物語の種類
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
0. どういうまとまりか
「物語」と名の付く古文は、何を語るかとどういう形で語るかによって、いくつかの種類に分かれます。
種類が分かれば、「和歌が山場になるはずだ」「この地の文は老人の語りだ」と、読む前に構えを決められます。
どの時代に誰が書いたかは『言語文化』のノートの文学史にあるので、ここでは種類ごとの形を確かめます。
| 種類 | 語るもの | 形の特徴 | 主な作品 |
|---|---|---|---|
| 作り物語 | 作りごと(虚構)の人物と筋 | 巻を重ねて筋を追う。地の文が中心で、和歌は場面の中に置かれる | 竹取物語、うつほ物語、落窪物語、源氏物語、堤中納言物語(短編を集めたもの) |
| 歌物語 | 和歌が詠まれた事情 | 短い章段の集まり。章段ごとに和歌が山場になる | 伊勢物語、大和物語、平中物語 |
| 歴史物語 | 実在の天皇・貴族の歴史 | 仮名の物語の文体で書く。編年体か紀伝体 | 栄花物語、大鏡、今鏡、水鏡、増鏡 |
| 軍記物語 | 合戦と一族の興亡 | 和漢混交文。語って聞かせる調子 | 保元物語、平治物語、平家物語、太平記 |
| 擬古物語 | 平安の物語をまねた筋 | 鎌倉時代以降に、王朝の物語の文体と筋立てにならって書く | 住吉物語、松浦宮物語 |
分かれ目は次の 3 つ。
- 作り物語は筋が中心、歌物語は和歌が中心。短い章段が和歌で山場になっていれば歌物語。
- 歴史物語は実在の人物を仮名文で語る。年月の順に書く編年体(栄花物語)と、人物ごとに書く紀伝体(大鏡)がある。
- 四鏡は、書かれた順と、扱う時代の順が違う。水鏡は三番目に書かれたが、扱う時代はいちばん古い。
1. 作り物語
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-イ
作り物語は、作者が筋を作って語る物語です。竹取物語のように不思議な出来事を語るものから、落窪物語のように貴族の家の中を描くものまで幅がありますが、虚構の人物の身の上を、巻を重ねて追っていく形は共通しています。
「作り物語」とは、形のうえでどんな物語か? 歌物語とどこが違うか?
作りごと(虚構)の人物と筋を、地の文を中心に語り進める物語。筋の展開が中心で、和歌は場面の中に置かれる。
歌物語は和歌そのものが章段の中心で、章段どうしの筋のつながりは弱い。
源氏物語は、それまでの作り物語・歌物語・仮名の日記から、それぞれ何を受け継いだとされるか?
作り物語から虚構の長い筋、歌物語から和歌を場面の山場に置いて心情を語る方法、仮名の日記から人の内面を細かく見つめる書き方。
だから源氏物語を読むときは、筋を追うだけでなく、和歌のやり取りと心の中の言葉(心内語)に目を向ける。
源氏物語の「宇治十帖」とは、全体のどの部分か? 何が変わるか?
全五十四帖の最後の十帖(橋姫から夢浮橋まで)。光源氏の死後の話で、主な人物が薫と匂宮に替わり、舞台も宇治に移る。
全体は、光源氏の栄華まで・晩年の苦悩・死後の子や孫の世代、の三つの部分に分けて読むことが多い。
2. 歌物語
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-イ
歌物語は、和歌にまつわる短い話を章段として並べたものです。歌集で歌の前に置かれる詞書(詠まれた事情の説明)が、長く伸びて物語になったと考えると形がつかめます。
伊勢物語の「東下り」の一節は、次の三つの部分でできています。
| 部分 | 伊勢物語「東下り」の本文 |
|---|---|
| 和歌が詠まれる事情(地の文) | ある人のいはく、「かきつばたといふ五文字を句の上にすゑて、旅の心をよめ。」と言ひければ、よめる。 |
| 和歌(山場) | から衣きつつなれにしつましあればはるばるきぬる旅をしぞ思ふ |
| 短い結び(地の文) | とよめりければ、みな人、乾飯の上に涙落としてほとびにけり。 |
歌物語の 1 つの章段は、ふつうどんな順に組み立てられているか?
