賃貸借
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
根拠は民法 601 条(賃貸借)、604 条(存続期間)、605 条(不動産賃貸借の対抗力)、
605 条の 2(賃貸人たる地位の移転)、606 条(修繕)、607 条の 2、608 条(費用の償還)、
611 条(減額)、612 条(譲渡・転貸)、613 条、616 条の 2、617 条(期間の定めのない賃貸借)、
621 条(原状回復)、622 条の 2(敷金)。2026-08-01 に e-Gov の条文原文と突合済み。
0. どういう制度か
賃貸借は「他人の物を使わせてもらう」契約である。使う権利は債権にすぎないので、
本来は物件が売られたら新しい所有者に対抗できない(売買は賃貸借を破る)。
その原則をどこまで修正するかが、この分野の骨格になっている。
対抗できるようにする手段は 3 つ。
| 手段 | 根拠 |
|---|---|
| 賃借権の登記 | 民法 605 条(ただし賃貸人に登記に応じる義務はない) |
| 建物の引渡し | 借地借家法 31 条(建物賃貸借) |
| 借地上の建物の登記 | 借地借家法 10 条(借地権) |
民法だけで足りないので借地借家法が上に乗る、という構造をつかんでおく。
引っかけの分かれ目は次の 3 つ。
- 賃借人は無断で譲渡・転貸できない。ただし背信的行為と認めるに足りない特段の事情があれば解除できない
- 敷金は「賃貸借が終了し、明渡しが完了した時」に返還義務が生じる(同時履行にならない)
- 賃借物の一部が使えなくなったら、賃料は当然に減額される(請求を待たない)
1. 存続期間と終了
根拠: 民法 604 条 1 項・2 項、617 条 1 項、616 条の 2、621 条
民法上の賃貸借の存続期間の上限は?
50 年(604 条 1 項)
これより長い期間を定めても 50 年に短縮される。更新もできるが、
更新の時から 50 年を超えられない。
(借地借家法が適用される場合はこの制限を受けない。)
期間の定めのない賃貸借は、どう終了する?
各当事者がいつでも解約の申入れをでき、申入れから
- 土地 … 1 年
- 建物 … 3 か月
- 動産・貸席 … 1 日
を経過することで終了する(617 条)。
賃借物の全部が滅失して使用できなくなった。賃貸借はどうなる?
当然に終了する(616 条の 2)
解除の意思表示は不要。
賃借人の原状回復義務の範囲は?
賃借物を受け取った後に生じた損傷を原状に復する義務を負う。
ただし通常の使用収益によって生じた損耗(通常損耗)と経年変化は除かれる(621 条)
損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときも、原状回復義務を負わない。
2. 修繕と費用
根拠: 民法 606 条 1 項・2 項、607 条の 2、608 条 1 項・2 項、611 条 1 項
賃貸人は「使える状態で貸す」義務を負っている。だから修繕は原則として賃貸人の負担で、
賃借人が立て替えたら返ってくる。
賃貸人の修繕義務と、賃借人が自分で修繕できる場合は?
賃貸人は使用収益に必要な修繕をする義務を負う(賃借人の責めに帰すべき事由による場合を除く)。
賃借人は、①賃貸人に通知したのに相当の期間内に修繕しないとき、
②急迫の事情があるときは、自ら修繕できる(607 条の 2)。
必要費と有益費の償還請求は、いつできる?
- 必要費 … 支出後直ちに償還請求できる
- 有益費 … 賃貸借の終了の時に、価格の増加が現存する場合に限り、
支出額または増価額(賃貸人の選択)を請求できる
有益費については、裁判所が賃貸人の請求により相当の期限を許与できる。
賃借物の一部が使用できなくなった。賃料はどうなる?
賃借人の責めに帰することができない事由によるときは、
その部分の割合に応じて当然に減額される(611 条 1 項)
「減額を請求できる」ではなく当然に減額される点が改正のポイント。
残存部分だけでは契約の目的を達成できないときは、解除もできる。
3. 譲渡と転貸
根拠: 民法 612 条 1 項・2 項、613 条 1 項〜3 項
貸主から見れば、誰が使うかは重大な関心事である。だから無断の交代を解除事由にしている。
ただし信頼関係が壊れていないなら解除まで認める必要はない、というのが判例の修正である。
賃借人が無断で賃借権を譲渡・転貸した。賃貸人はどうできる?
契約を解除できる(612 条 2 項)
ただし判例により、賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるときは
解除できない。
適法に転貸された場合、転借人は賃貸人に対してどんな義務を負う?
賃貸人に対して直接に義務を負う(613 条 1 項)
賃料は、賃借料と転借料のうち低いほうの額を限度として賃貸人に支払う義務を負う。
賃貸人は賃借人に対する権利を失わない。
賃貸人と賃借人が賃貸借契約を合意解除した。転借人はどうなる?
転借人に対抗できない(613 条 3 項)
つまり転借人は使用を続けられる。
ただし、解除の当時に賃貸人が債務不履行による解除権を持っていたときは対抗できる。
賃借人の債務不履行で賃貸借契約が解除された。転借人はどうなる?
転貸借も終了する(転借人に対抗できる)
このとき賃貸人は、転借人に対して催告して支払いの機会を与える必要はない(判例)。
4. 対抗力と賃貸人たる地位の移転
根拠: 民法 605 条、605 条の 2 第 1 項〜4 項、605 条の 3
賃借権を第三者に対抗するには(民法上)?
賃借権の登記をすること(605 条)
ただし賃貸人には登記に協力する義務がないため、実際にはほとんど使えない。
そこで借地借家法の対抗要件(建物の引渡し・借地上の建物の登記)が用意されている。
対抗要件を備えた賃借物が譲渡された。賃貸人たる地位はどうなる?
譲受人に当然に移転する(605 条の 2 第 1 項)
賃借人の承諾は不要。ただし譲受人が賃料を請求するには、
所有権移転登記が必要(605 条の 2 第 3 項)。
賃貸人たる地位が移転したとき、敷金と費用償還債務はどうなる?
譲受人に承継される(605 条の 2 第 4 項)
敷金は、旧賃貸人に対する未払賃料に充当された残額について承継される。
賃借物を第三者が不法占拠している。賃借人はどうできる?
対抗要件を備えていれば、妨害の停止の請求および返還の請求ができる(605 条の 4)
5. 敷金
根拠: 民法 622 条の 2 第 1 項・2 項
敷金は賃料などを担保する預り金である。何が未払かは明渡しの後でなければ確定しないので、
返還義務が生じるのも明渡しの後になる。
敷金はいつ返還される?
- 賃貸借が終了し、かつ賃貸物の返還を受けたとき
- 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき
明渡しが先なので、明渡しと敷金返還は同時履行の関係に立たない。
賃借人のほうから「敷金を未払賃料に充ててくれ」と請求できる?
できない(622 条の 2 第 2 項)
充当できるのは賃貸人の側から。