電子の比電荷と電気素量
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
学習指導要領 物理 (4) ア (ア) ㋐「電子の電荷と質量について理解すること。」。
0. どういうまとまりか
電子は小さすぎて、はかりに載せることも、電気量を 1 個ぶんだけ直接はかることもできません。
それでも電荷と質量が分かっているのは、2 つの実験を組み合わせたからです。
電子の流れ(陰極線)を電界や磁界で曲げると、曲がり方から電荷と質量の比が分かります。
別の実験で電荷だけを測れば、割り算で質量が決まります。
電子の電荷の大きさを 、質量を とします。
| 実験 | 測るもの | 分かること |
|---|---|---|
| トムソンの実験(陰極線を電界・磁界で曲げる) | 電子の曲がり方 | 比電荷 |
| ミリカンの実験(帯電した油滴を電界の中に浮かせる) | 油滴の電気量 | 電気素量 |
| 2 つの結果を合わせる | (計算だけ) | 電子の質量 |
電界や磁界の中での荷電粒子の運動(一様な電界の中では放物運動、一様な磁界の中では等速円運動)は、「10 電界と電位」「13 電流と磁界」で学んだものをそのまま使います。
分かれ目は次の 3 つ。
- 曲がり方から分かるのは、 と の比だけ。運動方程式を加速度について解くと、いつも の形でしか現れない
- 電気素量は、1 回の測定値ではなく、たくさんの測定値に共通する最小の単位として決める
- (電気量と電圧の積)と (電子ボルト。エネルギーの単位)を取り違えない
1. 陰極線と電子の発見
根拠: 学習指導要領 物理-(4)-ア-(ア)-㋐
気体をほとんど抜いたガラス管の電極に高い電圧をかけると、陰極から何かが飛び出して、向かい側のガラス壁を光らせます。これが陰極線で、その正体を調べることが電子の発見につながりました。
陰極線とは何か?
真空放電のとき、陰極から陽極のほうへ飛び出す電子の流れ
気体をほとんど抜いた放電管の電極に高い電圧をかけると現れる。蛍光物質に当たると光らせるので、通り道が分かる。
陰極線が「負の電荷をもつ粒子の流れ」だと分かるのは、どんな性質からか?
電界をかけると、電界と逆の向き(正の極板の側)へ曲がる。磁界をかけると、負の電荷が受けるローレンツ力の向きへ曲がる
このほか、途中に置いた物体の影ができる(直進する)、羽根車に当てると回るという性質がある。羽根車が回るのは、当時は質量をもつ粒子がぶつかるからだと考えられたが、のちに、おもな原因は陰極線の当たった面が熱せられることだと分かった。
トムソンは陰極線の比電荷を測り、陰極の金属や管の中の気体を変えて比べた。その結果と、そこから言えることは?
比電荷は、金属や気体の種類を変えても同じ値だった。陰極線の粒子(電子)は、どの物質にも共通に含まれている
値は約 。水素イオンの比電荷の約 1800 倍もあり、電子が原子よりずっと軽い粒子であることを示した。
2. 比電荷を求める筋道
根拠: 学習指導要領 物理-(4)-ア-(ア)-㋐
電子の速さ を先に求め、そのあと曲がり方から比電荷を出す、という 2 段で進みます。電界の強さを 、磁束密度の大きさを とします。
比電荷とは何か。単位は?
粒子の電荷の大きさを質量で割った値 。単位は
電界の中での加速度は 、磁界の中での円運動の半径は で、どちらにも と は比の形でしか入らない。だから曲がり方からは、比しか決まらない。
電子の進む向きに垂直に電界 をかけ、さらに電界にも進む向きにも垂直に磁界 をかけて、電子を直進させた。電子の速さ は?
電界から受ける力 と、磁界から受けるローレンツ力 が逆向きでつり合うので、。 が消えて、速さだけが決まる。
速さ の電子に、進む向きに垂直な磁界 だけをかけたら、半径 の等速円運動をした。比電荷は?
ローレンツ力 が向心力になるので、。これを について解く。
速さ の電子に、進む向きに垂直な電界 だけをかけた。長さ の極板の間を通り抜けるあいだに、電界の方向へ だけずれた。比電荷は?
電界の方向には加速度 の等加速度運動、進む向きには等速なので、通り抜ける時間は 。 を解く。
3. 電気素量
根拠: 学習指導要領 物理-(4)-ア-(ア)-㋐
比電荷だけでは、電荷も質量も決まりません。ミリカンは、霧吹きでつくった小さな油滴を帯電させ、その電気量を 1 つずつ測りました。
ミリカンの実験では、何を測って、何を求めたか?
帯電した油滴 1 つ 1 つの電気量を測り、電気素量 を求めた
油滴を上下に向かい合わせた極板のあいだに入れ、電界をかけたときの動き方から電気量を出す。油滴の質量は、電界をかけずに落下させたときの一定の速さ(終端速度)から求める。
質量 、電気量の大きさ の油滴が、鉛直方向の電界 の中で静止した。 を表す式は?
電界から受ける力 (鉛直上向き)と重力 (鉛直下向き)がつり合うので、。
ミリカンは、たくさんの油滴の電気量の測定値から、電気素量をどうやって決めたか?
