近世の小説と劇
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
0. どういうまとまりか
江戸時代には、本が版木で刷られて売られるようになり、町人が読んで楽しむための小説が次々に生まれました。種類の名前が多いので、
何を題材にするかと文章と絵・会話のどれが主かで整理します。劇は、誰が言葉を口にするか(語り手か、役者か)で文章の形が変わります。
西鶴・近松・馬琴といった作者と代表作は『言語文化』のノートの文学史にあるので、ここでは種類ごとの文章の形を確かめます。
| 小説の種類 | 時期 | 題材 | 文章の形 | 主な作品 |
|---|---|---|---|---|
| 仮名草子 | 江戸時代初期 | 教訓・笑い話・怪談・名所案内など雑多 | 仮名で平易に書く | 伊曾保物語、醒睡笑、伽婢子 |
| 浮世草子 | 元禄のころから | 当時の町人や武士の暮らし | 短い話を集めた形が多い | 好色一代男、日本永代蔵、世間胸算用 |
| 読本 | 江戸時代中期から後期 | 怪異・歴史上の伝奇 | 文章が主。漢語の多い重い文体 | 雨月物語、南総里見八犬伝 |
| 洒落本 | 江戸時代中期から後期 | 遊里での遊び | 会話が主 | 通言総籬 |
| 黄表紙・合巻 | 江戸時代中期から後期 | 風刺・しゃれ、のち長編の物語 | 絵が主で、絵の余白に文を書く | 金々先生栄花夢、偐紫田舎源氏 |
| 人情本 | 江戸時代後期 | 町人の恋愛 | 会話を多く交える | 春色梅児誉美 |
| 滑稽本 | 江戸時代後期 | 庶民の日常の笑い | 会話が主 | 東海道中膝栗毛、浮世風呂 |
| 劇の種類 | 誰が言葉を口にするか | 文章の形 |
|---|---|---|
| 能 | 役者(シテ・ワキ)と地謡 | 謡曲。節を付けて謡う部分と、せりふの部分 |
| 狂言 | 役者 | 話し言葉のせりふのやり取り |
| 人形浄瑠璃 | 太夫(語り手)が語る。ふつう一人で語り分ける | 地の文とせりふの両方を語る。七五調が多い |
| 歌舞伎 | 役者 | せりふが中心の台本 |
分かれ目は次の 3 つ。
- 読本は文章を読む本、黄表紙・合巻は絵を見る本、洒落本・滑稽本は会話を読む本。
- 人形浄瑠璃は語り物、歌舞伎は役者のせりふの劇。浄瑠璃の文章には地の文がある。
- 能の文章(謡曲)は、古い和歌や物語の言葉を織り込んだ七五調。狂言は当時の話し言葉。
1. 仮名草子と浮世草子
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-イ
仮名草子と浮世草子の境目は、いま目の前の世の中を、そのまま描くかどうかです。
西鶴はもと俳諧師で、文を言い切らずに次々とつなげ、言葉を省いて飛躍する、引き締まった文体で書きました。
「仮名草子」とはどんな種類の本か?
江戸時代の初めに、仮名を使って平易に書かれ、刷って広く読まれた読み物。
内容は教訓・笑い話・怪談・名所案内・外国の話の翻訳など雑多で、人々に物事を教える役目が強い。中世の御伽草子と浮世草子の間に位置する。
浮世草子は、仮名草子とどこが違うか?
その時代の町人や武士の暮らし(恋・金もうけ・義理)を、ありのままに描く。教えることより、世の中の現実を面白く見せることが中心。
井原西鶴の好色一代男から後の、上方を中心とした小説を指す。
井原西鶴の浮世草子は、題材によって 3 つに分けられる。それぞれ何と呼び、代表作は何か?
好色物(恋愛を描く。好色一代男・好色五人女)、武家物(武士の義理や敵討ちを描く。武道伝来記・武家義理物語)、町人物(町人の金もうけと暮らしを描く。日本永代蔵・世間胸算用)。
町人物は、一話ごとに完結する短い話を集めた形になっている。
2. 読本と戯作
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-イ
江戸時代の後半には、文学の中心が上方から江戸へ移り、種類が細かく分かれます。洒落本・黄表紙・人情本・滑稽本などをまとめて戯作と呼びます(読本や合巻も含めて言うことが多い)。
「読本」とはどんな種類の本か? 名前の由来と、文体・内容の特徴は?
絵を見る本に対して、文章を読むことを主とする本。漢語を多く交えた重い文体で、中国の小説や日本の古典・歴史を下敷きに、怪異や伝奇の話を書く。
上田秋成の雨月物語は短い怪異の話を集めたもの。曲亭馬琴の南総里見八犬伝は長編で、善が報われ悪が滅びる(勧善懲悪)筋で貫かれている。
洒落本・人情本・滑稽本は、それぞれ何を題材にするか?
