抵当権
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
根拠は民法 369 条(抵当権)、370 条(効力の及ぶ範囲)、371 条、372 条・304 条(物上代位)、
373 条(順位)、375 条(利息の範囲)、387 条(賃借権の同意登記)、388 条(法定地上権)、
389 条(一括競売)、392 条(共同抵当)、395 条(明渡猶予)、398 条の 2(根抵当権)。
2026-08-01 に e-Gov の条文原文と突合済み。
0. どういう制度か
抵当権は「物を取り上げずに担保にする」権利である。債務者が使い続けられるからこそ
不動産金融が成り立つ。そのかわり、抵当権者は登記だけを頼りに順位を確保する。
もめるのは、抵当権と他人の権利がぶつかる 3 つの場面である。
| ぶつかる相手 | 結論 |
|---|---|
| 抵当権設定後の賃借人 | 競売で消える。ただし建物なら 6 か月の明渡猶予 |
| 抵当権設定後に建てた建物 | 土地とともに一括競売できる(ただし優先弁済は土地の代価から) |
| 土地と建物が同一所有者で一方に抵当権 | 競売で所有者が分かれると法定地上権が成立 |
引っかけの分かれ目は次の 3 つ。
- 抵当権の順位は登記の前後で決まる(設定契約の日付ではない)
- 後順位抵当権者に対しては、利息は最後の 2 年分に制限される
- 法定地上権は「抵当権設定当時に建物が存在し、土地と建物が同一所有者」であることが要件
1. 抵当権の効力の及ぶ範囲
根拠: 民法 370 条、371 条、372 条、304 条 1 項、375 条 1 項
抵当権は物の交換価値をつかむ権利なので、その物の価値を構成するものには広く及び、
価値が形を変えたもの(賃料・保険金)にも及ぶ(物上代位)。
抵当権の効力は、どこまで及ぶ?
抵当地の上に存する建物を除き、抵当不動産に付加して一体となっている物(付加一体物)に及ぶ
設定当時から存在する従物(庭石・エアコンなど)にも及ぶ(判例)。
借地上の建物に抵当権を設定すれば、借地権にも及ぶ。
抵当不動産が賃貸されている。抵当権者は賃料から回収できる?
できる(372 条・304 条の物上代位)
ただし払渡し前に差押えをしなければならない。
売却代金・滅失による保険金請求権も物上代位の対象。
抵当不動産から生じた果実に抵当権が及ぶのはいつから?
被担保債権に不履行があった後に生じた果実(371 条)
それまでは設定者が果実を収取できる。
後順位抵当権者がいる場合、抵当権者が優先弁済を受けられる利息の範囲は?
満期となった最後の 2 年分(375 条 1 項)
後順位抵当権者や第三取得者がいない場合には、この制限は働かない。
元本については制限がない。
2. 順位と処分
根拠: 民法 373 条、374 条 1 項、376 条 1 項
同一の不動産に複数の抵当権があるとき、順位はどう決まる?
登記の前後による(373 条)
設定契約の先後ではない。
抵当権の順位を変更するには?
各抵当権者の合意と、利害関係を有する者の承諾が必要。
さらに登記をしなければ効力を生じない(374 条)
抵当権設定者(債務者)の同意は不要。
抵当権者は、抵当権を他の債権の担保にできる?
できる(376 条・転抵当)
同一債務者に対する他の債権者の利益のために、
抵当権またはその順位を譲渡・放棄することもできる。
3. 法定地上権
根拠: 民法 388 条
日本では土地と建物が別々の不動産なので、競売で持ち主が分かれると建物が土地を使う根拠を失う。
建物を壊させないために、法律が地上権を発生させる。
法定地上権が成立する要件は?
① 抵当権設定当時に建物が存在すること
② その当時、土地と建物が同一の所有者に属すること
③ 土地または建物に抵当権が設定されたこと
④ 競売により所有者が異なるに至ったこと
更地に抵当権を設定した後に建物を建てた。法定地上権は成立する?
成立しない
抵当権設定当時に建物が存在しないため。
抵当権者はこの場合、土地とともに建物を一括競売できる(389 条)が、
優先弁済を受けられるのは土地の代価からのみ。
抵当権設定後に建物が滅失し、新たに再築された。法定地上権は?
成立する(判例。ただし旧建物を基準とした範囲で)
土地に抵当権が設定された当時に建物があったことが基準になる。
土地と建物の所有者が異なる状態で土地に抵当権を設定し、その後に同一人の所有となった。法定地上権は?
成立しない
同一所有者かどうかは抵当権設定当時で判断する。
4. 抵当権と賃借人・第三取得者
根拠: 民法 387 条 1 項、395 条 1 項、378 条、379 条
抵当権に後れる賃借人は本来出ていくしかないが、それでは住む人が突然放り出される。
そこで建物に限って 6 か月の猶予を置いた(引渡しの猶予であって、賃貸借の存続ではない)。
抵当権設定登記後に賃借した建物が競売された。賃借人はどうなる?
賃借権は買受人に対抗できないが、買受けの時から 6 か月は明渡しが猶予される(395 条)
猶予されるのは建物のみ(土地には明渡猶予がない)。
猶予期間中の建物使用の対価は買受人に支払う必要がある。
抵当権に後れる賃借権を、買受人に対抗できるようにする方法は?
すべての抵当権者の同意を得て、その旨の登記をする(387 条 1 項)
抵当権者に不利益を与える者(転抵当権者など)の承諾も必要。
抵当不動産を買った第三取得者が、抵当権を消滅させる方法は?
- 代価弁済(抵当権者の請求に応じて代価を支払う・378 条)
- 抵当権消滅請求(第三取得者から金額を提示する・379 条)
抵当権消滅請求は、差押えの効力発生前にしなければならない。
主たる債務者・保証人およびその承継人は消滅請求ができない。
5. 共同抵当と根抵当権
根拠: 民法 392 条 1 項・2 項、398 条の 2 第 1 項、398 条の 4、398 条の 19
共同抵当で、複数の不動産を同時に競売した場合の負担はどうなる?
各不動産の価額に応じて債権の負担を按分する(392 条 1 項・同時配当)
一部だけを競売(異時配当)した場合、後順位抵当権者は
先順位抵当権者に代位して他の不動産の抵当権を行使できる。
根抵当権とは?
一定の範囲に属する不特定の債権を、極度額の限度で担保する抵当権(398 条の 2)
個々の債権が弁済されても根抵当権は消滅せず、繰り返し使える。
根抵当権の被担保債権の範囲・債務者を変更するには?
元本の確定前であれば、後順位抵当権者その他の第三者の承諾を得ずに変更できる(398 条の 4)
ただし元本確定前に登記をしなければ、変更しなかったものとみなされる。
極度額の変更には、利害関係人の承諾が必要(398 条の 5)。
根抵当権の元本はいつ確定する?
- 確定期日が定められていればその日
- 定めがないときは、設定から 3 年を経過した後に設定者が確定を請求(2 週間後に確定)
- 根抵当権者はいつでも確定を請求できる(請求時に確定)
- 競売手続の開始、債務者・設定者の破産手続開始決定など(398 条の 20)