説話と評論
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
0. どういうまとまりか
説話は人から人へ語り伝えられた短い話を書き留めたもの、評論は和歌や俳諧、能、物語について考えを述べた文章です。
どちらも入試の出典になりやすく、形が決まっています。説話は「語り出し・出来事・結び」、評論は「言いたいこと・その例」という組み立てを先に知っておくと、初めて見る文章でも話の向きが読めます。
| 説話集 | 時代 | 編者 | 集め方・文体の特徴 |
|---|---|---|---|
| 日本霊異記 | 平安時代初期 | 景戒 | 最も古い仏教説話集。漢文で書く |
| 今昔物語集 | 平安時代後期 | 未詳 | インド・中国・日本の順に分ける。漢字と片仮名で書き、漢文訓読の調子が強い |
| 宇治拾遺物語 | 鎌倉時代前期 | 未詳 | 分類せずに並べる。平仮名の多い和文で、会話が生き生きしている |
| 発心集 | 鎌倉時代前期 | 鴨長明 | 出家や往生の話を集め、編者の感想を長く添える |
| 十訓抄 | 鎌倉時代中期 | 未詳 | 十の教えを立て、教えごとに例の話を集める |
| 古今著聞集 | 鎌倉時代中期 | 橘成季 | 題目ごとに分類し、年代順に並べる |
| 沙石集 | 鎌倉時代後期 | 無住 | 身近な話や笑い話から仏の教えへ導く |
| 評論の種類 | 論じるもの | 主な作品 |
|---|---|---|
| 歌論 | 和歌 | 古今和歌集仮名序、俊頼髄脳、古来風体抄、無名抄、近代秀歌、毎月抄 |
| 連歌論 | 連歌 | 筑波問答 |
| 能楽論 | 能 | 風姿花伝、花鏡 |
| 俳論 | 俳諧 | 去来抄、三冊子 |
| 物語論 | 物語 | 無名草子、源氏物語玉の小櫛 |
分かれ目は次の 3 つ。
- 仏教説話は仏の教えを伝える話、世俗説話は人の世の出来事の話。今昔物語集と宇治拾遺物語は両方を収める。
- 説話は最後の一文に、編者の評や後日談が置かれることが多い。その話を何の例として語ったのかがそこで分かる。
- 評論は「考え」と「その例(歌・句・逸話)」の組でできている。芭蕉の俳論は芭蕉本人ではなく門人が書き留めた。
1. 説話の種類
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-イ
説話は 1 話が短く、その話だけで完結します。説話集は、そうした話を編者が集めて並べたものです。
「説話」とはどんな種類の文章か? 物語と比べて、形のうえでどこが違うか?
人々の間で語り伝えられてきた話を書き留めた、短い話。1 話ごとに完結し、心の中を細かく書くより出来事を手短に語る。
説話集はそれを集めて編んだもので、話と話の間に筋のつながりはない。
「仏教説話」と「世俗説話」はどう違うか?
仏教説話は、仏や菩薩の不思議な力、善悪の報い、出家や往生など、仏の教えを伝える話。世俗説話は、貴族・武士・庶民の逸話や笑い話、芸能の話など、人の世の出来事の話。
日本霊異記・発心集・沙石集は仏教説話集。今昔物語集・宇治拾遺物語は両方を収める。
十訓抄は、説話をどんなやり方で集めているか? 何のために書かれたか?
十の教え(徳目)を立て、教えごとに例となる話を集める。年少の人に善悪を教えるためと序に書かれている。
説話の前後に教えの言葉が付くので、その話を何の例として挙げているのかが読み取りやすい。
古今著聞集は、説話をどんなやり方で並べているか? 編者は誰か?
題目(神祇・文学・和歌・管絃など)ごとに分類し、その中を年代順に並べる。編者は橘成季。
整った分類を持つのが特徴で、貴族社会の話が多い。分類せずに並べる宇治拾遺物語と対照的。
鎌倉時代の仏教説話集のうち、鴨長明が編んだものと、無住が編んだものはそれぞれ何か? 書き方の特徴は?
