力のモーメント
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
学習指導要領 物理 (1) ア (ア) ㋒「大きさのある物体のつり合いに関する実験などを行い,剛体のつり合う条件を見いだして理解すること。」。
0. どういうまとまりか
物理基礎では、物体を大きさの無い点(質点)として扱いました。質点なら、力は「どの向きに、どれだけ動かすか」だけを考えれば済みます。
大きさのある物体では、同じ力でもどこに加えるかで、物体を回すはたらきが変わります。この「回すはたらき」を数にしたものが力のモーメントです。
ここでは、力のモーメントの求め方と符号の決め方を固めます。次のノートで、これをつり合いの条件に使い、そのあとで重力の作用点である重心を扱います。
| 量 | 式 | 気をつけること |
|---|---|---|
| 力のモーメント | (うでの長さ)は、回転軸から作用線までの距離。作用点までの距離ではない | |
| 斜めに加えた力のモーメント | は回転軸から作用点までの距離、 は軸と作用点を結ぶ線と力がなす角 | |
| 偶力のモーメント | は 2 力の作用線の間の距離。どの点のまわりで求めても同じ |
分かれ目は次の 3 つ。
- うでの長さは、回転軸から作用線に下ろした垂線の長さ。回転軸から作用点までの距離をそのまま掛けてよいのは、力がその線に垂直なときだけ
- 回す向きで符号を決める。このノートでは反時計回りを正、時計回りを負とする
- 力は作用線の上でなら動かしてよい。作用線の外へずらすと、回すはたらきが変わる
1. 剛体と作用線
根拠: 学習指導要領 物理-(1)-ア-(ア)-㋒
大きさのある物体を扱うために、まず「変形しない物体」という理想化と、力の通り道を表す言葉を用意します。
剛体とは、どんな物体か?
大きさがあり、力を受けても変形しないとみなした物体
実際の物体はわずかに変形するが、それを無視する。大きさを無視した「質点」と対になる理想化である。
質点と剛体とで、力のはたらきはどう違うか?
質点では、力は物体全体を動かすはたらきだけをもつ。剛体では、それに加えて物体を回転させるはたらきをもつ
だから剛体では、力の大きさと向きに加えて、力をどこに加えたかが効いてくる。
力の作用線とは何か?
力の作用点を通り、力の向きに引いた直線
力の矢印を前後に延ばした直線のこと。剛体での力のはたらきは、大きさ・向き・作用線の 3 つで決まる。
剛体に働く力を、その作用線の上で移動させると、力のはたらきはどうなるか?
変わらない
棒を前から引いても、同じ直線上で後ろから押しても同じである。作用線から外れた位置へ平行にずらすと、回すはたらきが変わる。
2. 力のモーメント
根拠: 学習指導要領 物理-(1)-ア-(ア)-㋒
ドアは、ちょうつがいから遠いところを押すほど楽に回ります。回すはたらきは、力の大きさと、回転軸からの距離の両方で決まります。
力のモーメントとは何か。力の大きさを 、うでの長さを として、式と単位は?
物体をある点(回転軸)のまわりに回転させるはたらきの大きさ。、単位は
例えば、大きさ の力のうでの長さが なら、。
力のモーメント の「うでの長さ」 とは、どこからどこまでの長さか?
回転軸から、力の作用線に下ろした垂線の長さ
回転軸から作用点までの距離ではない。2 つが一致するのは、軸と作用点を結ぶ線に対して力が垂直なときだけである。
力のモーメントの符号は、どう決めるか?
回す向きで決める。このノートでは、反時計回りに回す向きを正、時計回りに回す向きを負とする
どちらを正にしてもよいが、1 つの問題の中では変えない。いくつかの力のモーメントは、符号を付けて足しあわせる。
回転軸 O から距離 の点 P に、OP と角 をなす向きに大きさ の力を加えた。O のまわりの力のモーメントの大きさは?
うでの長さが だから、と読んでもよいし、力を OP に垂直な成分 と平行な成分に分け、垂直な成分だけが回すから、と読んでもよい。
力が働いているのに、力のモーメントが 0 になるのは、どんなときか?
力の作用線が回転軸を通るとき
うでの長さが 0 になるからである。回転軸に向かって押す力や、回転軸から引く力は、物体を回さない。
力のモーメントの単位 は、仕事の単位 と同じ組み立てである。力のモーメントを で表してよいか?
表さない。力のモーメントは のまま書く
仕事は「力と、力の向きに動いた距離」の積、力のモーメントは「力と、力に垂直なうでの長さ」の積で、別の量である。
3. 偶力
根拠: 学習指導要領 物理-(1)-ア-(ア)-㋒
ハンドルを両手で回すときのように、物体を動かさずに回すだけの力の組があります。
偶力とは、どんな 2 力か?
