摩擦力
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
学習指導要領 物理基礎 (1) ア (イ) ㋐「物体に様々な力が働くことを理解すること。」。内容の取扱いは、ここで摩擦力を扱うこととしています。
0. どういうまとまりか
粗い面の上の物体を横から押しても、弱い力では動きません。面が、動き出すのを妨げる向きに力を及ぼしているからです。
面が物体に及ぼす力のうち、面に平行な成分を摩擦力といいます。
摩擦力には、物体が止まっているあいだの静止摩擦力と、滑っているあいだの動摩擦力があり、大きさの決まり方がまったく違います。
| いつ働くか | 大きさ | 向き | |
|---|---|---|---|
| 静止摩擦力 | 面に対して止まっているとき | 決まった式は無い。加えた力とつり合う大きさ(0 から最大摩擦力まで変わる) | 滑り出そうとする向きと逆 |
| 最大摩擦力 | 滑り出す直前 | 同上 | |
| 動摩擦力 | 面の上を滑っているとき | (速さによらず一定) | 滑っている向きと逆 |
は静止摩擦係数、 は動摩擦係数、 は垂直抗力の大きさです。
分かれ目は次の 3 つ。
- 静止摩擦力は ではない。 になるのは滑り出す直前だけで、それまではつり合いから決まる
- は とは限らない。上から押す・斜め上に引く・斜面に置く、で垂直抗力は変わる
- 。動き出したあとの摩擦力は、動き出す直前より小さい
1. 静止摩擦力
根拠: 学習指導要領 物基-(1)-ア-(イ)-㋐
止まっている物体が受ける摩擦力は、加えた力に合わせて大きさを変えます。決まった値をもつ力ではありません。
摩擦力とは? どの向きに働くか?
接している面が物体に及ぼす力のうち、面に平行な力。物体が面に対して滑る(滑り出そうとする)のを妨げる向きに働く
同じ面が及ぼす力でも、面に垂直なほうは垂直抗力である。
粗い水平面に置いた物体を、水平に大きさ の力で引いたが動かなかった。このときの静止摩擦力の大きさは?
(引く力と同じ大きさ。向きは逆)
物体は静止しているので、水平方向の力はつり合っている。引く力を大きくすれば、静止摩擦力も同じだけ大きくなる。引いていなければ 0 である。
最大摩擦力とは? 式は?
物体が滑り出す直前の静止摩擦力(静止摩擦力の上限)。
は静止摩擦係数、 は垂直抗力の大きさ。引く力が最大摩擦力を超えると、物体は滑り出す。
を静止摩擦力の式として使ってよいのは、どんなときか?
物体が滑り出す直前(「滑り出した瞬間」「ぎりぎり動かない」など)だけ
それ以外の静止している場面では、静止摩擦力はつり合いの式から求める。止まっていれば 、と決めつけない。
静止摩擦係数 は、何で決まるか? 単位は?
接している 2 つの面の材質と状態(粗さ、ぬれているかなど)で決まる。単位は無い
力を力で割った比なので単位が付かない。物体の質量や、接している面積の大小にはほとんどよらない。
2. 動摩擦力
根拠: 学習指導要領 物基-(1)-ア-(イ)-㋐
滑っている物体が受ける摩擦力は、静止摩擦力と違って大きさが決まっています。
動摩擦力とは? 式は?
面の上を滑っている物体が、面から受ける摩擦力。
は動摩擦係数。向きは、物体が面に対して滑っている向きと逆。
動摩擦力の大きさは、滑る速さや引く力の大きさで変わるか?
変わらない。垂直抗力が同じなら、速さや引く力によらず一定
速く滑っても遅く滑っても 。ここが、加えた力に応じて変わる静止摩擦力との違い。
同じ面で、動摩擦係数 と静止摩擦係数 はどちらが大きいか?
静止摩擦係数のほうが大きい()
だから、動摩擦力は最大摩擦力より小さい。重い家具は、動き出すまでが一番重く、動き出すと少し軽く感じる。
粗い水平面に置いた物体を水平に引き、引く力を 0 から少しずつ大きくしていく。物体が受ける摩擦力の大きさはどう変わるか?
はじめは引く力と同じ大きさで増えていく(静止摩擦力)。最大摩擦力 に達すると滑り出し、そのあとは少し小さい一定の値 になる(動摩擦力)
横軸に引く力、縦軸に摩擦力をとると、原点から斜めに上がる直線が最大摩擦力まで続き、そこで一段下がって水平な直線になる。
3. 垂直抗力に注意する
根拠: 学習指導要領 物基-(1)-ア-(イ)-㋐
最大摩擦力も動摩擦力も、垂直抗力 に比例します。 を取り違えると、摩擦力もそのままずれます。
摩擦力の式 、 の は、いつも か?
いつも とは限らない。 は垂直抗力で、面に垂直な方向のつり合いから求める
水平面に置いただけなら 。上から押せば より大きく、斜め上に引けば より小さく、斜面の上でも より小さい。
物体を鉛直な壁に水平に押しつけて、落ちないようにしている。このときの垂直抗力の大きさは、何と等しいか? 摩擦力はどの向きか?
