モル比熱と熱サイクル
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
学習指導要領 物理 (1) ア (オ) ㋒「気体の状態変化に関する実験などを行い,熱,仕事及び内部エネルギーの関係を理解すること。」。このノートは、気体を温めるのに要る熱量(モル比熱)と、変化をひと回りさせて元に戻す熱サイクルを扱います。
0. どういうまとまりか
同じ気体を同じ温度だけ温めるのにも、体積を一定にして温めるか、圧力を一定にして温めるかで、要る熱量が違います。
圧力を一定にすると気体が膨張して外部へ仕事をするので、そのぶん余計に熱が要るからです。この違いを表すのが、2 種類のモル比熱です。
後半では、いくつかの変化をつないで元の状態に戻る熱サイクルを扱います。熱機関は、気体にこのサイクルをくり返させて、熱を仕事に変えています。
符号の約束は、前のノート「気体の状態変化」と同じです。 は気体が吸収した熱量、 は気体が外部からされた仕事、 は気体が外部へした仕事()で、熱力学第一法則は です。
| 定積変化 | 定圧変化 | |
|---|---|---|
| 吸収する熱量 | ||
| モル比熱(単原子分子の理想気体) | ||
| 2 つの関係(理想気体ならどれでも) |
| 熱サイクルで知りたいもの | 式 |
|---|---|
| 1 周の内部エネルギーの変化 | |
| 1 周で気体が外部へした正味の仕事 | (- グラフでは、サイクルが囲む面積) |
| 熱効率 |
は 1 周の間に吸収した熱量の合計、 は放出した熱量の合計で、どちらも大きさ(正の値)で表します。
分かれ目は次の 3 つ。
- 定圧モル比熱は、定積モル比熱より だけ大きい。膨張して外部へ仕事をするぶんの熱が余計に要る
- は、定積変化でなくても使える。理想気体の内部エネルギーの変化は、温度の変化だけで決まる
- 熱効率の分母は、吸収した熱量だけの合計 。放出した熱量を差し引いた値を分母にしない
1. モル比熱
根拠: 学習指導要領 物理-(1)-ア-(オ)-㋒
物理基礎の比熱は「 あたり」でした。気体では、量を物質量で数えた「 あたり」の比熱を使います。
モル比熱とは? 熱量を求める式と、単位は?
物質 の温度を 上げるのに必要な熱量。モル比熱を とすると 。単位は
気体定数 と同じ単位である。気体は、温め方(体積を一定にするか、圧力を一定にするか)によってモル比熱の値が違う。
定積モル比熱 とは? 単原子分子の理想気体では、いくらか? どう導くか?
体積を一定にして温めるときのモル比熱。単原子分子の理想気体では 。定積変化では仕事が 0 なので、。これを と見比べる
吸収した熱が、すべて内部エネルギーの増加になる。
定圧モル比熱 とは? 単原子分子の理想気体では、いくらか? どう導くか?
圧力を一定にして温めるときのモル比熱。単原子分子の理想気体では 。定圧変化では 。これを と見比べる
定圧変化で気体がする仕事は 。この仕事のぶんが、定積のときの熱量に加わる。
理想気体の定圧モル比熱 と定積モル比熱 の間に成り立つ関係は?
(マイヤーの関係)
単原子分子でなくても、理想気体なら成り立つ。 に、 と を入れると出てくる。
定圧モル比熱が定積モル比熱より大きいのは、なぜか?
圧力を一定にして温めると、気体は膨張して外部へ仕事をする。内部エネルギーを増やす熱に加えて、この仕事のぶんの熱が要るから
温度の上がり方が同じなら、内部エネルギーの増加は同じ。違いは、外部への仕事があるかどうかだけ。
理想気体の内部エネルギーの変化を表す は、定積変化のときにしか使えないか?
どんな変化でも使える。理想気体の内部エネルギーの変化は、温度の変化 だけで決まり、途中の変化のさせ方によらない
定圧変化でも断熱変化でも、。「定積」の名前に引きずられて、定圧変化の内部エネルギーの変化を としない。
2. 熱サイクルと熱効率
根拠: 学習指導要領 物理-(1)-ア-(オ)-㋒
熱機関と熱効率の定義は物理基礎で学びました。ここでは、気体の状態変化をつないだサイクルについて、熱力学第一法則と - グラフを使って仕事と熱効率を求めます。
熱サイクルとは? 1 周したとき、気体の内部エネルギーの変化はいくらか?
