市場の失敗と政府の役割
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
学習指導要領「政治・経済」A (1) ア (イ) の「経済活動と市場」にあたり、イの事項が名指しする「市場経済の機能と限界」を扱います。
内容の取扱いは、そこで市場の失敗の補完の観点から、公害防止と環境保全、消費者に関する問題も扱うよう求めています。
公共の同名のノートが寡占・外部性・公共財・情報の非対称性の「名前」までを扱うのに対し、ここでは独占禁止法が禁じる行為の区別、外部不経済をどう内部化するか、
公害と消費者問題で法律が責任の原則をどう変えてきたか(過失責任から無過失責任へ)まで扱います。
法律の条文は 2026-09-27 に e-Gov 法令検索の環境基本法・大気汚染防止法・製造物責任法・消費者基本法・特定商取引に関する法律・私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律と突き合わせました。
0. 何を押さえるか
市場は、条件がそろえば資源を効率よく配分します(市場経済の機能)。しかしその条件が欠けると、市場に任せても望ましい結果になりません(市場経済の限界)。これが市場の失敗です。
| 市場の失敗 | 何が起きるか | 政府の対応の例 |
|---|---|---|
| 独占・寡占 | 競争が弱まり、価格が高止まりする | 独占禁止法・公正取引委員会 |
| 外部不経済 | 公害のように、取引の外の人に費用が押しつけられる | 規制・環境税・汚染者負担の原則 |
| 公共財 | 対価を払わない人を締め出せず、市場では供給されにくい | 政府が税で供給する |
| 情報の非対称性 | 売り手だけが品質を知り、買い手が損をする | 表示の義務・消費者保護の法律 |
取り違えやすい分かれ目は次の 3 つ。
- 過失責任の原則(落ち度があれば賠償)が民法の原則。公害と製造物の欠陥では、被害者を救うために無過失責任(落ち度の証明は要らない)が法律で定められた
- 独占禁止法が禁じるのは私的独占・不当な取引制限(カルテル)・不公正な取引方法の 3 本柱。持株会社は 1997 年の改正で原則として解禁された
- 消費者保護基本法(1968 年)は、2004 年の改正で消費者基本法になり、消費者を「保護される者」から「権利を持ち自立する主体」ととらえ直した
1. 独占・寡占と競争政策
根拠: 学習指導要領 政治・経済-A-(1)-ア-(イ)
少数の企業が市場を占める寡占の市場では、生産費が下がっても価格が下がりにくい(価格の下方硬直性)ことが起きます。
独占禁止法は、こうした競争の制限を取り除いて「公正且つ自由な競争を促進」することを目的に掲げています(1 条)。
独占禁止法が禁止する行為の 3 つの柱とは?
私的独占・不当な取引制限・不公正な取引方法
不当な取引制限の代表が、企業どうしで価格や生産量を申し合わせるカルテル。不公正な取引方法には、不当な安売り(不当廉売)や優越的地位の濫用などがある。
寡占の市場で、生産費が下がっても価格が下がりにくくなる傾向を何という?
価格の下方硬直性
プライス・リーダーが決める管理価格のもとでは、値下げ競争が起きにくいため。
第二次世界大戦後の独占禁止法で禁止されていたが、1997 年の改正で原則として設立が認められた、他の会社の株式を持って支配することを主な事業とする会社を何という?
持株会社
戦前の財閥の復活を防ぐために禁止されていた。解禁後は「〇〇ホールディングス」のような形が広がった。
2. 外部不経済と公害防止・環境保全
根拠: 学習指導要領 政治・経済-A-(1)-ア-(イ)
工場が汚染物質を出しても、その被害の費用を工場が払わなければ、製品の価格には社会全体の費用が反映されず、作りすぎになります。
そこで、外部に押しつけられていた費用を、出した者の負担に戻す(外部不経済の内部化)ことが、公害防止と環境保全の政策の考え方になります。
| 年 | できごと |
|---|---|
| 1967 年 | 公害対策基本法 |
| 1970 年 | 「公害国会」で公害関係の法律を整備 |
| 1971 年 | 環境庁の設置(2001 年に環境省) |
| 1972 年 | 大気汚染防止法・水質汚濁防止法に無過失責任の規定 |
| 1993 年 | 環境基本法(公害対策基本法を引き継ぐ) |
| 1997 年 | 環境影響評価法(環境アセスメント法) |
四大公害訴訟の 4 つの公害病と、それが起きた地域は?
水俣病(熊本県)・新潟水俣病(新潟県)・イタイイタイ病(富山県)・四日市ぜんそく(三重県)
いずれも 1960 年代後半に提訴され、1970 年代前半に原告(被害者)側が勝訴した。企業の責任がはっきり認められ、公害対策が進むきっかけになった。
公害の被害について、企業に故意や過失がなくても損害を賠償させる考え方を何という。大気汚染防止法ではどの条文の見出しになっているか?
無過失責任。大気汚染防止法 25 条(無過失責任)
被害者が企業の過失を証明するのは難しいため、1972 年の改正で大気汚染防止法と水質汚濁防止法に取り入れられた。
汚染を生んだ者が、汚染の防止や被害の回復の費用を負担すべきだという原則を何という?
汚染者負担の原則(PPP)
OECD が 1972 年に示した。外部不経済の費用を、生んだ者に負担させる(内部化する)考え方。
大規模な開発事業を行う前に、それが環境にどんな影響を与えるかを調べ、予測・評価して、その結果を事業に反映させる制度を何という?
環境アセスメント(環境影響評価)
国の制度としては 1997 年の環境影響評価法で法律になった。
3. 消費者に関する問題
根拠: 学習指導要領 政治・経済-A-(1)-ア-(イ)
消費者は、事業者に比べて商品の情報も交渉する力も弱い立場にあります。消費者基本法 1 条は、この「消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力等の格差」を出発点に置いています。
消費者に関する問題は、市場の失敗のうち情報の非対称性が生活の場に現れたものといえます。
1962 年にアメリカのケネディ大統領が示した「消費者の 4 つの権利」とは?
安全を求める権利・知らされる権利・選ぶ権利・意見を聞いてもらう権利
のちの消費者保護の考え方の出発点になった。日本の消費者基本法 2 条も、安全の確保や選択の機会の確保などを「消費者の権利」として掲げている。
製品の欠陥によって生命・身体・財産に被害を受けたとき、製造業者の過失を証明しなくても、欠陥を示せば損害賠償を求められるようにした 1994 年の法律は?
製造物責任法(PL 法)
3 条で、製造業者等は引き渡した製造物の「欠陥」により他人を害したとき賠償の責任を負うとした。過失ではなく欠陥が要件になる。
訪問販売で契約した人が、法定の書面を受け取った日から一定期間内なら、理由を問わず書面(2022 年からは電子メールなどの電磁的記録でもよい)で契約を解除できる制度を何という。訪問販売ではその期間は何日か?
クーリング・オフ。8 日
特定商取引に関する法律 9 条。店に出向いて買った場合(店舗での販売)には、この制度はない。
事業者が事実と違うことを告げたり、不利益になる事実を故意に告げなかったりして結ばせた契約を、消費者が取り消せると定めた 2000 年の法律は?
消費者契約法
消費者に一方的に不利な契約の条項も無効になる。2009 年には、消費者行政をまとめて担う消費者庁が設けられた。