力学的エネルギーの保存
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
学習指導要領 物理基礎 (1) ア (ウ) ㋑「力学的エネルギーに関する実験などを行い,力学的エネルギー保存の法則を仕事と関連付けて理解すること。」。
0. どういうまとまりか
運動エネルギーと位置エネルギーの和を力学的エネルギーといいます。
物体が落ちるとき、位置エネルギーが減ったぶんだけ運動エネルギーが増えます。振り子やばねにつけた物体でも、2 つのエネルギーは互いに移り変わります。
このとき、仕事をするのが重力や弾性力(保存力)だけなら、力学的エネルギーの合計は変わりません。これが力学的エネルギー保存の法則です。
摩擦や空気抵抗があるときは、その力がした仕事のぶんだけ力学的エネルギーが変わります。
| 場面 | 立てる式 | 条件 |
|---|---|---|
| 落下・なめらかな斜面・振り子 | 仕事をするのが重力だけ | |
| なめらかな水平面上のばね | 仕事をするのが弾性力だけ | |
| 摩擦や空気抵抗があるとき | (後の力学的エネルギー)−(前の力学的エネルギー)=(保存力以外の力がした仕事) | いつでも使える |
分かれ目は次の 3 つ。
- 保存されるかどうかは、保存力以外の力が「仕事をするか」で決まる。はたらいているかどうかではない
- 垂直抗力や糸の張力は、動く向きに垂直なら仕事が 0。なめらかな斜面や振り子で保存の法則が使えるのはこのため
- 摩擦や空気抵抗があると力学的エネルギーは減る。減ったぶんは熱などになり、エネルギーが消えるわけではない
1. 力学的エネルギー保存の法則
根拠: 学習指導要領 物基-(1)-ア-(ウ)-㋑
仕事と運動エネルギーの関係に、重力がする仕事を入れて整理すると、保存の法則が出てきます。法則が使えるかどうかは、どの力が仕事をしているかを見て判断します。
力学的エネルギーとは?
運動エネルギーと位置エネルギーの和
重力だけなら 、ばねなら 。両方あるときは 3 つとも足す。
力学的エネルギー保存の法則とは? 成り立つ条件は?
物体に仕事をする力が保存力(重力・弾性力)だけのとき、力学的エネルギーは一定に保たれる
摩擦や空気抵抗が無い場合がこれにあたる。運動エネルギーと位置エネルギーは互いに移り変わるが、和は変わらない。
なめらかな斜面をすべる物体は、重力のほかに垂直抗力も受けている。それでも力学的エネルギーが保存されるのはなぜか?
垂直抗力は、いつも物体が動く向きに垂直で、仕事をしないから
保存力以外の力がはたらいていても、その力の仕事が 0 なら保存の法則は成り立つ。
振り子のおもりは糸の張力を受けている。それでも力学的エネルギーが保存されるのはなぜか?
糸の張力は、いつもおもりが動く向きに垂直で、仕事をしないから
おもりは糸の長さを半径とする円の弧の上を動き、張力は糸に沿って円の中心を向く。動く向きとはいつも垂直になる。
重力だけが仕事をするとき、力学的エネルギー保存の法則は、仕事と運動エネルギーの関係からどう導けるか?
運動エネルギーの変化 = 重力がした仕事 と書き、位置エネルギーの項を左辺と右辺に振り分ける
を移項すると になる。
力学的エネルギー保存の法則で式を立てるとき、どんな順で進めるか?
①仕事をする力が保存力だけかを確かめる ②基準面を決める ③比べる 2 つの点を選ぶ ④それぞれの点で運動エネルギーと位置エネルギーを書き、和を等号で結ぶ
2 つの点は、「速さか高さが分かっている点」と「求めたい量がある点」を選ぶ。基準面は低いほうの点にとると式が短くなる。
2. 重力だけが仕事をする運動
根拠: 学習指導要領 物基-(1)-ア-(ウ)-㋑
落下、なめらかな斜面、振り子は、どれも「高さの差」だけで速さが決まります。道すじの形や質量は答えに出てきません。
静止していた物体が、摩擦や空気抵抗を受けずに高さ だけ下がったときの速さ は?
から。質量によらず、まっすぐ落ちても、なめらかな斜面をすべっても、高さの差が同じなら速さは同じ。
初速度の大きさ で真上に投げ上げた物体が達する最高点の高さ を、力学的エネルギー保存の法則から求めると?
投げた点を基準面にとる。最高点では速さが 0 なので 。
振り子のおもりの速さが最大になるのはどこか? 0 になるのはどこか?
最大になるのは最下点、0 になるのは両端の最高点
最下点では位置エネルギーが最も小さく、そのぶん運動エネルギーが最も大きい。最下点から高さ の点で静かに放せば、最下点での速さは 。
物体が落下するとき、また投げ上げられて上昇するとき、エネルギーはそれぞれどう移り変わるか?
落下するときは位置エネルギーが運動エネルギーに、上昇するときは運動エネルギーが位置エネルギーに移り変わる
どちらの場合も、減ったぶんと増えたぶんが等しく、和は変わらない。
3. 弾性力が仕事をする運動
根拠: 学習指導要領 物基-(1)-ア-(ウ)-㋑
ばねにつけた物体では、弾性力による位置エネルギーと運動エネルギーが移り変わります。
なめらかな水平面の上で、ばねにつけた物体が往復している。速さが最大になるのはどこか? 0 になるのはどこか?
