慣性力と遠心力
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
学習指導要領 物理 (1) ア (ウ) ㋐「円運動をする物体の様子を表す方法やその物体に働く力などについて理解すること。」。
0. どういうまとまりか
運動方程式 は、静止している人(または一定の速度で動いている人)から見たときに成り立つ式です。
加速している電車の中の人や、回転する台に乗っている人が、自分を基準にして同じ式を使うには、実際には受けていない力を 1 つ付け足す必要があります。これが慣性力で、回転する観測者にとっての慣性力が遠心力です。
同じ現象を 2 つの立場で書くと、次のようになります(質量 の物体。乗り物の加速度の大きさ 、円運動の半径 、角速度 、速さ )。
| 静止した観測者(地上の人) | 加速する観測者(乗り物の中の人・一緒に回る人) | |
|---|---|---|
| 力として挙げるもの | 実際に受ける力だけ | 実際に受ける力 + 慣性力 |
| 加速する電車の中で、車内に対して静止している物体 | 電車と同じ加速度で運動している。運動方程式 | 静止している。 と慣性力(大きさ 、電車の加速度と逆向き)のつり合い |
| 等速円運動をする物体 | 向心加速度で運動している。運動方程式 | 静止している。 と遠心力(大きさ 、中心から遠ざかる向き)のつり合い |
分かれ目は次の 3 つ。
- 慣性力の向きは、観測者の加速度と逆向き。観測者の速度の向きではない。減速中の電車では、慣性力は進行方向を向く
- 慣性力と遠心力は、加速する観測者の立場でだけ書く。静止した観測者の立場では、力として挙げない
- 2 つの立場を 1 つの式に混ぜない。向心力で運動方程式を立てたら遠心力は入れない。遠心力を入れたら、つり合いの式にする
1. 慣性力
根拠: 学習指導要領 物理-(1)-ア-(ウ)-㋐
加速する乗り物の中で体が押しつけられるように感じるのは、乗り物と一緒に加速している自分を基準にして見ているからです。この見え方を式にするのが慣性力です。
慣性力とは何か? 向きと大きさは?
加速度運動をする観測者から見たとき、物体に働いているように見える見かけの力。観測者の加速度を とすると、質量 の物体には (観測者の加速度と逆向きに、大きさ )
この力を付け足せば、加速する観測者の立場でも、力のつり合いや運動方程式がそのまま使える。
慣性力は、重力や張力などのふつうの力と何が違うか?
力を及ぼしている相手の物体が無い。したがって、作用・反作用の相手となる力(反作用)も無い
重力は地球から、張力は糸から受ける。慣性力には「何から受けるか」が無い。観測者が加速しているために現れる見かけの力である。
慣性力の向きは、乗り物の何と逆向きか? 進行方向に進みながらブレーキをかけている電車の中では、どちら向きか?
乗り物の加速度と逆向き。ブレーキ中の電車は加速度が進行方向と逆向きなので、慣性力は進行方向を向く
速度の向きで決めてはいけない。発車のときは後ろ向き、停車のときは前向きに体が倒れそうになるのは、このためである。
一定の速度で走っている電車の中の観測者から見ると、慣性力はどうなるか?
0 である。観測者の加速度が 0 だから
慣性力の大きさは で、決めるのは乗り物の加速度である。どれだけ速く動いていても、速度が一定なら現れない。
地上に静止した観測者の立場で式を立てるとき、慣性力は力として挙げるか?
挙げない。実際に受けている力(重力と、触れているものから受ける力)だけで運動方程式を立てる
慣性力を挙げるのは、加速する観測者の立場をとると決めたときだけ。どちらの立場で書くかを、式を立てる前に決める。
2. 電車の中の振り子とエレベーターの中の体重計
根拠: 学習指導要領 物理-(1)-ア-(ウ)-㋐
慣性力の代表的な場面は 2 つです。水平に加速する電車と、鉛直に加速するエレベーター。どちらも、地上の人から見た式と中の人から見た式が、同じ結果を与えることを確かめます。
水平に加速度 で進む電車の天井から、糸でおもりをつるした。糸が鉛直から角 だけ傾いて、おもりは車内に対して静止している。車内の人の立場で式を立てると?
