運動方程式の立て方
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
学習指導要領 物理基礎 (1) ア (イ) ㋒「物体に一定の力を加え続けたときの運動に関する実験などを行い,物体の質量,物体に働く力,物体に生じる加速度の関係を見いだして理解するとともに,運動の三法則を理解すること。」。
0. どういうまとまりか
運動方程式 は、式そのものは短くても、右辺の を正しく作るところでつまずきます。
立て方は決まった手順にできます。「物体を決める」「受ける力を全部挙げる」「正の向きを決める」「運動する方向の成分で式にする」の 4 つです。
どんな場面でもこの順に進めれば、式は機械的に立ちます。
場面ごとの式は次のとおりです(質量 、加速度 、重力加速度の大きさ 、動摩擦係数 、斜面の傾きの角 。正の向きは運動の向き)。
| 場面 | 運動する方向の運動方程式 | 運動に垂直な方向のつり合い |
|---|---|---|
| なめらかな水平面で、水平に力 で引く | ||
| あらい水平面で、水平に力 で引く | ||
| なめらかな斜面をすべり下りる | ||
| あらい斜面をすべり下りる | ||
| 糸で鉛直に引き上げる(張力 ) | (なし) |
分かれ目は次の 3 つ。
- 式を書く前に、物体が受ける力を全部挙げる。重力と、触れているものから受ける力。挙げ忘れた力は式に入らない
- 正の向きを先に決め、逆向きの力には負の符号を付ける。向きを決めずに書くと符号が合わなくなる
- 運動に垂直な方向は、力のつり合いの式にする。垂直抗力はここから決まり、摩擦力の大きさに効く
1. 立てる手順
根拠: 学習指導要領 物基-(1)-ア-(イ)-㋒
式を立てる前の準備が、式そのものより大事です。どの物体について、どの力を、どの向きを正として書くのかを先に決めます。
運動方程式を立てる手順を、順に 4 つ言うと?
①どの物体について立てるかを決める ②その物体が受ける力を全部挙げる ③正の向きを決める ④運動する方向の力の成分で を書く
正の向きは、ふつう物体が運動する向きにとる(減速しているときは、加速度が負になる)。運動に垂直な方向は、つり合いの式を別に書く。
物体が受ける力を、漏れなく挙げるにはどうするか?
まず重力を挙げる。次に、物体に触れているものを 1 つずつ確かめ、それぞれから受ける力(垂直抗力・摩擦力・張力・弾性力など)を挙げる
物理基礎の力学の問題では、離れていても受ける力は重力だけ。あとは必ず「触れているもの」から受ける。
運動方程式の右辺に入れてよいのは、どんな力か?
注目している物体が「受ける」力だけ
その物体がほかの物体に「及ぼす」力は入れない。例えば、物体が床を押す力は床が受ける力なので、物体の運動方程式には出てこない。
運動方程式の右辺を作るとき、力の符号はどう決めるか?
正の向きと同じ向きの力は正、逆向きの力は負として足しあわせる
斜めの力は、運動する方向とそれに垂直な方向に分解してから、運動する方向の成分だけを入れる。
力を挙げるときに「」を力の 1 つとして数えてよいか?
数えない。 は力ではなく、力の合計がもたらす結果
「進む向きに という力が働く」と書くと、力が 1 つ余分になる。力として挙げるのは、何かから受けているものだけ。
運動方程式で加速度が求まったあと、速さや進んだ距離を求めるにはどうするか?
等加速度直線運動の式(、、)に、その加速度を入れる
力が一定なら加速度も一定なので、等加速度直線運動になる。運動方程式は「力から加速度を出す」ところまでを受けもつ。
2. 水平面上の運動
根拠: 学習指導要領 物基-(1)-ア-(イ)-㋒
水平面上を水平に進む物体は、鉛直方向には動きません。鉛直方向はつり合い、水平方向は運動方程式、と分けて書きます。
なめらかな水平面上の質量 の物体を、水平に力 で引く。水平方向と鉛直方向の式は?
水平方向は運動方程式 。鉛直方向はつり合いの式
受ける力は、重力 (下向き)、垂直抗力 (上向き)、引く力 (水平)の 3 つ。重力と垂直抗力は水平方向の運動に関わらない。
あらい水平面上の質量 の物体を、水平に力 で引いて動かしている。動摩擦係数を として、運動方程式は?
。鉛直方向のつり合い を入れると
動摩擦力は運動の向きと逆向きなので、負の符号が付く。垂直抗力 を先に鉛直方向のつり合いから求めておく。
あらい水平面上をすべっている物体から手を離した(引く力が無い)。動摩擦係数を として、加速度はどうなるか?
運動の向きを正として (運動と逆向きに、大きさ )。質量によらない
水平方向に受ける力は動摩擦力だけなので、。両辺の が消える。物体は減速してやがて止まる。
3. 鉛直方向の運動
根拠: 学習指導要領 物基-(1)-ア-(イ)-㋒
糸でつるした物体を引き上げたり下ろしたりするとき、物体が受ける力は重力と糸の張力の 2 つです。
質量 の物体を、糸で鉛直に引き上げている。糸の張力の大きさを 、鉛直上向きを正として、運動方程式は?
張力は上向きなので正、重力は下向きなので負。 が正なら上向きに加速、負なら下向きに加速している。
糸でつるした質量 の物体について、張力 と重力 の大小と、物体の運動の関係は?
