万有引力による位置エネルギー
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
学習指導要領 物理 (1) ア (エ) ㋑「万有引力の法則及び万有引力による物体の運動について理解すること。」。
0. どういうまとまりか
物理基礎では、重力による位置エネルギーを と書きました。これは、重力の大きさが で一定とみなせる地表の近くだけで使える式です。
地球の半径と比べられるほど高く上がると、万有引力は距離とともに弱くなるので、 は使えません。
そこで使うのが万有引力による位置エネルギーです。これと運動エネルギーの和(力学的エネルギー)が保存することを使うと、打ち上げた物体がどこまで上がるか、地球に戻ってくるかどうか、楕円軌道のどこでどれだけの速さになるかが分かります。
記号は、万有引力定数 、地球の質量 、地球の半径 、物体の質量 、地球の中心からの距離 、物体の速さ です。
| 量 | 式 |
|---|---|
| 万有引力による位置エネルギー(無限遠が基準) | |
| 力学的エネルギー | (万有引力だけを受けて運動するあいだ一定) |
| 第 2 宇宙速度(地表から打ち出して無限遠に達する最小の速さ) | |
| 半径 の円軌道を回る物体の力学的エネルギー |
分かれ目は次の 3 つ。
- 基準は無限遠で、値は必ず負。地球から遠いほど位置エネルギーは大きく(0 に近く)なる。負の符号を落とさない
- 力学的エネルギーが負なら地球に束縛され、0 以上なら無限遠まで行く。境目の速さが第 2 宇宙速度である
- 楕円軌道では、円運動の式は使えない。近地点と遠地点について、面積速度一定の式と力学的エネルギー保存の式を連立する
1. 万有引力による位置エネルギー
根拠: 学習指導要領 物理-(1)-ア-(エ)-㋑
万有引力は距離によって大きさが変わるので、位置エネルギーの式も とは違う形になります。基準の取り方が変わることに注意します。
地球(質量 )の中心から距離 の点にある、質量 の物体がもつ万有引力による位置エネルギー は? 基準はどこか?
。基準()は無限遠
分母は の 1 乗。万有引力の大きさ の 2 乗と取り違えない。
万有引力による位置エネルギーが負の値になるのはなぜか?
無限遠を基準(0)にとっていて、そこから地球に近づくあいだ、万有引力が物体に正の仕事をするから
力が正の仕事をするとき、そのぶん位置エネルギーは減る。0 から減るので負になる。物体が高いところから落ちると、重力による位置エネルギーが減るのと同じである。
物体が地球から遠ざかると、万有引力による位置エネルギーは大きくなるか、小さくなるか?
大きくなる(負の値のまま 0 に近づく)。無限遠で最大の 0 になる
が大きいほど の絶対値は小さくなる。「絶対値が小さくなる」ことを「位置エネルギーが小さくなる」と読み違えない。
位置エネルギーの式 と は、どう使い分けるか?
上がる高さが地球の半径に比べて十分小さく、重力を一定とみなせるなら 。そうでなければ
地表を基準にした高さ の点の位置エネルギーは、正しくは 。 が に比べて十分小さいとき、これが にほぼ等しくなる。
地表にある質量 の物体の、万有引力による位置エネルギーを と で表すと?
に を入れる。 と が与えられていない問題では、この形で使う。
2. 力学的エネルギーの保存
根拠: 学習指導要領 物理-(1)-ア-(エ)-㋑
万有引力だけを受けて運動する物体では、運動エネルギーと万有引力による位置エネルギーの和が一定に保たれます。
万有引力だけを受けて運動する物体の、力学的エネルギー保存の式は?
一定
2 つの点について「はじめの運動エネルギー+位置エネルギー」と「あとの運動エネルギー+位置エネルギー」を等しいと置く。 はどちらも地球の中心からの距離。
地表から鉛直上向きに初速 で打ち上げた物体が、地表から高さ の最高点に達した。力学的エネルギー保存の式はどう立てるか?
最高点では速さが 0 なので、右辺に運動エネルギーは無い。位置エネルギーの距離は、地表で 、最高点で 。
第 2 宇宙速度(脱出速度)とは? どんな条件から求め、式はどうなるか?
地表から打ち出した物体が、地球に戻らず無限遠に達するための最小の初速。無限遠で速さが 0 になる(力学的エネルギーが 0)という条件 から、
値は約 (約 )。物体の質量によらない。
第 2 宇宙速度は、第 1 宇宙速度の何倍か?
倍(約 1.4 倍)
第 1 宇宙速度は 、第 2 宇宙速度は 。2 倍ではない。
3. 軌道とエネルギー
根拠: 学習指導要領 物理-(1)-ア-(エ)-㋑
物体が地球のまわりを回り続けるか、飛び去ってしまうかは、力学的エネルギーの符号で決まります。
半径 の円軌道を回る質量 の人工衛星の、運動エネルギー 、位置エネルギー 、力学的エネルギー は?
、、
円軌道の速さ を に入れると が出る。軌道半径が大きいほど速さは小さいが、力学的エネルギーは大きい(0 に近い)。
万有引力を受けて運動する物体の力学的エネルギー の符号と、運動のようすの関係は?
