句法の組み合わせ
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
0. どういうまとまりか
否定・疑問・反語・使役などの基本の句法は「言語文化」のノートにあります。実際の文章では、それらが組み合わさった形や、
字の並びが似ていて読みが分かれる形で出てきます。ここでは、基本の句法を知っている前提で、その組み合わせと読み分けを扱います。
返り点の付き方が同じでも、送り仮名と文末の助字の読み方で意味が変わるところが要点です。
| 形 | 読み | 意味 | 何の組み合わせか |
|---|---|---|---|
| 豈不〜哉 | あニ〜ずや | なんと〜ではないか | 否定+反語 |
| 敢不〜乎 | あヘテ〜ざランや | どうして〜しないことがあろうか | 否定+反語 |
| 不敢〜 | あヘテ〜ず | 決して〜しない・〜する勇気が無い | 否定 |
| 何〜之有 | なんノ〜カこレあラン | どんな〜があろうか | 反語+倒置 |
| 非不〜 | 〜ざルニあらズ | 〜しないのではない | 二重否定 |
| 未必〜 | いまダかならズシモ〜ず | 〜とは限らない | 再読文字+部分否定 |
| 無A無B | AトなクBトなク | A・B の区別なく | 否定の並列 |
| 不A不B | AセずBセず/AセずンバBセず | A も B もしない/A しなければ B しない | 否定の並列/仮定 |
| 不使AB/使A不B | AヲシテBセしメず/AヲシテBセざラしム | A に B させない/A に B しないようにさせる | 否定+使役 |
| 請〜・願〜 | こフ〜/ねがハクハ〜 | どうか〜させてほしい・〜してほしい | 願望 |
| 蓋〜・恐〜 | けだシ〜/おそラクハ〜ン | 思うに〜・おそらく〜だろう | 推量 |
| 如〜・若〜 | 〜ノ(ガ)ごとシ | 〜のようだ | 比況 |
分かれ目は次の 3 つ。
- 否定に反語が重なると、肯定を強める意味になる。反語が文の意味を裏返すので、「不」があっても「〜しない」とは訳さない。
- 「不A不B」は、並列にも仮定にもなる。前後が並ぶ事がらか、条件と結果かを見て、「〜ず」か「〜ずんば」かを決める。
- 願望は、だれの動作かで文末の読みが変わる。自分の動作なら「〜ん」、相手の動作なら命令形。
1. 否定と反語の組み合わせ
根拠: 学習指導要領 古典探究-(2)-イ
反語は、問いの形で文の意味を裏返す言い方でした。そこに否定の字が入ると、裏返って強い肯定になります。
反語の文の中に否定の字「不」が入ると、全体はどういう意味になるか? 「豈不〜哉」の読みと意味は?
強い肯定になる(〜しないことがあろうか=必ず〜する・なんと〜ではないか)。
豈不〜哉=あニ〜ずや(なんと〜ではないか)。自作の例文で、白文:豈不悲哉。/書き下し:豈に悲しからずや。/訳:なんと悲しいことではないか。
「敢不〜乎」と「不敢〜」は、読みと意味がどう違うか?
敢不〜乎=あヘテ〜ざランや(どうして〜しないことがあろうか、必ず〜する)。不敢〜=あヘテ〜ず(決して〜しない・〜する勇気が無い)。
白文:百獣之見我而敢不走乎。/書き下し:百獣の我を見て敢へて走らざらんや。/訳:獣たちが私を見て、どうして逃げないことがあろうか。(戦国策)
「不」が「敢」の下にあって文末が「〜んや」なら反語。
「何〜之有」の読みと意味は? 「之」は何をしている字か?
なんノ〜カこレあラン(どんな〜があろうか、いや何も無い)。「之」は、「有何〜」の語順をひっくり返した(倒置した)ことを示す助字。
白文:君子居之、何陋之有。/書き下し:君子之に居らば、何の陋しきことか之れ有らん。/訳:君子がそこに住めば、どんなむさくるしさがあろうか。(論語「子罕」)
「不亦〜乎」「豈不〜哉」は反語の形なのに、詠嘆として訳すのはなぜか?
否定+反語で「〜ではないか」と強い肯定になり、それが相手に同意を求める感動の言い方になるから。
どちらも「なんと〜ではないか」と訳す。「不亦〜乎」は「亦〜ずや」、「豈不〜哉」は「豈に〜ずや」と、文末を「ずや」と読むのが共通の目印。
2. 否定の紛らわしい形
根拠: 学習指導要領 古典探究-(2)-イ
否定の字が 2 つ並ぶ形は、すべてが「強い肯定」になるわけではありません。字の組み合わせごとに読みと意味を確かめます。
二重否定の「非不〜」と「無不〜」は、訳がどう違うか?
