ドップラー効果
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
学習指導要領 物理 (2) ア (イ) ㋑「音のドップラー効果について理解すること。」。
0. どういうまとまりか
救急車が近づいてくるときはサイレンが高く聞こえ、通り過ぎて遠ざかるときは低く聞こえます。
音源や観測者が動くことで、音源が出している振動数とは違う振動数の音が聞こえる現象を、ドップラー効果といいます。
公式は 1 本ですが、「音源が動くとき」と「観測者が動くとき」では、振動数が変わる理由が違います。理由を分けて押さえておけば、公式の分母と分子を取り違えません。
このノートでは、音源と観測者が同じ一直線の上を動く場合を扱います。
記号は、音の速さ 、音源の出す振動数 、観測者の聞く振動数 、音源の速度 、観測者の速度 です。
| 動くもの | 変わるもの | 変わらないもの | 聞こえる振動数 |
|---|---|---|---|
| 音源(観測者へ向かって速さ ) | 波長が に縮む | 音の速さ | |
| 観測者(音源から遠ざかる向きに速さ ) | 観測者から見た音の速さが になる | 波長 | |
| 両方 | 波長と、観測者から見た音の速さ | 音の速さ |
分かれ目は次の 3 つ。
- 音の速さ は、音源が動いても変わらない。音の速さは空気で決まる。変わるのは波長である
- 音源の速度は分母に、観測者の速度は分子に入る。音源は波長を変え、観測者は受け取る速さを変えるから
- 速度の符号は「音源から観測者へ向かう向き」を正として決める。この約束 1 つで、近づく場合も遠ざかる場合も同じ式で書ける
1. 何が変わり、何が変わらないか
根拠: 学習指導要領 物理-(2)-ア-(イ)-㋑
式に入る前に、音源や観測者が動くと何が変わるのかを言葉で押さえます。ここを曖昧にしたまま公式だけを覚えると、符号で迷います。
ドップラー効果とは、どういう現象か?
音源や観測者が動くことで、音源が出している振動数とは違う振動数の音が観測される現象
音源と観測者が近づくときは高い音(振動数が大きい)、遠ざかるときは低い音(振動数が小さい)が聞こえる。音源の出す振動数そのものが変わるわけではない。
音源が動きながら音を出すと、空気中を伝わる音の速さ は変わるか?
変わらない。音の速さは、音を伝える空気の状態で決まり、音源の動きによらない
いったん音源を離れた音は、空気に対して速さ で進む。「音源が前へ動いているので、前へ出る音は になる」と考えるのは誤りである。
ドップラー効果で聞こえる振動数が変わる理由は、音源が動くときと観測者が動くときで、どう違うか?
音源が動くときは、空気中の音の波長が変わる。観測者が動くときは、波長は変わらず、観測者から見た音の相対的な速さが変わる
観測者の聞く振動数は「観測者から見た音の速さ ÷ 波長」で決まる。音源の動きは割る数(波長)を変え、観測者の動きは割られる数(速さ)を変える。
2. 音源が動くとき
根拠: 学習指導要領 物理-(2)-ア-(イ)-㋑
音源が動きながら波を出すと、進む前方では波が詰まり、後方では波が間延びします。1 秒間のできごととして数えるのが、導き方の決まった手順です。
振動数 の音源が、速さ で進んでいる。音源の前方に伝わる音の波長 は?どう導くか?
1 秒間に、音は 進み、音源は 進む。1 秒前に出た音の先頭と音源とのあいだの長さ に、1 秒間に出た 個の波が並ぶので、1 個ぶんの長さは 。音源が止まっているときの より短い。
振動数 の音源が、速さ で進んでいる。音源の後方に伝わる音の波長は?
1 秒間に音は後方へ 進み、音源は逆向きに 進むので、長さ に 個の波が並ぶ。音源が止まっているときより長い。
振動数 の音源が、静止している観測者に向かって速さ で近づいている。観測者の聞く振動数 は?
観測者は止まっているので、波長 の波が速さ で通り過ぎる。。分母が より小さくなるので、 は より大きい。遠ざかるときは 。
3. 観測者が動くとき
根拠: 学習指導要領 物理-(2)-ア-(イ)-㋑
音源が止まっていれば、空気中の波長はどこでも のままです。観測者が動くと、1 秒間に受け取る波の数が変わります。
静止している振動数 の音源から、観測者が速さ で遠ざかっている。観測者の聞く振動数 は?どう導くか?
観測者から見ると、音は速さ で追いついてくる。1 秒間に観測者を通り過ぎる波の長さは で、波長は のままなので、。
静止している振動数 の音源に、観測者が速さ で近づいている。観測者の聞く振動数 は?
観測者から見た音の速さが になる。波長は のままで、空気中の音の波そのものは何も変わっていない。
4. 公式と正の向き
根拠: 学習指導要領 物理-(2)-ア-(イ)-㋑
2 つの場合を 1 本の式にまとめます。場合ごとに式を覚えるのではなく、正の向きを 1 つ決めて、速度を符号つきで入れます。
音源の速度を 、観測者の速度を とする。音源の振動数が のとき、観測者の聞く振動数 を表すドップラー効果の式は?
分母の は波長の変化(音源の動き)を、分子の は観測者から見た音の速さ(観測者の動き)を表す。音源は分母、観測者は分子である。
ドップラー効果の式 で、速度 、 の正の向きはどう決めるか?
