ボーアの原子模型
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
学習指導要領 物理 (4) ア (イ) ㋐「原子の構造及びスペクトルと電子のエネルギー準位との関係について理解すること。」。
内容の取扱いは「水素原子の構造を中心にスペクトルと関連させて扱うこと。」としています。
0. どういうまとまりか
ラザフォードの模型には、「原子がつぶれてしまう」「線スペクトルを説明できない」という 2 つの困難がありました。
ボーアは、水素原子について 2 つの仮説を置くことで、この両方を解きました。
1 つめは「電子は、決まった条件を満たす軌道の上でだけ、電磁波を出さずに回り続ける」(量子条件)。2 つめは「電子が軌道を移るときに、エネルギーの差を光子 1 個として出し入れする」(振動数条件)です。
この 2 つから、電子のエネルギーがとびとびの値(エネルギー準位)しかとれないことと、水素原子のスペクトルの式が導かれます。
水素原子のエネルギー準位は、 を正の整数として です。
| 状態 | 軌道の半径( の何倍か) | エネルギー | |
|---|---|---|---|
| 1 | 基底状態 | 1 倍 | |
| 2 | 励起状態 | 4 倍 | |
| 3 | 励起状態 | 9 倍 | |
| 4 | 励起状態 | 16 倍 | |
| 限りなく大きい | 電子が原子核から離れた状態 | — |
分かれ目は次の 3 つ。
- エネルギーは負で、 が大きいほど高い(0 に近い)。 は より高い。絶対値の大小と取り違えない
- 光子のエネルギーは、準位そのものでなく、2 つの準位の差。高い準位から低い準位へ移るときに放出、低い準位から高い準位へ移るときに吸収
- 半径は に比例し、エネルギーは に反比例する(負の符号つき)。 そのものに比例するのではない
このノートでは、クーロンの法則の比例定数を 、電気素量を 、電子の質量を 、プランク定数を 、真空中の光の速さを と書きます。
1. ボーアの 2 つの仮説
根拠: 学習指導要領 物理-(4)-ア-(イ)-㋐
ボーアの仮説は、それまでの物理学からは導けません。「こう考えると水素原子のスペクトルが説明できる」という出発点として置かれたものです。
ボーアの原子模型でいう「定常状態」とは?
電子が、とびとびに決まったエネルギーをもち、電磁波を出さずに安定に回り続けている状態
定常状態にある電子は、円運動をしていてもエネルギーを失わない。原子がつぶれないのはこのためである。
ボーアの量子条件を式で書くと?(軌道の半径 、電子の質量 、速さ 、プランク定数 )
()
と書いても同じ。整数 を量子数という。この条件を満たす軌道だけが、定常状態として許される。
ボーアの量子条件は、電子を波(物質波)と考えると、どういう意味になるか?
軌道 1 周の長さ が、電子の物質波の波長 の整数倍になっている。電子の波が軌道を 1 周してなめらかにつながり、定在波ができる
1 周の長さが波長の整数倍でないと、何周もするうちに波が打ち消しあってしまう。
ボーアの振動数条件を式で書くと?(高いほうのエネルギー準位 、低いほうのエネルギー準位 、光の振動数 )
電子が 2 つの定常状態のあいだを移るとき、エネルギーの差に等しいエネルギーの光子 1 個を放出または吸収する。波長 で書くと 。
2. 水素原子のエネルギー準位
根拠: 学習指導要領 物理-(4)-ア-(イ)-㋐
水素原子は、電気量 の原子核(陽子)のまわりを、電気量 の電子 1 個が回っている原子です。等速円運動の式と量子条件を組み合わせると、許される半径とエネルギーが決まります。
ボーアの原子模型で、水素原子の電子の軌道の半径を求めるとき、連立させる 2 つの式は?
円運動の運動方程式 と、量子条件
向心力になっているのは、原子核と電子のあいだの静電気力。この 2 つの式から速さ を消すと、半径 が で表される。
ボーアの原子模型で、水素原子の電子の軌道の半径は、量子数 とどんな関係にあるか?
に比例する()
の半径をボーア半径といい、約 。 ではその 4 倍、 では 9 倍になる。
水素原子の電子のエネルギー(運動エネルギーと、静電気力による位置エネルギーの和)を、軌道の半径 で表すと?
位置エネルギーの基準は無限に遠い点。運動方程式から なので、運動エネルギーは位置エネルギーの大きさのちょうど半分になる。
水素原子の電子のエネルギーが負であることは、何を表しているか?
電子が原子核に束縛されていること。電子を原子核から引き離すには、外からエネルギーを与えなければならない
エネルギーが 0 の状態は、電子が原子核から無限に遠く離れて静止している状態にあたる。
水素原子のエネルギー準位を、量子数 で表すと?
()
文字で書くと 。リュードベリ定数 を使うと とも書ける。
準位の間隔は、 が大きくなるほどせまくなり、エネルギーは 0 に近づいていきます。 と の差は ありますが、 より上の準位は、すべて残りの の幅に入っています。スペクトルの線が系列の端に向かって詰まっていくのは、このためです。
3. 基底状態・励起状態と光
根拠: 学習指導要領 物理-(4)-ア-(イ)-㋐
エネルギー準位が決まると、原子がどんな光を出し、どんな光を吸収するかが決まります。スペクトルの線 1 本は、2 つの準位の組 1 つにあたります。
原子の基底状態と励起状態とは?
基底状態は、エネルギーが最も低い定常状態(水素原子では )。励起状態は、それよりエネルギーが高い定常状態()
原子はふつう基底状態にある。励起状態は不安定で、短い時間のうちに光を出して、より低い準位へ移る。
原子が光を放出するのは、電子がどちら向きに準位を移るときか? 光を吸収するのは?