和歌が詠まれる事情を地の文で短く語り、和歌を置き、短い結びで終える。
山場は和歌なので、地の文は「この歌がなぜ詠まれたか」を説明するために読む。和歌が 2 首以上のやり取り(贈答)になる章段も多い。
歌物語の章段は、どんな語り出しと文末で語られることが多いか? 伊勢物語を例に答えよ。
「むかし、男…」と語り出し、文末を「けり」で結ぶ。
主人公を名前で呼ばず「男」とだけ言い、語り手が伝え聞いた昔の話として語る。(例)むかし、男ありけり。その男、身をえうなきものに思ひなして、…(伊勢物語)
伊勢物語・大和物語・平中物語は、「全体を通した主人公がいるか」という点でどう違うか?
伊勢物語は在原業平を思わせる「男」の一代記のように章段が並ぶ。平中物語は平貞文を主人公とする。大和物語には全体を通した主人公がいない。
大和物語は、さまざまな実在の人の歌にまつわる話を集め、後半には姨捨山などの古い言い伝えも入る。
3. 歴史物語
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-イ
歴史物語は、実際の歴史を仮名の物語の文体で語ったものです。出来事の並べ方に、年月の順に書く編年体と、人物ごとにまとめる紀伝体の 2 つがあります。
大鏡は、全体が老人の語りを書き留めたという形なので、「先つころ、雲林院の菩提講に詣でてはべりしかば、」(大鏡)と、地の文に丁寧語が出てきます。
「歴史物語」とはどんな種類の作品か? 作り物語と見分ける手がかりは?
実在の天皇や貴族の歴史を、仮名の物語の文体で語った作品。
実在の天皇・大臣の名や官職が次々に出て、即位・入内・出産・死去などの出来事が語られていれば歴史物語と考える。漢文で書く正式な歴史書とは文体が違う。
「編年体」と「紀伝体」はどう違うか? 栄花物語と大鏡はそれぞれどちらか?
編年体は出来事を年月の順に書く。紀伝体は人物ごとの伝記をまとめて書く。栄花物語は編年体、大鏡は紀伝体。
大鏡は、天皇の伝記と大臣(藤原氏)の伝記を分けて並べる。
栄花物語と大鏡は、どちらも藤原道長の栄華を語る。語る姿勢はどう違うとされるか?
栄花物語は道長をたたえる姿勢が強く、大鏡は批判も交えて語るとされる。
栄花物語は最初の歴史物語で、作者は確かでない(はじめの三十巻は赤染衛門が書いたとされる)。大鏡も作者未詳。
大鏡は、老人たちが語り合うのを書き留めたという形を取る。そのために、文章にどんな特徴が出るか?
地の文が語り手の話し言葉になる。聞き手に向けた丁寧語「はべり」が地の文に出て、語り手自身の見聞として語られる。聞き手の若侍が口をはさみ、人物への批評も入る。
語り手は大宅世継と夏山繁樹。ふつうの物語の地の文と同じつもりで読むと、敬語の向きを取り違える。
四鏡を、書かれた順に並べると? 扱う時代の古い順に並べると?
書かれた順は大鏡・今鏡・水鏡・増鏡。扱う時代の古い順は水鏡・大鏡・今鏡・増鏡。
水鏡は三番目に書かれたが、大鏡より前の時代(神武天皇から)を扱う。増鏡は後鳥羽天皇の誕生から後醍醐天皇が隠岐から都に戻るまでを語る。
4. 軍記物語と擬古物語
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-イ
軍記物語は合戦を語る物語で、平家物語のように琵琶法師が語って広めたものがあります。耳で聞く文章なので、調子のよさと決まった型を持っています。
擬古物語は、鎌倉時代以降に平安の物語をまねて書かれたものです。
軍記物語の文体には、どんな特徴があるか?
和漢混交文で、漢語・対句・七五調に近い調子・擬声語・音便が多い。語って聞かせる調子が文体に残っている。
平家物語では「打つたる」「泣いて」のような音便の形や、武士の荒々しい会話がよく出る。和文の物語(源氏物語など)と語の選び方が違う。
軍記物語の合戦の場面に、決まった型としてよく出てくるものを 2 つ挙げると?
武者の装束・武具を並べ上げる描写と、戦う前の名乗り。
(例)名乗り「日ごろは音にも聞きつらん、今は目にも見たまへ。」(平家物語「木曽の最期」)。装束の描写は、誰の動作かを示す目印にもなる。
「擬古物語」とはどんな物語か?
鎌倉時代以降に、平安時代の作り物語(特に源氏物語)の文体や筋立てにならって書かれた物語。
住吉物語・松浦宮物語など。文体は平安の和文をまねているので、文章だけでは平安の物語と見分けにくい。