洒落本は遊里での遊び、人情本は町人の恋愛、滑稽本は庶民の日常の笑い。
洒落本は山東京伝、人情本は為永春水、滑稽本は十返舎一九・式亭三馬が代表。洒落本と人情本は、幕府の改革で取り締まりを受けた。
洒落本や滑稽本の文章は、形のうえでどんな特徴があるか?
会話が主で、登場人物の話し言葉をそのまま写す。地の文は短く、場面や動きの説明にとどまる。
当時の江戸の話し言葉が書き留められているので、文語文法で読もうとせず、今の話し言葉に近いものとして読む。
「黄表紙」「合巻」とはどんな種類の本か?
どちらも絵が主で、絵の余白に文を書き入れた本。黄表紙は大人向けの風刺やしゃれを盛った薄い本、合巻はそれを何冊も合わせてとじ、長い物語にしたもの。
子ども向けの絵本から発達した。黄表紙は恋川春町の金々先生栄花夢に始まるとされる。
3. 人形浄瑠璃と歌舞伎
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-イ
人形浄瑠璃は、太夫の語り・三味線・人形の 3 つで演じます。文章は太夫が語るためのもので、ふつう一人の太夫が人物を語り分けるので、せりふだけでなく地の文があります。
近松門左衛門の曽根崎心中で、二人が死に場所へ向かう場面(道行)は次のように語られます。
| 場面 | 曽根崎心中の本文 |
|---|---|
| 道行の語り出し | この世のなごり、夜もなごり。死にに行く身をたとふれば、あだしが原の道の霜。一足づつに消えて行く、夢の夢こそあはれなれ。 |
人形浄瑠璃の文章(詞章)は、歌舞伎の台本と、形のうえでどこが違うか?
人形浄瑠璃は太夫が語る語り物(ふつう一人で人物を語り分ける)なので、せりふのほかに、場面や心の中を語る地の文がある。歌舞伎は役者が演じる劇で、せりふが中心。
人形浄瑠璃として書かれた作品が、後に歌舞伎で演じられることも多い。
人形浄瑠璃の「時代物」と「世話物」は、題材と構成がどう違うか?
時代物は武士や貴族の世界の、歴史上の事件を題材にし、五段で組み立てる。世話物はその時代の町人の世界の事件を題材にし、三段(上・中・下の巻)で組み立てる。
近松門左衛門の作では、国性爺合戦が時代物、曽根崎心中・冥途の飛脚・心中天の網島が世話物。
浄瑠璃の「道行」とはどんな場面か? 文章にはどんな特徴があるか?
人物が目的の場所へ向かう道中を語る場面。心中物では、男女が死に場所へ向かう。文章は七五調で、掛詞や縁語を重ね、通っていく土地の名を織り込む。
(例)「この世のなごり、夜もなごり。死にに行く身をたとふれば、」(曽根崎心中)は、七音・五音のくり返しになっている。
4. 能と狂言の文章
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-イ
能の文章を謡曲といいます。能は、主役のシテと相手役のワキ、情景や心情をそろって謡う地謡で進みます。
狂言は能と同じ舞台で演じられますが、文章の形は対照的です。
能の「シテ」と「ワキ」は、それぞれどんな役か?
シテは主役。神・亡霊・鬼・女など、この世の者でない役が多い。ワキはシテの相手役で、旅の僧など生きている人間の役。シテの話を聞き出す役目を持つ。
シテは面を付けることが多く、ワキは面を付けない。
謡曲(能の文章)の文体には、どんな特徴があるか?
節を付けて謡う部分は七五調が基本で、古い和歌・物語・漢詩の言葉を織り込み、掛詞や縁語を多く使う。せりふの部分は「〜にて候」という言い方が多い。
(例)ワキの名乗りの決まった言い方「これは諸国一見の僧にて候。」
能の「夢幻能」は、どんな順に話が進むか?
前半で、旅の僧(ワキ)が土地の者(シテ)からその土地にまつわる昔の話を聞き、土地の者は自分こそその人の霊だとほのめかして消える。後半で、霊が本来の姿で現れ、昔を語って舞い、夜明けとともに消える。
世阿弥が形を整えた。生きている人間だけが出て、現実の時間どおりに進む能は「現在能」という。
狂言の文章は、謡曲と比べてどんな特徴があるか?
当時(室町時代)の話し言葉によるせりふのやり取りでできている。文末は「〜でござる」が多い。古い和歌や漢詩を織り込む謡曲と違い、日常の言葉で話が進む。
(例)名乗りの決まった言い方「これはこのあたりに住まひいたす者でござる。」。大名・太郎冠者など、名前を持たない人物が多い。