いくつかの状態変化を経て、元の状態に戻る変化。1 周したときの内部エネルギーの変化は 0
元の状態に戻れば温度も元に戻る。理想気体の内部エネルギーは温度だけで決まるので、元の値に戻る。
熱サイクルの 1 周で、吸収した熱量の合計を 、放出した熱量の合計を とする。気体が外部へした正味の仕事 は?
1 周について熱力学第一法則を書くと、 なので、正味で吸収した熱量がすべて正味の仕事になる。「正味の仕事」は、膨張のときにした仕事から、圧縮のときにされた仕事を引いたもの。
- グラフ上の熱サイクルで、1 周の間に気体がした正味の仕事の大きさは、何で表されるか?
サイクルを表す線が囲む部分の面積
膨張するときにした仕事(上側の線の下の面積)から、圧縮されるときにされた仕事(下側の線の下の面積)を引くと、囲まれた部分だけが残る。
- グラフ上の熱サイクルが、時計回りに回るときと、反時計回りに回るときで、正味の仕事はどう違うか?
時計回りなら、気体は外部へ正味の仕事をする。反時計回りなら、気体は外部から正味の仕事をされる
時計回りでは、圧力の高い側で膨張し、圧力の低い側で圧縮されるので、した仕事のほうが大きい。熱機関は時計回りのサイクルである。
熱サイクルの熱効率 は? にはどの熱量を入れるか?
。 には、熱を吸収する過程の熱量だけを足したものを入れる
熱を放出する過程の熱量を差し引いてはいけない。差し引くと分母が と同じになり、熱効率がいつも 1 になってしまう。
熱サイクルの各過程が、熱を吸収する過程か、放出する過程かは、どう見分けるか?
過程ごとに熱力学第一法則で の符号を調べる。定積変化は、圧力(温度)が上がれば吸収。定圧変化は、膨張すれば吸収。等温変化は、膨張すれば吸収。断熱変化は、熱の出入りが無い
逆向き(定積で圧力が下がる、定圧や等温で圧縮される)なら放出。定圧で膨張すると温度が上がるので、 も も正で、 は正になる。
熱力学第二法則とは、どんな内容の法則か?
熱は、低温の物体から高温の物体へ、ひとりでに移ることはない。言いかえると、吸収した熱をすべて仕事に変え続ける熱機関は存在しない(熱効率は 1 にならない)
熱力学第一法則はエネルギーの量が保たれることを、第二法則は熱の関わる変化に向きがあること(不可逆変化)を表す。
練習問題
根拠: 学習指導要領 物理-(1)-ア-(オ)-㋒
以下、気体は理想気体とし、気体定数を とします。
問 1 単原子分子の理想気体 の温度を、 から に上げる。(1) 体積を一定に保って温めるとき、吸収する熱量を求めよ。(2) 圧力を一定に保って温めるとき、吸収する熱量を求めよ。(3) (2) のとき、気体が外部へする仕事を求めよ。
(1) (2) (3)
方針 単原子分子の理想気体なので、、。熱量は で求める。定圧変化でする仕事は で、(1) と (2) の熱量の差に等しい。
- 温度の変化は
- (1) に値を入れると、
- (2) に値を入れると、 で、
- (3) 定圧変化で気体がする仕事は 。値を入れると、
- 確かめ。(2) と (1) の熱量の差は で、(3) と一致する
問 2 ある理想気体 を、体積を一定に保って温めたところ、温度を 上げるのに の熱量が必要だった。この気体の (1) 定積モル比熱と (2) 定圧モル比熱を求めよ。
(1) (2)
方針 単原子分子とは書かれていないので、 は使えない。定積モル比熱は から求め、定圧モル比熱はマイヤーの関係 で出す。
- (1) を について解くと、
- 値を入れると、
- (2) に値を入れると、
ここで間違えやすい 理想気体だからと を当てはめること。 は約 で、この気体の値とは違う。単原子分子でない気体である。
問 3 問 2 の気体 を、圧力を一定に保って温め、温度を 上げた。定積モル比熱は 、定圧モル比熱は として、(1) 内部エネルギーの変化、(2) 吸収した熱量、(3) 気体が外部へした仕事を求めよ。