鴨長明は発心集、無住は沙石集。
発心集は、出家や往生をめぐる話に編者自身の感想を長く書き添える。沙石集は、身近な話や笑い話を入口にして仏の教えへ導く。
2. 説話の語り出しと結び
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-イ
説話は、誰の話かを示す語り出し、出来事、結びの順で進みます。宇治拾遺物語の「絵仏師良秀」は、次のように始まり、次のように終わります。
| 部分 | 宇治拾遺物語「絵仏師良秀」の本文 |
|---|---|
| 語り出し(人物の紹介) | これも今は昔、絵仏師良秀といふありけり。 |
| 結び(後日談) | そののちにや、良秀がよぢり不動とて、今に人々めで合へり。 |
宇治拾遺物語には、「これも今は昔」で語り出す話が多い。「これも」は何を表しているか?
前の話に続けて、「これもまた昔の話だが」と語り継ぐ言い方。説話集が、話を次々に語り連ねていく形であることを表す。
「今は昔」だけで始まる話もある。どちらも、伝え聞いた昔の話として語り出す決まった言い方で、あとに人物の紹介が続く。
今昔物語集と宇治拾遺物語は、同じ話を収めることも多い。文体はどう違うか?
今昔物語集は漢字と片仮名で書かれ、漢文訓読の調子が強い。宇治拾遺物語は平仮名の多い和文で、会話が多く語り口がやわらかい。
今昔物語集は和漢混交文の先がけとされる。
「絵仏師良秀」は「そののちにや、良秀がよぢり不動とて、今に人々めで合へり。」で終わる。この結びは、編者の評か、後日談か? 何が読み取れるか?
後日談。良いとも悪いとも言わず、良秀の描いた不動が今も人々にほめられているという事実で結ぶ。
自分の家が焼けるのを見て喜ぶ良秀のふるまいは異様だが、結びは絵師としての腕が世に認められたことを伝える。評のことばが付かない話は、結びに置かれた事実から、何の例として語られた話かを読む。
3. 評論
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-イ
古典の評論は、今の評論のように理屈を順に積み上げるより、良い例と悪い例を挙げて比べる、師の言葉や逸話を引くという書き方が多くなります。
最初の本格的な歌論とされる古今和歌集仮名序は、「やまとうたは、人の心を種として、よろづの言の葉とぞなれりける。」(古今和歌集仮名序)と、和歌とは何かを述べるところから始まります。
古典の評論を、論じる対象で分けると、どんな種類があるか? 5 つ挙げよ。
歌論(和歌)・連歌論(連歌)・能楽論(能)・俳論(俳諧)・物語論(物語)
歌論が最も古く、数も多い。ほかの評論も、歌論の言葉や考え方を受け継いでいる。
古今和歌集仮名序は、六歌仙の歌をどんな書き方で評しているか? 在原業平の評を例に答えよ。
一人ずつ、良いところと足りないところを短く言い、たとえで言い表す。
(例)在原業平は、その心余りて、言葉足らず。しぼめる花の色なくて匂ひ残れるがごとし。(古今和歌集仮名序)。「心」(内容)と「言葉」(表現)の釣り合いで歌を評している。
無名抄は、誰が書いた、どんな形の歌論か?
鴨長明が書いた歌論で、短い章段を並べた随筆ふうの形を取る。
歌の詠み方の心得だけでなく、歌人の逸話や、師の俊恵から聞いた言葉を多く収める。理屈を述べる章段より、逸話で語る章段が多い。
去来抄と三冊子は、誰が書いた、どんな形の俳論か?
去来抄は向井去来、三冊子は服部土芳。どちらも芭蕉の門人が、師の言葉や教えを書き留めたもの。
芭蕉自身はまとまった俳論を書き残していない。去来抄は「先師いはく」と芭蕉の言葉を引き、句をめぐるやり取りを記す形が多い(先師=亡くなった師、芭蕉のこと)。
無名草子は、何を論じた評論か? どんな形で書かれているか?
物語を論じた評論で、現存する最も古い物語評論とされる。年老いた尼が、女房たちの語り合いを聞くという形で書かれている。
源氏物語を中心に、物語の巻や登場人物、さらに実在の女性たちを評する。作者は藤原俊成女とされるが確かではない。
古典の評論を読むとき、文章はどんな組み立てになっていると考えて読むか?
「考え(こうあるべきだ)」と「その例(歌・句・逸話)」の組。例のあとか前に、書き手や師の評価の言葉が置かれる。
評価の言葉(「よし」「をかし」「わろし」など)と、「〜べし」「〜べからず」の文を拾うと、何を良いとしているかが分かる。