重力 (鉛直下向き)、張力 (糸に沿って上向き)、慣性力 (電車の加速度と逆向き)の 3 力のつり合い。水平方向 、鉛直方向 から
糸は、電車の加速度と逆の側へ傾く。傾きの角はおもりの質量によらない。
加速度 で進む電車の中で糸が角 傾いて静止しているおもりを、地上の人の立場で式にすると?
おもりは電車と同じ加速度 で運動している。水平方向の運動方程式 、鉛直方向のつり合い から
力は重力と張力の 2 つだけ。慣性力は挙げない。車内の人の立場と、式の並べ方が違うだけで結果は同じになる。
鉛直上向きに加速度 で動くエレベーターの床に、質量 の人が立っている。床から受ける垂直抗力の大きさは? 加速度が鉛直下向きに のときは?
加速度が上向きなら 。下向きなら
中の人の立場では、慣性力(エレベーターの加速度と逆向きに )を加えたつり合い。体重計の読みは、この垂直抗力の大きさを示す。
エレベーターが上向きに動いていれば、中の体重計の読みは静止のときより大きいといえるか?
いえない。読みを決めるのは加速度の向きで、速度の向きではない。上向きに動いていても、減速中(加速度は下向き)なら読みは小さくなる
一定の速度で上がっているときは、静止のときと同じ である。
3. 遠心力
根拠: 学習指導要領 物理-(1)-ア-(ウ)-㋐
等速円運動をする物体と一緒に回る観測者も、加速度(向心加速度)をもっています。この観測者にとっての慣性力が遠心力です。
遠心力とは何か? 向きと大きさは?
物体と一緒に回転する観測者から見たときに現れる慣性力。向きは円の中心から遠ざかる向き、大きさは
観測者の加速度は向心加速度(中心向きに )なので、慣性力はその逆向きに となる。
等速円運動をする物体を、一緒に回転する観測者から見ると、どう見えて、どんな式が成り立つか?
物体は静止して見える。実際に受ける力の合力(中心向き)と遠心力(中心から遠ざかる向き)がつり合っている
式は 。静止した観測者の運動方程式 と、項を移しただけで同じ内容である。
向心力と遠心力は、作用・反作用の関係にあるか?
ない。遠心力は見かけの力で、反作用をもたない。向心力は実際に受けている力の合力で、その反作用は相手の物体(糸など)が受ける別の力である
「物体が糸を外向きに引く力」は張力の反作用で、糸が受ける実在の力。物体が受ける遠心力とは別のものである。
4. 2 つの立場を混ぜない
根拠: 学習指導要領 物理-(1)-ア-(ウ)-㋐
円運動の式の誤りの多くは、向心力の立場と遠心力の立場を 1 つの式の中に混ぜることから起こります。
円運動の式を立てる 2 つの立場と、それぞれの式の形は?
静止した観測者の立場は、遠心力を入れず、運動方程式 (中心向きの力の和)。一緒に回転する観測者の立場は、遠心力を入れて、力のつり合い(力の和 )
どちらで立てても答えは同じになる。式を立てる前に、どちらの立場かを 1 つに決める。
運動方程式 の右辺 に、遠心力を加えてはいけないのはなぜか?
