気体分子の運動
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
学習指導要領 物理 (1) ア (オ) ㋐「気体分子の運動と圧力との関係について理解すること。」。このノートは、分子の運動から圧力を導き、分子の速さ・平均の運動エネルギーと絶対温度との関係を扱います。
0. どういうまとまりか
気体の圧力は、ばらばらに飛び回る多数の分子が壁に衝突して、壁を押すことで生じます。
1 個の分子の衝突を力学(運動量と力積)で調べ、それを分子の数だけ足しあわせると、圧力が分子の質量と速さで書けます。
この式を状態方程式と見比べると、絶対温度は分子の平均の運動エネルギーを表す量だと分かります。
導出の筋道は次の 4 段です(1 辺の長さ の立方体の容器に、質量 の分子が 個入っている。容器の体積は 。 軸に垂直な 1 つの壁に注目する)。
| 段 | 求めるもの | 結果 |
|---|---|---|
| 1 | 1 回の衝突で、分子が壁に与える力積 | |
| 2 | 時間 の間に、1 個の分子がその壁に衝突する回数 | |
| 3 | 1 個の分子が壁に与える平均の力 | |
| 4 | 個の分子による圧力 |
は、分子の速さの 2 乗を全分子について平均した値です。
分かれ目は次の 3 つ。
- 1 回の衝突で壁が受ける力積は ではなく 。分子ははね返るので、運動量の変化は 2 倍になる
- 絶対温度が同じなら、分子の平均の運動エネルギーは気体の種類によらず同じ。速さは同じではなく、軽い分子ほど速い
- 2 乗平均速度の式に入れる は、 あたりの質量を で表した値。 のまま入れない
1. 圧力の正体
根拠: 学習指導要領 物理-(1)-ア-(オ)-㋐
物理基礎では、温度が原子や分子の熱運動の激しさを表すことを学びました。ここでは、その熱運動が圧力を生むことを式で確かめます。
気体の圧力は、分子の運動から見ると、何によって生じるか?
熱運動する多数の分子が次々に壁に衝突し、そのたびに壁に力積を与えることで生じる
1 個の分子が与える力積はごく小さく、とびとびだが、分子の数が非常に多いので、壁は一定の力で押され続けているのと同じになる。その力を壁の面積で割ったものが圧力。
分子の運動から圧力を導くとき、分子についてどんな仮定を置くか?
分子は壁と弾性衝突をする。分子どうしの衝突、分子の間に働く力、分子の大きさ、重力は無視する
弾性衝突なので、はね返っても速さは変わらない。これらの仮定は、理想気体のモデルにあたる。
2. 圧力を導く筋道
根拠: 学習指導要領 物理-(1)-ア-(オ)-㋐
「0. どういうまとまりか」の容器で考えます。分子の速度の 成分を とし、 軸に垂直で、 軸の正の側にある壁に注目します。
質量 の分子が、速度の 成分 で 軸に垂直な壁に弾性衝突した。この 1 回の衝突で、壁が受ける力積の大きさは?
分子の運動量の 成分は から に変わり、変化は 。分子が壁から受けた力積がこれに等しく、作用・反作用の法則から、壁は逆向きに大きさ の力積を受ける。
1 辺の長さ の立方体の容器の中で、速度の 成分が の分子は、時間 の間に、 軸に垂直な 1 つの壁に何回衝突するか?
回
同じ壁にもう一度衝突するまでに、分子は 方向に 1 往復、つまり 進む。時間 の間に 方向に進む距離は なので、それを で割る。
1 個の分子が、 軸に垂直な 1 つの壁に与える平均の力の大きさは? どう求めるか?
。時間 の間に壁に与える力積の合計「1 回の力積 × 衝突回数 」を、時間 で割る
力積の合計は 。平均の力を とすると、力積は とも書けるので、。
個の分子が、 軸に垂直な 1 つの壁に与える力の大きさ は?
( は、 を全分子について平均した値)
分子ごとに は違うので、1 個あたりの力 を全分子について足す。合計は「平均 × 個数」で書ける。
の平均 と、速さの 2 乗の平均 の関係は? その理由は?
。分子はどの向きにも同じように運動しているので、 となるから
三平方の定理から で、平均をとっても 。3 つが等しいので、それぞれ の 3 分の 1。
体積 の容器に、質量 の分子が 個入っている。気体の圧力 を、分子の速さの 2 乗の平均 で表すと?
壁が受ける力 を、壁の面積 で割る。 なので、この形になる。分子の数が多いほど、分子が重く速いほど、圧力は大きい。
3. 分子の運動エネルギーと絶対温度
根拠: 学習指導要領 物理-(1)-ア-(オ)-㋐
圧力の式を と書き直し、状態方程式 と見比べます。左辺が同じなので、右辺どうしが等しくなります。
理想気体の分子 1 個の平均の運動エネルギーを、絶対温度 で表すと?
( はボルツマン定数)
に を入れると 。両辺を 2 で割り、 を と書く。
ボルツマン定数 とは? 気体定数 とどんな関係にあるか?