放出は、高い準位から低い準位へ移るとき。吸収は、低い準位から高い準位へ移るとき
吸収できるのは、エネルギーが 2 つの準位の差にちょうど等しい光子だけ。このため、原子が出す線スペクトルと吸収スペクトルは、同じ波長に現れる。
水素原子のイオン化エネルギーとは? その値は?
基底状態の水素原子から電子を引き離して、イオンにするのに必要な最小のエネルギー。
の準位()から、エネルギー 0 の状態まで上げるのに必要なエネルギーである。
水素原子のスペクトルのライマン系列・バルマー系列・パッシェン系列は、エネルギー準位の移り変わりでいうと、それぞれどんな光か?
上の準位から、ライマン系列は へ、バルマー系列は へ、パッシェン系列は へ移るときに出る光
スペクトルの式の が移る先の準位、 が移る前の準位にあたる。移る先が低いほど、エネルギーの差が大きく、波長が短い。
ボーアの原子模型から、水素原子のスペクトルの式 は、どうやって導かれるか?
振動数条件 に、エネルギー準位 を入れる
入れると となり、両辺を で割ればスペクトルの式になる。実験から決められていた の値が、ボーアの模型の計算と一致した。
練習問題
根拠: 学習指導要領 物理-(4)-ア-(イ)-㋐
以下、プランク定数を 、電気素量を 、真空中の光の速さを とし、水素原子のエネルギー準位を とします。
は、電子 1 個が の電圧で加速されたときに得るエネルギーで、 です。
問 1 水素原子で、電子(質量 、電気量 )が原子核(電気量 )のまわりを半径 、速さ で等速円運動している。クーロンの法則の比例定数を 、プランク定数を とする。(1) 量子条件を使って、量子数 の軌道の半径 を求めよ。(2) そのときの電子のエネルギー を求めよ。
(1) (2)
方針 円運動の運動方程式と量子条件の 2 つの式から、速さ を消して を求める。エネルギーは、運動エネルギーと位置エネルギーの和を だけで表してから、求めた を入れる。
- 静電気力が向心力になるので、運動方程式は 。両辺に をかけると
- 量子条件 を について解くと
- これを に入れると、
- 左辺を整理すると 。両辺に をかけて について解くと、(1)
- エネルギーは 。手順 1 の を使うと、
- ここに を入れると、
- 整理すると、(2)
ここで間違えやすい 位置エネルギーの負の符号を落として、 としてしまうこと。原子核と電子は引きあうので、無限に遠い点を基準にした位置エネルギーは負である。
問 2 水素原子の電子が、 の準位から の準位へ移った。(1) 放出される光子のエネルギーは何 か。(2) その光の波長を求めよ。
(1) (2)
方針 光子のエネルギーは 2 つの準位の差。波長は から求めるが、 の単位が なので、エネルギーを から に直してから入れる。
- の準位は 。 の準位は で、 なので
- (1) 準位の差は
- (2) に直すと、
- から
- 値を入れると、
ここで間違えやすい でなく、 としてしまうこと。準位はどちらも負で、差は絶対値の引き算になる。
問 3 基底状態の水素原子に光を当てて、イオン化したい。そのために必要な光の波長は、何 以下か。
以下
方針 イオン化には、光子 1 個のエネルギーがイオン化エネルギー 以上であればよい。光子のエネルギー は波長が短いほど大きいので、条件は「波長がある値以下」になる。
- イオン化エネルギーを に直すと、
- 光子のエネルギーがちょうどこの値になる波長は
- 値を入れると、
- 波長がこれより短ければ、光子のエネルギーは より大きい。したがって 以下
ここで間違えやすい 「以上」と答えてしまうこと。エネルギーの条件は「以上」でも、波長に直すと向きが逆になる。
問 4 (1) 基底状態の水素原子に、エネルギーが 、、 の光子をそれぞれ当てた。電子を上の準位へ移す形で吸収されうるのは、どの光子か。(2) の準位にある水素原子が、基底状態に戻るまでに出しうる光の波長は、全部で何種類か。
(1) と の光子 (2) 6 種類
方針 (1) 吸収されるのは、エネルギーが「基底状態と、ある励起状態との差」にちょうど等しい光子だけ。 の準位と基底状態との差を並べて、当てはまるものを探す。(2) 途中の準位に寄りながら下りることもできる。4 つの準位から 2 つを選ぶ組の数を数える。
- 準位は、 が 、 が 、 が 、 が
- 基底状態との差は、 が 、 が 、 が
- (1) は との差に、 は との差に等しい。 は、どの差にも等しくないので吸収されない
- (2) 移り方は、4 から 3、4 から 2、4 から 1、3 から 2、3 から 1、2 から 1 の 6 通り
- どの組もエネルギーの差が違うので、波長は 6 種類
ここで間違えやすい (1) で「 は より大きいから、 へ上げて余りが出る」と考えてしまうこと。光子は丸ごと吸収されるか、されないかのどちらかで、余りを残す吸収は起こらない。
問 5 水素原子の基底状態()の軌道の半径は である。電子の質量を 、円周率を として、ボーアの原子模型で次の値を求めよ。(1) 基底状態の電子の物質波の波長。(2) 基底状態の電子の速さ。
(1) (2)
方針 量子条件は「軌道 1 周の長さが、物質波の波長の 倍」。 なので、波長は 1 周の長さそのものになる。速さは、量子条件 を について解いて求める。
- (1) なので、物質波の波長は軌道 1 周の長さ に等しい
- 値を入れると、
- (2) 量子条件で とすると 。 について解くと
- 分母は
- したがって