原子の構造とスペクトル
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
学習指導要領 物理 (4) ア (イ) ㋐「原子の構造及びスペクトルと電子のエネルギー準位との関係について理解すること。」。
内容の取扱いは「水素原子の構造を中心にスペクトルと関連させて扱うこと。」としています。
0. どういうまとまりか
原子が「中心の小さな原子核と、そのまわりの電子」でできていることは、α 粒子を金属の箔に当てる実験から分かりました。
ところが、この模型をそれまでの物理学(力学と電磁気学)でそのまま考えると、原子はすぐにつぶれてしまうことになり、原子が出す光のスペクトルも説明できません。
一方で、水素原子が出す光のスペクトルには、整数だけで書けるきれいな規則性が見つかっていました。
このノートでは「原子核の発見」「模型の困難」「スペクトルの規則性」の 3 つを押さえます。困難を解いて規則性を説明するのは、次のノート(ボーアの原子模型)です。
水素原子のスペクトルの波長 は、リュードベリ定数を として、次の 1 つの式にまとまります( と は整数で、)。
| 系列 | 現れる領域 | ||
|---|---|---|---|
| ライマン系列 | 1 | 2、3、4、… | 紫外線 |
| バルマー系列 | 2 | 3、4、5、… | 可視光線(系列の端のほうは紫外線) |
| パッシェン系列 | 3 | 4、5、6、… | 赤外線 |
分かれ目は次の 3 つ。
- α 粒子の大部分は素通りし、ごく一部だけが大きく曲がる。「大部分が素通り」は原子がすきまだらけであること、「ごく一部が大きく曲がる」は正の電気と質量が 1 点に集まっていることを示す
- が系列を決め、 が系列の中の線を決める。 のほうが小さい整数で、式では先に書く
- 系列の中で波長が最も長いのは の線。 を大きくすると波長は短くなり、ある波長(系列の端)に近づいて詰まっていく
1. α 粒子の散乱実験と原子核
根拠: 学習指導要領 物理-(4)-ア-(イ)-㋐
電子が見つかったあと、原子の中で正の電気がどこにあるかが問題になりました。それを決めたのが、ラザフォードの指導のもとで行われた α 粒子の散乱実験です。
原子の構造について、トムソンの模型とラザフォードの模型は、正の電気のありかがどう違うか?
トムソンの模型では、正の電気が原子全体に広がり、その中に電子が散らばっている。ラザフォードの模型では、正の電気が中心の小さな原子核に集まり、そのまわりを電子が回っている
ラザフォードの模型は、太陽のまわりを惑星が回る様子に似ている。電子を原子核に引きとめているのは静電気力である。
α 粒子の散乱実験では、何に何を当て、どんな結果が得られたか?
薄い金箔に α 粒子を当てた。大部分の α 粒子はほぼまっすぐ通り抜けたが、ごく一部は大きな角度で曲げられ、はね返されるものもあった
α 粒子はヘリウムの原子核で、正の電気をもち、電子よりはるかに重い。
α 粒子の散乱実験で、ごく一部の α 粒子が大きな角度で曲げられたことから、原子について何が分かるか?
原子の正の電気と質量の大部分が、中心のごく小さな部分(原子核)に集中している
正の電気が原子全体に広がっていると、α 粒子を大きく曲げるほど強い反発力は生じない。軽い電子にぶつかっても、重い α 粒子の進路はほとんど変わらない。
原子核の大きさは、原子の大きさのおよそ何分の 1 か?
およそ 1 万分の 1 から 10 万分の 1(原子は 程度、原子核は から 程度)
原子の中はほとんどがすきまである。α 粒子の大部分が素通りするのはこのため。
2. ラザフォードの模型の困難
根拠: 学習指導要領 物理-(4)-ア-(イ)-㋐
原子核のまわりを電子が回る、という模型は実験に合います。しかし、それまでの電磁気学を当てはめると、2 つの点で事実と食い違います。
ラザフォードの模型を電磁気学で考えると、原子は安定に存在できないことになる。その理由は?
円運動をする電子は加速度運動をしているので、電磁波を出してエネルギーを失い、原子核に落ちこんでしまうはずだから
電磁気学では、加速度運動をする荷電粒子は電磁波を出す。実際の原子は安定に存在しているので、この考え方のどこかが原子には当てはまらない。
ラザフォードの模型を電磁気学で考えると、原子が出す光のスペクトルはどうなるはずか? 実際はどうか?
電子は回る半径を連続的に変えながら電磁波を出すので、連続スペクトルになるはず。実際には、気体の原子が出す光は、決まった波長だけの線スペクトルである
原子が安定であることと、線スペクトルを出すこと。この 2 つを説明するには、新しい考え方が必要になる。
3. 水素原子のスペクトル
根拠: 学習指導要領 物理-(4)-ア-(イ)-㋐
高温の気体や、放電している気体の原子が出す光を分光器で分けると、とびとびの波長の線が並びます。最も単純な水素原子では、線の波長に規則性があります。
気体の原子が出す光の線スペクトルには、元素についてどんな特徴があるか?
