 紙面の裏から表へ向かう強い磁界が、一定のまま変わらない。
(1) 反時計回り (2) 時計回り (3) 時計回り (4) 反時計回り (5) 流れない
方針 レンツの法則の手順どおりに進める。磁束が増えるときはもとの磁界と逆向き、減るときは同じ向きの磁界をつくる電流が流れる。電流と磁界の向きは右ねじの法則で結ぶ。反時計回りの電流は裏から表へ、時計回りの電流は表から裏へ向かう磁界を、コイルの内側につくる。
- (1) 表から裏への磁束が増える。妨げる磁界は裏から表へ向かう。それをつくるのは反時計回りの電流。
- (2) 表から裏への磁束が減る。補う磁界は表から裏へ向かう。それをつくるのは時計回りの電流。
- (3) 裏から表への磁束が増える。妨げる磁界は表から裏へ向かう。それをつくるのは時計回りの電流。
- (4) 裏から表への磁束が減る。補う磁界は裏から表へ向かう。それをつくるのは反時計回りの電流。
- (5) 磁束が変化していないので、誘導起電力は生じず、電流は流れない。
ここで間違えやすい (2) と (4) で、もとの磁界と逆向きの磁界をつくると考えてしまうこと。磁界の向きを逆にしても、増減を逆にしても、電流の向きは入れかわる。両方を逆にすると、もとに戻る((1) と (4)、(2) と (3) が同じ答えになる)。
問 4 紙面の表から裏へ向かう、磁束密度 の一様な磁界がある。紙面内に、左右方向にのびる長さ の導体棒を置いた。(1) 棒を、紙面内で上向きに速さ で動かす。棒の両端に生じる誘導起電力の大きさと、左端・右端のどちらが高電位かを求めよ。(2) 棒を、紙面内で右向き(棒ののびる方向)に速さ で動かす。棒の両端に生じる誘導起電力の大きさを求めよ。
(1) 、左端が高電位 (2)
方針 棒が磁界と棒の両方に垂直な向きに動くとき、起電力は 。高電位の端は、棒の中の正電荷が受けるローレンツ力の向きで決める。棒ののびる方向に動かすときは、棒が通りすぎる面積が 0 であることを使う。
- (1) に値を入れると、
- 正電荷の速度は上向き、磁界は表から裏。上向きから「表から裏」の向きへ右ねじを回すと、ねじは左向きに進む。
- 正電荷は左端へ押されるので、左端が高電位。
- (2) 棒は自分ののびる方向にすべるだけで、通りすぎる面積は 0。横切る磁束が無いので、起電力は 0。
- ローレンツ力で確かめる。速度(右向き)から磁界(表から裏)へ右ねじを回すと、ねじは上向きに進む。力は棒に垂直で、電荷を棒の端へ押す成分が無い。
ここで間違えやすい (1) で磁界の向きを問 2 と同じ「裏から表」のつもりで決めてしまうこと。磁界が逆向きなら、高電位の端も逆になる。
問 5 巻数 50 回のコイルの 1 巻きを貫く磁束 を、次のように変化させた。時刻 から までは、一定の割合で から まで増やした。 から までは、 のまま一定にした。 から までは、一定の割合で まで減らした。磁束の向きは変わらない。それぞれの区間で、コイルに生じる誘導起電力の大きさを求めよ。また、最初の区間と最後の区間で、起電力の向きは同じか逆かを答えよ。
順に 、、。最初の区間と最後の区間で、起電力の向きは逆
方針 区間ごとに を計算する。磁束の時間変化のグラフを描くと、折れ線の傾きが 1 巻きあたりの起電力の大きさにあたる。向きは、磁束が増えるときと減るときで逆になる。
- 最初の区間。磁束の変化の大きさは 、かかった時間は
- 起電力の大きさは、
- 中の区間。磁束が変化していないので、起電力は 0。
- 最後の区間。かかった時間は 、磁束の変化の大きさは
- 起電力の大きさは、
- 最初の区間は磁束が増え、最後の区間は磁束が減る。変化を妨げる向きは逆になるので、起電力の向きも逆。
ここで間違えやすい 中の区間で、磁束がいちばん大きいから起電力も最大だ、と考えてしまうこと。起電力は磁束の大きさではなく、変化の速さで決まる。