漢文の語順と構成
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
0. どういうまとまりか
漢文は中国語の文章なので、文の成分の並ぶ順序(語順)が日本語と違うところがあります。
返り点は、その違うところを日本語の順に読み直すための印です。つまり、漢文の語順を知っていれば、白文のどこで返るかの見当がつきます。
| 組み立て | 漢文の語順 | 例(白文) | 書き下し | 日本語と比べると |
|---|---|---|---|---|
| 主語と述語 | 主語+述語 | 山青 | 山青し | 同じ |
| 修飾語と被修飾語 | 修飾語+被修飾語 | 晩成(大器晩成) | 晩成す(おそく成る) | 同じ |
| 述語と目的語 | 述語+目的語 | 不待人 | 人を待たず | 逆(下から返って読む) |
| 述語と補語 | 述語+(於)+補語 | 始於足下 | 足下より始まる | 逆(下から返って読む) |
| 否定 | 否定の字+述語 | 不待 | 待たず | 逆(日本語は述語のあとに「ず」) |
| 使役 | 使+させる相手+述語 | 使臣読 | 臣をして読ましむ | 逆(日本語は述語のあとに「しむ」) |
「目的語」は訓読で「〜を」と読む語、「補語」は「〜に」「〜と」「〜より」と読む語を指します。
例のうち「山青」は杜甫の詩、「大器晩成」「始於足下」は『老子』、「不待人」は陶淵明の詩の句から取りました。「使臣読」はこのノートで作った例文です。
否定・使役・受身のそれぞれの句法の読み方は「言語文化」のノートにあります。ここでは字の置かれる位置だけを見ます。
分かれ目は次の 3 つ。
- 日本語と逆になるのは、述語のあとに目的語・補語が来るところ。主語と述語、修飾語と被修飾語の順は日本語と同じ。
- 「於」「于」の句は述語のあと、「自」「与」「以」の句は述語の前に置かれることが多い。
- 書き下し文だけを見ても、もとの語順や照応は分からないことがある。迷ったら白文に戻って、字の並びから主語・述語・目的語を確かめる。
1. 基本の語順
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-ウ
漢文には、日本語の「が」「を」「に」にあたる助詞がありません。語の働きは、主に並ぶ順序で決まります。
だから、述語を見つけ、その前にあるのが主語、あとにあるのが目的語や補語、と位置から読みます。
漢文の基本の語順のうち、日本語と同じ順のものと、逆になるものは?
同じ順は「主語+述語」「修飾語+被修飾語」。逆になるのは「述語+目的語」「述語+補語」。
逆になるところで、下の字から上の字へ返って読む。返り点はそのための印である。
陶淵明の詩の句「歳月不待人」を、主語・否定の字・述語・目的語に分けると? 書き下すと?
主語「歳月」、否定の字「不」、述語「待」、目的語「人」。書き下しは「歳月は人を待たず」。
年月は人を待ってくれない。述語「待」のあとに目的語「人」があるので、「人」から「待」へ、さらに「不」へ返って読む。
『荀子』の句「青取之於藍」で、述語「取」のあとには何がどういう順で並んでいるか?
目的語「之」、そのあとに「於」+補語「藍」の順で並ぶ。
白文「青取之於藍」、書き下し「青は之を藍より取る」。青の染料は藍という草から取る。目的語と補語の両方があるときは、目的語が先、「於」の付いた補語があとに来ることが多い。
2. 前置詞にあたる字
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-ウ
名詞の前に置かれて、場所・起点・相手・手段などを示す字があります。英語の前置詞に似た働きです。
字によって、その句が述語の前に来るか、あとに来るかの傾向が違います。
| 字 | 主な働き | 訓読での読み | 句の位置(多いほう) | 例(白文) | 書き下し |
|---|---|---|---|---|---|
| 於・于・乎 | 場所・対象・起点・比較 | 読まない(下の語に「ニ」「ヨリ」を送る) | 述語のあと | 始於足下 | 足下より始まる |
| 自・従 | 起点 | より | 述語の前 | 自遠方来 | 遠方より来たる |
| 与 | 相手 | と | 述語の前 | 与朋友交 | 朋友と交はる |
| 以 | 手段・理由 | もつて | 述語の前 | 以五十歩笑百歩 | 五十歩を以て百歩を笑ふ |
例は「始於足下」が『老子』、「自遠方来」「与朋友交」が『論語』、「以五十歩笑百歩」が『孟子』の句です。
前置詞にあたる字のうち、「於」「于」の句と、「自」「与」「以」の句とでは、述語に対する位置がどう違うことが多いか?
「於」「于」の句は述語のあと、「自」「与」「以」の句は述語の前に置かれることが多い。
「始於足下」(足下より始まる)は述語「始」のあと、「自遠方来」(遠方より来たる)は述語「来」の前。どちらも目安で、逆の位置に置かれる例もある。
『論語』の句「与朋友交」の語順はどうなっているか? 書き下して訳すと?
