意味がいくつもある字
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
0. どういうまとまりか
漢文の字には、読みと意味がいくつもあるものがあります。字を見ただけでは読みが決まらず、文の中のどこに置かれているかで決まります。
「言語文化」のノートが句法として扱った読み(使役・受身・再読文字など)は繰り返さず、ここでは同じ字のほかの読みと、読みの決め方を扱います。
| 字 | 主な読み | 意味 |
|---|---|---|
| 与 | と/ともニ/あたフ/あづかル/くみス/か・や/よリ | 〜と/一緒に/与える/関わる/味方する/〜か/〜より |
| 為 | なス/なル/たリ/ためニ/つくル/る・らル | する・思う/なる/である/〜のために/作る/〜される |
| 自 | みづかラ/おのづかラ/よリ | 自分で/自然に/〜から |
| 故 | ゆゑニ/ふるシ/もと/ことさらニ/ゆゑ | だから/古い/以前・もともと/わざと/理由 |
| 已 | すでニ/やム/のみ | もう/終わる・やめる/〜だけだ |
| 如・若 | ごとシ/もシ/しク | 〜のようだ/もし/及ぶ |
| 若 | なんぢ | お前 |
| 如 | ゆク | 行く |
| 見 | みル/る・らル/あらはル/まみユ | 見る/〜される/現れる/お目にかかる |
| 且 | かツ/しばらク/まさニ〜(ント)す | そのうえ/ひとまず/今にも〜しようとする |
分かれ目は次の 3 つ。
- 下の語から返って読む字は、動詞か、「〜より」「〜のために」のように名詞を受ける語。下に名詞が無ければ、その読みは外れる。
- 動詞のすぐ前にあって返らずに読む字は、副詞(自ら・已に・且く・与に)。
- 文末にある字は、助字(与=か・や、已=のみ)。
1. 位置から読みを決める
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-ア
読みを決めるには、その字の下に何があるかと、文のどこにあるかを見ます。意味から当てはめるより先に、位置で候補を絞ります。
読みがいくつもある字に出会ったとき、文の中の位置から読みを絞る手がかりを 3 つ挙げると?
①下の名詞から返って読むか(動詞、または「より」「ために」など) ②動詞のすぐ前にあるか(副詞) ③文末にあるか(助字)
例えば「自」は、下の名詞から返れば「より」、動詞のすぐ前なら「自ら・自づから」。
2. 与
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-ア
「与」は、もとは「与える」「仲間になる」の意味の字で、そこから「〜と」「一緒に」の読みが出ています。
「A与B」の形の「与」は、どう読むか?
「と」と読み、AとBとと並べる(並列)。「与」は下の B から返って読み、書き下し文ではひらがなにする。
白文:富与貴、是人之所欲也。/書き下し:富と貴きとは、是れ人の欲する所なり。/訳:財産と高い身分とは、人がほしがるものである。(論語「里仁」)
「与」を「ともニ」と読むのは、どんな位置にあるときか?
動詞のすぐ前にあって、下から返らないとき(副詞)。意味は「一緒に」。
白文:豎子不足与謀。/書き下し:豎子与に謀るに足らず。/訳:この小僧は、一緒に事をはかるに値しない。(史記「項羽本紀」)
「与A〜」の形で A から返るなら「Aと〜す」と読む。
「与」を動詞として読むときの読みを 3 つ挙げると? それぞれの意味は?
あたフ(与える)・あづかル(関わる)・くみス(味方する・賛成する)
白文:吾与点也。/書き下し:吾は点に与せん。/訳:私は点(曽皙)に賛成しよう。(論語「先進」)
「与える」なら下に物と人、「関わる・味方する」なら下に事がらや人が来る。
3. 為
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-ア
「為」は動詞として「する・なる・である」の広い意味を持ち、そのほかに「〜のために」の読みがあります。受身の「為A所B」は「言語文化」のノートにあります。
「為」を「ためニ」と読むのは、どんな形のときか?
「為+名詞+動詞」の形で、名詞から「為」に返り、さらに下の動詞へ続くとき。「Aの為にBす」と読む。
白文:為人謀而不忠乎。/書き下し:人の為に謀りて忠ならざるか。/訳:人のために考えてあげて、真心を尽くさなかったのではないか。(論語「学而」)
「為」を「たリ」と読むとき、意味は? 「なス」「なル」とどう違うか?
