みならいノート

古典探究 2027年度版

近世の小説と劇

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0. どういうまとまりか

江戸時代には、本が版木で刷られて売られるようになり、町人が読んで楽しむための小説が次々に生まれました。種類の名前が多いので、
何を題材にするかと文章と絵・会話のどれが主かで整理します。劇は、誰が言葉を口にするか(語り手か、役者か)で文章の形が変わります。
西鶴・近松・馬琴といった作者と代表作は『言語文化』のノートの文学史にあるので、ここでは種類ごとの文章の形を確かめます。

小説の種類 時期 題材 文章の形 主な作品
仮名草子 江戸時代初期 教訓・笑い話・怪談・名所案内など雑多 仮名で平易に書く 伊曾保物語、醒睡笑、伽婢子
浮世草子 元禄のころから 当時の町人や武士の暮らし 短い話を集めた形が多い 好色一代男、日本永代蔵、世間胸算用
読本 江戸時代中期から後期 怪異・歴史上の伝奇 文章が主。漢語の多い重い文体 雨月物語、南総里見八犬伝
洒落本 江戸時代中期から後期 遊里での遊び 会話が主 通言総籬
黄表紙・合巻 江戸時代中期から後期 風刺・しゃれ、のち長編の物語 絵が主で、絵の余白に文を書く 金々先生栄花夢、偐紫田舎源氏
人情本 江戸時代後期 町人の恋愛 会話を多く交える 春色梅児誉美
滑稽本 江戸時代後期 庶民の日常の笑い 会話が主 東海道中膝栗毛、浮世風呂
劇の種類 誰が言葉を口にするか 文章の形
能 役者(シテ・ワキ)と地謡 謡曲。節を付けて謡う部分と、せりふの部分
狂言 役者 話し言葉のせりふのやり取り
人形浄瑠璃 太夫(語り手)が語る。ふつう一人で語り分ける 地の文とせりふの両方を語る。七五調が多い
歌舞伎 役者 せりふが中心の台本

分かれ目は次の 3 つ。

1. 仮名草子と浮世草子

根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-イ

仮名草子と浮世草子の境目は、いま目の前の世の中を、そのまま描くかどうかです。
西鶴はもと俳諧師で、文を言い切らずに次々とつなげ、言葉を省いて飛躍する、引き締まった文体で書きました。

「仮名草子」とはどんな種類の本か?

江戸時代の初めに、仮名を使って平易に書かれ、刷って広く読まれた読み物。
内容は教訓・笑い話・怪談・名所案内・外国の話の翻訳など雑多で、人々に物事を教える役目が強い。中世の御伽草子と浮世草子の間に位置する。

浮世草子は、仮名草子とどこが違うか?

その時代の町人や武士の暮らし(恋・金もうけ・義理)を、ありのままに描く。教えることより、世の中の現実を面白く見せることが中心。
井原西鶴の好色一代男から後の、上方を中心とした小説を指す。

井原西鶴の浮世草子は、題材によって 3 つに分けられる。それぞれ何と呼び、代表作は何か?

好色物(恋愛を描く。好色一代男・好色五人女)、武家物(武士の義理や敵討ちを描く。武道伝来記・武家義理物語)、町人物(町人の金もうけと暮らしを描く。日本永代蔵・世間胸算用)。
町人物は、一話ごとに完結する短い話を集めた形になっている。

2. 読本と戯作

根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-イ

江戸時代の後半には、文学の中心が上方から江戸へ移り、種類が細かく分かれます。洒落本・黄表紙・人情本・滑稽本などをまとめて戯作と呼びます(読本や合巻も含めて言うことが多い)。

「読本」とはどんな種類の本か? 名前の由来と、文体・内容の特徴は?

絵を見る本に対して、文章を読むことを主とする本。漢語を多く交えた重い文体で、中国の小説や日本の古典・歴史を下敷きに、怪異や伝奇の話を書く。
上田秋成の雨月物語は短い怪異の話を集めたもの。曲亭馬琴の南総里見八犬伝は長編で、善が報われ悪が滅びる(勧善懲悪)筋で貫かれている。

洒落本・人情本・滑稽本は、それぞれ何を題材にするか?

洒落本は遊里での遊び、人情本は町人の恋愛、滑稽本は庶民の日常の笑い。
洒落本は山東京伝、人情本は為永春水、滑稽本は十返舎一九・式亭三馬が代表。洒落本と人情本は、幕府の改革で取り締まりを受けた。

洒落本や滑稽本の文章は、形のうえでどんな特徴があるか?