現れる線の波長の組は、元素の種類ごとに決まっている
このため、スペクトルを調べると、光を出している元素が分かる。遠くの星をつくる元素も、この方法で調べられている。
水素原子のスペクトルの波長 を表す式は?(リュードベリ定数を とする)
。 は正の整数、 は より大きい整数
で、。左辺は波長そのものでなく、波長の逆数である。
水素原子のスペクトルで、ライマン系列・バルマー系列・パッシェン系列は、それぞれ がいくつで、どの領域に現れるか?
ライマン系列は で紫外線。バルマー系列は で可視光線。パッシェン系列は で赤外線
が小さい系列ほど、波長が短い。バルマー系列も、 の大きい線は紫外線の領域に入る。
水素原子のスペクトルの 1 つの系列の中で、波長が最も長い線は がいくつのときか? 最も短い波長(系列の端)は、どう求めるか?
最も長いのは のとき。最も短い波長は、 を限りなく大きくして を 0 としたときで、
が大きいほどかっこの中が大きくなり、 が大きくなる(波長は短くなる)。
水素原子のスペクトルの 1 つの系列の中で、 を大きくしていくと、となりあう線の間隔はどうなるか?
しだいにせまくなり、線は系列の端の波長に向かって詰まっていく
は、 が大きくなるほど変わり方が小さくなるため。
連続スペクトルの光を、低温の気体に通して分光器で見ると、どんなスペクトルになるか?
連続スペクトルの中に、暗い線が入る(吸収スペクトル)。暗い線の波長は、その気体の原子が出す線スペクトルの波長と同じ
原子は、自分が出すことのできる波長の光だけを吸収する。太陽光のスペクトルに見られる暗い線も、この吸収による。
リュードベリ定数 の単位は何か? それはなぜか?
(毎メートル)。式の左辺 が長さの逆数で、かっこの中は単位をもたない数だから
に数をかけると が出る。波長を求めるには、最後に逆数をとる。
スペクトルの式が整数だけで書けることは、原子の中の電子のエネルギーが、とびとびの値しかとれないことを表しています。これを説明するのが、次のノートのボーアの原子模型です。
練習問題
根拠: 学習指導要領 物理-(4)-ア-(イ)-㋐
以下、リュードベリ定数を とします。
問 1 水素原子のスペクトルのバルマー系列のうち、波長が最も長い線の波長を求めよ。
方針 バルマー系列は 。系列の中で波長が最も長いのは の線なので、 を式に入れる。求まるのは波長の逆数なので、最後に逆数をとる。
- 、 を入れると、かっこの中は
- したがって
- 逆数をとると
- 値を入れると、
ここで間違えやすい を計算したところで止めてしまうこと。それは で、波長ではない。
問 2 水素原子のスペクトルのライマン系列について、(1) 最も長い波長と、(2) 最も短い波長(系列の端)を求めよ。
(1) (2)
方針 ライマン系列は 。最も長い波長は のとき。最も短い波長は、 を限りなく大きくして を 0 としたとき。
- (1) 、 を入れると、かっこの中は
- なので、逆数をとって
- 値を入れると、
- (2) を 0 とすると、かっこの中は 1 になるので
- 逆数をとると 。値を入れると、
問 3 水素原子のスペクトルのバルマー系列で、 の線の波長は、 の線の波長の何倍か。分数で答えよ。
倍
方針 リュードベリ定数の値は使わない。それぞれの線について を で表し、比をとる。波長の比は、 の比の逆になる。
- の線は、 なので
- の線は、 なので
- 波長は 、
- 比をとると が消えて、
ここで間違えやすい を で割って 倍としてしまうこと。それは の比である。 が大きい線のほうが波長は短いので、答えは 1 より小さくなる。
問 4 水素原子のスペクトルのバルマー系列で、最も短い波長(系列の端)を求めよ。また、その光は可視光線か。可視光線の波長は から までとする。
。可視光線ではない(紫外線)
方針 バルマー系列は 。系列の端は、 を 0 としたときの波長である。求めた波長を、可視光線の範囲と比べる。
- で を 0 とすると、
- 逆数をとると
- 値を入れると、
- これは可視光線の短いほうの限界 より短いので、紫外線である
問 5 水素原子のスペクトルのパッシェン系列のうち、波長が最も長い線の波長を求めよ。また、その光は可視光線より波長が長いか、短いか。可視光線の波長は から までとする。
。可視光線より波長が長い(赤外線)
方針 パッシェン系列は 。波長が最も長いのは の線。
- 、 を入れると、かっこの中は
- なので、逆数をとって
- 値を入れると、
- これは可視光線の長いほうの限界 より長いので、赤外線である
ここで間違えやすい と を、指数を見ずに と だけで比べてしまうこと。 は である。