「なむ」の識別
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
0. どういうまとまりか
「なむ」の形をしたものは、主に 4 つあります。「言語文化」のノートでは、上が未然形なら終助詞、連用形なら助動詞、体言なら係助詞という入口だけを見ました。
ここでは 4 つを通して、上の語の活用形から決める手順にします。上の語で決まらないときの決め方も足します。
| 上の語 | 「なむ」の正体 | 訳 | 例 |
|---|---|---|---|
| 「死」「往(去)」 | ナ変動詞の未然形の語尾「な」+助動詞「む」 | 死ぬだろう・去ろう | 死なむ・往なむ |
| 活用語の未然形 | 願望の終助詞 | 〜てほしい | 花咲かなむ |
| 活用語の連用形 | 強意の助動詞「ぬ」の未然形「な」+助動詞「む」 | きっと〜だろう・〜てしまおう | 花咲きなむ |
| 体言・助詞・副詞・連体形 など | 強意の係助詞(結びは連体形) | (訳さない) | 花なむ咲きける |
分かれ目は次の 3 つ。
- 上が連用形でも、形容詞の「〜く」、形容動詞や断定の「〜に」、打消の「〜ず」の下の「なむ」は係助詞。助動詞の「ぬ」は「〜かり」「〜なり」「〜ざり」の形に付く。
- 未然形と連用形が同じ形の語(上一段・上二段・下一段・下二段)の下では、上の語で決まらない。誰の動作か、文末か、で決める。
- 文末の「なむ」が終助詞とは限らない。係助詞の結びが省かれて「〜になむ。」「〜となむ。」で終わる文がある。
1. 上の語から決める手順
根拠: 学習指導要領 古典探究-(2)-イ
「なむ」の識別は、上の語の活用形を言えれば、ほとんどが機械的に決まります。
確かめる順番を決めておくと、例外(連用形の下の係助詞)で迷いません。
「なむ」を識別するとき、上の語を何の順に確かめるか?
①「死」「往(去)」か、② 未然形か、③ 連用形か、④ それ以外(体言・助詞・副詞・連体形)か
① はナ変動詞の一部+「む」、② は願望の終助詞、③ は強意の助動詞「ぬ」の未然形+「む」、④ は係助詞。
「いとうつくしくなむ」「あはれになむ」「知らずなむ」の「なむ」は、上が連用形なのに助動詞「ぬ」+「む」ではない。何か?
係助詞
形容詞の「〜く」、形容動詞・断定の助動詞の「〜に」、打消の「〜ず」の下の「なむ」は係助詞。助動詞「ぬ」が付くなら「うつくしかりなむ」「あはれなりなむ」「知らざりなむ」の形になる。
2. 未然形の下と連用形の下
根拠: 学習指導要領 古典探究-(2)-イ
四段・ナ変・ラ変・サ変・カ変の動詞は、未然形と連用形の形が違うので、上の語を見れば決まります。
連用形の下の「なむ」は「ぬ」が強意、「む」が推量・意志などで、「む」の意味は主語の人称で選びます。
『更級日記』の「いつしか梅咲かなむ」の「なむ」は何か? どう訳すか?
願望の終助詞。「早く梅が咲いてほしい」
「咲か」はカ行四段活用「咲く」の未然形。「いつしか」(早く)は願望の表現と一緒に使われることが多い。
「小倉山峰のもみぢ葉心あらば今ひとたびのみゆき待たなむ」の「待たなむ」を訳すと? 待つのは誰(何)か?
「待っていてほしい」。待つのはもみじの葉
「待た」はタ行四段活用「待つ」の未然形なので、「なむ」は願望の終助詞。もみじに、次の行幸まで散らないでいてほしいと呼びかけている(『拾遺和歌集』、百人一首)。
『更級日記』の「髪もいみじく長くなりなむ」の「なむ」は何か? どう訳すか?
強意の助動詞「ぬ」の未然形「な」+推量の助動詞「む」。「髪もきっとたいそう長くなるだろう」
「なり」はラ行四段活用「なる」の連用形。未然形なら「ならなむ」になる。
例文「われは今宵、京へ帰りなむ」の「なむ」の「む」は、推量と意志のどちらか?
