ヘレニズムの思想
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
学習指導要領「倫理」A (1) ア (イ) の「幸福,愛,徳などに着目して,人間としての在り方生き方について思索するための手掛かりとなる様々な人生観について理解すること」。
このノートは、アレクサンドロス大王の東方遠征のあと、ポリスという共同体の支えを失った人々が、
個人としてどうすれば心の平安を得られるかを求めた時代の思想(ストア派・エピクロス派・新プラトン主義)を扱います。
0. 何を押さえるか
ポリスが力を失い、人々は広い世界の中の一個人として生きることになりました。
そこで哲学の関心は、ポリスの中でよく生きることから、一人の人間として心の平安を得ることへ移ります。
どちらの学派も目指すのは心の平安ですが、その道筋が正反対です。
| ストア派 | エピクロス派 | |
|---|---|---|
| 創始者 | ゼノン | エピクロス |
| 目指す状態 | アパテイア(情念に動かされない心) | アタラクシア(魂に乱れの無い平静) |
| 道筋 | 理性に従い、情念を抑える(禁欲主義) | 精神的な快楽を求め、苦痛を避ける(快楽主義) |
| 合言葉 | 「自然に従って生きよ」 | 「隠れて生きよ」 |
| 社会との関わり | 世界市民として義務を果たす | 政治から離れ、友人との静かな生活 |
取り違えやすい分かれ目は次の 3 つ。
- アパテイアはストア派、アタラクシアはエピクロス派(どちらも「ア」で始まり入れ替わりやすい)
- エピクロスの快楽主義は、ぜいたくや享楽ではない。求めたのは身体に苦痛が無く魂に乱れの無い状態
- ストア派の「自然に従って」は、宇宙をつらぬく理性(ロゴス)に従うこと。欲望のままに生きることではない
1. ストア派 — 理性に従い情念を抑える
根拠: 学習指導要領 倫理-A-(1)-ア-(イ)
ストア派は、宇宙には理性(ロゴス)がつらぬいていて、人間もその理性を分け持っていると考えました。
その理性に従って生きれば、喜怒哀楽に振り回されない心の強さが得られる、とします。
ヘレニズム時代、アテネの彩色柱廊(ストア)で教え、ストア派を開いたのは誰か?
ゼノン(キプロスのゼノン)
学派の名は、講義をした柱廊(ストア・ポイキレ)に由来する。
ストア派が理想とした、情念(パトス)に動かされない心の状態を何という?
アパテイア
理性によって情念を抑えるので、ストア派の態度は禁欲主義と呼ばれる。
ストア派の「自然に従って生きよ」とは、何に従って生きることか?
宇宙をつらぬく理性(ロゴス)に従って生きること
人間も理性を分け持っているので、自分の理性に従うことが自然に従うことになる。
ストア派が、人はみな同じ理性を分け持つ点で平等であり、ポリスや民族の違いを超えて世界の市民だとした考えを何という?
世界市民主義(コスモポリタニズム)
のちのローマの自然法思想や、近代の人間の平等の考えに受け継がれたとされる。
ローマ帝国の時代のストア派で、皇帝として『自省録』を書いた人物は?
マルクス・アウレリウス
ほかに、ネロの師セネカ、奴隷出身のエピクテトスが後期ストア派の代表。
2. エピクロス派 — 心の平静としての快楽
根拠: 学習指導要領 倫理-A-(1)-ア-(イ)
エピクロスは、快楽こそが幸福だとしました。ただしその快楽とは、ぜいたくや刺激ではなく、
身体に苦痛が無く、魂がかき乱されていない状態のことです。
エピクロスが、人生の目的として求めた、魂に乱れや不安の無い平静な状態を何という?
アタラクシア
快楽を求める点で快楽主義と呼ばれるが、求めたのは精神的な快楽である。
エピクロスが、政治や名声を求める生活から離れ、少数の友人と静かに暮らすことを勧めた言葉は?
「隠れて生きよ」
公の場での争いは魂の平静を乱すと考え、友情を大切にした(「エピクロスの園」と呼ばれる共同生活)。
エピクロスが、死を恐れる必要はないとした理由は?
我々が存在するとき死は無く、死が来たとき我々はもう存在しないから
デモクリトスの原子論を受け継ぎ、死とは原子が散らばって感覚が無くなることだと考えた。
3. 懐疑派と新プラトン主義
根拠: 学習指導要領 倫理-A-(1)-ア-(イ)
ヘレニズムからローマ帝政期にかけては、確かな知は得られないとして判断を控える立場や、プラトンの思想を宗教的に深めた思想も生まれ、
のちのキリスト教の思想にも影響を与えました。
ものごとの真偽について確かな判断は得られないとし、判断を控えることで心の平静を得ようとした学派の祖と、その態度を何という?
ピュロン、判断停止(エポケー)
判断を控えた結果として、心の平静(アタラクシア)が得られるとした。
万物は完全な「一者」から流れ出たものであり、魂は一者との合一を目指すとした、新プラトン主義の哲学者は?
プロティノス
一者から万物が流れ出るとする考えを流出説という。アウグスティヌスらのキリスト教の思想にも影響を与えた。
樽の中で暮らし、社会の慣習や富を軽んじて、自然のままの簡素な生活を実践したとされるキュニコス派(犬儒派)の哲学者は?
ディオゲネス
アレクサンドロス大王に望みを聞かれ「日陰になるからどいてくれ」と答えたという逸話で知られる。欲望を減らす生き方はストア派に受け継がれた。