幸福と義務の考え方
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
学習指導要領 公共 A 公共の扉 (2) 公共的な空間における人間としての在り方生き方 ア (ア)「選択・判断の手掛かりとして,行為の結果である個人や社会全体の幸福を重視する考え方や,行為の動機となる公正などの義務を重視する考え方など」。
0. 何を押さえるか
何が正しい行為かを判断するときの、2 つの代表的な物差しです。
- 学習指導要領が「行為の結果である個人や社会全体の幸福を重視する考え方」と呼ぶもの → 功利主義(ベンサム・ミル)
- 学習指導要領が「行為の動機となる公正などの義務を重視する考え方」と呼ぶもの → 義務論(カント)
| 功利主義(結果を見る) | 義務論(動機を見る) | |
|---|---|---|
| 代表 | ベンサム、ミル | カント |
| 行為の正しさを決めるもの | その行為がもたらす幸福の量(結果) | 義務に従おうとする善意志(動機) |
| 合言葉 | 最大多数の最大幸福 | 人格を単に手段としてのみ扱うな |
| 弱点として指摘されること | 多数の幸福のために少数を犠牲にしかねない | 結果が悪くても規則を守れと言いかねない |
功利主義の内側にも分かれ目があります。
| ベンサム | ミル | |
|---|---|---|
| 快楽の見方 | 量の違いだけ(量的功利主義) | 質の違いもある(質的功利主義) |
| 行為を方向づける力(制裁) | 外から(物理的・政治的・道徳的・宗教的の 4 つ) | 内から(良心による内的制裁) |
| 言葉 | 快楽計算 | 満足した豚より不満足な人間 |
引っかけの分かれ目は次の 3 つ。
- 量のベンサム、質のミル(「満足した豚より不満足な人間」はミル)
- カントは結果でなく動機(よい結果が出ても、義務からでなければ道徳的な価値は無い)
- 定言命法は無条件、仮言命法は条件付き(カントが道徳の命令としたのは定言命法)
1. 功利主義 — 結果の幸福を重視する
根拠: 学習指導要領 公共-A-(2)-ア-(ア)
功利主義は、行為の正しさを、それが関係する人々にもたらす幸福(快楽)と不幸(苦痛)の差し引きで判断します。
18〜19 世紀のイギリスで、法や政治の改革の物差しとして唱えられました。
「最大多数の最大幸福」を、社会の立法や政策の基準にすべきだと唱えたイギリスの思想家は?
ベンサム
主著『道徳および立法の諸原理序説』。個人の幸福を足し合わせたものが社会全体の幸福だと考えた。
ベンサムが、快楽の強さ・持続性・確実性などを数えて、行為がもたらす快楽の量を測ろうとした方法を何という?
快楽計算
快楽には量の違いしかないとする立場なので、量的功利主義と呼ばれる。
ベンサムが、人の行為を外から方向づける力として挙げた 4 つの制裁は?
物理的制裁・政治的制裁・道徳的制裁・宗教的制裁
中でも法律による政治的制裁を重視した。ミルは、これに対して良心による内的制裁を重んじた。
「満足した豚であるより、不満足な人間であるほうがよい」と述べ、快楽には質の違いがあるとした思想家は?
ミル(J. S. ミル)
精神的な快楽を身体的な快楽より高く見る。質的功利主義と呼ばれる。
ミルが『自由論』で示した、他人に危害を加えない限り、個人の行為は本人の自由に任されるべきだという原則を何という?
他者危害原則(危害原理)
社会が個人の自由に干渉してよいのは、他者への危害を防ぐ場合に限る、という考え。
2. 義務論 — 動機となる義務を重視する
根拠: 学習指導要領 公共-A-(2)-ア-(ア)
カントは、行為の正しさは結果ではなく、「それが義務だから」という動機で行われたかどうかで決まると考えました。
嘘をつかないのは、ばれると損だからではなく、嘘をつかないことが誰にとっても守るべき義務だからです。
カントが、それ自体として無条件によいものとした、義務に従おうとする意志を何という?
善意志
結果がよくても、義務からでなく損得から行われた行為には道徳的な価値は無い、とした。
「もし〜したいなら、〜せよ」という条件付きの命令と、「〜せよ」という無条件の命令を、カントはそれぞれ何と呼んだ? 道徳の命令はどちらか?
条件付き = 仮言命法、無条件 = 定言命法。道徳の命令は定言命法
「信用されたいなら嘘をつくな」は仮言命法。道徳は目的の手段であってはならない。
カントの定言命法「汝の意志の格率が、常に同時に普遍的立法の原理として妥当しうるように行為せよ」は、何を求めているか?
自分の行為の方針(格率)が、誰もが従う普遍的な法則になっても成り立つかを確かめて行為せよ
自分だけを例外にする行為(自分だけ嘘をつく)は、この試しに通らない。
カントが、人間の人格を「常に同時に目的として扱い、決して単に手段としてのみ扱わない」よう求めたのはなぜか?
人間は自分で道徳法則を立てて従うことのできる人格であり、尊厳を持つから
互いを目的として尊重し合う共同体を、カントは「目的の王国」と呼んだ。
カントが、欲望や外からの命令に従うのではなく、自分の理性が立てた道徳法則に自ら従うことを何と呼んだ?
自律
これこそが人間の自由だとした。欲望や他者の命令に従うことは他律。
3. 思考実験で 2 つの考え方を使う
根拠: 学習指導要領 公共-A-(2)-ア-(ア)
学習指導要領は、2 つの考え方を「思考実験など概念的な枠組み」を用いて考察することを求めています(A-(2)-イ-(ア))。
思考実験は、現実には試せない場面を頭の中で設定し、自分の判断の根拠を確かめる方法です。どちらが正解かを決めるためのものではありません。
暴走するトロッコの先に 5 人、分岐した線路に 1 人がいる。分岐器を切り替えて 1 人を犠牲に 5 人を救うべきか——この思考実験で、切り替えを支持しやすいのはどちらの考え方か?
功利主義(結果として救われる人数の多さを重視する)
義務論からは、人を単に手段として扱ってよいのか、という問いが立つ。思考実験は結論を当てるものではなく、判断の根拠を自覚するためのもの。
結果を重視する考え方と動機を重視する考え方の、それぞれの弱点として指摘されやすいことは?
結果重視(功利主義): 多数の幸福のために少数の犠牲を認めかねない
動機重視(義務論): 結果が悪くても規則を守ることを求めかねない
だから一方だけでなく、両方の物差しを当てて考えることが求められる。