衝突と力学的エネルギー
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
学習指導要領 物理 (1) ア (イ) ㋒「衝突における力学的エネルギーの変化について理解すること。」。
0. どういうまとまりか
衝突では、運動量の和は保存されます。では、力学的エネルギーはどうでしょうか。
答えは「保存されるとは限らない」です。衝突のときに物体が変形したり、熱や音が出たりすると、そのぶんだけ力学的エネルギーが減ります。
保存されるのは、はね返り係数が 1 の弾性衝突のときだけです。
このノートでは、衝突の前後で力学的エネルギーがどう変わるかを整理し、あわせて、運動量保存の式とはね返り係数の式を連立させて衝突後の速度を求める手順を固めます。
| 衝突の種類 | はね返り係数 | 運動量の和 | 力学的エネルギーの和 |
|---|---|---|---|
| 弾性衝突 | 保存される | 保存される | |
| 非弾性衝突 | 保存される | 減る | |
| 完全非弾性衝突(合体) | 保存される | 減る(減り方がもっとも大きい) | |
| 分裂 | — | 保存される | 増える |
分かれ目は次の 3 つ。
- 運動量の保存と、力学的エネルギーの保存は、別々に判断する。運動量が保存されていても、力学的エネルギーは減っていることが多い
- 衝突後の速度は、運動量保存の式とはね返り係数の式の連立で求める。弾性衝突でも、エネルギーの式でなく の式を使うと 1 次式で済む
- 合体しても、運動エネルギーが全部なくなるとは限らない。運動量を運ぶぶんの運動エネルギーは残る
1. 衝突で保存されるもの・されないもの
根拠: 学習指導要領 物理-(1)-ア-(イ)-㋒
水平面上の衝突では、衝突の直前と直後で位置エネルギーは変わりません。力学的エネルギーの変化は、運動エネルギーの和の変化として表れます。
外力の力積が無視できる衝突で、運動量の和と力学的エネルギーの和は、それぞれ保存されるか?
運動量の和は、はね返り係数の値によらず保存される。力学的エネルギーの和が保存されるのは、弾性衝突()のときだけ
の衝突では、運動量の和は変わらないまま、力学的エネルギーの和だけが減る。
弾性衝突とは、力学的エネルギーの面から言うと、どんな衝突か?
衝突の前後で、力学的エネルギー(運動エネルギーの和)が変わらない衝突
はね返り係数が の衝突と同じことである。 の式と運動量保存の式から、運動エネルギーの和が等しいことを導ける。
非弾性衝突で減った力学的エネルギーは、どうなったのか?
熱や音のエネルギー、物体を変形させる仕事などに変わった
エネルギーそのものが消えたわけではない。力学的エネルギー以外の形に移ったので、力学的エネルギーの和としては減る。
衝突で失われた力学的エネルギーは、どう求めるか?
衝突前の運動エネルギーの和から、衝突後の運動エネルギーの和を引く
。運動エネルギーは向きをもたないので、速度の符号によらず全部正で足す。
2 物体が衝突して一体となった(完全非弾性衝突)。運動エネルギーは全部失われるか?
全部失われるとは限らない。一体となったあとも速度をもてば、そのぶんの運動エネルギーは残る
運動量の和が保存されるので、衝突前の運動量の和が 0 でなければ、一体となったあとも動いている。全部失われるのは、衝突前の運動量の和が 0 のときである。
動かない床に球が垂直に衝突した。衝突直後の球の運動エネルギーは、衝突直前の何倍か。はね返り係数を として答えよ。
倍。失われる割合は
速さが 倍になるので、運動エネルギー は 倍になる。はね上がる高さが 倍になるのと同じことである。
運動量保存の法則と、力学的エネルギー保存の法則とでは、成り立つ条件がどう違うか?
運動量保存は、外力の力積が無視できれば成り立つ(内力の種類は問わない)。力学的エネルギー保存は、保存力以外の力が仕事をしないときに成り立つ
衝突のときに押しあう力は内力なので運動量の和は変えないが、変形や熱をともなえば力学的エネルギーを減らす。2 つは別々に判断する。
2. 衝突後の速度の求め方
根拠: 学習指導要領 物理-(1)-ア-(イ)-㋒
未知の速度が 2 つなら、式も 2 本要ります。使う 2 本は、いつも同じです。
一直線上の衝突で、衝突後の 2 物体の速度 、 を求めるために連立させる 2 本の式は?
運動量保存の式 と、はね返り係数の式
はね返り係数の式から として、運動量保存の式に代入すると、未知数が 1 つになる。
弾性衝突の問題で、力学的エネルギー保存の式の代わりに、はね返り係数 の式を使うのはなぜか?
エネルギーの式は速度の 2 乗を含む 2 次式だが、 の式 は 1 次式で、連立が楽になるから
2 つは同じ内容を表している。答えが出たあとで、運動エネルギーの和が等しいことを確かめに使うとよい。
質量の等しい 2 物体が、一直線上で弾性衝突した。衝突後の速度はどうなるか?
2 物体の速度が入れかわる
、 となる。静止している同じ質量の球に弾性衝突すると、ぶつかった球が止まり、ぶつけられた球が同じ速度で進む。
連立方程式を解いて衝突後の速度が出たら、何を確かめるか?
①運動量保存の式に戻して、衝突の前後で和が等しいか ②遠ざかる速さが、近づく速さの 倍になっているか
符号の取り違えは、この 2 つでほぼ見つかる。うしろから追突した物体が、相手を追いこしていないかも見る。
3. 分裂と力学的エネルギー
根拠: 学習指導要領 物理-(1)-ア-(イ)-㋒
分裂は、合体を逆回しにした現象です。合体で減った力学的エネルギーは、分裂では増えます。
物体がばねや火薬のはたらきで分裂するとき、運動エネルギーの和はどうなるか。運動量の和はどうか?
