剛体のつり合い
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
学習指導要領 物理 (1) ア (ア) ㋒「大きさのある物体のつり合いに関する実験などを行い,剛体のつり合う条件を見いだして理解すること。」。
0. どういうまとまりか
質点は、受ける力の和が 0 ならつり合います。剛体はそれだけでは足りません。力の和が 0 でも、偶力のように物体を回してしまう力の組があるからです。
剛体が静止し続けるには、動き出さない条件と回り出さない条件の 2 つが要ります。
問題を解く手順は決まっています。力を作用点ごと全部挙げ、力のつり合いの式と、力のモーメントのつり合いの式を書きます。
| 条件 | 式 | 何を止めているか |
|---|---|---|
| 力のつり合い | 力の和が 0(水平方向・鉛直方向のそれぞれで) | 物体全体が動き出すこと |
| 力のモーメントのつり合い | 任意の点のまわりの力のモーメントの和が 0 | 物体が回り出すこと |
分かれ目は次の 3 つ。
- 条件は 2 つとも要る。力の和が 0 でも、力のモーメントの和が 0 でなければ回り出す
- 回転軸はどこに取ってもよい。求めなくてよい未知の力の作用点に取ると、その力が式から消えて楽になる
- 重力は重心に 1 つの力として働くとして扱う。一様な棒なら中点である
1. つり合いの 2 つの条件
根拠: 学習指導要領 物理-(1)-ア-(ア)-㋒
剛体のつり合いは、質点のつり合いに「回らない」という条件を 1 つ足したものです。
剛体がつり合う(静止し続ける)ための条件を 2 つ言うと?
①受ける力の和が 0 である ②任意の点のまわりの力のモーメントの和が 0 である
①は動き出さない条件、②は回り出さない条件。質点では①だけでよかった。
受ける力の和が 0 なのに、剛体がつり合わない例は?
偶力を受けているとき
大きさが等しく逆向きの 2 力なので力の和は 0 だが、作用線がずれているので力のモーメントの和が 0 にならず、回り出す。
力のモーメントのつり合いの式を立てるとき、回転軸はどこに取ってよいか?
どこに取ってもよい
力の和が 0 のときは、ある 1 点のまわりで力のモーメントの和が 0 なら、ほかのどの点のまわりでも 0 になる。実際に回る軸がある必要はない。
平行でない 3 つの力を受けて剛体がつり合っているとき、3 つの力の作用線にはどんな関係があるか?
3 本の作用線は 1 点で交わる
2 つの力の作用線の交点を軸に取ると、その 2 力の力のモーメントは 0。残りの 1 つの力のモーメントも 0 でなければならないので、その作用線も同じ点を通る。
2. 式の立て方
根拠: 学習指導要領 物理-(1)-ア-(ア)-㋒
質点のときと違うのは、力を挙げるときに「どこに働くか」まで書くことと、回転軸を自分で選ぶことです。
剛体のつり合いの問題で、式を立てる手順を順に 4 つ言うと?
①剛体が受ける力を、作用点と向きを添えて全部挙げる ②水平方向・鉛直方向の力のつり合いの式を書く ③回転軸を決める ④その軸のまわりの力のモーメントのつり合いの式を書く
④は「反時計回りの力のモーメントの和=時計回りの力のモーメントの和」と書くと、符号を間違えにくい。
力のモーメントのつり合いの式を楽にするには、回転軸をどこに取るとよいか?
大きさの分からない力(とくに、求めなくてよい力)の作用点に取る
作用線が軸を通る力は、うでの長さが 0 なので式に出てこない。未知数が 1 つ減る。
一様な棒が受ける重力は、どこに働くとして力のモーメントを求めるか?
棒の中点(重心)に、棒全体の重さが 1 つの力として働くとする
棒の各部分に働く重力を 1 つにまとめた合力の作用点が重心である。一様でない棒では、重心の位置が問題文で与えられるか、未知数になる。
問題文の「軽い棒」とは、どういう意味か。式の立て方はどう変わるか?
質量を無視できる棒という意味。棒に働く重力を、力として挙げない
「一様な棒」は質量があり、重力が中点に働く。この 2 つの言葉を読み分ける。
棒の一端が、ちょうつがい(自由に回転できる支点)で壁に留められている。ちょうつがいから受ける力は、どう扱うか?