音源から観測者へ向かう向きを正とする
音が伝わる向きを正にする、ということ。音源が観測者に近づくなら は正、観測者が音源から遠ざかるなら は正。逆向きに動くときは負の値を入れる。
音源と観測者が互いに近づくとき、遠ざかるとき、聞こえる音の高さはそれぞれどうなるか。動くのがどちらであるかによって結論は変わるか?
近づくときは高く()、遠ざかるときは低く()聞こえる。動くのが音源でも観測者でも、この結論は同じ
式を立てたあとの確かめに使える。近づいているのに が より小さく出たら、符号を取り違えている。
「音源が速さ で静止した観測者に近づく」ときと、「観測者が同じ速さ で静止した音源に近づく」ときで、聞こえる振動数は同じか?
同じではない。音源が動くときは 、観測者が動くときは で、音源が動くときのほうが大きい
音は空気を伝わるので、空気に対してどちらが動いているかで結果が変わる。互いに近づく速さが同じでも、2 つの場合は区別する。
音源が一定の速さで、静止した観測者にまっすぐ近づいてくる。近づいているあいだ、聞こえる音の高さは時間とともにどうなるか?
変わらない。もとの音より高い一定の高さで聞こえる
には音源までの距離が入っていない。「近づくにつれてだんだん高くなる」のではない。近づくにつれて変わるのは音の大きさである。
音源と観測者が、同じ向きに同じ速さで動いている。聞こえる振動数はどうなるか?
音源の振動数 と同じ(ドップラー効果は起こらない)
なので、式の分母と分子が等しくなる。音源と観測者のあいだの距離が変わらないときは、振動数は変わらない。
練習問題
根拠: 学習指導要領 物理-(2)-ア-(イ)-㋑
以下、音の速さを とし、割り切れないときは有効数字 3 桁で答えます。
問 1 振動数 の音を出す音源が、一直線上を の速さで進んでいる。(1) 音源の前方に伝わる音の波長を求めよ。(2) 音源の前方に静止している観測者が聞く音の振動数を求めよ。(3) 音源の後方に静止している観測者が聞く音の振動数を求めよ。
(1) (2) (3)
方針 音源が動くと波長が変わる。1 秒間に出た 個の波が、前方では 、後方では の長さに並ぶと考える。観測者は静止しているので、聞こえる振動数は をその波長で割ればよい。
- (1) 前方では、1 秒間に出た波が の長さに並ぶ。
- 波の数は 個なので、波長は
- (2) 静止した観測者を、この波長の波が速さ で通り過ぎる。振動数は
- (3) 後方では、1 秒間に出た波が の長さに並ぶ。波長は
- 振動数は
ここで間違えやすい 前方へ出る音の速さを としてしまうこと。音の速さは音源が動いても のままである。
問 2 振動数 の音を出す音源が静止している。観測者が、音源と観測者を結ぶ直線上を の速さで動く。(1) 観測者が音源に近づくとき、聞こえる音の振動数を求めよ。(2) 観測者が音源から遠ざかるとき、聞こえる音の振動数を求めよ。
(1) (2)
方針 音源は静止しているので、波長は変わらない。変わるのは、観測者から見た音の速さである。近づくときは 、遠ざかるときは になる。
- 波長は のままなので、聞こえる振動数は「観測者から見た音の速さ」を で割ったもの。つまり、 に「観測者から見た音の速さ ÷ 」を掛ければよい。
- (1) 近づくとき、観測者から見た音の速さは
- 振動数は
- (2) 遠ざかるとき、観測者から見た音の速さは
- 振動数は
問 3 振動数 の音を出す音源が、静止している観測者に向かって一定の速さでまっすぐ近づいている。観測者には の音が聞こえた。音源の速さを求めよ。
方針 音源が近づくときの式 に分かっている値を入れ、分母の を先に求める。
- 音源から観測者へ向かう向きを正とする。音源は観測者に近づくので は正、観測者は静止しているので
- 式は 。 について解くと、
- 値を入れると、
- なので、音源の速さは
問 4 振動数 の音源と観測者が、次の 2 通りの動き方をする。それぞれの場合に、観測者の聞く音の振動数を求めよ。(1) 音源が、静止している観測者に の速さで近づく。(2) 観測者が、静止している音源に の速さで近づく。
(1) (2)
方針 互いに近づく速さは同じでも、音源が動くときは波長が変わり、観測者が動くときは観測者から見た音の速さが変わる。音源の速さは分母に、観測者の速さは分子に入れる。
- 音源から観測者へ向かう向きを正とする。
- (1) 音源が近づくので 、。式の分母は
- 振動数は
- (2) 観測者は音源へ向かって動く。これは正の向きと逆なので 、。式の分子は
- 振動数は
ここで間違えやすい 「近づく速さが同じだから同じ振動数」と考えること。(1) と (2) は 違う。
【発展】音源が音の速さより速く動くとき
音源の前方に音が伝わらなくなり、波面が重なり合って、強い圧力の変化をもつ波(衝撃波)ができる
音源の速さ が音の速さ に近づくと、前方の波長 は 0 に近づき、波が音源のすぐ前に詰まっていきます。 が を超えると、音源は自分の出した音を追い越してしまい、ドップラー効果の式は使えなくなります。このとき、次々に出た球面波の波面は、音源を頂点とする円すいの形の面にそって重なり合います。この面が衝撃波で、超音速で飛ぶ航空機が通過したあとに地上で聞こえる大きな音は、これが届いたものです。