身分と宮中の語
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
0. どういうまとまりか
古文は、身分の高い人をふつう名前で呼びません。住まいや官職の名で人を指すので、その語を知らないと、だれの話なのかが決まりません。
関白・受領・女房の役目や、内裏と後宮の区別は『言語文化』のノートの「平安貴族の暮らし」に在ります。ここでは、本文の中で人を指す語として出てきたときに、だれのことかを決めるための語を足します。
| 語 | 指す人・もの |
|---|---|
| 上(うへ)・内(うち) | 天皇。「上」は貴人の妻、「内」は宮中も指す |
| 院 | 上皇・法皇・女院、またその御所 |
| 春宮(東宮) | 皇太子、またその御所 |
| 女御・更衣・御息所 | 天皇の夫人たち |
| 上達部(公卿)・殿上人・地下 | 昇殿できるかどうかで分けた官人の層 |
| 局・里 | 宮仕えする人の部屋と実家 |
分かれ目は次の 3 つ。
- 場所の名は、そこに住む人を指す。「内」「院」「宮」「春宮」は、建物の話か人の話かを、敬語と動作で決める。
- 「上」は天皇とは限らない。「〜の上」と人の名に付けば貴人の妻。
- 身分の層は「昇殿できるか」で切れる。上達部と殿上人は昇殿でき、地下はできない。
1. 天皇とその周りの人を指す語
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-ア
高貴な人ほど、直接に名指しすることを避けて、住まいや位置で呼びます。最高敬語が使われていれば、まず天皇や中宮を考えます。
古文で、人を指す「上(うへ)」には主に 2 つの意味がある。何か?
天皇(主上)と、貴人の妻(北の方)。
「上の御前」「上渡らせたまふ」なら天皇。「紫の上」のように人の呼び名に付くと貴人の妻。場所としては、天皇の御座所や殿上の間も指す。
古文で「内(うち)」が指すものは? 「内に参る」はどういう意味か?
宮中(内裏)、または天皇。「内に参る」は宮中に参上する(参内する)。
「内裏」と書いて「うち」と読むこともある。
古文で「院」が指す人は?
上皇・法皇・女院(またその御所)
位を譲った天皇が上皇、出家した上皇が法皇。皇太子は「春宮(東宮)」と呼び、これも御所の名で人を指す言い方。
「女御」と「更衣」は、どちらが上の身分か?
女御が上、更衣が下。
どちらも天皇の夫人で、皇后(中宮)はふつう女御の中から立つ。「いづれの御時にか、女御、更衣あまたさぶらひたまひける中に」(源氏物語・桐壺)。
「御息所(みやすどころ)」とは、どんな人か?
天皇の寝所に仕える女御・更衣など。特に、皇子・皇女を産んだ人を言うことが多い。
のちには皇太子や親王の妃も指す。
「行幸(みゆき・ぎゃうがう)」「行啓(ぎゃうけい)」「御幸(ごかう)」は、それぞれだれのお出かけか?
行幸は天皇、行啓は皇后・皇太子など、御幸は上皇・法皇・女院。
語を見れば、出かけた人がだれかが決まる。「みゆき」は行幸にも御幸にも当てる読み方。
2. 官人の層と仕える人
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-ア
官人は、天皇のいる清涼殿の殿上の間に昇ること(昇殿)を許されるかどうかで、大きく層が分かれます。
「上達部(かんだちめ)」の別の呼び名は? どの範囲の人を言うか?
公卿(くぎょう)。大臣・大納言・中納言・参議と、三位以上の人。
参議は四位でも上達部に入る。本文に「上達部、殿上人」と並んで出てくるときは、上の層から順に挙げている。
「殿上人」に対して、昇殿を許されない官人を何というか?
地下(ぢげ)
殿上人は、四位・五位のうち昇殿を許された人と、六位の蔵人。六位以下はふつう地下で、四位・五位でも昇殿を許されなければ地下である。殿上人を「雲の上人(うへびと)」とも言う。
「頭中将(とうのちゅうじょう)」とは、どんな官職の人か?
蔵人頭(くろうどのとう)で、近衛中将を兼ねている人
蔵人頭は蔵人所を取りしきる役で、定員は 2 人。弁官を兼ねる人は「頭弁(とうのべん)」と呼ぶ。天皇のそば近くに仕え、出世の道筋にある若い貴族が多い。
「乳母(めのと)」「乳母子(めのとご)」とは、どんな人か?
乳母は母に代わって乳を与え、育てる女性。乳母子はその乳母の子。
乳母子は主人と一緒に育つので、最も信頼される従者になる。源氏物語の惟光、平家物語の今井四郎兼平(木曽義仲の乳母子)がその例。
3. 宮仕えの場所と勤め
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-ア
日記や随筆の書き手の多くは宮仕えの女房です。どこにいて、何をしている場面かを決める語を持ちます。
宮中や貴族の邸で、「局(つぼね)」とは何か?
仕えている女房や女官に与えられた、仕切られた私室
「局に下がる」は、主人の前から自分の部屋へ退くこと。部屋の名で、そこに住む人を指すこともある。
宮仕えの場面で「里(さと)」とは、どこのことか?
宮仕えをしている人の実家・自宅
宮中から実家へ下がることを「里下がり」、実家にいることを「里居(さとゐ)」という。地方や田舎の意味とは限らない。
「宿直(とのゐ)」とは何か?
夜、宮中や貴人の邸に泊まって、警護や用を務めること
女性が夜、貴人のそば近くに仕えることも言う。
「除目(ぢもく)」とは何か? 春と秋の除目は、それぞれ主に何を任命したか?
大臣以外の官職を任命する儀式。春は地方官(国司など)、秋は京の官職。
春の除目を県召(あがためし)、秋の除目を司召(つかさめし)という。枕草子は「すさまじきもの」に「除目に司得ぬ人の家」を挙げる。