どの測定値も、ある最小の値の整数倍になっていた。その最小の値(測定値に共通する単位)を電気素量とした
油滴についている電子の数は油滴ごとに違うので、1 回の測定値がそのまま になるわけではない。測定値どうしの差を取ると、共通の単位が見つけやすい。
電気素量 は、およそいくらか。電子 1 個の電荷は?
。電子 1 個の電荷は
電気素量は電気量の最小の単位で、物体がもつ電気量は の整数倍になる。陽子 1 個の電荷は 。
電子の質量は、どうやって求めるか?
電気素量 を比電荷 で割る
。質量を直接はかったのではなく、2 つの実験の結果から計算で決まった値である。
4. 電子の加速とエネルギー
根拠: 学習指導要領 物理-(4)-ア-(ア)-㋐
陰極線の電子は、電極のあいだの電圧で加速されています。原子の単元では、このときのエネルギーを物差しにして話を進めます。
静止していた電子を電圧 で加速した。電子が得る運動エネルギーと、速さ を求める式は?
運動エネルギーは 。速さは から求める
電界がした仕事 が、そのまま運動エネルギーになる。 について解くと で、ここにも比電荷 が現れる。
(電子ボルト)とは、どんな量か?
電子 1 個を の電圧で加速したときに、電子が得るエネルギー。
エネルギーの単位である。J で表した値を で割ると eV になる。 で加速した電子のエネルギーは と、計算せずに言える。
練習問題
根拠: 学習指導要領 物理-(4)-ア-(ア)-㋐
以下、電気素量を 、電子の質量を 、重力加速度の大きさを とします。
問 1 紙面の上で、右向きに 軸、上向きに 軸をとる。電子が 軸の正の向きに進んでいる。ここに、 軸の負の向きの一様な電界(強さ )と、紙面の表から裏へ向かう一様な磁界(磁束密度 )を同時にかけたところ、電子は曲がらずに直進した。電子の速さを求めよ。
方針 直進したのは、電界から受ける力と磁界から受ける力がつり合っているから。つり合いの式を立てると、電荷が消えて速さが決まる。
- 電子は負の電荷をもつので、電界から受ける力は電界と逆向きで、 軸の正の向き。大きさは
- 直進しているので、ローレンツ力は 軸の負の向きで、大きさは
- つり合いの式は 。両辺を で割ると
- 値を入れると、
問 2 問 1 の電子に対して、電界だけを取り去り、磁界(磁束密度 )はそのままにした。電子は半径 の等速円運動をした。この結果から、電子の比電荷を求めよ。
方針 磁界の中の等速円運動では、ローレンツ力が向心力になる。運動方程式を について解く。速さは問 1 で求めた値を使う。
- 円運動の運動方程式は
- 両辺を で割って整理すると
- 分母は
- 値を入れると、
ここで間違えやすい この問題では、電気素量と電子の質量の値を使って を計算してはいけない。実験の結果(、、)から求めるのが比電荷の測定である。
問 3 ミリカンの実験と同じ方法で、4 つの油滴の電気量の大きさを測ったところ、、、、 だった。この結果から電気素量を推定せよ。また、それぞれの油滴の電気量は電気素量の何倍か。
電気素量は 。順に 3 倍、4 倍、5 倍、7 倍
方針 どの電気量も電気素量の整数倍なので、測定値どうしの差も電気素量の整数倍になる。差の中でいちばん小さいものを候補にして、全部の測定値が割り切れるかを確かめる。
- 以下、 を単位にして数だけを書く。小さい順に並べると 4.8、6.4、8.0、11.2
- 隣どうしの差は、、、
- 差の最小は 1.6 で、 もその整数倍。そこで 1.6 を候補にする
- 割り切れるかを確かめる。、、、
- すべて整数になったので、電気素量は と推定できる
ここで間違えやすい いちばん小さい測定値 を、そのまま電気素量としてしまうこと。 は整数にならないので、4.8 は共通の単位ではない。
問 4 水平に向かい合わせた 2 枚の極板(間隔 )のあいだに、質量 の帯電した油滴がある。極板のあいだに の電圧をかけたところ、油滴は静止した。(1) 極板のあいだの電界の強さを求めよ。(2) 油滴の電気量の大きさを求めよ。(3) それは電気素量の何倍か。
(1) (2) (3) 2 倍
方針 極板のあいだの電界は一様で、強さは電圧を間隔で割れば出る。油滴が静止しているので、電界から受ける力と重力がつり合っている。
- (1) 一様な電界の強さは 。値を入れると、
- (2) 油滴の電気量の大きさを 、質量を とすると、つり合いの式は
- について解くと
- 値を入れると、
- (3) 電気素量で割ると、 倍
問 5 (1) 静止していた電子を の電圧で加速した。電子が得た運動エネルギーを、J と eV の両方で答えよ。(2) 静止していた電子を、速さ まで加速したい。必要な電圧を求めよ。
(1) 、 (2)
方針 電圧 で加速された電子は、電界から の仕事をされ、それがそのまま運動エネルギーになる。(2) は を について解く。
- (1) 運動エネルギーは 。値を入れると、
- 電子 1 個を で加速したときのエネルギーが なので、 で加速すれば
- (2) を について解くと
- 速さの 2 乗は
- 分子は 、分母は
- 値を入れると、
ここで間違えやすい (1) で eV に直すとき、J の値にもう一度 を掛けてしまうこと。J から eV へは割り算で、電子 1 個を加速した場合は電圧の数値がそのまま eV の数値になる。