文法の変化
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
0. どういうまとまりか
文語の文法のうち、係り結びと、数の多い助動詞は、今の言葉ではほとんど姿を消しました。
ただし消えたのではなく、数がまとまって少なくなり、一部は決まった言い回しの中に固まって残っています。
古文で覚えた助動詞が、今のどの言い方につながるかを確かめます。時期には学説の幅があるので、目安として読んでください。
| 文語 | 口語 | 今も残る文語の形 |
|---|---|---|
| 係り結び(ぞ・なむ・や・か・こそ) | 無くなった | 〜こそすれ、好きこそものの上手なれ |
| 過去・完了の き・けり・つ・ぬ・たり・り | た | けりを付ける、眠れる森 |
| 推量・意志の む | う・よう、だろう | あらん限り |
| 打消の ず | ない、ぬ・ん | 〜ざるを得ない、〜ず(に) |
| 当然・適当の べし | べきだ | 〜べく、〜べからず |
| 比況の ごとし | ようだ | 〜ごとく、〜ごとき |
| 丁寧の 侍り・候ふ | ます・です・ございます | — |
分かれ目は次の 3 つ。
- 係り結びが衰えたのは、連体形で文を終えるのが普通になったから。結びの連体形が、特別な形でなくなった。
- 過去と完了の助動詞は「たり」の系統の「た」だけが残った。文語で言い分けていた区別は、口語では文脈や別の語で表す。
- 今も使う硬い言い回しには、文語の助動詞がそのまま入っている。文語の知識で分解できる。
1. 係り結びがなくなる
根拠: 学習指導要領 古典探究-(2)-ウ
係り結びは、文中に係助詞があると文末が連体形や已然形になる決まりでした。
文末がふつうは終止形だったからこそ、連体形で結ぶことが目印になっていました。
中世に、文を連体形で終えるのが普通になると、係助詞「ぞ・なむ・や・か」の係り結びが衰えたとされる。なぜ衰えるのか?
係助詞が無くても文末が連体形になるので、「連体形で結ぶ」ことが強調や疑問の目印にならなくなったから。
「こそ」と已然形の係り結びは、それより後まで残ったとされる。
現代語の「喜びこそすれ、怒りはしない」や、ことわざ「好きこそものの上手なれ」には、文語のどんな決まりが残っているか?
係助詞「こそ」と已然形の係り結び
「すれ」はサ変「す」の已然形、「なれ」は断定の助動詞「なり」の已然形。「こそ〜已然形」で文が終わらずに続くときは、「〜けれども」という逆接の意味になる。
2. 過去・完了の助動詞が「た」になる
根拠: 学習指導要領 古典探究-(2)-ウ
文語には、過去の「き」「けり」と、完了の「つ」「ぬ」「たり」「り」がありました。
口語でこれらの役目を引き継いだのは「た」1 つです。
口語の助動詞「た」は、文語のどの助動詞の、どの形から来たとされるか?
完了・存続の助動詞「たり」の連体形「たる」の「る」が落ちた形。
連体形で文を終えるようになり、「書きたる」が「書いた」になった。「き」「けり」「つ」「ぬ」「り」は話し言葉では使われなくなった。
口語の「た」は、文語の助動詞が分けて表していた意味を 1 つで受け持っている。「昨日、本を読んだ」「今、着いた」「壁に掛けた絵」の「た」は、それぞれ何の意味か?
過去、完了、存続の順。
文語なら、過去は「き」「けり」、完了は「つ」「ぬ」、存続は「たり」「り」と言い分けられた。口語の存続は「〜ている」「〜てある」でも表す。
「長い争いにけりを付ける」の「けり」は、何から来た言葉か?
文語の助動詞「けり」
和歌や俳句、語り物の文が「〜けり」で終わることが多いことから、「けりが付く」で「物事が終わる・決着する」の意味になった。
「眠れる森の美女」の「眠れる」は、「眠ることができる」という意味ではない。文語としてはどう分解でき、どんな意味か?
