活用の変化
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
0. どういうまとまりか
文語の動詞の活用は 9 種類、口語は 5 種類です。『言語文化』のノートでは「二段活用が一段活用に、ナ変とラ変が五段活用にまとまった」という結果を確かめました。
ここでは、どういう順で、なぜそうなったかを扱います。変化の道筋が分かると、古文の形と今の形が一本の線でつながります。
時期については学説に幅があるので、おおよその目安として読んでください。
| 変化 | 中身 | 例 | おおよその時期 |
|---|---|---|---|
| 連体形が終止形の位置を占める | 文を連体形で終えるのが普通になる | あり が ある に、す が する に | 鎌倉時代から室町時代にかけて |
| 二段活用の一段化 | ウ段の語尾が消え、イ段・エ段にそろう | 起くる が 起きる に、受くる が 受ける に | 室町時代ごろに始まり、江戸時代に広まる |
| 変格活用の合流 | ラ変・ナ変が四段と同じ形になる | 死ぬる が 死ぬ に | ラ変は中世、ナ変は近世にかけて |
| 四段から五段へ | 意志の形にオ段が現れる | 書かむ が 書かう、書こう に | 発音は室町時代から江戸時代の初めにかけて、名前は第二次世界大戦の後 |
| 形容詞の一本化 | ク活用とシク活用の違いが消える | 高し が 高い に、美し が 美しい に | 中世 |
分かれ目は次の 3 つ。
- 出発点は「連体形で文を終える」こと。ここから、ラ変の合流も、形容詞の一本化も、係り結びの衰えも起きる。
- 二段活用は 2 段階で変わる。まず終止形が連体形の形(起くる)になり、次に一段化(起きる)する。
- 四段と五段は別の活用ではない。同じ活用の、書き表し方の違いで名前が変わった。
1. 連体形が終止形の位置を占める
根拠: 学習指導要領 古典探究-(2)-ウ
平安時代にも、文を連体形で終える言い方はありました。余情や詠嘆を込める、特別な言い方です。
これが話し言葉でしだいに普通の言い切りになり、もとの終止形が使われなくなっていきました。
平安時代の「雀の子を犬君が逃がしつる。」(源氏物語)のように、文を連体形で終える言い方は、もともとどんな効果を持っていたか?
余情や詠嘆を込める効果。言い切らずに、後に言葉が続くような含みを残す。
「つる」は完了の助動詞「つ」の連体形。訳「雀の子を、犬君が逃がしてしまったの」。この言い方が中世に普通の言い切りになっていく。
鎌倉時代から室町時代にかけて進んだとされる、終止形と連体形についての変化とは何か?
連体形で文を終えるのが普通になり、連体形がもとの終止形に取って代わったこと。
その結果、終止形と連体形が同じ形になった。口語の動詞で終止形と連体形の形が同じ(「書く。」「書くとき」)なのは、ここから来ている。
サ変の「す」、カ変の「来(く)」も、連体形の「する」「くる」が言い切りの形になりました。口語で「する。」「来る。」と言い切るのはこのためです。
ラ行変格活用「あり」が、口語で五段活用(文語でいう四段活用)と同じになったのは、どの活用形が変わったからか?
終止形が「あり」から、連体形と同じ「ある」になったから。
ラ変と四段の違いは、終止形がイ段(あり)かウ段かの 1 か所だけだった。そこが連体形の「ある」に置き換わると、違いが無くなる。
2. 二段活用の一段化と変格活用の合流
根拠: 学習指導要領 古典探究-(2)-ウ
二段活用は、ウ段と、イ段またはエ段の 2 つの段にまたがっていました。
これが 1 つの段にそろい、語幹が「起き」「受け」と決まった形になるのが二段活用の一段化です。
文語の上二段動詞「起く」が、口語の「起きる」になるまでの 2 つの段階は?
第 1 段階: 終止形が連体形の形「起くる」になる。第 2 段階: ウ段の「起くる」が、イ段にそろった「起きる」になる(一段化)。
下二段の「受く」も同じ道筋で、「受くる」を経て「受ける」になった。一段化は室町時代ごろに始まり、江戸時代に広まったとされる。
二段活用の一段化では、ウ段だった語尾が、どの活用形の段にそろえられたか?
