契約と私法の原則
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
学習指導要領 公共 B ア (ア)「多様な契約及び消費者の権利と責任」。
内容の取扱いは、ここで「私法に関する基本的な考え方」も扱うよう求めています。根拠の条文は民法(e-Gov 法令検索で確認)。
0. 何を押さえるか
売買・部屋を借りる・アルバイトをする・スマートフォンの利用規約に同意する——どれも契約です。
契約は「申込み」と「承諾」がそろった時点で成立し、口約束でも成立します。契約書は、成立したことを後で確かめるための証拠です。
近代の私法は、次の 4 つの原則の上に立っています。そして 20 世紀以降、それぞれに修正が加えられてきました。
| 原則 | 中身 | 修正 |
|---|---|---|
| 権利能力平等の原則 | 人は生まれながらに等しく権利・義務の主体になれる | — |
| 所有権絶対の原則 | 自分の物は自由に使い・処分できる | 公共の福祉による制限(憲法 29 条 2 項・民法 1 条 1 項) |
| 私的自治の原則(契約自由の原則) | 誰と・どんな内容で・どんな方式で契約するかは自由 | 消費者契約法・労働基準法・借地借家法などによる制限 |
| 過失責任の原則 | 故意・過失が無ければ損害賠償の責任を負わない | 製造物責任法などの無過失責任 |
引っかけの分かれ目は次の 3 つ。
- 成年年齢は 18 歳(2022 年 4 月 1 日から。飲酒・喫煙・公営ギャンブルは 20 歳のまま)
- 未成年者の契約は「無効」ではなく「取り消すことができる」(取り消すまでは有効。取り消すと初めから無効だったとみなされる)
- 小遣いの範囲の買い物や、成年だとうそをついた場合は取り消せない
1. 契約の成立と多様な契約
根拠: 学習指導要領 公共-B-ア-(ア)
学習指導要領が「多様な契約」と言うとおり、契約にはいろいろな種類があります。民法は売買・賃貸借・雇用などの典型的な契約の形を定めていますが、
当事者はそれ以外の内容の契約も自由に結べます。
| 契約 | 何を約束するか | 身近な例 |
|---|---|---|
| 売買 | 物(財産権)を渡し、代金を払う | コンビニで買い物をする |
| 賃貸借 | 物を使わせ、賃料を払い、終われば返す | アパートを借りる・レンタル |
| 雇用 | 働き、その報酬(賃金)を払う | アルバイト |
| 消費貸借 | お金などを借りて、同じ額を返す | 借金・ローン |
契約は、何と何がそろったときに成立する?また、成立に契約書は必要か?
申込みと承諾の意思表示が合ったときに成立する(民法 522 条 1 項)。契約書は原則として不要(同条 2 項)
口約束でも契約は成立する。契約書は、内容を後で確かめるための証拠。
契約が成立すると、当事者にはどのような関係が生まれる?
互いに権利(債権)と義務(債務)が生まれ、一方の都合だけではやめられない
売買なら、売り手は品物を渡す義務と代金を受け取る権利を、買い手はその逆を持つ。
契約で約束したことを果たさないことを何という?そのとき相手は何を求められる?
債務不履行。相手は損害賠償を請求したり、契約を解除したりできる
民法 415 条(債務不履行による損害賠償)。
通信会社や鉄道会社が、大勢の利用者との契約に一律に使うためにあらかじめ用意した契約条項を、民法では何という?
定型約款(民法 548 条の 2)
利用規約に「同意する」を押すのがこれにあたる。相手方の利益を一方的に害する条項は、合意したことにならない。
2. 私法の基本原則とその修正
根拠: 学習指導要領 公共-B-ア-(ア)
学習指導要領が「私法に関する基本的な考え方」と言うのは、上の表の 4 原則です。
近代の市民革命は、身分に縛られない自由で平等な個人を前提にしました。人は自分の意思で契約を結び、自分の意思でしたことにだけ責任を負う——これが私的自治です。
ところが、企業と消費者・使用者と労働者のように、実際には対等でない関係が広がると、自由に任せるだけでは弱い側が不利になります。そこで修正が加えられました。
私法の基本原則のうち、人は誰でも等しく権利と義務の主体になれるという原則を何という?民法ではいつ始まると定めている?
権利能力平等の原則。私権の享有は出生に始まる(民法 3 条)
身分や性別によって権利を持てる人と持てない人を分けない。
誰と、どんな内容の契約を、どんな方式で結ぶかを、当事者が自由に決められるという原則を何という?
契約自由の原則(私的自治の原則の中心)
民法 521 条は、契約をするかどうかも、契約の内容も自由に決められると定める。ただし「法令の制限内において」。
故意(わざと)や過失(不注意)が無ければ、他人に損害を与えても賠償の責任を負わないという原則を何という?
過失責任の原則(民法 709 条)
製造物責任法のように、過失が無くても責任を負わせる無過失責任が、公害や欠陥製品の被害から例外として取り入れられた。
民法 1 条が定める 3 つの基本原則は?
私権は公共の福祉に適合しなければならない・信義に従い誠実に行う(信義誠実の原則)・権利の濫用は許さない
所有権絶対や契約自由に、民法そのものがはめている枠。
公の秩序や善良の風俗に反する契約(例: 犯罪を頼む契約)の効力は?
無効(民法 90 条・公序良俗)
契約自由といっても、社会の秩序に反する内容は法が実現を手伝わない。
3. 成年年齢 18 歳と未成年者取消権
根拠: 学習指導要領 公共-B-ア-(ア)
民法は「年齢十八歳をもって、成年とする」(4 条)と定めています。成年年齢は 2018 年の民法改正で 20 歳から引き下げられ、2022 年 4 月 1 日に施行されました。
18 歳になると、親の同意なしにクレジットカードを作ったり、部屋を借りる契約を結んだりできます。同時に、次の未成年者取消権は使えなくなります。
成年年齢は何歳?
18 歳(民法 4 条。2022 年 4 月 1 日から)
女性の婚姻できる年齢も 16 歳から引き上げられ、男女とも 18 歳になった(民法 731 条)。飲酒・喫煙は 20 歳のまま。
未成年者が親などの法定代理人の同意を得ずに結んだ契約は、どうなる?
取り消すことができる(民法 5 条 2 項・未成年者取消権)
取り消すと、初めから無効だったものとみなされる(民法 121 条)。取り消さなければ有効のまま。
未成年者が同意なしに結んだ契約でも、取り消せない場合を 2 つ挙げると?
法定代理人が処分を許した財産(小遣いなど)の範囲内の契約(民法 5 条 3 項)と、成年だとうそをつくなど、相手をだました(詐術を用いた)場合(民法 21 条)
ほかに、営業を許された未成年者がその営業に関してした契約も取り消せない(民法 6 条)。