公共性と対話
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
学習指導要領「倫理」A (1) ア (ウ) の「善,正義,義務などに着目して,社会の在り方と人間としての在り方生き方について思索するための手掛かりとなる様々な倫理観について理解すること」。
内容の取扱いは、ここで「民主社会における人間の在り方,社会参加と奉仕など」を取り上げるよう求めています。
ここでは、人々が言葉を交わし合って共に社会をつくる場(公共性)を考えたアーレントとハーバーマスと、ボランティアなどの社会参加を扱います。
0. 何を押さえるか
20 世紀の全体主義は、人々が互いに語り合う場を失い、孤立した大衆として動員されたところから生まれた、と 2 人は考えました。
そこで、民主社会を支えるものとして、人々が対等に語り合い、共に行動する場を立て直そうとします。
| アーレント | ハーバーマス | |
|---|---|---|
| 出身 | ドイツ出身のユダヤ人(のちアメリカへ亡命) | ドイツ(フランクフルト学派の第二世代) |
| 鍵になる言葉 | 労働・仕事・活動、公共性、全体主義 | 対話的理性、コミュニケーション的行為、生活世界の植民地化、公共圏 |
| 主著 | 『人間の条件』『全体主義の起源』 | 『コミュニケーション的行為の理論』『公共性の構造転換』 |
| 公共性を支えるもの | 言葉と行為によって互いに関わる活動 | 強制のない対等な討議による合意 |
取り違えやすい分かれ目は次の 3 つ。
- アーレントの三分類は「労働・仕事・活動」。公共性を担うのは、物を介さずに人と人が言葉と行為で関わる活動で、労働(生命維持)や仕事(物の制作)ではない
- 「道具的理性」を批判したのはフランクフルト学派の第一世代、「対話的理性」で理性を立て直したのがハーバーマス(理性への問い直しと現代の思想)
- ボランティアは自発性が本質。強制された奉仕ではなく、自分の意思で、見返りを主な目的とせずに社会に関わる活動
1. アーレント — 活動と公共性
根拠: 学習指導要領 倫理-A-(1)-ア-(ウ)
アーレントは、ナチスの迫害を逃れてアメリカに渡り、全体主義がなぜ生まれたかを問い続けました。
アーレントが『人間の条件』で、人間の営みを 3 つに分けたものは?
労働・仕事・活動
労働は生命を維持するための営み、仕事は道具や作品など永続する物をつくる営み、活動は人と人が言葉と行為で直接関わる営み。
アーレントの三分類のうち、多様な人々が言葉と行為を通して互いに関わり合い、公共的な空間をつくり出す営みはどれか?
活動
人は活動によって、自分が誰であるかを他者の前に示すとされる。アーレントは、近代社会では労働が中心になり、活動の場が失われたと批判した。
アーレントが『全体主義の起源』で、全体主義を支えたものとして指摘したのは、どのような人々の状態か?
他者とのつながりを失い、孤立した大衆になった状態
互いに語り合う公共的な場が失われると、人々は全体主義の宣伝に動員されやすくなるとした。
アーレントは、公共性が成り立つためには、人々がどのような存在として現れることが必要だとしたか?
それぞれ異なる多様な人々(複数性)が、対等な立場で互いに見聞きし合うこと
誰もが同じ考えを持つことを強いる社会では、公共性は失われる。
2. ハーバーマス — 対話的理性と公共圏
根拠: 学習指導要領 倫理-A-(1)-ア-(ウ)
ハーバーマスは、フランクフルト学派が批判した理性を捨てるのではなく、人と人との対話の中に理性の可能性を見いだしました。
ハーバーマスが、道具的理性に対置した、人々が対等な立場で話し合い、互いに納得できる合意をつくり出す理性を何という?
対話的理性(コミュニケーション的合理性)
主著は『コミュニケーション的行為の理論』。
ハーバーマスが、対話によって合意を目指すときに必要だとした条件とは?
強制や支配のない自由で対等な立場で、誰もが参加し、理由を示して主張し合えること
力や利害ではなく、よりよい理由だけが人を納得させる討議が求められる。
ハーバーマスが、貨幣や権力で動く経済・行政のシステムが、人々が対話によって意味を共有する日常の領域に入り込み、それを支配することを何と呼んだか?
生活世界の植民地化
対話で決められるべきことが、お金や行政の論理で決められてしまう事態を批判した。
ハーバーマスが『公共性の構造転換』で、18 世紀のヨーロッパのコーヒーハウスやサロンなどに見いだした、市民が対等に議論して世論をつくる場を何という?
公共圏(市民的公共性)
のちにマスメディアの発達などで、市民は議論する公衆から情報を受け取るだけの消費者に変わっていったと論じた。
3. 社会参加と奉仕
根拠: 学習指導要領 倫理-A-(1)-ア-(ウ)
民主社会は、選挙で代表を選ぶことだけで成り立つわけではありません。一人ひとりが地域や社会の課題に関わる社会参加と奉仕も、公共性を支える営みです。
アーレントやハーバーマスの言う公共性は、政治だけでなく、こうした日常の関わりの中にも開かれています。
自分の意思で、報酬を主な目的とせずに、社会や他者のために行う活動を何という? その活動の基本的な性格を 3 つ挙げると?
ボランティア。自発性・無償性(非営利性)・公共性(社会性)
強制された奉仕とは違い、自分から選んで関わる点が本質とされる。
ボランティアやNPOなど、国家(行政)でも市場(企業)でもない、市民の自発的な活動がつくる領域(シビル・ソサエティ)を、日本語で何という?
市民社会
ヘーゲルが「欲望の体系」と呼んだ市民社会とは意味が違う。1995 年の阪神・淡路大震災で多くのボランティアが活動し、1998 年に特定非営利活動促進法(NPO 法)が制定された。
ボランティアなどの社会参加は、参加する本人にとってどのような意義があるとされるか?
他者と協力して課題に取り組む中で、社会の一員としての自覚を深め、自分の生き方を見つめ直す機会になる
奉仕は、一方的に与えることではなく、他者との関わりを通して自分も育つ相互的な営みとされる。