運動エネルギーの和は増える。運動量の和は変わらない
ばねの弾性エネルギーや火薬の化学エネルギーが、運動エネルギーに変わる。静止からの分裂では、運動エネルギーの和は 0 から増えるが、運動量の和は 0 のままである。
静止していた物体が、質量 と の 2 つに分裂した。2 つの運動エネルギーの比 は?
質量の逆比 。軽いほうが大きな運動エネルギーをもつ
運動量の大きさ が等しいので、 は質量に反比例する。速さの比も である。
練習問題
根拠: 学習指導要領 物理-(1)-ア-(イ)-㋒
以下、水平面はなめらかとし、重力加速度の大きさを とします。
問 1 右向きに速さ で進む質量 の台車が、静止している質量 の台車に衝突し、2 台は一体となって進んだ。この衝突で失われた力学的エネルギーを求めよ。
方針 まず運動量保存の法則で一体となったあとの速さを求める。そのあと、衝突前後の運動エネルギーの和を比べる。エネルギーの式から速さを出すことはできない。
- 右向きを正とする。運動量保存から
- は
- 衝突前の運動エネルギーは
- 衝突後の運動エネルギーは
- 失われた力学的エネルギーは
ここで間違えやすい 力学的エネルギーが保存されるとして、 から を求めてしまうこと。合体では力学的エネルギーは保存されない。
問 2 右向きに速さ で進む質量 の球 A が、静止している質量 の球 B に弾性衝突した。衝突は一直線上で起こった。(1) 衝突後の A、B の速度を求めよ。(2) 衝突の前後で、運動エネルギーの和が等しいことを確かめよ。
(1) A は左向きに 、B は右向きに (2) 前後とも
方針 運動量保存の式と、はね返り係数 の式を連立させる。力学的エネルギー保存の式は 2 次式になるので、解くのには使わず、確かめに使う。
- 右向きを正とする。衝突後の速度を、A は 、B は とする。
- 運動量保存の式は 。つまり …①
- はね返り係数の式は 。つまり …②
- ②から 。①に入れると
- 整理すると 。よって (右向き)
- ②に戻すと (負なので左向き)
- 確かめ。運動量の和は で、衝突前の と一致する。
- (2) 衝突前の運動エネルギーは
- 衝突後は、A が 、B が 。和は で、衝突前と等しい。
ここで間違えやすい A の速度が負になったのを計算の誤りだと思ってしまうこと。軽い物体が重い静止した物体に弾性衝突すると、軽いほうははね返される。
問 3 問 2 と同じ 2 つの球で、はね返り係数が の場合を考える。右向きに速さ で進む質量 の球 A が、静止している質量 の球 B に一直線上で衝突した。(1) 衝突後の A、B の速度を求めよ。(2) この衝突で失われた力学的エネルギーを求めよ。
(1) A は静止(速度 0)、B は右向きに (2)
方針 問 2 と同じく、運動量保存の式とはね返り係数の式を連立させる。変わるのは、はね返り係数の式の右辺だけである。速度が出たら、運動エネルギーの和の差をとる。
- 右向きを正とする。衝突後の速度を、A は 、B は とする。
- 運動量保存の式は …①
- はね返り係数の式の右辺は 。よって …②
- ②から 。①に入れると
- 整理すると 。よって (右向き)
- ②に戻すと 。A は止まる。
- 確かめ。運動量の和は で、衝突前と一致する。遠ざかる速さ は、近づく速さ の 倍である。
- (2) 衝突前の運動エネルギーは
- 衝突後は B だけが動いていて、
- 失われた力学的エネルギーは
問 4 質量 の球を、水平な床から高さ のところから静かに落とした。球と床との間のはね返り係数は である。床との 1 回目の衝突で失われた力学的エネルギーを求めよ。
方針 床との衝突では、衝突直後の運動エネルギーは直前の 倍になる。直前の運動エネルギーは、落ちはじめの位置エネルギー に等しい。失われるのは、その 倍である。
- 床を基準にした落ちはじめの位置エネルギーは 。落下中は力学的エネルギーが保存されるので、衝突直前の運動エネルギーも
- は
- 失われる割合は
- 失われた力学的エネルギーは
ここで間違えやすい 失われる割合を として としてしまうこと。運動エネルギーは速さの 2 乗に比例するので、 で考える。
問 5 なめらかな水平面上に、質量 の台車 A と質量 の台車 B を、間に縮めた軽いばねをはさんで静止させた。ばねを自由にしたところ、A は左向きに速さ で進んだ。(1) B の速度を求めよ。(2) はじめにばねがたくわえていた弾性エネルギーを求めよ。ばねのエネルギーは、すべて 2 台の運動エネルギーになったものとする。
(1) 右向きに (2)
方針 ばねの力は内力なので、分裂の前後で運動量の和は 0 のまま変わらない。一方、運動エネルギーの和は 0 から増える。増えたぶんが、ばねの弾性エネルギーである。
- 右向きを正とする。A の速度は 。B の速度を とする。
- 運動量保存の式は
- (1) は 。正なので右向き。
- A の運動エネルギーは
- B の運動エネルギーは
- (2) 和は 。これが、はじめにばねがたくわえていた弾性エネルギーである。
ここで間違えやすい 運動量が同じ大きさだから運動エネルギーも半分ずつ、と考えてしまうこと。運動エネルギーは質量の逆比に分かれ、軽い A のほうが 2 倍もっている。