自己誘導と相互誘導
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
学習指導要領 物理 (3) ア (イ) ㋒「電磁誘導に関する実験などを行い,磁束の変化と誘導起電力の向きや大きさとの関係を見いだして理解するとともに,電磁誘導の法則を理解すること。また,交流の発生について理解すること。」。
0. どういうまとまりか
コイルに電流を流すと、コイルは自分のつくる磁束に貫かれます。その電流が変化すると磁束も変化するので、コイル自身に誘導起電力が生じます。これが自己誘導です。
となりのコイルの電流が変化して起こる場合が相互誘導です。どちらも、磁束の変化のもとが電流の変化なので、起電力を「電流の変化の速さ」で書きます。
| 自己誘導 | 相互誘導 | |
|---|---|---|
| 何の変化で生じるか | そのコイル自身を流れる電流 の変化 | となりのコイル(一次コイル)を流れる電流 の変化 |
| どこに生じるか | そのコイル自身 | もう一方のコイル(二次コイル) |
| 起電力 | ||
| 比例定数 | 自己インダクタンス | 相互インダクタンス |
| 比例定数の単位 | ヘンリー() | ヘンリー() |
| 利用の例 | 電流の急な変化をおさえる。エネルギー を蓄える | 変圧器 |
分かれ目は次の 3 つ。
- コイルの起電力は、電流の大きさではなく、電流の変化の速さで決まる。大きな電流が流れていても、一定なら起電力は 0
- コイルを流れる電流は、急には変われない。スイッチを入れた直後は電流 0(コイルは電流を通さないようにふるまう)、十分に時間がたつと電流は一定(コイルはただの導線としてふるまう)
- 自己誘導の起電力は、電流の変化を妨げる向き。電流が増えるときは電流と逆向き、減るときは電流と同じ向き
このノートでは、コイルの導線の抵抗と電池の内部抵抗は、断りがなければ無視します。
1. 自己誘導
根拠: 学習指導要領 物理-(3)-ア-(イ)-㋒
コイルは、自分を流れる電流が変化するのを嫌います。この性質を数で表したものが自己インダクタンスです。
自己誘導とは何か?
コイルを流れる電流が変化するとき、そのコイル自身を貫く磁束が変化して、コイル自身に誘導起電力が生じる現象
磁束をつくっているのも、起電力が生じるのも、同じ 1 つのコイルである。起電力は、電流の変化を妨げる向きに生じる。
自己誘導の起電力を、式で書くと?(自己インダクタンス のコイルを流れる電流が、時間 のあいだに だけ変化する) 負号の意味は?
。負号は、起電力が電流の変化を妨げる向きに生じることを表す
電流の流れる向きを正の向きとする。電流が増える()と で、起電力は電流と逆向き。電流が減る()と で、起電力は電流と同じ向きになり、電流を流し続けようとする。
自己インダクタンス の単位は? は何で決まるか?
単位はヘンリー()。コイルの巻数・形・大きさと、中に入れた鉄心で決まる
電流が 1 秒間に の割合で変化するとき、 の起電力が生じるコイルの自己インダクタンスが 。巻数が多いほど、また鉄心を入れると、 は大きくなる。流れている電流の大きさにはよらない。
2. スイッチを入れたとき・切ったとき
根拠: 学習指導要領 物理-(3)-ア-(イ)-㋒
起電力 の電池、抵抗値 の抵抗、自己インダクタンス のコイルを直列につなぎ、スイッチを入れます。コイルの電流は 0 からゆっくり増えて、やがて一定になります。「直後」と「十分に時間がたった後」の 2 つの場面を押さえます。
コイルを流れる電流は、スイッチを入れた瞬間や切った瞬間に、飛び飛びに変わるか?
変わらない。コイルを流れる電流は、直前の値から連続して変化する
電流が一瞬で変わるとすると、 が限りなく大きくなり、それを妨げる自己誘導の起電力も限りなく大きくなってしまう。一方、コイルの両端の電圧は、一瞬で変わってよい。
電池(起電力 )、抵抗 、コイル を直列につなぎ、スイッチを入れた。直後の電流と、コイルの誘導起電力の大きさは?
電流は 0。コイルには、大きさ の誘導起電力が、電池の起電力を打ち消す向きに生じている
電流が 0 なので、抵抗での電圧降下 も 0。電池の電圧はすべてコイルにかかる。このとき電流の増える速さは で、 が大きいほど電流はゆっくり増える。
電池(起電力 )、抵抗 、コイル を直列につなぎ、スイッチを入れてから十分に時間がたった。電流と、コイルの誘導起電力は?