最大になるのはばねが自然の長さのとき、0 になるのはばねの伸び(縮み)が最大のとき
が一定なので、 が 0 のとき が最大、 が最大のとき が 0 になる。
ばね定数 のばねを だけ縮めて、質量 の物体をなめらかな水平面の上で打ち出す。物体がばねから離れるときの速さ を求める式は?
()
はじめは速さ 0 で弾性力による位置エネルギーだけ、ばねが自然の長さに戻ったときは運動エネルギーだけになる。
4. 摩擦や空気抵抗があるとき
根拠: 学習指導要領 物基-(1)-ア-(ウ)-㋑
動摩擦力や空気抵抗は保存力ではなく、負の仕事をします。そのぶんだけ力学的エネルギーは減ります。
動摩擦力や空気抵抗が仕事をするとき、力学的エネルギーの変化と仕事の関係は?
力学的エネルギーの変化(後 − 前)= 保存力以外の力がした仕事
動摩擦力の仕事は負なので、力学的エネルギーは減る。大きさ の動摩擦力を受けて距離 すべれば、 だけ減る。
摩擦によって失われた力学的エネルギーは、どうなったのか?
熱(物体や面の温度を上げるエネルギー)などに変わった
力学的エネルギーは保存されないが、熱なども含めたエネルギー全体の量は変わらない。
練習問題
根拠: 学習指導要領 物基-(1)-ア-(ウ)-㋑
問 1 高さ のところから、物体を静かに落とした。重力加速度の大きさを とし、空気抵抗は無視できるものとして、地面に達する直前の速さを求めよ。
方針 仕事をするのは重力だけなので、力学的エネルギー保存の法則が使える。地面を基準面にとり、落とした点と地面の直前とで力学的エネルギーを等しいとおく。
- 物体の質量を 、地面の直前の速さを とする。落とした点では速さが 0 なので、力学的エネルギーは
- 地面の直前では高さが 0 なので、力学的エネルギーは
- 2 つを等しいとおくと 。両辺を で割って 2 倍すると
ここで間違えやすい 質量が与えられていなくても解ける。 は両辺にあるので消える。
問 2 地面から、小球を速さ で真上に投げ上げた。重力加速度の大きさを とし、空気抵抗は無視できるものとして、(1) 最高点の高さ、(2) 高さ の点を通るときの速さを求めよ。
(1) (2)
方針 地面を基準面にとる。投げた点の力学的エネルギーは運動エネルギーだけなので、これを最高点(速さ 0)と、高さ の点のそれぞれと等しいとおく。
- 小球の質量を とする。投げた点の力学的エネルギーは で、 なので
- (1) 最高点の高さを とすると、最高点の力学的エネルギーは 。等しいとおいて で割ると
- (2) 求める速さを とすると、高さ の点の力学的エネルギーは で、 なので
- 等しいとおいて で割ると なので、
- から、
ここで間違えやすい (2) で速さを半分の としない。高さが半分でも、半分になるのは運動エネルギーであって速さではない。
問 3 糸におもりをつけた振り子がある。糸をたるませずに、おもりを最下点より 高い位置まで持ち上げて、静かに放した。重力加速度の大きさを とし、空気抵抗は無視できるものとして、おもりが最下点を通るときの速さを求めよ。
方針 おもりは重力と糸の張力を受けるが、張力は動く向きにいつも垂直なので仕事をしない。重力だけが仕事をするので、力学的エネルギー保存の法則が使える。最下点を基準面にとる。
- おもりの質量を 、最下点での速さを とする。放した点は速さ 0、高さ なので、力学的エネルギーは
- 最下点は高さ 0 なので、力学的エネルギーは
- 等しいとおいて で割り、2 倍すると
ここで間違えやすい 糸の長さは答えに関係しない。速さを決めるのは、放した点と最下点の高さの差だけである。
問 4 なめらかな水平面の上で、ばね定数 のばねの一端を壁に固定し、他端に質量 の物体を押しあてて、ばねを自然の長さから 縮めた。静かに手を放すと、物体はばねに押されて動きだし、ばねが自然の長さに戻ったところでばねから離れた。離れたときの物体の速さを求めよ。
方針 水平面がなめらかなので、仕事をするのは弾性力だけ。はじめの弾性力による位置エネルギーが、離れるときにはすべて運動エネルギーになっている。
- はじめは速さ 0 で、力学的エネルギーは弾性力による位置エネルギーだけ。
- 離れるとき、ばねは自然の長さなので弾性力による位置エネルギーは 0。速さを とすると、力学的エネルギーは
- 等しいとおくと なので、
ここで間違えやすい 重力による位置エネルギーは、水平面の上では高さが変わらないので、はじめと後で同じ値になる。式に入れても両辺で消える。
問 5 質量 の物体が、あらい斜面の上の高さ の点から静かにすべりだし、斜面の下端(高さ 0)に達したときの速さは であった。重力加速度の大きさを として、この間に動摩擦力がした仕事を求めよ。
方針 動摩擦力が仕事をするので、力学的エネルギーは保存されない。「力学的エネルギーの変化(後 − 前)= 保存力以外の力がした仕事」を使う。垂直抗力は動く向きに垂直で、仕事をしない。
- 斜面の下端を基準面にとる。前(すべりだす点)は速さ 0 なので、力学的エネルギーは
- 後(下端)は高さ 0 なので、力学的エネルギーは
- 動摩擦力がした仕事は「後 − 前」で
ここで間違えやすい 斜面の傾きや長さ、動摩擦係数が分からなくても求められる。力学的エネルギーがどれだけ減ったかを見ればよい。失われた は熱などに変わっている。