「し・しか・せ」の識別
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
0. どういうまとまりか
過去の助動詞「き」は、未然形「せ」・連体形「し」・已然形「しか」と、終止形とまったく違う形に活用します。
この 3 つの形は、サ変動詞「す」の活用形(せ・し)や、助詞・副詞と形が重なります。過去の「き」かどうかを軸にして見分けます。
| 形 | 正体 | 見分ける手がかり | 例 |
|---|---|---|---|
| し | 過去の助動詞「き」の連体形 | 上が連用形。下に体言、または係り結びの結び | 見し人 |
| し | サ変動詞の連用形 | 「する」の意味がある。下に「て・けり・たり」など | 学問しけり |
| し | 強意の副助詞 | 取り除いても文が成り立つ | 名にし負はば |
| し | 形容詞・動詞の一部 | 取り除くと語が壊れる | 悲しき・申しけり |
| しか | 過去の助動詞「き」の已然形 | 上が連用形。下に「ば・ど・ども」、または「こそ」の結び | 聞きしかど |
| しか | 願望の終助詞「てしか」「にしか」の一部 | 上が「て」「に」で、文が言い切られる | 見てしか |
| しか | 副詞「しか」(そのように) | 下の用言を修飾する | しかぞ住む |
| せ | 過去の助動詞「き」の未然形 | 上が連用形。「〜せば…まし」の形 | 知りせば |
| せ | 使役・尊敬の助動詞「す」の未然形・連用形 | 上が四段・ナ変・ラ変の未然形(a の音) | 書かせけり |
| せ | サ変動詞の未然形 | 「する」の意味がある | 修行せむ |
| せ | 動詞の一部 | 取り除くと語が壊れる | 見せ・申せ |
分かれ目は次の 3 つ。
- 過去の「き」の「し・しか・せ」は、上が連用形(カ変・サ変には未然形にも付く。こし・せし)。使役の「せ」は上が未然形、サ変の「し・せ」は上が体言や助詞のことが多い。
- 「てしか」「にしか」は、文が言い切られていれば願望。下に「ば・ど・ども」が続けば完了+過去。
- 過去の「き」の未然形「せ」は「〜せば…まし」の形でしか使われない。
願望の終助詞は、平安時代には「てしが」「にしが」と濁って読むのがふつうで、「な」が付いた「てしがな」「にしがな」の形でよく出ます。
1. 「し」の識別
根拠: 学習指導要領 古典探究-(2)-イ
「し」は、まず取り除けるかを試し、次に上の語の活用形を見ます。
取り除いても文が成り立てば副助詞、取り除くと語が壊れれば語の一部、どちらでもなければ過去の「き」かサ変動詞です。
「し」が過去の助動詞「き」の連体形だと決める手がかりを、上の語と下の語から挙げると?
上が連用形(カ変・サ変には未然形も)で、下に体言が続くか、「ぞ・なむ・や・か」の係り結びの結びになっている
連体形なので、下に「を・に・が」などの助詞が続くこともある(思はざりしを)。
「袖ひちてむすびし水のこほれるを」の「し」は何か? 上の語の活用形は?
過去の助動詞「き」の連体形。上の「むすび」はバ行四段活用「むすぶ」の連用形
下に体言「水」が続く。「袖をぬらして手にすくった水」(紀貫之、『古今和歌集』)。
「し」が強意の副助詞だと決める手がかりは? どんな形で出ることが多いか?
取り除いても文が成り立つこと。「しも」や「〜し…ば」の形で出ることが多い
上は体言や助詞のことが多い。訳には表さない。
「唐衣きつつなれにしつましあればはるばるきぬる旅をしぞ思ふ」の「なれにし」の「し」と、「つまし」の「し」は、それぞれ何か?
「なれにし」の「し」は過去の助動詞「き」の連体形、「つまし」の「し」は強意の副助詞
前の「し」は完了の助動詞「ぬ」の連用形「に」に付き、下に体言「つま」が続く。後の「し」は取り除いて「つまあれば」としても文が成り立つ。「旅をしぞ」の「し」も副助詞(『伊勢物語』東下りの段)。
例文「かの人、都にて学問しけり。」の「し」は何か? 過去の助動詞「き」ではないと言えるのはなぜか?