(1) 増加した (2) (3)
方針 定圧変化でも、内部エネルギーの変化は 。吸収した熱量は 。仕事は、熱力学第一法則から で出す。
- (1) に値を入れると、 で、 の増加
- (2) に値を入れると、
- (3) と から、
- 丸める前の値で引くと、 で、
- 確かめ。定圧変化の仕事は でも求められ、 で一致する
ここで間違えやすい (1) を、定圧変化だからと で計算してしまうこと。 は吸収した熱量で、内部エネルギーの変化ではない。
問 4 単原子分子の理想気体を、次の順に変化させて元の状態に戻した。状態 A(圧力 、体積 )から、体積を一定に保って圧力 の状態 B へ。B から、圧力を一定に保って体積 の状態 C へ。C から、体積を一定に保って圧力 の状態 D へ。D から、圧力を一定に保って A へ。(1) 1 周の間に気体が外部へした正味の仕事を求めよ。(2) 1 周の間に気体が吸収した熱量の合計を求めよ。(3) このサイクルの熱効率を求めよ。
(1) (2) (3)
方針 - グラフ上では長方形のサイクルで、正味の仕事は長方形の面積。熱を吸収するのは、圧力が上がる定積変化(A から B)と、膨張する定圧変化(B から C)の 2 つ。それぞれの熱量を熱力学第一法則で求めて足す。
- (1) 長方形の縦は圧力の差で、
- 横は体積の差で、
- 面積は 。B から C へ(高い圧力で)膨張し、D から A へ(低い圧力で)圧縮されるので、気体は外部へ正味の仕事をしている
- (2) A から B は定積変化で、仕事は 0。吸収した熱量は内部エネルギーの増加に等しく、 から
- 値を入れると、
- B から C は定圧変化。内部エネルギーの増加は 、外部へした仕事は なので、吸収した熱量は合わせて
- 値を入れると、
- C から D(定積で圧力が下がる)と D から A(定圧で圧縮される)は、熱を放出する過程なので足さない。吸収した熱量の合計は で、
- (3) 熱効率は 。値を入れると、
ここで間違えやすい (1) で、B から C の仕事 だけを答えてしまうこと。D から A で の仕事をされているので、正味は である。
問 5 問 4 のサイクルについて、(1) 1 周の間に気体が放出した熱量の合計を求めよ。(2) 吸収した熱量の合計 から (1) を引いた値が、問 4 で求めた正味の仕事と一致することを確かめよ。
(1) (2) 差は で、正味の仕事と一致する
方針 熱を放出するのは、圧力が下がる定積変化(C から D)と、圧縮される定圧変化(D から A)。問 4 と同じように、定積変化は 、定圧変化は の大きさの熱量になる。
- (1) C から D は定積変化(体積 )で、圧力が 下がる。内部エネルギーが減り、仕事は 0 なので、減ったぶんの熱を放出する
- 放出した熱量の大きさは、
- D から A は定圧変化(圧力 )で、体積が 減る。内部エネルギーが減り、さらに仕事をされるので、その両方のぶんの熱を放出する
- 放出した熱量の大きさは、
- 合計は で、
- (2) 吸収した熱量との差は 。問 4 (1) の正味の仕事 と一致する
【発展】断熱変化では、圧力と体積の間にどんな関係が成り立つか(ポアソンの法則)
一定。 は比熱比で、単原子分子の理想気体では
等温変化では 一定(ボイルの法則)ですが、断熱変化では体積の肩に比熱比 が付きます。 は 1 より大きいので、同じだけ膨張させたとき、断熱変化のほうが圧力の下がり方が大きくなります。- グラフで断熱変化の曲線が等温変化の曲線より急になるのは、このためです。式の導出には高校の範囲を超える数学が要るので、結果だけを使います。問題で使うときは、ふつう問題文に式が与えられます。