垂直抗力は、押しつける力の大きさと等しい(重力とは関係ない)。静止摩擦力は鉛直上向きで、重力とつり合う
面が鉛直なので、垂直抗力は水平向き。重力を支えているのは摩擦力のほうである。
問題文の「なめらかな面」「粗い面」は、それぞれ何を意味するか?
「なめらかな面」は摩擦力を無視できる面。「粗い面」は摩擦力が働く面
なめらかな面から受ける力は垂直抗力だけ。粗い面からは、垂直抗力と摩擦力の 2 つを受けることがある。
練習問題
根拠: 学習指導要領 物基-(1)-ア-(イ)-㋐
重力加速度の大きさは とします。
問 1 粗い水平面の上に、質量 の物体が置かれている。物体と面の間の静止摩擦係数が のとき、最大摩擦力の大きさを求めよ。
方針 最大摩擦力は 。先に垂直抗力 を、鉛直方向のつり合いから求める。水平面に置いただけなので、 は重力と同じ大きさになる。
- 重力の大きさは
- 鉛直方向に受ける力は重力と垂直抗力だけなので、垂直抗力は
- 最大摩擦力は
問 2 粗い水平面の上に、質量 の物体が置かれている。物体と面の間の静止摩擦係数は 、動摩擦係数は である。(1) 物体を水平に の力で引いたとき、物体は動くか。また、このときの摩擦力の大きさを求めよ。(2) 物体が面の上を滑っているときの摩擦力の大きさを求めよ。
(1) 動かない。摩擦力は (2)
方針 動くかどうかは、引く力を最大摩擦力 と比べて決める。動かなければ摩擦力は静止摩擦力で、引く力とつり合う大きさ。滑っていれば動摩擦力 。
- 重力の大きさは 。水平面に置いただけなので、垂直抗力も
- 最大摩擦力は
- (1) 引く力 は最大摩擦力 より小さいので、物体は動かない。
- 動かないので、静止摩擦力は引く力とつり合う。大きさは
- (2) 滑っているときは動摩擦力で、
ここで間違えやすい (1) で摩擦力を の と答えてしまうこと。 は上限で、いま実際に働いている静止摩擦力は である。
問 3 粗い水平面の上に、質量 の物体が置かれている。物体を水平に引く力を少しずつ大きくしていくと、引く力が を超えたときに物体が滑り出した。物体と面の間の静止摩擦係数を求めよ。
方針 滑り出す直前の静止摩擦力が最大摩擦力で、このときだけ が使える。滑り出す直前の引く力が、最大摩擦力と同じ大きさである。
- 滑り出す直前、水平方向の力はつり合っているので、最大摩擦力は
- 重力の大きさは 。水平面に置いただけなので、垂直抗力は
- から 。数値を入れると
ここで間違えやすい 答えに単位を付けてしまうこと。摩擦係数は力と力の比なので、単位は無い。
問 4 粗い水平面の上に置いた質量 の物体を、真上から鉛直下向きに の力で押している。物体と面の間の静止摩擦係数が のとき、垂直抗力の大きさと最大摩擦力の大きさを求めよ。
垂直抗力 、最大摩擦力
方針 上から押しているので、垂直抗力は ではない。鉛直方向に受ける力をすべて挙げ、つり合いの式から垂直抗力を出してから に入れる。
- 物体が鉛直方向に受ける力は、下向きの重力、下向きの押す力、上向きの垂直抗力の 3 つ。
- 重力の大きさは
- 鉛直方向のつり合いから、垂直抗力は下向きの力の和に等しい。
- 最大摩擦力は
ここで間違えやすい として から と答えてしまうこと。押した分だけ垂直抗力が増え、摩擦力も大きくなる。
問 5 質量 の物体を、鉛直な粗い壁に水平な力で押しつけて静止させたい。物体と壁の間の静止摩擦係数が のとき、押しつける力の大きさは少なくともいくら必要か。
方針 物体が落ちないのは、壁からの静止摩擦力が重力を支えているから。静止摩擦力は最大摩擦力 までしか出せないので、「重力が最大摩擦力以下」が落ちない条件になる。垂直抗力は、押しつける力と等しい。
- 押しつける力の大きさを とする。水平方向に受ける力は、押しつける力と壁からの垂直抗力の 2 つ。つり合いから、垂直抗力は
- 鉛直方向に受ける力は、下向きの重力と上向きの静止摩擦力の 2 つ。重力の大きさは なので、静止するには静止摩擦力が 必要。
- 静止摩擦力の上限は最大摩擦力 で、これは に等しい。落ちない条件は
- が最小になるのは等号のときで、。計算すると
ここで間違えやすい 垂直抗力を としてしまうこと。面が鉛直なので、垂直抗力は水平向きで、重力とは無関係に押しつける力で決まる。