なら加速度は上向き、 なら加速度 0(静止または等速)、 なら加速度は下向き
張力が重力と等しいのは、静止しているときと一定の速度で動いているときだけ。上向きに動いていても、減速中なら である。
4. 斜面上の運動
根拠: 学習指導要領 物基-(1)-ア-(イ)-㋒
斜面上の物体は斜面に沿って動くので、重力を「斜面に平行な方向」と「斜面に垂直な方向」に分解して考えます。
傾きの角 のなめらかな斜面を、質量 の物体がすべり下りる。運動方程式と加速度は?
斜面に沿って下向きを正として 。加速度は で、質量によらない
斜面に平行な方向に受ける力は、重力の成分 だけ。斜面に垂直な方向はつり合っていて 。
傾きの角 のあらい斜面を、質量 の物体がすべり下りる。動摩擦係数を として、運動方程式は?
斜面に沿って下向きを正として
動摩擦力は斜面に沿って上向きで、大きさは 。垂直抗力は で、水平面のときの とは違う。
練習問題
根拠: 学習指導要領 物基-(1)-ア-(イ)-㋒
以下、重力加速度の大きさを とします。
問 1 なめらかな水平面上に静止している質量 の物体を、水平に の力で引き続けた。(1) 加速度の大きさを求めよ。(2) 引きはじめてから 後の速さを求めよ。
(1) (2)
方針 まず運動方程式で加速度を出す。力が一定なので等加速度直線運動になり、速さは で求められる。
- 物体が受ける力は、重力(下向き)、垂直抗力(上向き)、引く力(水平)の 3 つ。水平方向の力は引く力だけ。
- 引く向きを正として、運動方程式 から
- (1) 値を入れると、
- (2) 初速度は 0 なので 。値を入れると、
問 2 あらい水平面上で、質量 の物体を水平に の力で引いて動かしている。物体と面との間の動摩擦係数は である。物体の加速度の大きさを求めよ。
方針 動摩擦力の大きさは なので、先に鉛直方向のつり合いから垂直抗力 を求める。そのあと、水平方向の運動方程式を立てる。
- 物体が受ける力は、重力(下向き)、垂直抗力(上向き)、引く力(運動の向き)、動摩擦力(運動と逆向き)の 4 つ。
- 鉛直方向のつり合いから 。値を入れると、
- 動摩擦力の大きさは なので、
- 運動の向きを正とすると、水平方向の合力は
- 運動方程式から なので、
ここで間違えやすい 動摩擦力を引き忘れて としてしまうこと。右辺は合力である。
問 3 質量 の物体に糸を付けて鉛直につるした。次のそれぞれの場合について、糸の張力の大きさを求めよ。(1) 鉛直上向きに の加速度で引き上げているとき。(2) 一定の速度で引き上げているとき。(3) 鉛直下向きに の加速度で下ろしているとき。
(1) (2) (3)
方針 物体が受ける力は、張力 (上向き)と重力 (下向き)の 2 つだけ。鉛直上向きを正として を立て、加速度の符号を場合ごとに入れかえる。
- 重力の大きさは なので、
- 鉛直上向きを正として、運動方程式は 。張力について解くと
- (1) 加速度は上向きなので 。
- (2) 一定の速度なので 。張力は重力と等しく、
- (3) 加速度は下向きなので 。
ここで間違えやすい (2) で「上向きに動いているから張力のほうが大きい」と考えてしまうこと。速度が一定なら合力は 0 で、張力は重力と等しい。
問 4 水平面と の角をなすなめらかな斜面の上に、物体を静かに置いたところ、物体は斜面に沿ってすべり下りた。(1) 加速度の大きさを求めよ。(2) すべりはじめてから の間にすべった距離を求めよ。 とする。
(1) (2)
方針 質量は与えられていないが、文字 でおいて式を立てると途中で消える。斜面に平行な方向の力は重力の成分 だけである。
- 物体が受ける力は、重力(鉛直下向き)と垂直抗力(斜面に垂直)の 2 つ。
- 重力を分解すると、斜面に平行な成分は (斜面に沿って下向き)。垂直抗力は斜面に垂直なので、平行な方向の成分をもたない。
- 斜面に沿って下向きを正として、運動方程式は
- 両辺を で割ると 。(1) 値を入れると、
- (2) 初速度は 0 なので 。値を入れると、
ここで間違えやすい 重力 をそのまま右辺に入れてしまうこと。斜面に沿った方向に効くのは、重力のうち斜面に平行な成分だけである。
問 5 あらい水平面上で、物体を初速度 ですべらせた。物体と面との間の動摩擦係数は である。(1) すべっている間の加速度の向きと大きさを求めよ。(2) 物体が止まるまでにすべった距離を求めよ。
(1) 運動と逆向きに (2)
方針 すべっている間に水平方向に受ける力は動摩擦力だけ。質量を でおいて運動方程式を立てると が消える。距離は、時間を使わない式 で求める。
- 物体が受ける力は、重力(下向き)、垂直抗力(上向き)、動摩擦力(運動と逆向き)の 3 つ。押す力や引く力は受けていない。
- 鉛直方向のつり合いから 。動摩擦力の大きさは
- 運動の向きを正として、運動方程式は 。両辺を で割ると
- (1) 大きさは 。符号が負なので、向きは運動と逆向き。
- (2) 止まるとき 。 に入れると
- について解くと、
ここで間違えやすい 「前に進んでいるのだから、前向きの力も受けている」と考えて力を 1 つ足してしまうこと。手を離れたあとは、進む向きの力は無い。物体は慣性で進み、動摩擦力で減速する。