反実仮想と仮定の表現
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
0. どういうまとまりか
古文の「もし〜ならば」には、これから起こりうることを仮定する言い方と、事実に反することを仮定する言い方(反実仮想)があります。
反実仮想の基本の形は「言語文化」のノートの「推量の助動詞」にあります。ここでは、形の広がりと、そこから何を読み取るかを扱います。
| 形 | 訳 | ひとこと |
|---|---|---|
| 〜ましかば…まし | もし〜だったら…だろうに | 散文にも和歌にも出る |
| 〜ませば…まし | (同じ) | 「ませ」は「まし」の古い未然形。和歌に出る |
| 〜せば…まし | (同じ) | 和歌に多い |
| 未然形+ば…まし | (同じ) | 結びが「む」なら、ただの仮定 |
| 〜ましを・〜ましものを | 〜だったらよかったのに | 実現しなかったことへの後悔 |
| 疑問の語+まし | 〜しようかしら | ためらいの意志 |
| 已然形+ば | 〜するといつも | 恒常条件。仮定ではない |
| 〜ずは・〜くは | 〜ないならば・〜ならば | 「ば」の形をしていない仮定 |
分かれ目は次の 3 つ。
- 反実仮想は、裏にある事実まで読む。「もし〜だったら」と言うのは、実際はそうでないからである。
- 「未然形+ば」は、結びが「まし」なら反実仮想、「む」ならふつうの仮定。
- 「已然形+ば」は仮定にならない。「〜するといつも」と訳す恒常条件も、すでに成り立っていることを述べる確定条件である。
1. 反実仮想の形
根拠: 学習指導要領 古典探究-(2)-イ
反実仮想の助動詞「まし」は特殊型の活用をし、仮定の部分に未然形「ましか」「ませ」が出ます。
仮定の部分の形は主に 4 通りに書かれますが、訳はどれも「もし〜だったら…だろうに」です。
「鏡に色・形あらましかば、映らざらまし」を訳すと?
「もし鏡に色や形があったなら、(物の姿は)映らないだろうに」
「〜ましかば…まし」の反実仮想。「ざら」は打消「ず」の未然形(徒然草)。
反実仮想の文を読んだら、訳のほかに何を取り出すか? 「鏡に色・形あらましかば、映らざらまし」で言うと?
仮定を裏返した「事実」。鏡には色も形も無い。だから物の姿が映る
反実仮想は、事実と逆のことを仮定している。裏返すと、筆者が言いたい事実になる。
例文「君とともに見ませば、うれしからまし」の「ませ」は何か? どう訳すか?
反実仮想の「まし」の未然形。「もしあなたと一緒に見るのだったら、うれしいだろうに」
「〜ませば…まし」は「〜ましかば…まし」と同じ意味の古い形。実際は一緒に見ていない。
「夢と知りせば覚めざらましを」を訳すと?
「夢だと知っていたなら、目を覚まさなかっただろうに」
「〜せば…まし」の反実仮想。実際は夢と知らずに目を覚ましてしまった。「〜せば」の形は和歌に多い(古今和歌集・小野小町)。
例文「翼あらば、飛びて行かまし」と「翼あらば、飛びて行かむ」は、どう違うか?
「まし」で結ぶと、翼が無いという事実に反する仮定(飛んで行くだろうに)。「む」で結ぶと、これから起こりうる仮定(もし翼があれば、飛んで行こう)
同じ「未然形+ば」でも、結びの助動詞で読み方が変わる。
2. 「まし」が表す後悔とためらい
根拠: 学習指導要領 古典探究-(2)-イ
「まし」は、仮定の部分を伴わずに出ることもあります。そのときは、下に続く語と、一緒に使われる語を見ます。
「〜ましを」「〜ましものを」は、どんな気持ちを表すか? どう訳すか?
実現しなかったことへの後悔や不満。「〜だったらよかったのに」「〜すればよかったのに」
「まし」に、逆接や詠嘆を表す「を」「ものを」が付いた形。
「露と答へて消えなましものを」を訳すと?
「『あれは露です』と答えて、(私も露のように)消えてしまえばよかったのに」
「な」は強意の「ぬ」の未然形。女を失った男が、あのとき死んでしまえばよかったと悔やむ歌(伊勢物語・芥川)。
「これに何を書かまし」の「まし」が、反実仮想でなく、ためらいの意志だと分かるのはなぜか?
疑問の語「何」と一緒に使われ、仮定の部分が無く、書くのが話し手自身だから
「これに何を書こうかしら」。紙を前にした中宮の言葉(枕草子)。
3. 「已然形+ば」の恒常条件
根拠: 学習指導要領 古典探究-(2)-イ
「已然形+ば」のうち、「〜するといつも」と訳す恒常条件は、現代語の「〜すれば」に形が似ているので、仮定と取り違えやすいところです。
「已然形+ば」を、原因・理由や偶然でなく、恒常条件(〜するといつも)と読む手がかりは何か?
後ろに続く部分が、1 回きりの出来事でなく、くり返し起こることや一般に成り立つことを述べている
1 回きりの出来事なら、原因・理由(〜ので)か偶然(〜したところ)で訳す。
「瓜食めば子ども思ほゆ」を訳すと? 「食めば」はどの条件か?
「瓜を食べると(いつも)子どものことが思われる」。恒常条件
「食め」は四段動詞「食む」の已然形。「もし食べたら」という仮定ではない(万葉集・山上憶良)。
4. 「ずは」「くは」の仮定
根拠: 学習指導要領 古典探究-(2)-イ
仮定は「未然形+ば」だけではありません。打消の「ず」や形容詞では、連用形に係助詞「は」が付いた形で仮定を表します。
見た目に「ば」が無いので、仮定だと気づきにくい形です。
例文「命惜しくは、とく逃げよ」の「惜しくは」は、どういう形で、どう訳すか?
形容詞「惜し」の連用形「惜しく」+係助詞「は」。「もし命が惜しいならば」
形容詞や形容詞型の助動詞は、「〜くは」の形で仮定を表す(「〜べくは」「〜まほしくは」など)。
「〜ずは」「〜くは」を、仮定だと見抜く手がかりは何か?
「ず」や形容詞の連用形に「は」が付き、後ろに意志・命令・推量などの「これからのこと」を言う部分が続いている
「雨降らずは、行かむ」は「もし雨が降らないならば、行こう」。後に「ずば」「くば」と濁っても読まれた。
例文「雨降らずは、花を見に行かまし」は、どう訳すか? 事実はどうなっているか?
「もし雨が降っていなかったら、花を見に行くだろうに」。実際は雨が降っているので、行かない
「〜ずは」の仮定を「まし」で受けた反実仮想。「未然形+ば…まし」と同じ読み方をする。