向きが分からないので、水平成分と鉛直成分の 2 つの未知数に分けておく。回転軸はちょうつがいの位置に取る
ちょうつがいを軸にすれば、この 2 つの未知数は力のモーメントの式から消える。あとから力のつり合いの式で求める。
3. よく出る場面
根拠: 学習指導要領 物理-(1)-ア-(ア)-㋒
水平な棒を支える問題と、壁に立てかけた棒の問題が代表です。どちらも、上の手順をそのまま当てはめます。
重さ の水平な棒を、2 点 A、B で下から支える。重心から A までの距離が 、B までの距離が (重心は A と B の間)のとき、A、B で支える力の大きさは?
A では 、B では
B を軸にすると 。重心に近い支点ほど、大きな力で支えている。2 つの力の和は になる。
なめらかな鉛直の壁と、あらい水平な床との間に立てかけた一様な棒が受ける力を、全部挙げると?
①重力(棒の中点に、鉛直下向き) ②床からの垂直抗力(下端に、鉛直上向き) ③床からの静止摩擦力(下端に、水平で壁に向かう向き) ④壁からの垂直抗力(上端に、水平で壁から離れる向き)
壁はなめらかなので、壁からの摩擦力は無い。下端は壁から離れる向きにすべろうとするので、摩擦力は壁に向かう向きになる。
なめらかな壁とあらい床の間に、重さ 、長さ の一様な棒を、床と角 をなすように立てかけた。壁からの垂直抗力 を求める式は?
棒の下端を軸にして 。これから
下端を軸にすると、床からの垂直抗力と摩擦力が式から消える。力のつり合いから、床の垂直抗力は 、摩擦力は である。
立てかけた棒がすべらずに静止していられる条件は、床からの静止摩擦力 、垂直抗力 、静止摩擦係数 を使ってどう書くか?
(つり合いに必要な摩擦力が、最大摩擦力をこえない)
なめらかな壁に立てかけた一様な棒では 、 なので、 となる。棒を寝かせるほどすべりやすい。
練習問題
根拠: 学習指導要領 物理-(1)-ア-(ア)-㋒
問 1 長さ の軽い棒の左端 A に重さ のおもりを、右端 B に重さ のおもりをつるした。棒の 1 点に糸を付けてつるし、棒を水平に保ちたい。(1) 糸の張力の大きさを求めよ。(2) 糸を付ける位置は、A から何 m のところか。
(1) (2) A から
方針 軽い棒なので、棒が受ける力は、おもりが引く 2 つの力(下向き)と糸の張力(上向き)の 3 つ。張力は力のつり合いから、糸の位置は力のモーメントのつり合いから求める。
- 鉛直方向の力のつり合いから、張力は
- 糸を付ける位置を A から とし、A を回転軸にする。A のおもりが引く力は、作用線が A を通るので式に出てこない。
- 張力は反時計回り、B のおもりが引く力は時計回りに回すので、
- について解くと、
ここで間違えやすい 糸の位置を棒の中点にしてしまうこと。重いおもりのある B に近い側に寄る。
問 2 長さ 、重さ の一様な棒を、左端 A と右端 B で下から支えて水平にした。A から の位置に、重さ のおもりをのせた。A、B で棒を支える力の大きさをそれぞれ求めよ。
A で 、B で
方針 未知の力が 2 つ(A、B で支える力)ある。A を回転軸にすれば A の力が消えて B の力だけの式になる。残りは力のつり合いから求める。
- 棒が受ける力は、A で支える力 (上向き)、B で支える力 (上向き)、棒の重力 (中点、つまり A から に下向き)、おもりが押す力 (A から に下向き)の 4 つ。
- A を回転軸にする。 は反時計回り、棒の重力とおもりの力は時計回りに回すので、
- 右辺は
- は
- 鉛直方向の力のつり合いから 。 は
問 3 なめらかな鉛直の壁と、あらい水平な床との間に、長さ 、重さ の一様な棒を立てかけたところ、棒は静止した。棒の下端は壁から の位置にあり、上端は床から の高さにある。(1) 棒が壁から受ける垂直抗力の大きさを求めよ。(2) 棒が床から受ける垂直抗力と静止摩擦力の大きさを求めよ。(3) 棒がすべらないためには、棒と床との間の静止摩擦係数はいくら以上でなければならないか。
