連語と慣用句
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
0. どういうまとまりか
古文には、語を 1 つずつ訳しても意味が出ない決まった言い方があります。
2 つ以上の語が結び付いて 1 語のように働くものを連語、語の組み合わせ全体で決まった意味を表す言い回しを慣用句といいます。
学習指導要領の解説は、古典を読むために必要な語句として「語」と並べて「慣用句」を挙げています。
「え〜ず」「な〜そ」のように文末と組になる副詞は、『言語文化』のノートの「呼応の副詞」に在るので、ここでは扱いません。
| まとまり | 言い方 | 訳 |
|---|---|---|
| 「さ」を含む連語 | さるべき・さればよ・さりとて・さりとも・さるは・さらぬ | 「さ」(そう)が前の内容を受ける |
| 打消の形の連語 | あらぬ・さらぬ | 別の・それ以外の |
| 疑問・反語の連語 | いかがはせむ・なでふ | しかたがない・何という |
| 慣用句 | 音を泣く・ものもおぼえず・えもいはず・言ふもおろかなり・はかなくなる・例の | 全体で 1 つの意味 |
分かれ目は次の 3 つ。
- 「さ」が何を受けているかを前の文から決める。「さ」は「そう」で、「さり」は「さ+あり」。連語は、もとの語に分けると意味の出どころが分かる。
- 「さりとて」と「さりとも」は下に続く内容が違う。「さりとて」は打消や反語、「さりとも」は期待が続くことが多い。
- 慣用句は、分けて訳さない。「音を泣く」は「声を上げて泣く」で、「音を」と「泣く」を別々に訳さない。
1. 「さ」を含む連語
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-ア
指示の副詞「さ」(そう)にラ変動詞「あり」が付いた「さり」が、いろいろな助詞・助動詞と結び付いて連語になります。前の文の内容を受けて、話の向きを決める働きをします。
連語「さるべき」の 3 つの意味は?
そうなるのが当然な・そうなるはずの(宿縁の)、ふさわしい・適当な、立派な・相当な身分の
(例文)「さるべきにやありけむ」=そうなるはずの宿縁だったのだろうか。「さるべき人々」=しかるべき(身分のある)人々。「さ+あり+べし」の連体形。
連語「さればよ」「さればこそ」は、どんな気持ちを表すか?
やっぱりだ・思ったとおりだ
予想が当たったときに言う。「さ+あれ+ば」(そうであるから)に「よ」「こそ」が付いた形で、下に「思ひつれ」などが略されている。
連語「さりとて」と「さりとも」は、それぞれどう訳すか?
「さりとて」はそうかといって・だからといって。「さりとも」はそうであっても・いくらなんでも。
「さりとて」の下には打消や反語が続くことが多い。「さりとも」は「いくらなんでも(〜だろう)」と、望みをつなぐ気持ちを表すことが多い。
連語「さるは」は、どんな働きをするか? どう訳すか?
前に述べたことに、事情や食い違う事実を付け足す。訳はそうではあるが・実は・それというのも。
(例文)「いと若く見ゆ。さるは、四十にあまりたまへり」=たいそう若く見える。実は、四十を過ぎていらっしゃる。
連語「さらぬ」には、成り立ちの違う 2 つがある。それぞれの意味は?
然らぬ=そうでない・それ以外のと、避らぬ=避けられない。
「世の中にさらぬ別れのなくもがな千代もといのる人の子のため」(伊勢物語)の「さらぬ別れ」は、避けられない別れ=死別。
連語「あらぬ」の意味は?
別の・ほかの、意外な・とんでもない
ラ変動詞「あり」の未然形に打消の「ず」の連体形が付いた形で、下の名詞にかかる。(例文)「あらぬ方へ行く」=別の方角へ行く。
2. 疑問・反語の形の連語
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-ア
疑問の形をしていても、問いかけているのではなく、打ち消す気持ちやあきらめを表す連語です。
連語「いかがはせむ」は、どう訳すか?
どうしようか、いや、どうしようもない(=しかたがない)
「いかが」に係助詞「は」、サ変動詞「す」の未然形、推量の助動詞「む」が付いた形。多くは反語で、あきらめを表す。本当に迷って「どうしようか」と問う疑問の場合もある。
「なでふ(なんでふ)」の 2 つの使い方と、それぞれの訳は?
名詞にかかるときは何という・どんな。用言にかかるときはどうして(〜か、いや〜ない)。
「何といふ」が縮まった語。(例文)「なでふことかあらむ」=どれほどのことがあろうか(いや、たいしたことはない)。反語になることが多い。
3. 慣用句
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-ア
語の組み合わせ全体で決まった意味を表す言い回しが慣用句です。体の動きや心の状態を表すものと、はっきり言うのを避けるための言い換えがあります。
慣用句「音(ね)を泣く」は、どういう意味か?
声を上げて泣く
「音」は泣き声。「音をのみ泣く」(ただ声を上げて泣いてばかりいる)の形でよく出る。「音に泣く」とも言う。
慣用句「ものもおぼえず」は、どういう意味か?
何が何だか分からない・無我夢中だ・正気を失っている
(例文)「あまりのことに、ものもおぼえず走り出づ」=あまりのことに、無我夢中で走り出る。驚き・悲しみ・恐れで判断がつかない様子を言う。
「えもいはず」は、どういう意味か? 良い意味か悪い意味か?
言いようもないほど・何とも言えないほど。良い意味にも悪い意味にもなる。
(例文)「えもいはぬ匂ひ」=何とも言えないほどすばらしい香り。「え〜ず」(〜できない)に「も」「言ふ」が入った形で、程度のはなはだしさを表す。
「言ふもおろかなり」と「さらなり(言へばさらなり)」は、それぞれどう訳すか?
「言ふもおろかなり」は言葉では言い尽くせない。「さらなり」は言うまでもない。
「おろかなり」は不十分だ、「さらなり」は今さらめいている、の意味。「夏は夜。月のころはさらなり」(枕草子)=月の出ているころは言うまでもない。
古文で「死ぬ」ことを、はっきり言わずに表す慣用句を挙げると?
はかなくなる・いたづらになる・むなしくなる
ほかに 1 語の動詞「失す」「隠る」「みまかる」も、死ぬことの遠回しな言い方。「隠る」は高貴な人に使うことが多い。
「例の」は、下に続く語によって訳がどう変わるか?
名詞に続けば「いつもの」、用言に続けば「いつものように」。
(例文)「例の所」=いつもの場所。「例の、夜更けて来たり」=いつものように、夜が更けてからやって来た。