なら地球に束縛されていて、無限遠までは行けない(地表にぶつからなければ、円軌道か楕円軌道を回り続ける)。 なら無限遠まで飛び去る
の物体は、位置エネルギーが 0 になる無限遠まで行くと運動エネルギーが負になってしまうので、そこまで行けない。
楕円軌道を回る人工衛星について、近地点(距離 、速さ )と遠地点(距離 、速さ )の速さを求めるには、どの 2 式を連立するか?
面積速度一定の式 と、力学的エネルギー保存の式
未知数が と の 2 つなので、式も 2 本要る。面積速度の式で を で表し、エネルギーの式に入れる。
楕円軌道の近地点で、円運動の運動方程式 ( は地球の中心からの距離)を立ててよいか?
立ててはいけない。この式は、地球の中心を中心とする半径 の等速円運動のときだけ成り立つ
楕円軌道の近地点での速さは、同じ距離の円軌道の速さ より大きい。だから円軌道より外へふくらんでいく。遠地点では逆に小さい。
地表のすぐ上から水平に物体を打ち出す。初速を大きくしていくと、物体の運動はどう変わるか?(空気の抵抗は考えない)
第 1 宇宙速度より小さければ地表に落ちる。第 1 宇宙速度で地表すれすれの円軌道。第 1 と第 2 のあいだなら楕円軌道。第 2 宇宙速度以上で地球に戻ってこない
第 1 宇宙速度は約 、第 2 宇宙速度は約 。楕円軌道のときは、打ち出した点が近地点になる。
練習問題
根拠: 学習指導要領 物理-(1)-ア-(エ)-㋑
以下、地表での重力加速度の大きさを 、地球の半径を とし、空気の抵抗と地球の自転は考えません。 と地球の質量 の積は、 で置きかえます。
問 1 地表から打ち出した物体が、地球に戻らず無限遠に達するための最小の初速(第 2 宇宙速度)を求めよ。
方針 最小の初速のとき、物体は無限遠でちょうど速さが 0 になる。無限遠では位置エネルギーも 0 なので、力学的エネルギーは 0。地表での力学的エネルギーをこれと等しいと置く。
- 力学的エネルギー保存の式は
- について解くと、
- を入れると、
- 根号の中は
- 平方根をとると、。有効数字 2 桁で
問 2 地表から鉛直上向きに、初速 (第 1 宇宙速度と同じ大きさ)で物体を打ち上げた。最高点の、地表からの高さを求めよ。
(地球の半径 と同じ高さ)
方針 上がる高さが地球の半径と比べられる大きさになるので、 は使えない。位置エネルギーを として、地表と最高点で力学的エネルギー保存の式を立てる。
- 最高点の高さを とする。保存の式は
- と を入れると、
- 左辺をまとめると、
- 両辺を で割ると、
- なので 。値は
ここで間違えやすい として と答えてしまうこと。上へ行くほど重力が弱くなるので、実際にはその 2 倍の高さまで上がる。
問 3 質量 の人工衛星が、地球の中心から の距離の円軌道を回っている。(1) 運動エネルギー、(2) 万有引力による位置エネルギー、(3) 力学的エネルギーを求めよ。
(1) (2) (3)
方針 円軌道の速さは、万有引力を向心力とする運動方程式から出す。 で置きかえると、3 つとも の何倍かで書ける。
- 運動方程式 から、
- 先に を計算しておく。
- (1) 運動エネルギーは 。値は で、
- (2) 位置エネルギーは 。値は に負の符号を付けて、
- (3) 力学的エネルギーは 。大きさは (1) と同じなので、
ここで間違えやすい (3) を、丸めたあとの (1) と (2) の値を足して出すと になってずれる。丸める前の式 から求める。
問 4 人工衛星が地球のまわりを楕円軌道で回っている。近地点は地球の中心から 、遠地点は地球の中心から の距離にある。(1) 近地点での速さを求めよ。(2) 遠地点での速さを求めよ。
(1) (2)
方針 楕円軌道なので、円運動の運動方程式は使えない。近地点と遠地点について、面積速度一定の式と力学的エネルギー保存の式を連立する。
- 近地点での速さを 、遠地点での速さを とする。面積速度一定の式は なので、
- 力学的エネルギー保存の式は
- を入れて両辺を で割り、速さの項を左辺に集めると、
- 両辺を計算すると、
- について解き、 を入れると、
- (1) 値を入れると、。平方根をとって 、有効数字 2 桁で
- (2) なので、
ここで間違えやすい 近地点の速さを、半径 の円軌道の速さ と答えてしまうこと。近地点ではそれより速いから、衛星は円軌道より外へ出ていく。
問 5 地球の中心から の距離の円軌道を、人工衛星が速さ で回っている。この位置で進む向きに加速して、地球に戻らない軌道に移りたい。(1) 加速した直後の速さは、少なくともいくら必要か。(2) 速さを少なくともどれだけ増やせばよいか。
(1) (2)
方針 地球に戻らない境目は、力学的エネルギーがちょうど 0 になるとき。距離 の点で となる速さを求める。
- (1) 境目の条件は
- について解くと、
- を入れると、
- 根号の中は 。平方根をとって
- (2) いまの速さとの差は、
ここで間違えやすい 地表での第 2 宇宙速度 をそのまま答えてしまうこと。脱出に必要な速さは、地球から遠い点ほど小さい。どの点でも、その点を通る円軌道の速さの 倍である。