電流は で一定。コイルの誘導起電力は 0
電流が一定になると なので、自己誘導は起こらない。コイルは、ただの導線と同じになる。途中の時刻では、 が成り立っている。
電流が流れているコイルの回路のスイッチを切る。その直後、コイルにはどんな起電力が生じるか?
それまでの電流と同じ向きに、電流を流し続けようとする誘導起電力が生じる。電流が短い時間で 0 になろうとするので、起電力は電池の起電力よりはるかに大きくなりうる
スイッチの接点に火花が飛ぶのはこのためである。コイルに並列に抵抗をつないであれば、コイルの電流は切る直前と同じ向き・同じ大きさのまま、その抵抗を通って流れはじめ、やがて 0 になる。
3. コイルに蓄えられるエネルギー
根拠: 学習指導要領 物理-(3)-ア-(イ)-㋒
電流が流れているコイルは、エネルギーを蓄えています。スイッチを切ったあとも電流を流し続けられるのは、このエネルギーがあるからです。
自己インダクタンス のコイルに電流 が流れているとき、コイルに蓄えられているエネルギーは?
電流を 0 から まで増やすあいだに、電源が自己誘導の起電力に逆らってした仕事が蓄えられる。電流の 2 乗に比例するので、電流が 2 倍なら 4 倍、半分なら 倍になる。
コンデンサーとコイルは、どちらもエネルギーを蓄える。式と、蓄え方の違いは?
コンデンサーは で、極板間の電界に蓄える。コイルは で、コイルのつくる磁界に蓄える
コンデンサーは電流が止まっていてもエネルギーを保つ。コイルは電流が流れているあいだだけエネルギーをもち、電流が 0 になると蓄えも 0 になる。
4. 相互誘導
根拠: 学習指導要領 物理-(3)-ア-(イ)-㋒
2 つのコイルを近くに置くか、同じ鉄心に巻くと、一方の電流の変化が、もう一方に起電力を生じさせます。
相互誘導とは何か?
一次コイルを流れる電流が変化するとき、その磁束に貫かれている二次コイルに誘導起電力が生じる現象
2 つのコイルは導線でつながっていなくてよい。磁束を通して、一次コイルから二次コイルへエネルギーが運ばれる。
相互誘導の起電力を、式で書くと?(一次コイルの電流が時間 のあいだに だけ変化する)
。 は相互インダクタンスで、単位は自己インダクタンスと同じヘンリー()
は 2 つのコイルの巻数・形・位置関係と鉄心で決まる。負号は、一次コイルのつくる磁束の変化を妨げる向きに起電力が生じることを表す。
同じ軸の上に 2 つのコイルを並べ、一次コイルのスイッチを入れた。二次コイルに流れる誘導電流は、一次コイルの電流と同じ回りか、逆回りか? スイッチを切った瞬間は? 電流が一定のあいだは?
入れた瞬間は逆回り。切った瞬間は同じ回り。一定のあいだは流れない
入れると、一次コイルのつくる磁束が二次コイルの中で増えるので、それを打ち消す逆回りの電流が流れる。切ると磁束が減るので、補う同じ回りの電流が流れる。回る向きは、軸の同じ側から見て比べる。
変圧器で、一次コイルと二次コイルの電圧の比が巻数の比に等しくなる()のはなぜか?
