法と規範の役割
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
学習指導要領 公共 B ア (ア)「法や規範の意義及び役割」。
内容の取扱いは、「法や道徳などの社会規範がそれぞれの役割を有していること」と「法の役割の限界」も扱うよう求めています。
0. 何を押さえるか
人が集まって暮らせば、利害がぶつかります。ぶつかりを防ぎ、起きたら収めるための「守るべき決まり」をまとめて社会規範といいます。
法はその 1 つにすぎず、道徳・慣習・宗教の教えも社会規範です。法と道徳の違いは、教科書では代表的に、何を相手にするかと破ったときに何が起こるかの 2 点で整理されます(法律で決まった区別ではなく、考え方の整理です)。
| 法 | 道徳 | 慣習 | |
|---|---|---|---|
| 相手にするもの | 外に表れた行為(外面性) | 心の持ち方・動機(内面性) | 社会で繰り返されてきたふるまい |
| 破ったとき | 国家が強制する(刑罰・損害賠償・強制執行) | 良心の呵責(かしゃく)や周りの非難 | 周りの非難・仲間外れ |
| 誰が決めるか | 国会など、決められた手続きで作る | 一人一人の良心・社会の通念 | 決める人はいない(自然にできる) |
法はさらに、何と何の関係を決めるかで分けて説明されることがあります。下の 3 区分は代表的な整理で、法律がこう分けると定めているわけではありません。どこに線を引くか(社会法を独立の区分とするか、個々の法律をどこに入れるか)は、説明する人によって違うことがあります。
| 分類 | 決める関係 | 例 |
|---|---|---|
| 公法 | 国・地方公共団体と個人の関係、国家の組織 | 日本国憲法・刑法・行政法・刑事訴訟法 |
| 私法 | 対等な個人(私人)どうしの関係 | 民法・商法 |
| 社会法 | 私人どうしの関係に、弱い立場の側を守るため国が入り込む | 労働基準法・生活保護法 |
引っかけの分かれ目は次の 3 つ。
- 法は「外面」、道徳は「内面」(法は心の中で思っただけのことを罰しない)
- 刑法は公法、民法は私法(刑罰は国家が科すので、被害者と加害者の私的な関係ではない)
- 社会法は私法の原則を修正する法(労働法は、契約自由をそのまま貫くと弱い側が不利になるから作られた)
1. 社会規範と法の意義
根拠: 学習指導要領 公共-B-ア-(ア)
学習指導要領が「法や規範の意義及び役割」と言うとき、中身は大きく 2 つです。
1 つは、あらかじめ守るべきことを示して、争いを起こさないようにすること(行為の基準)。
もう 1 つは、争いが起きたときに、力の強さではなく決められた基準で公平に解決すること(紛争解決の基準)。
法は、国会で議論して作られ、誰にでも同じように当てはまるので、人によって答えが変わりにくいという強みがあります。
法・道徳・慣習・宗教の教えのように、社会の中で人が守るべきとされる決まりをまとめて何という?
社会規範
法はその 1 つ。法だけで社会が成り立っているわけではなく、それぞれが役割を分け合っている。
法と道徳の違いを、「何を相手にするか」と「破ったときどうなるか」で答えると?
法=外に表れた行為を相手にし、国家が強制力で守らせる
道徳=心の持ち方を相手にし、守らせる力は良心や周りの評価
法の性質を外面性、道徳の性質を内面性という(代表的な整理。実際には、法も故意・過失のように心の状態を問題にすることがある)。
「法は道徳の最小限である」と述べ、法は道徳のうち、社会が成り立つために最低限守らせるべき部分だとした学者は?
イェリネック(ドイツの法学者)
著書『法・不法および刑罰の社会倫理的意義』(1878 年)で「法は倫理的な最小限にほかならない(Das Recht ist nichts Anderes, als das ethische Minimum)」と書いた。道徳の全部を法で強制するのではない、という考え方。人を殺すなは法にも道徳にもあるが、「親切にせよ」は道徳にしかない。
文章の形で定められた法と、文章になっていないが法として働くものを、それぞれ何という?
成文法(憲法・法律・命令・条例など)と、不文法(慣習法・判例法など)
日本は成文法が中心。イギリスでは判例の積み重ね(コモン・ロー)が大きな役割を持つ。
2. 公法・私法・社会法
根拠: 学習指導要領 公共-B-ア-(ア)
国家と個人の関係や国家の組織を定める法と、対等な個人どうしの関係を定める法を、それぞれ何という?
公法(憲法・刑法・行政法など)と、私法(民法・商法など)
売買や相続は私法、税を納めることや犯罪への刑罰は公法の世界。
刑法は公法と私法のどちらに入る?その理由は?
公法
刑罰を科すのは被害者ではなく国家だから。犯罪の被害を金銭で償わせる損害賠償は、民法(私法)の問題として別に扱われる。
労働基準法や生活保護法のように、私人どうしの関係に国が入り込み、弱い立場の人を守る法を何という?
社会法
公法と私法の中間にあたるものとして説明されることが多い。資本主義が進むなかで、契約自由のままでは労働者などが不利になることから生まれた。
3. 法の役割の限界
根拠: 学習指導要領 公共-B-ア-(ア)
法は強い力を持つ分、使える範囲に歯止めがかかっています。学習指導要領が「法の役割の限界」と言うのは、
法には踏み込めない領域があることと、法だけではすべてを解決できないことの両方です。
- 心の中は法の外にある。憲法 19 条は「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」と定め、考えただけでは罰せられない。
- 法は後から作って前の行為を罰することができない(憲法 39 条・刑罰法規の不遡及)。
- 法は「最小限の道徳」なので、思いやりや誠実さのような多くの事柄は、道徳や慣習、人どうしの話し合いに任される。
- 裁判で決着がついても、壊れた人間関係が元に戻るとは限らない。話し合い(和解・調停)が選ばれるのはこのためでもある。
憲法 19 条は、心の中で何を考えるかについて何と定めている?
思想及び良心の自由は、これを侵してはならない
法が相手にするのは外に表れた行為で、考えただけのことを罰することはできない。法の役割の限界の 1 つ。
行為をした時点では法律に違反していなかった行為を、後から作った法律で罰することはできる?
できない(刑罰法規の不遡及。憲法 39 条)
憲法 39 条は「実行の時に適法であつた行為」について刑事上の責任を問わないと定める。
何が犯罪になり、どんな刑罰が科されるかを、あらかじめ法律で定めておかなければならないという原則を何という?
罪刑法定主義
国家が気分しだいで人を罰することを防ぐ。憲法 31 条(法律の定める手続によらなければ刑罰を科せられない)と 39 条が支える。
争いを裁判の判決ではなく、当事者の話し合いで解決する方法を 2 つ挙げると?
和解(当事者どうしが互いに譲り合って合意する)と、調停(裁判所などの第三者が間に入って話し合いを助ける)
判決で白黒をつけても関係が元に戻るとは限らないので、法の外の合意も大切な役割を持つ。