未然形・連用形の段(上二段はイ段、下二段はエ段)
「起き・起き・起く・起くる・起くれ」のうち、ウ段の 3 つが「起きる・起きる・起きれ」になり、すべてに「起き」が入る形になった。
現代語の「あり得る」を「ありうる」と読むとき、「うる」は文語のどんな形の名残か?
下二段動詞「得(う)」の連体形「うる」
口語では一段化して「える」になったが、「ありうる」「起こりうる」のような決まった言い方に文語の形が残っている。
文語でただ 1 つの下一段活用の動詞「蹴る」は、口語では何活用か?
五段活用(蹴らない・蹴ります・蹴れば)
口語の下一段活用の動詞(受ける・捨てる など)は、ほとんどが文語の下二段活用から来たもので、文語の下一段から来たものではない。
ナ行変格活用「死ぬ」は、どの活用形が変わって、口語の五段活用(文語でいう四段活用)と同じになったか?
連体形「死ぬる」が「死ぬ」に、已然形「死ぬれ」が「死ね」に変わった。
ナ変と四段の違いは、この 2 つの活用形だけだった。変化は近世にかけて進んだとされる。
3. 四段活用から五段活用へ
根拠: 学習指導要領 古典探究-(2)-ウ
学習指導要領の解説は、言葉の変化の例として「文語における動詞の四段活用が口語では五段活用に変化」したことを挙げています。
変わったのは、意志や推量を表す形の発音と、その書き表し方です。
文語の「書かむ」は、どういう道筋で口語の「書こう」になったか?
助動詞「む」が「う」に変わって「書かう」になり、「かう」の部分が長く伸ばすオ段の音で発音されるようになった。
「書かう」と書いて「かこー」と読む時期が長く続いた。今は発音どおりに「書こう」と書く。
同じ活用なのに、文語では「四段活用」、口語では「五段活用」と呼ぶのはなぜか?
現代仮名遣いで「書こう」と書くようになり、未然形に「書こ」というオ段の形が加わったから。
ア・イ・ウ・エの 4 段に、オ段を足して 5 段。歴史的仮名遣いでは「書かう」と書くのでア段のままで、口語の文法でも四段活用と呼んでいた。
ことわざ「急がば回れ」の「急がば」は、文語のどんな形か? この言い方は口語でどうなったか?
未然形「急が」+接続助詞「ば」で、仮定(もし急ぐならば)を表す。
口語ではこの言い方が使われなくなり、仮定は「急げば」(もとの已然形+ば)で表すようになった。そのため口語では已然形を仮定形と呼ぶ。
4. 形容詞と形容動詞
根拠: 学習指導要領 古典探究-(2)-ウ
形容詞と形容動詞にも、動詞と同じことが起きました。連体形が終止形の位置を占め、活用の種類がまとまります。
文語の形容詞のク活用(高し)とシク活用(美し)の区別が、口語で無くなったのはなぜか?
連体形「高き」「美しき」が終止形の位置を占め、音が変わって「高い」「美しい」になったから。
シク活用は、終止形の「美し」だけが、ほかの形(美しく・美しき・美しけれ)より「し」が 1 つ少なかった。終止形が「美しい」になると、「美し」までを語幹にして、ク活用と同じ語尾(く・い・けれ)で活用することになる。
口語の形容動詞の連体形「静かな(海)」は、文語のどんな形から来たとされるか?
ナリ活用の連体形「静かなる」の「る」が落ちた形。
文語の終止形「静かなり」は使われなくなり、口語では「静かだ」と言い切る。
文語の形容動詞のタリ活用(堂々たり)は、口語ではどうなったか?
活用する語としては使われなくなり、「堂々たる」(体言に続く形)と「堂々と」(用言に続く形)だけが残った。
「堂々たる態度」「堂々と歩く」。タリ活用は漢語に付いて、漢文を訓読する調子の文で使われた。「確固たる」「断固として」も同じ仲間。