漢文の重要語
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
0. どういうまとまりか
漢文の語には、今の日本語と同じ字なのに意味が違う語と、2 字をまとめて特別な読み方をする語があります。
どちらも、今の感覚で読むと意味を取り違えます。学習指導要領の解説は、古典を読むために必要な語句を「語,慣用句,成句など」としており、
このノートは漢文の語と成句を扱います。故事成語の一つ一つは「言語文化」のノートの「古典に由来する言葉」にあるので、ここでは繰り返しません。
| 語 | 読み | 漢文での意味 | 今の意味との違い |
|---|---|---|---|
| 百姓 | ひゃくせい | 人民・一般の人々 | 農民に限らない |
| 人間 | じんかん | 世の中・俗世間 | 人(ひと)のことではない |
| 故人 | こじん | 昔からの友人 | 亡くなった人ではない |
| 小人 | しょうじん | 徳の無い人・身分の低い人 | 子どものことではない |
| 丈夫 | じょうふ | 一人前の男子 | 「じょうぶ」(頑丈)ではない |
| 夫子 | ふうし | 先生(男子への敬称) | — |
| 左右 | さゆう | そば近くに仕える者 | 方向だけを言うのではない |
| 寡人 | かじん | 諸侯の自称(私) | — |
| 足下 | そっか | あなた(相手への敬称) | 足もとのことではない |
| 是非 | ぜひ | 正しいことと誤ったこと | 「ぜひとも」ではない |
| 須臾 | しゅゆ | ほんの短い間 | — |
| 所以 | ゆゑん | 理由・手段 | — |
| 於是 | ここにおいて | そこで | — |
| 以為 | おもへらく | 〜と思う | — |
| 幾何 | いくばく | どれほど | 図形の学問のことではない |
分かれ目は次の 3 つ。
- 人を指す語は、身分と向きで決まる。「寡人」は諸侯が自分を、「足下」は相手を、「夫子」は先生を、「左右」は側近を指す。
- 「是」と「以」の順で意味が変わる。於是=そこで、是以=だから、以是=これによって。
- 「以為」は「以 A 為 B」(A を B と思う)の A が省かれた形。読みは 2 通りあるが意味は同じ。
1. 人を指す語
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-ア
漢文の会話は、相手との身分の上下で、自分と相手の呼び方が変わります。呼び方が分かれば、だれがだれに話しているかが決まります。
漢文の「百姓」の読みと意味は?
ひゃくせい。人民・一般の人々。
「百」は多くの、「姓」は家の名で、多くの家々の人ということ。農民だけを指すのではない。
漢文の「故人」と「古人」は、意味がどう違うか?
故人=昔からの友人・旧友。古人=昔の人。「故人」を今の意味(亡くなった人)で読まない。
白文:西出陽関無故人。/書き下し:西のかた陽関を出づれば故人無からん。/訳:西へ向かって陽関を出てしまえば、もう親しい友もいないだろう。(王維「送元二使安西」)
漢文の「小人」の読みと意味は? 対になる語は?
しょうじん。徳の無いつまらない人(または身分の低い人)。対になる語は君子(徳のある立派な人)。
白文:君子喩於義、小人喩於利。/書き下し:君子は義に喩り、小人は利に喩る。/訳:君子は正しさに敏感で、小人は利益に敏感である。(論語「里仁」)
漢文の「夫子」「丈夫」の読みと意味は?
夫子(ふうし)=先生。論語ではふつう孔子を指す。丈夫(じょうふ)=一人前の男子。
「大丈夫」は志のしっかりした立派な男子のこと。孟子「滕文公下」に、富貴にも貧賤にも威武にも屈しない人を「此を之れ大丈夫と謂ふ」とある。
漢文の「寡人」は、だれがだれを指して言う語か?
諸侯(王)が自分を指して言う語。「徳の寡(すく)ない人」とへりくだった言い方。
白文:寡人之於国也、尽心焉耳矣。/書き下し:寡人の国に於けるや、心を尽くすのみ。/訳:私は国の政治に、ひたすら心を尽くしている。(孟子「梁恵王上」)
漢文の「足下」「左右」は、それぞれだれを指すか?
足下(そっか)=あなた(相手を敬って呼ぶ語)。左右(さゆう)=そば近くに仕える者・側近。
白文:左右皆泣、莫能仰視。/書き下し:左右皆泣き、能く仰ぎ視るもの莫し。/訳:側近の者はみな泣き、顔を上げて見ることのできる者はいなかった。(史記「項羽本紀」)
2. 今と意味が違う語
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-ア
今の日本語にもある語ほど、今の意味で読んでしまいます。読みも今と違うことがあります。
漢文の「人間」の読みと意味は?
じんかん。人の住む世の中・俗世間。
白文:別有天地非人間。/書き下し:別に天地の人間に非ざる有り。/訳:ここには、俗世間とは違う別の世界がある。(李白「山中問答」)
漢文の「須臾」の読みと意味は?
しゅゆ。ほんの短い間・しばらく。
白文:吾嘗終日而思矣、不如須臾之所学也。/書き下し:吾嘗て終日にして思ふ、須臾の学ぶ所に如かざるなり。/訳:私は以前一日じゅう考えたことがあるが、ほんのわずかな間学んだことに及ばなかった。(荀子「勧学」)
3. 読みが特別な語
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-ア
2 字をまとめて決まった読み方をする語と、今ではほとんど使わない読みの字です。形ごと覚えます。
「所以」の読みと、2 つの意味は?
ゆゑん。①理由・わけ ②手段・方法(〜するためのもの)。
自作の例文で、白文:此吾所以学也。/書き下し:此れ吾の学ぶ所以なり。/訳:これが、私が学ぶ理由である。
「於是」「是以」「以是」の読みと意味は、それぞれ?
於是=ここニおイテ(そこで)。是以=ここヲもつテ(だから・こういうわけで)。以是=これヲもつテ(これによって・これを使って)。
白文:於是項王乃悲歌慷慨。/書き下し:是に於いて項王乃ち悲歌慷慨す。/訳:そこで項王は、悲しげに歌い、憤り嘆いた。(史記「項羽本紀」)
「以為」の 2 通りの読みと意味は?
「おもへラク〜ト」と読むか、「以テ〜ト為ス」と読む。意味はどちらも**〜と思う・〜と考える**。
白文:虎以為然。/書き下し:虎以て然りと為す。/訳:虎は、そのとおりだと思った。(戦国策)
「以 A 為 B」(A を以て B と為す)の A が省かれた形。
学習指導要領の解説が、今ではほとんど使わない読みの例に挙げる「道」「釈」は、それぞれどう読むか?
道=いフ(言う・語る)。釈=ゆるス(解き放つ)。
白文:不足為外人道也。/書き下し:外人の為に道ふに足らざるなり。/訳:外の人に話すほどのことではない。(陶淵明「桃花源記」)
「釈」は「釈放」の釈で、「すツ・おク」(捨てる・置く)、「とク」(解き明かす)とも読む。
4. 成句
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-ア
成句は、古くから決まった形のまま言いならわされてきた句です。漢文の成句は、書き下し文の形で今の日本語にも入っています。
古くから決まった形のまま言いならわされてきた句を何というか? そのうち、昔の出来事や物語(故事)をもとにできたものを特に何というか?
成句。故事をもとにできたものは故事成語。
故事を持たない成句も多い。白文:見義不為、無勇也。/書き下し:義を見て為さざるは、勇無きなり。/訳:正しいことだと分かっていて行わないのは、勇気が無いのである。(論語「為政」)