大きさが等しく、向きが逆で、作用線が平行でずれている 2 力
作用線が一致していれば、つり合う 2 力になる。作用線がずれているので、2 力の和は 0 でも物体を回転させる。
大きさ の 2 力からなる偶力で、作用線の間の距離が のとき、偶力のモーメントの大きさは? それは回転軸の位置によって変わるか?
。どの点のまわりで求めても同じ値になる
2 力の作用線の間に軸を取り、片方の作用線までの距離を とすると、 となって が消える。
偶力を、1 つの力にまとめる(合成する)ことはできるか?
できない
2 力の和は 0 なので、合力としては何も残らない。それでも回すはたらきは残る。偶力は、物体を回転させるはたらきだけをもつ力の組である。
練習問題
根拠: 学習指導要領 物理-(1)-ア-(ア)-㋒
以下、反時計回りに回す向きを正とします。
問 1 軽い棒の一端 O を回転軸にする。O から の点 A に、棒に垂直で反時計回りに回す向きの力 を加え、O から の点 B に、棒に垂直で時計回りに回す向きの力 を加えた。(1) それぞれの力の、O のまわりの力のモーメントを求めよ。(2) 力のモーメントの和を求めよ。
(1) A の力は 、B の力は (2) (反時計回り)
方針 どちらの力も棒に垂直なので、うでの長さは O から作用点までの距離にそのまま等しい。 で大きさを出し、回す向きで符号を付けてから足す。
- A の力のうでの長さは 。大きさは 。反時計回りなので正。
- B の力のうでの長さは 。大きさは 。時計回りなので負で、
- (2) 符号を付けて足すと、。正なので、全体としては反時計回りに回すはたらきが残る。
問 2 長さ の棒の一端 O を回転軸にする。他端 P に、棒と の角をなす向きに、大きさ の力を加えた。O のまわりの力のモーメントの大きさを求めよ。 とする。
方針 力が棒に垂直でないので、O から P までの距離をそのまま掛けてはいけない。O から作用線までの距離(うでの長さ)を先に求める。
- O から作用線に垂線を下ろすと、その長さは OP の長さに を掛けたものになる。
- うでの長さは
- に入れると、
ここで間違えやすい うでの長さを棒の長さのままにして としてしまうこと。これは力が棒に垂直なときの値である。
問 3 直径 の円形のハンドルがある。中心 O をはさんで向かいあう円周上の 2 点 A、B に、それぞれ円の接線の方向に大きさ の力を加えた。2 力は互いに逆向きで、どちらもハンドルを反時計回りに回す向きである。(1) O のまわりの力のモーメントの和を求めよ。(2) 点 A のまわりの力のモーメントの和を求めよ。
(1) (2)
方針 2 力は大きさが等しく逆向きで、作用線が平行にずれているので偶力である。偶力のモーメントは、どの点のまわりで求めても同じになることを、2 つの軸で確かめる。
- (1) O から A、B それぞれの力の作用線までの距離は、どちらも半径の
- どちらも反時計回りなので、和は
- (2) A に加えた力は、作用線が A を通るので、A のまわりの力のモーメントは 0
- B に加えた力の作用線は、A から直径の だけ離れている。力のモーメントは
- 和は で、(1) と同じ。偶力のモーメント の は、作用線の間の距離 である。
問 4 平面上に置いた板があり、原点 O を通って平面に垂直な軸のまわりに回転できる。 軸上の の点 A に、 軸の正の向きの力 を加え、 軸上の の点 B に、 軸の正の向きの力 を加えた。 軸の正の向きから 軸の正の向きへ回る向きを反時計回り(正)として、O のまわりの力のモーメントの和を求めよ。
(反時計回り)
方針 力ごとに、作用線と O との距離(うでの長さ)と、回す向きを決める。そのあと符号を付けて足す。
- A の力の作用線は、A を通って 軸に平行な直線。O からの距離は
- A は O から見て 軸の正の側にあり、そこを 軸の正の向きに押すので、反時計回り。力のモーメントは
- B の力の作用線は、B を通って 軸に平行な直線。O からの距離は
- B は O から見て 軸の正の側にあり、そこを 軸の正の向きに押すので、時計回り。力のモーメントは負で、大きさは
- 和は 。正なので反時計回り。
ここで間違えやすい 2 つの力のモーメントを、向きを確かめずに足して としてしまうこと。回す向きは力ごとに確かめる。