意志(「私は今夜、京へ帰ってしまおう」)
「帰り」は連用形なので「な」は強意の「ぬ」。主語が「われ」(1 人称)なので、「む」は推量ではなく意志になる。
3. 未然形と連用形が同じ形の語のとき
根拠: 学習指導要領 古典探究-(2)-イ
「明く」「絶ゆ」「見る」「過ぐ」のような語は、未然形と連用形が同じ形(明け・絶え・見・過ぎ)なので、上の語からは決まりません。
このときは、その動作をするのが誰かを見ます。願望の終助詞は自分以外のものに「〜てほしい」と望む語なので、話し手自身の動作には使いません。
「なむ」の上の語が、未然形か連用形か形だけでは決まらないのは、どんな活用の種類の語か?
上一段・上二段・下一段・下二段活用の語(未然形と連用形が同じ形)
カ変「来」も、漢字で書かれていると「こなむ」(来てほしい)か「きなむ」(きっと来るだろう)か、形では決まらない。
未然形と連用形が同じ形の語に付いた「なむ」は、何を手がかりに決めるか?
その動作をするのが誰か。話し手自身の動作なら助動詞「ぬ」+「む」、話し手以外の動きで「〜てほしい」と通るなら願望の終助詞
願望の終助詞は文末(引用の「と」の前を含む)に置かれるので、下に体言が続く「なむ」(例:越えなむ時)も終助詞ではない。それでも決まらないときは、前後の文脈から選ぶ。
『伊勢物語』の「はや夜も明けなむと思ひつつゐたりけるに」の「なむ」は何か?
願望の終助詞(「早く夜が明けてほしい」)
「明け」は下二段活用で、形では決まらない。夜が明けるのは話し手の動作ではなく、「はや」「思ひつつ」と願う文脈なので終助詞(芥川の段)。
「今はただ思ひ絶えなむとばかりを人づてならで言ふよしもがな」の「絶えなむ」の「なむ」は何か?
強意の助動詞「ぬ」の未然形「な」+意志の助動詞「む」(「きっと思いを断ってしまおう」)
「絶え」は下二段活用「絶ゆ」で、形では決まらない。思いを断つのは詠み手自身なので、願望の終助詞にはならない(『後拾遺和歌集』、百人一首)。
4. 係助詞の「なむ」とナ変動詞
根拠: 学習指導要領 古典探究-(2)-イ
係助詞の「なむ」は、取り除いても文が成り立ち、係り結びで文末が連体形になります。
ナ変動詞の「死なむ」「往なむ」は、逆に「なむ」を取り除くと動詞が壊れます。
『伊勢物語』の「橋を八つ渡せるによりてなむ、八橋といひける」の「なむ」が係助詞だと分かる手がかりを 2 つ挙げると?
上が助詞「て」であること、文末が連体形「ける」で結ばれていること
「なむ」を取り除いても「橋を八つ渡せるによりて、八橋といひけり」と文が成り立つ(東下りの段)。
例文「いとあはれなることになむ。」のように、文が「〜になむ。」で終わっているとき、この「なむ」は何か?
係助詞(結びの「ある」「侍る」などが省略されている)
上の「に」は断定の助動詞「なり」の連用形で、未然形ではないから願望の終助詞ではない。「〜となむ。」なら「言ふ」「聞く」などが省かれている。
「死なむ」「往なむ」の「なむ」は、助動詞「ぬ」+「む」でも終助詞でもない。どう分けるか?
ナ変動詞「死ぬ」「往ぬ」の未然形「死な」「往な」+助動詞「む」
「なむ」を取り除くと「死」「往」だけが残り、活用語の形にならない。ナ変動詞は「死ぬ」「往ぬ(去ぬ)」の 2 語だけ。
「願はくは花の下にて春死なむそのきさらぎの望月のころ」の「死なむ」の「む」の意味は?
意志(「春に死のう・死にたいものだ」)
「死な」はナ変動詞「死ぬ」の未然形。主語は詠み手自身なので意志になる(西行、『山家集』)。