理性への問い直しと現代の思想
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
学習指導要領「倫理」A (1) ア (エ) の「真理,存在などに着目して,世界と人間の在り方について思索するための手掛かりとなる様々な世界観について理解すること」。
内容の取扱いが挙げる「世界を捉える知の在り方」のうち、ここでは、近代が信頼してきた理性や主体そのものを 20 世紀の思想がどう問い直したかを扱います。
0. 何を押さえるか
近代の哲学は、自分で考える理性的な主体(デカルトの「考える私」)を出発点にしてきました。
ところが 20 世紀には、科学技術の発展が戦争や全体主義、管理社会にもつながりました。
そこで、「理性は本当に人間を自由にしたのか」「主体は本当に自分で考えているのか」が問われるようになります。
| 流れ | 思想家 | 問い直したもの | 鍵になる言葉 |
|---|---|---|---|
| フランクフルト学派 | ホルクハイマー、アドルノ | 理性が支配の道具になったこと | 道具的理性、『啓蒙の弁証法』、権威主義的パーソナリティ |
| 構造主義 | ソシュール、レヴィ=ストロース | 主体の自由な意識 | ラング、パロール、構造、野生の思考 |
| ポスト構造主義 | フーコー | 近代の理性と知 | 狂気の歴史、知と権力、規律・訓練、パノプティコン |
| 言語哲学(分析哲学) | ウィトゲンシュタイン | 哲学の問いそのもの | 語りえぬもの、言語ゲーム |
| 他者の倫理 | レヴィナス | 自己中心の哲学 | 他者の顔、全体性と無限 |
取り違えやすい分かれ目は次の 3 つ。
- 「道具的理性」はフランクフルト学派(ホルクハイマー、アドルノ)。ハーバーマスはその後継者で、対話的理性で理性を立て直そうとした(公共性と対話)
- ウィトゲンシュタインは前期と後期で考えが変わる。前期は「語りえぬものについては沈黙しなければならない」(写像理論)、後期は言葉の意味はその使われ方で決まる(言語ゲーム)
- 構造主義は「主体」より「構造」を先に置く。人の考えや行動は、本人の意識していない社会や言語の構造に規定されているとする
1. フランクフルト学派 — 道具的理性の批判
根拠: 学習指導要領 倫理-A-(1)-ア-(エ)
ドイツのフランクフルト大学の社会研究所に集まった思想家たちは、ナチズムの経験から、近代の理性そのものを批判的に見直しました。
ホルクハイマーとアドルノが共著『啓蒙の弁証法』で論じた、人間を自然や迷信から解放するはずだった啓蒙が陥ったものは何か?
新たな野蛮(啓蒙が逆に人間を支配し抑圧するものへと転じた)
ナチズムの全体主義は、理性が行き着いた先の一つとして捉えられた。
ホルクハイマーとアドルノが批判した、目的そのものが正しいかを問わず、与えられた目的を効率よく達成する手段としてだけ働く理性を何という?
道具的理性
自然や人間を計算し、管理し、支配するための道具になった理性とされる。これに対し、目的を問う理性を批判的理性という。
アドルノらが研究した、強い権威には無批判に従い、弱い者や異質な者には攻撃的になる性格を何という?
権威主義的パーソナリティ
大衆がファシズムを支持した心理的な背景を明らかにしようとした研究。
2. 構造主義 — 主体の背後にある構造
根拠: 学習指導要領 倫理-A-(1)-ア-(エ)
構造主義は、個人の意識や意図より、それを規定している目に見えない構造(仕組み)に注目しました。その源は言語学にあります。
ソシュールが区別した、ある言語を話す人々が共有する社会的な規則の体系と、個人が実際に話す個々の発話を、それぞれ何という?
規則の体系 = ラング、個々の発話 = パロール
言葉の意味は、物との一対一の対応でなく、他の言葉との違い(差異)の体系の中で決まるとした。
未開社会の親族関係や神話を研究し、それらに共通する無意識の構造を見いだして構造主義を広めた文化人類学者は?
レヴィ=ストロース(主著『野生の思考』『悲しき熱帯』)
構造主義は、主体の自由な選択を重んじたサルトルの実存主義と論争になった。
レヴィ=ストロースが、未開社会の人々の、身の回りの具体的な物を組み合わせて世界を秩序づける思考を何と呼び、どう評価したか?
野生の思考。近代の科学的思考に劣るものではなく、別の形の合理的な思考だと評価した
西洋の文明を進んだもの、未開社会を遅れたものとする西洋中心主義を批判した。
3. フーコー — 知と権力
根拠: 学習指導要領 倫理-A-(1)-ア-(エ)
フーコーは、「理性的な近代人」という人間像が、歴史の中でどのようにつくられてきたかを明らかにしようとしました。
フーコーが『狂気の歴史』で明らかにした、近代社会が理性を正常とすることによって行ってきたことは何か?
狂気を非理性として社会から排除し、閉じ込めてきたこと
何が正常で何が異常かは普遍的なものではなく、時代ごとの知のあり方によって決められてきたとした。
フーコーが『監獄の誕生』で、看守が見えないまま囚人を一望できる監視施設を例に論じた、近代社会の権力の働き方とは?
人々が常に見られていると意識して、自ら規律に従うように仕向ける権力(規律・訓練の権力)
例に挙げた施設はベンサムが構想したパノプティコン(一望監視施設)。学校・工場・病院・軍隊にも同じ仕組みがあるとした。
4. ウィトゲンシュタイン — 言語の限界と言語ゲーム
根拠: 学習指導要領 倫理-A-(1)-ア-(エ)
ウィトゲンシュタインは、哲学の問題の多くは、言葉の使い方の混乱から生まれると考えました。
ウィトゲンシュタインが前期の主著『論理哲学論考』の最後に置いた、言語で語れる範囲の外にあるものへの態度を示す言葉は?
「語りえぬものについては、沈黙しなければならない」
言語は世界の事実を写し取るもの(写像理論)であり、神や倫理のように事実を写さないものは、言語では語れないとした。
後期のウィトゲンシュタインが、言葉の意味は日常の生活の中でどう使われるかによって決まるとして、言語活動を規則に従ったゲームになぞらえたものを何という?
言語ゲーム(主著『哲学探究』)
前期の写像理論を自ら改め、言葉の意味は使われる場面ごとに違うとした。
5. レヴィナス — 他者の顔
根拠: 学習指導要領 倫理-A-(1)-ア-(エ)
リトアニア出身のユダヤ人哲学者レヴィナスは、故郷の肉親の多くをホロコーストで失った経験を背景に、自己中心の哲学を問い直しました。
レヴィナスが『全体性と無限』で、自分の理解や支配に回収できない他者が現れ、倫理的な責任を呼び起こすものとして重んじたものは何か?
他者の顔
顔は「殺してはならない」と訴えかけ、自分は他者に対して無限の責任を負うとした。
レヴィナスが批判した「全体性」とは、どのような考え方か?
他者をも自分の理解の枠組みの中に取り込み、同じものとして扱う考え方
西洋の哲学が自己を中心に世界全体を捉えようとしてきたことが、他者を抑圧する全体主義につながったとした。