会話が主で、登場人物の話し言葉をそのまま写す。地の文は短く、場面や動きの説明にとどまる。
当時の江戸の話し言葉が書き留められているので、文語文法で読もうとせず、今の話し言葉に近いものとして読む。

「黄表紙」「合巻」とはどんな種類の本か?

どちらも絵が主で、絵の余白に文を書き入れた本。黄表紙は大人向けの風刺やしゃれを盛った薄い本、合巻はそれを何冊も合わせてとじ、長い物語にしたもの。
子ども向けの絵本から発達した。黄表紙は恋川春町の金々先生栄花夢に始まるとされる。

3. 人形浄瑠璃と歌舞伎

根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-イ

人形浄瑠璃は、太夫の語り・三味線・人形の 3 つで演じます。文章は太夫が語るためのもので、ふつう一人の太夫が人物を語り分けるので、せりふだけでなく地の文があります。
近松門左衛門の曽根崎心中で、二人が死に場所へ向かう場面(道行)は次のように語られます。

場面 曽根崎心中の本文
道行の語り出し この世のなごり、夜もなごり。死にに行く身をたとふれば、あだしが原の道の霜。一足づつに消えて行く、夢の夢こそあはれなれ。

人形浄瑠璃の文章(詞章)は、歌舞伎の台本と、形のうえでどこが違うか?

人形浄瑠璃は太夫が語る語り物(ふつう一人で人物を語り分ける)なので、せりふのほかに、場面や心の中を語る地の文がある。歌舞伎は役者が演じる劇で、せりふが中心。
人形浄瑠璃として書かれた作品が、後に歌舞伎で演じられることも多い。

人形浄瑠璃の「時代物」と「世話物」は、題材と構成がどう違うか?

時代物は武士や貴族の世界の、歴史上の事件を題材にし、五段で組み立てる。世話物はその時代の町人の世界の事件を題材にし、三段(上・中・下の巻)で組み立てる。
近松門左衛門の作では、国性爺合戦が時代物、曽根崎心中・冥途の飛脚・心中天の網島が世話物。

浄瑠璃の「道行」とはどんな場面か? 文章にはどんな特徴があるか?

人物が目的の場所へ向かう道中を語る場面。心中物では、男女が死に場所へ向かう。文章は七五調で、掛詞や縁語を重ね、通っていく土地の名を織り込む。
(例)「この世のなごり、夜もなごり。死にに行く身をたとふれば、」(曽根崎心中)は、七音・五音のくり返しになっている。

4. 能と狂言の文章

根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-イ

能の文章を謡曲といいます。能は、主役のシテと相手役のワキ、情景や心情をそろって謡う地謡で進みます。
狂言は能と同じ舞台で演じられますが、文章の形は対照的です。

能の「シテ」と「ワキ」は、それぞれどんな役か?

シテは主役。神・亡霊・鬼・女など、この世の者でない役が多い。ワキはシテの相手役で、旅の僧など生きている人間の役。シテの話を聞き出す役目を持つ。
シテは面を付けることが多く、ワキは面を付けない。

謡曲(能の文章)の文体には、どんな特徴があるか?

節を付けて謡う部分は七五調が基本で、古い和歌・物語・漢詩の言葉を織り込み、掛詞や縁語を多く使う。せりふの部分は「〜にて候」という言い方が多い。
(例)ワキの名乗りの決まった言い方「これは諸国一見の僧にて候。」

能の「夢幻能」は、どんな順に話が進むか?

前半で、旅の僧(ワキ)が土地の者(シテ)からその土地にまつわる昔の話を聞き、土地の者は自分こそその人の霊だとほのめかして消える。後半で、霊が本来の姿で現れ、昔を語って舞い、夜明けとともに消える。
世阿弥が形を整えた。生きている人間だけが出て、現実の時間どおりに進む能は「現在能」という。

狂言の文章は、謡曲と比べてどんな特徴があるか?

当時(室町時代)の話し言葉によるせりふのやり取りでできている。文末は「〜でござる」が多い。古い和歌や漢詩を織り込む謡曲と違い、日常の言葉で話が進む。
(例)名乗りの決まった言い方「これはこのあたりに住まひいたす者でござる。」。大名・太郎冠者など、名前を持たない人物が多い。

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