(1) (2) 垂直抗力 、静止摩擦力 (3) 以上
方針 棒の下端を回転軸にすると、床から受ける 2 つの力が式から消え、壁からの垂直抗力だけが未知数になる。床からの力は、あとから力のつり合いで求める。
- 棒が受ける力は、重力 (中点に、下向き)、壁からの垂直抗力 (上端に、水平で壁から離れる向き)、床からの垂直抗力 (下端に、上向き)、床からの静止摩擦力 (下端に、水平で壁に向かう向き)の 4 つ。
- 下端を回転軸にする。重力の作用線は、下端から水平に の半分、つまり だけ離れている。
- の作用線は水平で、下端から鉛直に だけ離れている。
- 2 つの力は逆回りなので、力のモーメントのつり合いから
- (1) は
- (2) 鉛直方向の力のつり合いから 。水平方向の力のつり合いから
- (3) すべらない条件は なので、。値を入れると
ここで間違えやすい 重力のうでの長さを、棒に沿った長さ にしてしまうこと。重力は鉛直な力なので、うでの長さは水平な距離 である。
問 4 鉛直な壁の点 A に、長さ 、重さ の一様な棒の一端をちょうつがいで取り付けた。棒の他端 B と、壁の A より上にある点 C とを糸で結び、棒を水平に保った。糸と棒のなす角は である。(1) 糸の張力の大きさを求めよ。(2) 棒がちょうつがいから受ける力の、水平成分と鉛直成分の大きさと向きを求めよ。、 とする。
(1) (2) 水平成分は壁から離れる向きに 、鉛直成分は上向きに
方針 ちょうつがいから受ける力は向きが分からないので、A を回転軸にして式から消す。張力は、棒に垂直な成分(鉛直成分)だけが棒を回す。
- 棒が受ける力は、重力 (中点、つまり A から に下向き)、糸の張力 (B に、糸に沿って C へ向かう向き)、ちょうつがいからの力(A に)の 3 つ。
- 張力を分解する。鉛直成分は上向きに 、水平成分は壁に向かう向きに
- A を回転軸にする。張力の水平成分は、作用線が A を通るので回さない。鉛直成分のうでの長さは 、重力のうでの長さは
- 力のモーメントのつり合いから
- (1) は
- (2) 水平方向のつり合い。張力の水平成分は壁に向かう向きに なので、ちょうつがいからは壁から離れる向きに同じ大きさの力を受ける。
- 鉛直方向のつり合い。張力の鉛直成分は上向きに 。重力 との差を、ちょうつがいが上向きに支える。
問 5 太さが一様でない、長さ の棒が水平な床の上に置いてある。左端 A に鉛直上向きの力を加えて A を床からわずかに持ち上げるには の力が必要で、右端 B を同じようにわずかに持ち上げるには の力が必要だった。(1) 棒の重さを求めよ。(2) 棒の重心は、A から何 m のところにあるか。
(1) (2) A から
方針 A をわずかに持ち上げたとき、棒は B だけで床に接している。B を回転軸にして力のモーメントのつり合いの式を立てる。B を持ち上げるときも同じように A を軸にすると、未知数 2 つに式が 2 本できる。
- 棒の重さを 、重心の A からの距離を とする。重力は重心に下向きに働く。
- A を持ち上げるとき。B を回転軸にすると、加えた力のうでの長さは 、重力のうでの長さは 。つり合いの式は
- B を持ち上げるとき。A を回転軸にすると、加えた力のうでの長さは 、重力のうでの長さは 。つり合いの式は
- 左辺を計算すると、、
- 2 本の式を辺々足すと、右辺は 、左辺は 。よって
- (1) は
- (2) 手順 3 の式から 。値を入れると
ここで間違えやすい を棒の重さだと考えてしまうこと。持ち上げていない側の端が床から受ける力も、棒を支えている。重い側(重心に近い側)の端ほど、持ち上げるのに大きな力が要る。