和歌によく出る語
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
0. どういうまとまりか
和歌は三十一文字しかないので、ある語を置くだけで、決まった場面や気持ちを呼び出すようにできています。
「袖」と言えば涙、「雁」と言えば便り、というように、詠み手と読み手が共有していた連想です。
この連想を知らないと、景色を詠んだだけの歌に見えて、込められた気持ちを読み落とします。
同じ音に 2 つの意味を重ねる掛詞(松と待つ、秋と飽き)は『言語文化』のノートの「掛詞と縁語」に在るので、ここでは語が出たときに何を思い浮かべるかを扱います。
| 語 | 連想するもの |
|---|---|
| 袖 | 涙(袖が濡れる=泣く) |
| 夢 | 現実では逢えない人に逢うところ |
| 衣かたしく | 独り寝 |
| 花 | 桜(平安時代以降) |
| 花橘 | 昔の人 |
| 雁 | 秋と春、遠くからの便り |
| 鹿 | 秋の悲しさ、妻を恋う声 |
| ほととぎす | 夏の訪れ、待ちわびる一声 |
| 露 | はかない命、涙 |
| 月 | 物思い、昔や遠い所 |
| 松 | 変わらないこと、長寿 |
| 葎・蓬・浅茅 | 荒れて、訪ねる人のない家 |
分かれ目は次の 3 つ。
- 景色の語は、気持ちの語として読む。「袖の露」は露の話ではなく、涙の話である。
- 季節と組になっている語がある。鹿は秋、ほととぎすは夏、雁は秋に来て春に帰る。
- 恋の歌では、「待つ側」の語が多い。夕暮れ・独り寝・夢は、相手が来ない、逢えないという場面を呼び出す。
1. 恋と涙を呼び出す語
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-ア
恋の歌は、逢えない嘆きを詠むものが大半です。泣くこと、待つこと、独りで寝ることを、物や時刻の語で表します。
和歌で「袖」が出てきたら、何を連想するか? 「袖を濡らす」「袖をしぼる」は何を表すか?
涙。「袖を濡らす」「袖をしぼる」は泣くこと。
涙を袖でぬぐうことから。「袖の露」「袖の時雨」も涙のこと。
恋の歌で「夢」は、どんなものとして詠まれるか?
現実では逢えない恋しい人に、逢えるところ
「思ひつつ寝ればや人の見えつらむ夢と知りせば覚めざらましを」(古今集・小野小町)=思いながら寝たのであの人が見えたのだろうか。夢だと知っていたら、目を覚まさなかったのに。
和歌の「衣かたしく(片敷く)」は、何を表すか?
独り寝
自分の衣の片袖だけを敷いて寝ること。「きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに衣かたしきひとりかも寝む」(新古今集・藤原良経)。
恋の歌に出てくる「人」は、多くだれを指すか?
恋の相手
「忘らるる身をば思はずちかひてし人の命の惜しくもあるかな」(拾遺集・右近)の「人」は、愛を誓った相手の男。ただし「ものや思ふと人の問ふまで」(平兼盛)のように、周りの人を指す歌もあるので、歌の中の役割で決める。
恋の歌で「夕暮れ」は、どんな時として詠まれるか?
訪ねてくる人を待つ時
男が女のもとへ夕方から夜に通ったので、夕暮れは待つ側の物思いが深まる時になる。「来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼くや藻塩の身もこがれつつ」(新勅撰集・藤原定家)。
2. 季節の景物が呼び出すもの
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-ア
花や鳥や獣は、季節を示すだけでなく、それぞれ決まった気持ちと結び付いています。
平安時代以降の和歌で、ただ「花」と言えば、ふつう何の花を指すか?
桜
「久方の光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ」(古今集・紀友則)の「花」は桜。万葉集では梅を詠んだ歌の方が桜より多い(最も多く詠まれた花は萩)。
和歌で「花橘(はなたちばな)」が出てきたら、何を連想するか?
昔の人・昔のこと(懐かしさ)
「五月待つ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする」(古今集・よみ人知らず)がもとになって、橘の香りは昔を思い出させるものとされた。
和歌で「雁」は、どの季節に、何を連想させる鳥か?
秋に北から来て、春に北へ帰る鳥。遠くからの便り(手紙)を連想させる。
秋に来るのを「初雁」、春に帰るのを「帰る雁」という。便りの連想は、雁の足に手紙を結んだという中国の蘇武の故事による。
和歌で「鹿」の鳴く声は、何を表すものとして詠まれるか?
秋のもの悲しさ。牡鹿が妻を恋い慕って鳴く声とされた。
「奥山に紅葉踏みわけ鳴く鹿の声聞く時ぞ秋は悲しき」(古今集・よみ人知らず)。
和歌で「ほととぎす」は、どの季節の、どんなものとして詠まれるか?
夏の訪れを告げる鳥。その一声を待ちわびるものとして詠まれる。
「ほととぎす鳴きつる方をながむればただ有明の月ぞ残れる」(千載集・藤原実定)。花橘や卯の花と取り合わせることが多い。
3. はかなさと時の流れを呼び出す語
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-ア
すぐ消えるもの、変わらないもの、荒れていくものは、人の命や時の流れを表します。
和歌で「露」は、何のたとえになるか?
はかない命・はかないもの。また涙。
すぐに消えることから。「白玉か何ぞと人の問ひし時露と答へて消えなましものを」(伊勢物語)は、露のように消えてしまえばよかった、と詠む。
和歌で「月」を見ることは、どんな気持ちと結び付くか?
物思い。また、昔や遠く離れた所・人を思うこと。
「月見れば千々にものこそ悲しけれわが身ひとつの秋にはあらねど」(古今集・大江千里)。月はどこからでも同じに見えるので、離れた場所や過ぎた時を結ぶものになる。
和歌で「松」は、「待つ」との掛詞のほかに、何を表すものとして詠まれるか?
変わらないこと・長寿
一年中緑が変わらないことから、千年も生きるものとされた。「誰をかも知る人にせむ高砂の松も昔の友ならなくに」(古今集・藤原興風)は、長生きの松を引き合いに出す。
和歌や物語で「葎(むぐら)」「蓬(よもぎ)」「浅茅(あさぢ)」が茂る家は、どんな家か?
荒れ果てて、訪ねてくる人のない家
「八重葎しげれる宿のさびしきに人こそ見えね秋は来にけり」(拾遺集・恵慶法師)。手入れをする人も通う人もいないことを、草の名で表す。