「〜である」(断定)。「なス」は「〜とする・〜と思う」、「なル」は「〜になる」。
白文:爾為爾、我為我。/書き下し:爾は爾たり、我は我たり。/訳:あなたはあなた、私は私である。(孟子「公孫丑上」)
変化を表すなら「なル」、だれかの判断や行為なら「なス」、ただ等しいと述べるなら「たリ」と、文脈で決める。
4. 自・故・已
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-ア
この 3 字は、副詞として読むか、ほかの品詞として読むかが位置で分かれます。
「自」の読みを 3 つ挙げると? 位置と意味でどう決めるか?
よリ(〜から)・みづかラ(自分で)・おのづかラ(自然に)
下の名詞から返れば「より」。動詞のすぐ前なら副詞で、意志のある行いなら「自ら」、なりゆきなら「自づから」。
白文:桃李不言、下自成蹊。/書き下し:桃李言はざれども、下自づから蹊を成す。/訳:桃やすももは何も言わないが、その下には自然に小道ができる。(史記「李将軍列伝」)
「故」の読みを 4 つ挙げると? それぞれの意味は?
ゆゑニ(だから)・ふるシ(古い・昔からの)・もと(以前・もともと)・ことさらニ(わざと)
句の頭で前の文を受ければ「故に」、名詞の前なら「故き」(故人・故郷)、動詞の前の副詞なら「故(もと)・故より」か「故に(ことさらに)」。名詞として「ゆゑ」(理由)とも読む。
「已」の読みを 3 つ挙げると? 位置でどう決めるか?
すでニ(動詞の前・副詞)/やム(述語になる動詞)/のみ(文末の助字)
白文:漢皆已得楚乎。/書き下し:漢皆已に楚を得たるか。/訳:漢はもうすっかり楚を手に入れたのか。(史記「項羽本紀」)
白文:死而後已。/書き下し:死して後已む。/訳:死んで初めて終わる。(論語「泰伯」)
5. 如・若・見・且
根拠: 学習指導要領 古典探究-(1)-ア
「如」「若」は句法の字としてよく出てきますが、共通の読みと、ふつう片方にしか無い読みがあります。「見」「且」も、句法(受身・再読文字)以外の読みを押さえます。
「如」「若」に共通する読み「ごとシ」「もシ」「しク」は、位置でどう見分けるか?
下の語から返って読み、文を言い切っていれば「ごとし」。句の頭にあって、下に条件の句が続けば「もし」。上に「不」「莫」があれば「しく」(不如=如かず、莫若=若くは莫し)。
「ごとし」は下の語に「ノ・ガ」、「もし」は条件の句の終わりに「バ」と、送り仮名も変わる。
「若」にはあって「如」にはふつう無い読みと、「如」にはあって「若」にはふつう無い読みは?
「若」は「なんぢ」(お前)、「如」は「ゆク」(行く)。
白文:吾翁即若翁。/書き下し:吾が翁は即ち若の翁なり。/訳:私の父は、つまりお前の父である。(史記「項羽本紀」)
白文:沛公起如廁。/書き下し:沛公起ちて廁に如く。/訳:沛公は立って手洗いに行った。(史記「項羽本紀」)
「見」を「まみユ」「あらはル」と読むとき、それぞれの意味は?
まみユ=(目上の人に)お目にかかる。あらはル=現れる(「現」と同じ)。
白文:孟子見梁恵王。/書き下し:孟子梁の恵王に見ゆ。/訳:孟子が梁の恵王にお目にかかった。(孟子「梁恵王上」)
白文:図窮而匕首見。/書き下し:図窮まりて匕首見る。/訳:地図を開き終わると、あいくちが現れた。(史記「刺客列伝」)
「且」を「かツ」と読むときと、「しばらク」と読むときの意味は?
かツ=そのうえ・しかも(2 つの事がらを並べる)。しばらク=ひとまず・とりあえず。
白文:不義而富且貴、於我如浮雲。/書き下し:不義にして富み且つ貴きは、我に於いて浮雲のごとし。/訳:正しくないやり方で金持ちになり、そのうえ身分が高くなるのは、私には浮き雲のようなものだ。(論語「述而」)
「しばらく」は自作の例文で、白文:且待之。/書き下し:且く之を待て。/訳:ひとまずそれを待て。