意思表示
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
根拠は民法 93 条(心裡留保)、94 条(虚偽表示)、95 条(錯誤)、96 条(詐欺・強迫)、
97 条(意思表示の効力発生時期)、98 条の 2(受領能力)。2026-08-01 に e-Gov の条文原文と突合済み。
0. どういう制度か
契約は「本心からの合意」でできている。本心とずれた表示がされたとき、
表意者を守るか、それを信じた相手方を守るかを場面ごとに決めているのがこの分野である。
判断は 2 段階でできている。①当事者間で有効か無効か、②第三者にどこまで主張できるか。
| 当事者間 | 善意の第三者に対抗できるか | |
|---|---|---|
| 心裡留保(93 条) | 原則有効、相手方が悪意・有過失なら無効 | 対抗できない(善意のみで足りる) |
| 虚偽表示(94 条) | 無効 | 対抗できない(善意のみで足りる) |
| 錯誤(95 条) | 取消し | 対抗できない(善意無過失が必要) |
| 詐欺(96 条) | 取消し | 対抗できない(善意無過失が必要) |
| 強迫(96 条) | 取消し | 対抗できる(第三者が善意無過失でも) |
強迫だけが第三者に勝つ。落ち度なく無理やり言わされた人を、取引の安全より優先するという判断である。
引っかけの分かれ目は次の 3 つ。
- 第三者に「登記」は要らない(善意・無過失などの主観だけで決まる)
- 錯誤は「無効」ではなく「取消し」(2020 年の改正点)
- 動機の錯誤は、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていなければ取り消せない
1. 心裡留保
根拠: 民法 93 条 1 項・2 項
冗談でも、それを真に受けた相手を犠牲にする理由はない。だから原則は表示どおり有効にし、
相手方が「本心ではない」と分かっていた場合にだけ無効にする。
冗談のつもりで売ると言った。契約はどうなる?
原則として有効
ただし相手方が、表意者の真意でないことを知っていた(悪意)か、
知ることができた(有過失)ときは無効。
心裡留保による無効を、善意の第三者に対抗できる?
できない
第三者は善意であればよく、無過失までは要求されない。
登記を備えている必要もない。
2. 虚偽表示
根拠: 民法 94 条 1 項・2 項
通謀してつくった外観を信じた人がいるなら、外観を作った側が責任を負うべきである
(権利外観法理)。この考え方は表見代理や 110 条の類推にもつながる。
売買の意思がないのに、通謀して売買契約を仮装した。契約はどうなる?
無効(94 条 1 項)
当事者間では、はじめから効力を生じない。
虚偽表示による無効を、善意の第三者に対抗できる?
できない(94 条 2 項)
第三者は善意であれば足り、無過失も登記も不要。
善意かどうかは、その第三者が利害関係を持った時点で判断する。
虚偽表示の目的物を譲り受けた悪意の第三者から、さらに善意の転得者が買った。転得者は保護される?
保護される
転得者自身が善意であれば 94 条 2 項の第三者に当たる。
逆に、善意の第三者から買った悪意の転得者も保護される(いわゆる絶対的構成)。
3. 錯誤
根拠: 民法 95 条 1 項〜4 項
勘違いした本人を守る制度だが、勘違いが重大でなければ相手方の期待を壊すには足りない。
また動機は相手方から見えないので、表示されて初めて契約の内容になる。
錯誤による意思表示の効果は?
取り消すことができる(無効ではない)
要件は、その錯誤が法律行為の目的および取引上の社会通念に照らして重要であること。
動機の錯誤(土地が値上がりすると思い込んで買った)で取り消せる?
その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていた場合に限り取り消せる
表示は明示・黙示を問わない。
表意者に重大な過失があるとき、錯誤取消しはできる?
原則としてできない
例外は 2 つ。
① 相手方が表意者の錯誤を知っていた、または重大な過失で知らなかったとき
② 相手方が同一の錯誤に陥っていた(共通錯誤)とき
錯誤による取消しを、第三者に対抗できる?
善意でかつ過失がない第三者には対抗できない
虚偽表示(善意のみ)より第三者の要件が重い。
4. 詐欺・強迫
根拠: 民法 96 条 1 項〜3 項
だまされた人には「うかつだった」という落ち度がありうるが、脅された人にはそれがない。
この落ち度の差が、第三者との勝ち負けをそのまま分けている。
第三者が詐欺を行った場合、表意者は取り消せる?
相手方がその事実を知っていた、または知ることができたときに限り取り消せる
第三者による強迫の場合は、相手方が善意無過失でも取り消せる。
詐欺による取消しを、取消し前の第三者に対抗できる?
善意でかつ過失がない第三者には対抗できない
強迫の場合は、第三者が善意無過失であっても対抗できる。
ここが詐欺と強迫の最大の違い。
取消し後に現れた第三者との関係はどう決まる?
対抗問題として処理され、登記を先に備えたほうが勝つ(判例)
取消しによって復帰した所有権と、第三者が取得した所有権が
二重譲渡に似た関係になるため。
5. 意思表示の効力発生
根拠: 民法 97 条 1 項〜3 項、98 条の 2
意思表示はいつ効力を生じる?
相手方に到達した時(到達主義)
相手方が正当な理由なく到達を妨げたときは、到達したものとみなす。
意思表示を発した後、表意者が死亡した・行為能力を失った。効力はどうなる?
効力を妨げられない(そのまま到達すれば有効)
ただし、契約の申込みについては、相手方が承諾の通知を発するまでに
その事実を知ったときは効力を生じない(526 条)。