を左辺に書いた時点で、静止した観測者の立場をとっているから。そこへ遠心力も入れると、同じ を 2 度数えることになる
遠心力を入れるなら、左辺は (つり合い)にする。「向心加速度」と「遠心力」が同じ式に並ぶことは無い。
練習問題
根拠: 学習指導要領 物理-(1)-ア-(ウ)-㋐
以下、重力加速度の大きさを とします。
問 1 水平な直線の線路上を、電車が進行方向に の一定の加速度で進んでいる。天井から軽い糸でつるした質量 のおもりが、糸が鉛直から角 だけ傾いた状態で、車内に対して静止している。(1) 車内の人から見て、おもりが受ける慣性力の向きと大きさを求めよ。(2) の値を求めよ。
(1) 電車の進行方向と逆向きに (2)
方針 車内の人の立場をとる。おもりは静止して見えるので、重力・張力・慣性力の 3 力のつり合いの式を、水平方向と鉛直方向に分けて書く。
- 電車の加速度は進行方向を向く。慣性力はその逆向きで、大きさは
- (1) 値を入れると、。向きは進行方向と逆向き。
- 張力の大きさを とする。水平方向のつり合いは
- 鉛直方向のつり合いは
- 上の式を下の式で割ると
- (2) 値を入れると、
ここで間違えやすい 糸が進行方向の側へ傾くと考えてしまうこと。慣性力が進行方向と逆向きなので、おもりは後ろへ振れ、糸の下端は後ろ側にくる。
問 2 エレベーターの床に置いた体重計に、質量 の人が乗っている。次のそれぞれの場合について、人が体重計から受ける垂直抗力の大きさを求めよ。(1) エレベーターが鉛直上向きに の加速度で動いているとき。(2) 一定の速度で上昇しているとき。(3) 鉛直下向きに の加速度で動いているとき。
(1) (2) (3)
方針 エレベーターの中の人の立場をとる。人は静止して見えるので、重力・垂直抗力・慣性力のつり合いを書く。慣性力はエレベーターの加速度と逆向きである。
- 人が受ける力は、重力 (下向き)、垂直抗力 (上向き)、慣性力(エレベーターの加速度と逆向きに )
- (1) 加速度が上向きなので、慣性力は下向き。つり合いは
- 値を入れると、。よって
- (2) 速度が一定なので加速度は 0 で、慣性力は無い。。値を入れると、。よって
- (3) 加速度が下向きなので、慣性力は上向き。つり合いは から
- 値を入れると、。よって
ここで間違えやすい (2) で「上がっているのだから重くなる」と考えてしまうこと。速度が一定なら、静止のときと同じである。
問 3 なめらかな水平な円板の上に質量 の小物体を置き、円板の中心の軸と軽い糸で結んだ。円板を角速度 で回転させると、小物体は中心から の位置で、円板に対して静止したまま一緒に回った。円板と一緒に回転する観測者の立場で、(1) 小物体が受ける遠心力の向きと大きさ、(2) 糸の張力の大きさを求めよ。
(1) 円板の中心から遠ざかる向きに (2)
方針 一緒に回転する観測者から見ると、小物体は静止している。水平方向について、張力(中心向き)と遠心力(中心から遠ざかる向き)のつり合いを書く。
- 鉛直方向は、重力と垂直抗力がつり合っている。円板はなめらかなので、摩擦力は無い。
- 遠心力の大きさは 。向きは中心から遠ざかる向き。
- (1) 値を入れると、
- (2) 水平方向のつり合いは 。よって張力は遠心力と同じ大きさで、
- 確かめ。静止した観測者の立場では、運動方程式 から同じ になる。
ここで間違えやすい のように、運動方程式の右辺に遠心力を入れてしまうこと。2 つの立場を混ぜた式で、張力が 2 倍に出る。
問 4 水平な直線の道路を走るトラックの、水平な荷台の上に荷物が置いてある。荷物と荷台の間の静止摩擦係数は である。トラックが進行方向に加速するとき、荷物が荷台の上ですべり出さない加速度の最大値を求めよ。
方針 トラックに乗った観測者の立場をとる。荷物は静止して見えるので、慣性力(後ろ向き)と静止摩擦力(前向き)のつり合い。慣性力が最大摩擦力に達したときが、すべり出す限界である。
- 荷物の質量を 、トラックの加速度の大きさを とする。鉛直方向のつり合いから
- 水平方向は、慣性力 (進行方向と逆向き)と静止摩擦力 (進行方向)がつり合い、
- すべり出さない条件は なので、
- 両辺を で割ると 。値を入れると、
- 確かめ。地上の人の立場では、荷物を加速度 で加速させている力が静止摩擦力で、運動方程式 。同じ条件になる。
問 5 エレベーターの天井に、ばね定数 の軽いばねの一端を固定し、他端に質量 のおもりをつるした。(1) エレベーターが静止しているときのばねの伸びを求めよ。(2) エレベーターが鉛直上向きに の加速度で動いていて、おもりがエレベーターに対して静止しているときの、ばねの伸びを求めよ。
(1) (2)
方針 (2) はエレベーターの中の観測者の立場をとる。おもりは静止して見えるので、弾性力(上向き)と、重力と慣性力(どちらも下向き)のつり合いを書く。
- (1) 静止しているときは、弾性力と重力のつり合い から
- 値を入れると、
- (2) エレベーターの加速度は上向きなので、慣性力は下向きに
- つり合いは から
- は 。値を入れると、
- 確かめ。地上の人の立場では、おもりは上向きに加速度 で運動していて、運動方程式は 。同じ式になる。