四段動詞「眠る」の已然形「眠れ」+存続の助動詞「り」の連体形「る」で、「眠っている」の意味。
「り」を命令形に付くと説明する教科書もある。「迷える小羊」(迷っている小羊)も同じ形。
3. 推量と打消
根拠: 学習指導要領 古典探究-(2)-ウ
推量の「む」と打消の「ず」は、音が変わりながら今の言葉に続いています。
文語の助動詞「む」は、口語のどの助動詞になったか? 意味の受け持ちはどう変わったか?
「う」「よう」になった。口語の「う・よう」は主に意志と勧誘を表し、推量は主に「だろう」で表すようになった。
「行こう」「見よう」は意志や勧誘。推量の「雨が降ろう」は今では硬い言い方で、ふつうは「降るだろう」と言う。「だろう」も、もとをたどれば「む」を含む言い方から来ている。
「知らん」「行きません」の「ん」は、文語のどの助動詞の、どの形から来ているか?
打消の助動詞「ず」の連体形「ぬ」
連体形の「ぬ」が言い切りに使われるようになり、さらに「ん」になった。「知らぬ顔」のように「ぬ」のまま残る言い方もある。
打消の「ない」は、東国の言葉から広まったとされますが、成り立ちには説がいくつかあります。
今の共通語では「ない」が中心で、「ぬ・ん」は「〜ません」や西日本の言葉に残っています。
4. 敬語の変化
根拠: 学習指導要領 古典探究-(2)-ウ
敬語も語が入れ替わりました。とくに丁寧語は、時代ごとに主役が交替しています。
文末で丁寧さを表す語は、平安時代、鎌倉・室町時代、江戸時代以降で、主に何から何へ交替したか?
平安時代は「侍り」、鎌倉・室町時代は「候ふ」、江戸時代以降は「ます」「ござる(ございます)」
「候ふ」は平家物語の会話文や、手紙の文体(候文)で多く使われた。古文の本文で「侍り」が多いか「候ふ」が多いかは、書かれた時代の手がかりになる。
口語の丁寧の助動詞「ます」は、文語のどんな語から来たとされるか?
謙譲語「参らす」(差し上げる。補助動詞として「お〜申し上げる」)
「まゐらする」が「まらする」「まする」と形を縮めて「ます」になったとされる。謙譲語から、聞き手への丁寧さを表す語に変わった。
「ございます」のもとになった「ござる」は、どんな言い方が縮まった語か?
「御座ある」(御座=貴人のいらっしゃる所。「いらっしゃる」の意味の尊敬語)
のちに「ある」の丁寧な言い方にも使われるようになり、「ます」が付いて「ございます」になった。
5. 今の言葉に残る文語
根拠: 学習指導要領 古典探究-(2)-ウ
改まった文章やことわざ、決まり文句には、文語の助動詞がそのまま入っています。
古文で覚えた接続と活用で分解できるので、意味を取り違えずに済みます。
「認めざるを得ない」は、文語としてどう分解でき、どんな意味か?
「認め」(未然形)+打消の助動詞「ず」の連体形「ざる」+「を」+「得」(文語の下二段動詞「得(う)」の未然形)+「ない」(文語なら「ず」)で、「認めないわけにはいかない」の意味。
「認めないことを、することができない」という二重の打消。「〜ざる」は「見ざる・聞かざる・言はざる」にも残る。
「あらゆる」「いわゆる」の「ゆる」は、もとは何か? それぞれもとの意味は?
奈良時代以前に使われた、受身・可能・自発の助動詞「ゆ」の連体形。
「あらゆる」は「あり」の未然形+「ゆる」で「ありうる限りの」、「いわゆる」は「言ふ」の未然形+「ゆる」で「世に言われている」。「いわゆる」は漢文の「所謂」の読み方として受け継がれた。
「来るべき時」「水のごとく流れる」の「べき」「ごとく」は、文語のどの助動詞の、どの活用形か?
「べき」は当然・適当などの助動詞「べし」の連体形、「ごとく」は比況の助動詞「ごとし」の連用形。
口語では「べし」「ごとし」の言い切りの形はほとんど使わず、「べき」「べく」「べからず」、「ごとく」「ごとき」の形で残っている。