「非不〜」は「〜しないのではない」(打消を打ち消すだけで、理由は別にあると続くことが多い)。「無不〜」は「〜しないものは無い」(すべて〜する、と強い肯定になる)。
白文:非不説子之道、力不足也。/書き下し:子の道を説ばざるに非ず、力足らざればなり。/訳:先生の道をうれしく思わないのではありません、力が足りないのです。(論語「雍也」)
「未必〜」の読みと意味は?
いまダかならズシモ〜ず(〜とは限らない)。再読文字「未」と、部分否定の「必ずしも」が組み合わさった形。
自作の例文で、白文:富者未必楽。/書き下し:富める者未だ必ずしも楽しからず。/訳:金持ちが楽しいとは限らない。
「無A無B」の読みと意味は?
AトなクBトなク(A と B の区別なく・A でも B でも)。
白文:無貴無賤、無長無少。/書き下し:貴と無く賤と無く、長と無く少と無く。/訳:身分の高い低いにかかわらず、年上か年下かにかかわらず。(韓愈「師説」)
A と B には、反対の意味の語が入る。
「不A不B」には 2 通りの読み方がある。それぞれの読みと意味は?
並列なら「AセずBセず」(A も B もしない)。仮定なら「AセずンバBセず」(A しなければ B しない)。
白文:不憤不啓。/書き下し:憤せずんば啓せず。/訳:分かりたくてうずうずしているのでなければ、教え導かない。(論語「述而」)
並列は、自作の例文で「不飲不食」(飲まず食はず)。A が B の条件になっていれば仮定で読む。
3. 否定と使役の組み合わせと、願望
根拠: 学習指導要領 古典探究-(2)-イ
使役の基本の形(「使 A B」と、「命・遣」などの動詞に送り仮名の「しむ」を補う形)は「言語文化」のノートにあります。ここでは、使役に否定の字が重なる形を確かめます。否定の字がどこにあるかで、打ち消すものが変わります。
願望は、決まった字で始まり、文末の読みが 2 通りに分かれます。
「不使 A B」と「使 A 不 B」は、読みと意味がどう違うか?
不使 A B=A をして B せしめず(A に B させない)。使 A 不 B=A をして B せざらしむ(A に B しないようにさせる)。
自作の例文で、白文:不使人知之。/書き下し:人をして之を知らしめず。/訳:人にそれを知らせない。
白文:使人不知之。/書き下し:人をして之を知らざらしむ。/訳:人がそれを知らないようにさせる。
否定の字が「使」の上にあれば「させること」を打ち消し、B の上にあれば「させる中身」を打ち消す。
願望の「請〜」は、文末の読み方で意味が 2 つに分かれる。どう分かれるか?
「請ふ〜ん」なら自分の動作で「どうか〜させてください」。「請ふ〜せよ」(命令形)なら相手の動作で「どうか〜してください」。
白文:王好戦、請以戦喩。/書き下し:王戦ひを好む、請ふ戦ひを以て喩へん。/訳:王は戦いがお好きですから、どうか戦いでたとえさせてください。
白文:王請勿疑。/書き下し:王請ふ疑ふこと勿かれ。/訳:王よ、どうかお疑いなさいますな。(どちらも孟子「梁恵王上」)
願望を表す「願」「庶幾」の読みと意味は?
願=ねがハクハ、庶幾=こひねがハクハ(どうか〜したい・どうか〜してほしい)。
白文:願大王急渡。/書き下し:願はくは大王急ぎ渡れ。/訳:どうか大王さま、急いでお渡りください。(史記「項羽本紀」)
「請」と同じく、自分の動作なら文末を「〜ん」、相手の動作なら命令形で読む。
4. 推量と比況
根拠: 学習指導要領 古典探究-(2)-イ
推量は副詞として読む字と文末の「ん」で、比況は下から返って読む「ごとし」で表します。
推量を表す「蓋」「恐」の読みと意味は?
蓋=けだシ(思うに・おそらく)。恐=おそラクハ〜ン(おそらく〜だろう)。
自作の例文で、白文:恐不能至。/書き下し:恐らくは至る能はざらん。/訳:おそらく行き着くことはできないだろう。
「蓋」は句の頭に置き、書き手の推し量りや、確かとは言い切れない説明を導く。
「或」の主な 2 つの読み方と意味は?
あるイハ(あるときは・もしかすると)と、あるヒト(ある人は)。
「或 A 或 B」と並べば「或いは A し、或いは B す」(A したり B したりする・ある者は A し、ある者は B する)。
比況の「如」「若」を「ごとシ」と読むとき、下の語に送る仮名はどう決まるか?
下が名詞(体言)なら「ノ」、活用する語の連体形なら「ガ」を送る(〜のごとし・〜がごとし)。
白文:君子之交淡若水。/書き下し:君子の交はりは淡きこと水のごとし。/訳:君子の交際は、水のようにさっぱりしている。(荘子「山木」)
「ごとし」は助動詞にあたるので、このノートでは書き下し文でひらがなにしている(「若し」「如し」と漢字のまま書く本もある)。