。気体定数をアボガドロ定数で割った、分子 1 個あたりの気体定数にあたる定数
単位は 。 は あたり、 は分子 1 個あたりの量を扱うときに使う。状態方程式は とも書ける。
温度が同じ 2 種類の理想気体で、分子 1 個の平均の運動エネルギーはどちらが大きいか?
同じ。平均の運動エネルギー は絶対温度だけで決まり、分子の種類(質量)によらない
絶対温度は、分子の平均の運動エネルギーの大きさを表す量である。同じなのは運動エネルギーであって、速さではない。
気体分子の 2 乗平均速度 を、絶対温度 で表すと?
( は分子 1 個の質量、 は あたりの質量)
を について解く。 と を使うと、 と の形になる。分子の速さの目安になる値。
の には、どんな単位の値を入れるか?
。 あたりの質量を で表した値を入れる
分子量 4 のヘリウムなら、 は なので 。 のまま 4 を入れると、速さが大きくずれる。
気体分子の 2 乗平均速度は、絶対温度と分子の質量によってどう変わるか?
絶対温度の平方根に比例し、分子の質量( あたりの質量)の平方根に反比例する
絶対温度を 4 倍にすると、速さは 2 倍。同じ温度なら、軽い分子ほど速い。
練習問題
根拠: 学習指導要領 物理-(1)-ア-(オ)-㋐
以下、気体は理想気体とし、気体定数を とします。
問 1 1 辺の長さ の立方体の容器の中を、質量 の分子 1 個が、 軸に平行に速さ で往復している。分子は、 軸に垂直な壁と弾性衝突をくり返す。(1) 1 回の衝突で壁が受ける力積の大きさを求めよ。(2) この分子が、 軸に垂直な 1 つの壁に の間に衝突する回数を求めよ。(3) この分子がその壁に与える平均の力の大きさを求めよ。
(1) (2) 回 (3)
方針 圧力を導く筋道の 1 段目から 3 段目を、数値でたどる。力積は運動量の変化から、回数は往復の距離から求め、平均の力は「 の間の力積の合計 ÷ 時間」で出す。
- (1) 衝突の前後で、分子の運動量は から に変わる。壁が受ける力積の大きさは
- 値を入れると、
- (2) 同じ壁にもう一度衝突するまでに進む距離は、1 往復ぶんの
- の間に進む距離は なので、回数は 回
- (3) の間に壁が受ける力積の合計は、
- これを時間 で割ると、平均の力は
ここで間違えやすい (1) を として半分にしてしまうこと。分子は止まるのではなく、同じ速さではね返る。(2) では片道の で割らない。
問 2 温度 の気体がある。ボルツマン定数を とする。(1) 分子 1 個の平均の運動エネルギーを求めよ。(2) 温度を にすると、平均の運動エネルギーは何倍になるか。
(1) (2) 2 倍
方針 分子 1 個の平均の運動エネルギーは で、絶対温度だけで決まる。気体の種類や分子の質量は要らない。
- (1) に値を入れる
- (2) 平均の運動エネルギーは絶対温度に比例する
- 絶対温度は 倍になったので、平均の運動エネルギーも 2 倍
問 3 温度 のヘリウムについて、分子の 2 乗平均速度を求めよ。ヘリウム の質量を とする。
方針 を使う。 は で入れる。先に根号の中を計算し、10 の偶数乗をくくり出してから平方根をとる。
- 、
- 根号の中は、
- 平方根をとると、
- なので、有効数字 2 桁で
ここで間違えやすい に ( の値)を入れること。根号の中が 1000 分の 1 になり、速さが約 と、桁違いに小さく出る。
問 4 同じ温度の水素と酸素がある。 の質量は、水素が 、酸素が である。(1) 分子 1 個の平均の運動エネルギーは、水素が酸素の何倍か。(2) 分子の 2 乗平均速度は、水素が酸素の何倍か。
(1) 1 倍(等しい) (2) 4 倍
方針 平均の運動エネルギー は温度だけで決まる。2 乗平均速度 は、温度が同じなら の平方根に反比例する。
- (1) 温度が同じなので、 は水素も酸素も同じ値。1 倍
- (2) 2 乗平均速度の比は、 が共通なので、 の質量の比の平方根を逆にしたものになる
- 水素の速さ ÷ 酸素の速さは、
- 水素の分子は、酸素の分子の 4 倍の速さで運動している
ここで間違えやすい 質量が 16 分の 1 だから速さは 16 倍、としてしまうこと。運動エネルギーが等しいので、速さの 2 乗が 16 倍で、速さは 4 倍である。
問 5 体積 の容器に、質量の合計が の気体が入っている。圧力は である。分子の 2 乗平均速度を求めよ。
方針 の は「分子 1 個の質量 × 個数」で、気体全体の質量にあたる。分子の数や温度が分からなくても、この式から が出る。
- を について解くと、
- は気体全体の質量で、
- 値を入れると、(単位は )
- 平方根をとると、
- なので、有効数字 2 桁で