「与」+相手「朋友」が先にあり、そのあとに述語「交」が来る。書き下しは「朋友と交はる」。
友人と交際する。「与」は下の「朋友」から返って「と」と読む。相手を示す句が述語の前に置かれている。
3. 否定・使役・受身の字の位置
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-ウ
日本語では「〜ず」「〜しむ」「〜る」を述語のあとに付けますが、漢文ではこれらを表す字が述語の前に置かれます。
白文では、これらの字を見つけたら、そのあとに述語があると考えます。
否定の字「不」と使役の字「使」は、述語に対してどこに置かれるか? 例文「王使臣読書」で確かめると?
どちらも述語の前。使役は「使」+させる相手+述語の順になる。
例文の白文「王使臣読書」、書き下し「王、臣をして書を読ましむ」。王が臣下に書物を読ませる。「使」のすぐあとの「臣」がさせる相手、そのあとの「読」が述語、「書」が目的語。
受身を表す「見」「被」は、述語に対してどこに置かれるか? 動作をする側を「於」で示すときは、どこに置かれるか?
「見」「被」は述語の直前。「於」+動作をする側は述語のあと。
『史記』の句「信而見疑」は書き下し「信にして疑はる」で、「見」が述語「疑」の前にある。『孟子』の句「治於人」は書き下し「人に治めらる」で、動作をする側の「人」が述語「治」のあとにある。
4. 主語の省略と訓読
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-ウ
漢文でも、前の文で分かっている主語は書かれません。古文と同じく、直前の主語を引き継ぐのが基本で、話の流れで主語が替わるところを見落とさないようにします。
また、訓読は口調のよさを優先するので、書き下し文では語順や照応がはっきり示されないことがあります。
『韓非子』の「兎走触株、折頸而死。」で、「折」「死」の主語は何か?
兎。前の句の主語を引き継いでいる。
白文「兎走触株、折頸而死」、書き下し「兎走りて株に触れ、頸を折りて死す」。兎が走ってきて切り株にぶつかり、首を折って死んだ。
『韓非子』の「兎走触株、折頸而死。因釈其耒而守株、冀復得兎。」で、「釈」「守」の主語はだれか? なぜそう決まるか?
田を耕していた宋の国の人。話の初めに出てきた人物で、ここでは書かれていない。
書き下し「因りて其の耒を釈てて株を守り、復た兎を得んことを冀ふ」。そこで自分のすきを捨てて切り株を見張り、また兎を手に入れることを願った。直前の主語は兎だが、すきを捨てるのは人なので、文脈から主語が替わったと決める。
漢文の訓読では、語順や照応が明確に示されないことがある。杜甫の詩の句「国破山河在」の書き下し「国破れて山河在り」では、何が示されていないか?
主語を示す助詞と、2 つの句の関係。
主語「国」「山河」に「は」「が」を送らず、「破れて」と「て」でつなぐだけなので、順接か逆接かは書き下し文に表れない。内容から「国は壊れたが、山や河はもとのままある」と対比で読む。
5. 起承転結と対句
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-ウ
文章や詩の全体にも、決まった組み立てがあります。4 句でできた絶句は起承転結の構成をとります。
また、対句は 2 つの句の同じ位置に同じ働きの語を並べるので、片方の句がもう片方を読む手がかりになります。
絶句の構成を表す「起承転結」とは、4 つの句がそれぞれどういう役割をもつことか?
起句で歌い起こし、承句でそれを受けて続け、転句で内容を転じ、結句で全体をまとめて結ぶ。
読むときは、転句で何が変わったか(場面・時間・景色から心情へ、など)を確かめると、結句の言いたいことがつかめる。
杜甫の「絶句」(江碧鳥逾白/山青花欲然/今春看又過/何日是帰年)で、叙景から叙情に変わるのは第何句からか?
第三句(転句)から。前半の 2 句が叙景、後半の 2 句が叙情。
書き下し「江碧にして鳥逾白く、山青くして花然えんと欲す。今春看又過ぐ、何れの日か是れ帰年ならん」。川は深い緑で鳥はいっそう白く、山は青々として花は燃えだしそうに赤い。今年の春もみるみるうちにまた過ぎていく。いつになったら故郷に帰れる年が来るのか。
杜甫の「絶句」の第一句と第二句「江碧鳥逾白」「山青花欲然」は対句である。同じ位置にある語は、どう対応しているか? 対句は読むときにどう役立つか?
「江」と「山」、「碧」と「青」、「鳥」と「花」、「逾白」と「欲然」が対応する。同じ位置の語は同じ働きをするので、片方が分かればもう片方の働きが決まる。
「逾白」が鳥のようす(いっそう白い)を述べているので、「欲然」も花のようす(燃えだしそうだ)を述べる述語だと分かる。
王昌齢の詩の句「秦時明月漢時関」は、「秦の時代の明月と、漢の時代の関所」という意味ではない。どう補って読むか?
「秦・漢の時代の明月と、秦・漢の時代の関所」と、2 つの語句を互いに補い合って読む。
書き下し「秦時の明月 漢時の関」。対になった語句で、片方に書いた語をもう片方では省く書き方で、互文という。昔から変わらない月と関所、という意味になる。