「む」「べし」の意味の決め方
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
0. どういうまとまりか
「む」と「べし」は、1 語で 5 つ、6 つの意味を持つ助動詞です。意味の一覧は「言語文化」のノートの「推量の助動詞」にあります。
ここで持つのは、目の前の「む」「べし」がそのうちのどれかを決める手順です。
| 見るところ | 「む」 | 「べし」 |
|---|---|---|
| 文中の連体形(下に体言・助詞) | 婉曲・仮定 | (人称と文脈で決める) |
| 主語が一人称 | 意志 | 意志 |
| 主語が二人称 | 適当・勧誘 | 適当・命令 |
| 主語が三人称 | 推量 | 推量・当然 |
| 下に打消がある | — | 可能を考える(禁止のこともある) |
分かれ目は次の 3 つ。
- 「む」は、人称より先に位置を見る。文中の連体形なら婉曲・仮定で、人称は関係がない。
- 人称による決め方は目安であって、規則ではない。一人称でも、自分の意志でどうにもならないことなら推量になる。
- 「じ」は「む」の、「まじ」は「べし」の打消なので、肯定に戻して意味を決めてから打ち消すと決めやすい。
1. 「む」は位置を先に見る
根拠: 学習指導要領 古典探究-(2)-イ
「む」は四段型の活用をし、文末にも文中にも出ます。文の途中で体言や助詞に続いている「む」は、人称を考える前に婉曲・仮定と決まります(引用の「と」「とて」の前の「む」は、文末と同じに扱います)。
「む」の意味を決めるとき、主語の人称より先に確かめることは何か?
その「む」が文末にあるか、文中の連体形(下に体言や助詞が続く形)か
文中の連体形なら婉曲・仮定。文末(引用の「と」の前を含む)なら、そこで初めて主語の人称を見る。
文中の連体形の「む」を、婉曲と仮定に分ける目安は?
下に体言が続けば婉曲(〜ような)、下に助詞「は・に・も・こそ」などが続けば仮定(もし〜としたら、それ)
はっきり分かれないことも多く、どちらで訳しても通る文がある。
「思はむ子を法師になしたらむこそ心苦しけれ」の「なしたらむこそ」の「む」の意味は? どう訳すか?
仮定。「(かわいく思う子を)もし法師にしたとしたら、それは気の毒だ」
下に体言でなく係助詞「こそ」が続く。上の「思はむ子」の「む」は、体言「子」に続くので婉曲(枕草子)。
2. 文末の「む」と人称の目安
根拠: 学習指導要領 古典探究-(2)-イ
文末の「む」は、主語が一人称なら意志、二人称なら適当・勧誘、三人称なら推量になることが多くあります。
ただしこれは目安です。その動作を、主語が自分の意志でできるかを合わせて確かめます。
「女もしてみむとてするなり」の「む」の意味は? 決め手は何か?
意志(「書いてみよう」)
「とて」の前は書き手自身が心に思った内容で、主語は一人称。「〜むと思ふ」「〜むとす」「〜むとて」の「む」は意志が多い(土佐日記)。
主語が一人称なのに、「む」が意志でなく推量になるのは、どんなときか?
自分の意志ではどうにもならない動作や状態を言うとき
例文「我もやがて老いむ」は、「私もそのうち年を取るだろう」。年を取ることは決心してすることではないので、意志にはならない。
主語が二人称の「む」で、適当・勧誘になりやすい決まった形は?
「こそ〜め」「〜てむや」「〜なむや」
「こそ〜め」は「〜するのがよい」、「〜てむや」「〜なむや」は「〜してくれないか」と相手に勧める言い方になることが多い。
「とくこそ試みさせ給はめ」の「め」の意味は? どう訳すか?
適当・勧誘。「早くお試しになるのがよい」
「め」は「む」の已然形で「こそ」の結び。病気の光源氏に、北山の聖の祈りを早く受けるよう、人が勧める言葉(源氏物語・若紫)。
会話文の中で、主語が書かれていない文末の「む」は、どういう順で意味を決めるか?
先に、その動作を誰がするのかを文脈から補い、それから人称の目安を当てる
話し手自身の動作なら意志、聞き手の動作なら適当・勧誘、その場にいない人や物事なら推量をまず考える。
3. 「べし」の決め方
根拠: 学習指導要領 古典探究-(2)-イ
「べし」の 6 つの意味は、「そうなるのが当然だ」という 1 つの芯から分かれたものです。
人称の目安は「む」と同じように使えますが、境目がはっきりしない文が「む」より多くあります。
「べし」の意味を決めるときの目安を、主語の人称と下に続く語で言うと?
一人称なら意志、二人称なら適当・命令、三人称なら推量・当然が多い。下に打消があれば可能を考える
人称で決まらないときは、当然(〜はずだ・〜なければならない)で訳して通るかを確かめる。
「この一矢に定むべしと思へ」の「べし」の意味は? 決め手は何か?
意志(「この一本の矢で決めよう」)
「と思へ」の前は、矢を射る本人が心に思う内容なので、主語は一人称。弓の師が弟子に心構えを教える言葉(徒然草)。
「羽なければ、空をも飛ぶべからず」の「べから」の意味は? 決め手は何か?
可能(「羽が無いので、空を飛ぶこともできない」)
下に打消の「ず」がある。「べし」の可能は、打消を伴って「〜できない」となることが多い(方丈記)。「べからず」は、相手に向かって言えば禁止(〜てはならない)にもなる。
「べし」の意味が、1 つに決めにくいことがあるのはなぜか? そのときはどうするか?
6 つの意味が「当然そうなる」という 1 つの芯から分かれていて、境目がはっきりしないから
推量と当然、当然と適当は重なりやすい。訳して明らかに通らないものを外し、残ったものの中から文脈に合うものを選ぶ。
4. 「じ」「まじ」は肯定に戻す
根拠: 学習指導要領 古典探究-(2)-イ
「じ」「まじ」が訳しにくいときは、打消を外した形で考えます。「まじ」は「べし」と同じ形容詞型の活用をします。
「じ」「まじ」の意味が決めにくいとき、どういう手順で考えると決めやすいか?
「じ」を「む」に、「まじ」を「べし」に戻して意味を決め、それを打ち消す
例文「この川は深くて、渡るまじ」は、「渡るべし」なら可能(渡れる)なので、打ち消して不可能(渡ることができない)。
話し手が聞き手に向かって「このこと、人に語るまじ」と言った。「まじ」の意味は?
禁止(「このことを、人に話してはならない」)
語るのは聞き手(二人称)。「べし」に戻すと命令「語るべし」なので、その打消で禁止になる。語るのが話し手自身なら、打消意志(話すまい)。