債務不履行と解除
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
根拠は民法 412 条(履行期)、413 条の 2(受領遅滞中の履行不能)、415 条(債務不履行の損害賠償)、
416 条(損害賠償の範囲)、419 条(金銭債務の特則)、420 条(賠償額の予定)、
533 条(同時履行の抗弁)、536 条(危険負担)、541 条(催告解除)、542 条(無催告解除)、
543 条、545 条(解除の効果)。2026-08-01 に e-Gov の条文原文と突合済み。
0. どういう制度か
約束が守られなかったときの手当ては 2 系統ある。損害賠償(金で埋める)と
解除(契約から抜ける)で、要件が別々に組み立てられている。
いちばん問われるのは、この 2 つで「債務者の帰責事由」の扱いが逆になる点である。
| 帰責事由(債務者の落ち度) | |
|---|---|
| 損害賠償 | 必要(債務者に帰責事由がなければ請求できない) |
| 解除 | 不要(落ち度がなくても解除できる) |
| ただし債権者に帰責事由があるとき | 解除できない(543 条) |
解除が帰責事由を要らないのは、解除の目的が「相手を責めること」ではなく
自分が契約に縛られ続けるのを止めることだからである。
引っかけの分かれ目は次の 3 つ。
- 解除に債務者の帰責事由は要らない(2020 年の改正点)
- 金銭債務の不履行では、不可抗力を抗弁にできない
- 解除しても損害賠償の請求は妨げられない
1. 履行遅滞と履行不能
根拠: 民法 412 条 1 項〜3 項、412 条の 2 第 1 項、413 条の 2
債務の履行が遅滞となるのはいつから?
- 確定期限があるとき … 期限の到来した時
- 不確定期限があるとき … 期限到来後に履行の請求を受けた時、または
債務者が期限の到来を知った時のいずれか早い時 - 期限の定めがないとき … 履行の請求を受けた時
契約成立時にすでに履行が不可能だった(原始的不能)。契約は無効?
無効ではない(412 条の 2 第 2 項)
契約は有効に成立し、債権者は履行を請求できないが、
債務不履行による損害賠償を請求できる。
受領遅滞の後に、当事者双方の責めに帰することができない事由で履行不能となった。誰の責任?
債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなされる(413 条の 2 第 2 項)
したがって債権者は解除できず、反対給付(代金)の履行も拒めない。
2. 損害賠償
根拠: 民法 415 条 1 項・2 項、416 条 1 項・2 項、419 条 1 項〜3 項、420 条 1 項
賠償の範囲を「通常生ずべき損害」に絞るのは、予測できない損害まで負わせると
誰も契約を結べなくなるからである。特別事情は予見できたときだけ入る。
債務不履行による損害賠償が請求できないのはどんな場合?
その不履行が、契約その他の債務の発生原因および取引上の社会通念に照らして
債務者の責めに帰することができない事由によるものであるとき(415 条 1 項ただし書)
損害賠償の範囲は?
通常生ずべき損害(通常損害)が原則。
特別の事情によって生じた損害は、当事者がその事情を
予見すべきであったときに限り請求できる(416 条 2 項)。
金銭債務の不履行の特則は?
- 損害賠償の額は法定利率による(約定利率が高ければ約定利率)
- 債権者は損害の証明を要しない
- 債務者は不可抗力をもって抗弁とすることができない(419 条 3 項)
損害賠償額を当事者があらかじめ予定した場合、裁判所は増減できる?
できる(420 条 1 項。現行法では裁判所が額を増減することを妨げない)
賠償額の予定をしても、履行の請求や解除は妨げられない。
3. 解除
根拠: 民法 541 条、542 条 1 項、543 条、544 条 1 項、545 条 1 項〜4 項
催告を要求するのは「立て直す機会」を与えるためなので、
立て直す余地がない場合(履行不能・明確な拒絶)には催告が要らない。
催告による解除の要件は?
相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行がないこと(541 条)
ただし、期間経過時の不履行が契約および取引上の社会通念に照らして
軽微であるときは解除できない。
催告なしに解除できるのはどんな場合?
- 債務の全部の履行が不能であるとき
- 債務者が履行を明確に拒絶したとき
- 一部不能・一部拒絶で、残りだけでは契約の目的を達成できないとき
- 定期行為で時期を経過したとき
- 催告をしても契約の目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかなとき
債務不履行が「債権者の責めに帰すべき事由」による場合、解除できる?
できない(543 条)
一方、債務者の帰責事由は解除の要件ではない。
債務者に落ち度がなくても解除できる。
当事者が複数いる場合、解除はどうする?
その全員から、または全員に対してしなければならない(544 条 1 項・解除権の不可分性)
解除権が当事者の一人について消滅すれば、他の者についても消滅する。
解除の効果は?
契約はさかのぼって効力を失い、当事者は原状回復義務を負う(545 条 1 項)。
金銭を返還するときは受領の時からの利息を付ける。
金銭以外は受領の時以後に生じた果実も返還する。
損害賠償の請求は妨げられない(545 条 4 項)。
解除前に目的物を取得した第三者は保護される?
登記を備えていれば保護される(545 条 1 項ただし書)
善意・悪意は問わないが、権利保護のための登記が必要(判例)。
4. 同時履行の抗弁と危険負担
根拠: 民法 533 条、536 条 1 項・2 項
双務契約は「互いに引き換え」が前提なので、相手が出さないなら自分も出さなくてよい。
危険負担も同じ発想で、もらえないなら払わなくてよいという履行拒絶の形に整理された。
同時履行の抗弁権は、どんな場合に主張できる?
双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまで、
自己の債務の履行を拒める(533 条)
相手方の債務が弁済期にないときは主張できない。
双方の責めに帰することができない事由で履行が不能になった。代金は払う?
履行を拒むことができる(536 条 1 項)
契約は当然には消滅しないので、解除をして初めて契約関係が終わる。
債権者の責めに帰すべき事由で履行が不能になった。代金は払う?
支払いを拒めない(536 条 2 項)
ただし債務者は、自己の債務を免れたことによって得た利益を
債権者に償還しなければならない。