共通の鉄心を通る磁束が、どちらのコイルの 1 巻きも同じように貫くので、1 巻きあたりの誘導起電力 が等しい。起電力は巻数に比例するから
変圧器は相互誘導を利用した装置である。一次コイルに交流を流すと、鉄心の中の磁束が絶えず変化し、二次コイルに同じ周波数の交流の電圧が生じる。
練習問題
根拠: 学習指導要領 物理-(3)-ア-(イ)-㋒
コイルの導線の抵抗と電池の内部抵抗は無視します。
問 1 自己インダクタンス のコイルを流れる電流を、 のあいだに一定の割合で から まで増やした。コイルに生じる自己誘導の起電力の大きさと向きを求めよ。
、電流と逆向き
方針 大きさは で求める。向きは「電流の変化を妨げる向き」。電流が増えているので、増加を妨げる向き、つまり電流と逆向きになる。
- 電流の変化は
- 起電力の大きさは なので、
- 電流は増えている。その増加を妨げるので、起電力の向きは電流と逆向き。
ここで間違えやすい 電流の変化 でなく、あとの電流 をそのまま入れてしまうこと。起電力を決めるのは電流の大きさではなく、変化の速さである。
問 2 起電力 の電池、 の抵抗、自己インダクタンス のコイル、スイッチを直列につないだ。はじめスイッチは開いている。(1) スイッチを入れた直後の、電流と、電流の増える速さを求めよ。(2) 電流が になった瞬間の、コイルの誘導起電力の大きさと、電流の増える速さを求めよ。(3) 十分に時間がたったあとの電流を求めよ。(4) そのとき、コイルに蓄えられているエネルギーを求めよ。
(1) 電流 、増える速さ (2) 、 (3) (4)
方針 どの時刻でも、電池の起電力は、抵抗での電圧降下 と、コイルの誘導起電力の大きさ の和に等しい。直後は 、十分に時間がたつと を入れる。
- (1) コイルの電流は急には変われないので、直後の電流は 0。抵抗での電圧降下も 0 で、コイルの誘導起電力の大きさは
- から、増える速さは
- (2) 抵抗での電圧降下は で、
- コイルの誘導起電力の大きさは、残りの
- 増える速さは 。直後より遅くなっている。
- (3) 電流が一定になるとコイルの誘導起電力は 0。電池の起電力はすべて抵抗にかかるので、
- (4) に値を入れると、
ここで間違えやすい (1) で、スイッチを入れた直後から が流れるとしてしまうこと。それは十分に時間がたったあとの値で、直後の電流は 0 である。
問 3 共通の鉄心に、一次コイルと二次コイルが巻いてある。(1) 相互インダクタンスが のとき、一次コイルの電流を のあいだに一定の割合で から まで増やした。二次コイルに生じる誘導起電力の大きさを求めよ。(2) 別の 2 つのコイルで、一次コイルの電流を のあいだに一定の割合で だけ変化させたところ、二次コイルに の誘導起電力が生じた。相互インダクタンスを求めよ。
(1) (2)
方針 相互誘導の起電力の大きさ を使う。(2) は同じ式を について解く。
- (1) 一次コイルの電流の変化は
- に値を入れると、
- (2) を について解くと、
- 値を入れると、
ここで間違えやすい 式に入れる電流を、二次コイルの電流としてしまうこと。相互誘導の式の右辺は、一次コイル(磁束をつくる側)の電流の変化である。
問 4 自己インダクタンス のコイルに、 の一定の電流が流れている。コイルには抵抗が並列につないである。(1) コイルに蓄えられているエネルギーを求めよ。(2) 電源を切り離すと、コイルの電流は抵抗を通って流れ、やがて 0 になった。このあいだに抵抗で発生したジュール熱を求めよ。(3) 電流が まで減った瞬間に、コイルに蓄えられているエネルギーは、はじめの何倍か。
(1) (2) (3) 倍
方針 コイルのエネルギーは 。電源を切り離したあとは、コイルが蓄えていたエネルギーが、抵抗でジュール熱に変わる(エネルギーの保存)。
- (1) に値を入れると、
- (2) 電流が 0 になると、コイルのエネルギーは 0。失われた は、すべて抵抗でジュール熱になった。
- (3) 電流は 倍になっている。
- エネルギーは電流の 2 乗に比例するので、 倍。つまり 倍。
ここで間違えやすい (3) を、電流が半分だからエネルギーも半分、としてしまうこと。2 乗に比例するので 倍である。
問 5 自己インダクタンス のコイルを流れる電流を、次のように変化させた。時刻 から までは、一定の割合で から まで増やした。 から までは、 のまま一定にした。 から までは、一定の割合で まで減らした。電流の向きは変わらない。電流の向きを正として、それぞれの区間でコイルに生じる自己誘導の起電力を、符号を付けて求めよ。
順に 、、
方針 区間ごとに を計算する。 は「あとの値 − はじめの値」で、減るときは負になる。符号が負なら電流と逆向き、正なら電流と同じ向きの起電力である。
- 最初の区間。、
- に値を入れると、。電流と逆向きで、増加を妨げている。
- 中の区間。電流が一定なので 。起電力は 0。
- 最後の区間。、 は
- に値を入れると、。電流と同じ向きで、減少を妨げている。
ここで間違えやすい 中の区間で、電流が最大だから起電力も最大、としてしまうこと。電流が一定のあいだ、コイルには起電力が生じない。