サ変動詞「学問す」の連用形の語尾。過去の「き」の連体形なら、下に連用形に付く「けり」は続かない
「する」の意味を持ち、取り除くと動詞が無くなる。上が体言で、連用形でもない。
「いと悲しきこと」「かく申しけり」の「し」は何か?
語の一部(形容詞「悲し」の連体形「悲しき」の一部、サ行四段活用「申す」の連用形「申し」の語尾)
取り除くと語が壊れる。過去の「き」の連体形なら、上が連用形で 1 語として切れていなければならない。
2. 「しか」の識別
根拠: 学習指導要領 古典探究-(2)-イ
「しか」は、下に何が続くかで決まります。已然形に付く接続助詞「ば・ど・ども」が続くか、「こそ」の係り結びの結びなら、過去の「き」の已然形です。
「つひにゆく道とはかねて聞きしかど昨日今日とは思はざりしを」の「しか」は何か? そう決める手がかりは?
過去の助動詞「き」の已然形。上の「聞き」が連用形で、下に已然形に付く「ど」が続いている
「いつかは行く道だと前から聞いていたけれど」。「思はざりし」の「し」も「き」の連体形(在原業平、『伊勢物語』)。
「てしか」「にしか」の形が、願望の終助詞か、完了の助動詞+過去の助動詞「き」の已然形かは、どこで見分けるか?
文がそこで言い切られていれば願望の終助詞。下に「ば・ど・ども」が続くか、上に「こそ」があれば完了「つ・ぬ」の連用形+過去「き」の已然形
例文:いかで都を見てしか。(なんとかして都を見たいものだ)/都を見てしかば、心ゆきぬ。(都を見たので、満足した)
「わが庵は都のたつみしかぞすむ世をうぢ山と人はいふなり」の「しか」は何か?
副詞「しか」(そのように・このように)
上の「たつみ」は体言で連用形ではなく、「しか」が下の「すむ」を修飾している。「ぞ」は係助詞。「このように(心静かに)住んでいる」(喜撰法師、『古今和歌集』)。
3. 「せ」の識別
根拠: 学習指導要領 古典探究-(2)-イ
「せ」は、上の語が連用形か、未然形か、体言・助詞かを見ます。
過去の助動詞「き」の未然形は、事実に反することを仮定する「〜せば…まし」の形にだけ出ます(この「せ」をサ変動詞と見る説もあります)。
「思ひつつ寝ればや人の見えつらむ夢と知りせばさめざらましを」の「せ」は何か? そう決める手がかりは?
過去の助動詞「き」の未然形。上の「知り」がラ行四段活用の連用形で、「〜せば…まし」の形になっている
「夢だと知っていたならば、目を覚まさなかっただろうに」(小野小町、『古今和歌集』)。
使役・尊敬の助動詞「す」の「せ」と、サ変動詞の未然形「せ」を、上の語で見分けると?
上が四段・ナ変・ラ変の未然形(a の音)なら助動詞「す」。上が体言や助詞で、「せ」自身が「する」の意味を持つならサ変動詞
例文:人に文を書かせけり。(使役)/この山にて修行せむ。(サ変動詞「修行す」の未然形+意志の「む」)
例文「絵を取り出でて見せ給ふ。」の「せ」は、使役・尊敬の助動詞「す」か?
違う。サ行下二段活用の動詞「見す」(見せる)の連用形「見せ」の一部
上一段活用「見る」の未然形「見」に使役の助動詞が付くなら、「す」ではなく「さす」で「見させ」になる。着す・寄す・乗す・失す なども「せ」まで含めて 1 語。
例文「心して念仏せば、往生すべし。」の「せば」の「せ」は、過去の助動詞「き」の未然形か?
違う。サ変動詞「念仏す」の未然形「念仏せ」+接続助詞「ば」(もし念仏するならば)
上が体言で連用形ではなく、文末も「まし」ではない。過去の「せ」は連用形に付き、下の「まし」と組になる。