取引と8要素
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
出題区分表 第一 2「取引」ア・イ。
0. どういう処理か
日常語の「取引」と、簿記でいう「取引」は同じではありません。
簿記上の取引とは、資産・負債・資本が増減したもの(およびそれに伴って収益・費用が発生したもの)
だけを指します。帳簿に書くのは会社の財産が実際に動いたときであって、
「約束した」だけでは何も動いていないので書きません。
そのズレは両方向にあります。
| 日常語では | 簿記では | |
|---|---|---|
| 商品の注文を受けた | 取引と呼ぶ | 取引でない(まだ何も動いていない) |
| 建物の賃貸借契約を結んだ | 取引と呼ぶ | 取引でない(敷金を払えばその部分だけ取引) |
| 火事で倉庫が焼けた | 取引と呼ばない | 取引(資産が減った) |
| 商品が盗まれた | 取引と呼ばない | 取引(資産が減った) |
そして、すべての取引は必ず借方の要素 1 つ以上と貸方の要素 1 つ以上の組み合わせでできています。
その組み合わせの部品が 8 つしかない、というのが「取引の 8 要素」です。
引っかけの分かれ目は次の 3 つ。
- 契約・注文・約束は取引でない(財産が動いていない)
- 災害・盗難は取引(動いた原因が何であれ、財産が減れば書く)
- 借方同士・貸方同士は結合しない(必ず左右がペアになる)
1. 簿記上の取引
根拠: 出題区分表 一-2-ア
簿記上の取引とは何か?
資産・負債・資本が増減する出来事(に伴って収益・費用が発生するものを含む)
日常語の「取引」とは範囲がずれる。財産が動いたかどうかだけが基準。
得意先から商品 ¥50,000 の注文を受けた。簿記上の取引?
取引ではない。仕訳しない
注文を受けただけでは、商品も代金もまだ動いていない。
資産・負債・資本のどれも増減していないので、帳簿には何も書かない。
店舗を月 ¥80,000 で借りる契約を結び、敷金 ¥160,000 を現金で払った。
簿記上の取引はどの部分?
簿記上の取引はどの部分?
敷金を払った部分だけ
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 差入保証金 160,000 | 現金 160,000 |
契約を結んだこと自体は取引ではない。現金が動いた部分だけを書く。
家賃は毎月支払ったときに費用になる。
火災で倉庫(帳簿価額 ¥300,000)が焼失した。簿記上の取引?
取引である
売買していなくても、資産が減っているので記録する。
「取引」という言葉に引きずられて、災害・盗難を除外しないこと。
従業員を月給 ¥250,000 で雇う契約をした。簿記上の取引?
取引ではない
雇う約束をしただけで財産は動いていない。
実際に給料を支払った(または支払いが確定した)ときに初めて取引になる。
2. 取引の種類
根拠: 出題区分表 一-2-ア
取引は、収益・費用が絡むかどうかで 3 つに分かれます。
交換取引・損益取引・混合取引の違いは?
- 交換取引 … 資産・負債・資本だけが動く(収益・費用なし)
- 損益取引 … 収益または費用が発生する
- 混合取引 … 1 つの取引に両方が含まれる
分類そのものより、混合取引を 1 本の仕訳で書けるかが本番で効いてくる。
借入金 ¥100,000 を利息 ¥3,000 とともに現金で返済した。どの種類の取引?
混合取引
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 借入金 100,000 | 現金 103,000 |
| 支払利息 3,000 |
借入金の減少(交換取引の部分)と支払利息の発生(損益取引の部分)が
1 つの取引に混ざっている。貸方の現金は合計 1 行にまとめる。
商品を仕入れて代金を現金で払った。これは交換取引?
損益取引(三分法の場合)
三分法では仕入れた時点で仕入(費用)が発生する。
資産どうしの交換に見えるが、費用が出てくるので損益取引。
3. 取引の 8 要素と結合関係
根拠: 出題区分表 一-2-イ
すべての仕訳は、次の 8 つの部品の組み合わせです。左に来る 4 つと右に来る 4 つを覚えます。
| 借方(左)に来るもの | 貸方(右)に来るもの |
|---|---|
| 資産の増加 | 資産の減少 |
| 負債の減少 | 負債の増加 |
| 資本の減少 | 資本の増加 |
| 費用の発生 | 収益の発生 |
借方(左)に来る 4 つの要素は?
- 資産の増加
- 負債の減少
- 資本の減少
- 費用の発生
「増えたら左」なのは資産と費用だけ。負債・資本は減ったときに左へ来る。
貸方(右)に来る 4 つの要素は?
- 資産の減少
- 負債の増加
- 資本の増加
- 収益の発生
借方の 4 つとちょうど裏返しになっている。
「収益の消滅」「費用の消滅」が 8 要素に入っていないのはなぜ?
収益・費用は一度発生したら、その期の間は取り消されない前提だから
資産・負債・資本は残高として持ち越されるので増減の両方があるが、
収益・費用は「その期にいくら発生したか」を積み上げるだけの記録。
(返品などの取り消しは、実務上は逆仕訳で処理する)
借方に「資産の増加」と「費用の発生」が同時に並ぶ仕訳はありうる?
ありうる
例:売掛金 ¥100,000 が、振込手数料 ¥400 を差し引かれて当座預金に入金された。
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 当座預金 99,600 | 売掛金 100,000 |
| 支払手数料 400 |
借方どうしは結合しないとは「借方だけで仕訳が完結しない」という意味であって、
片側に要素が複数並ぶこと自体は普通にある。
「資産の増加」と「資産の減少」が結合する取引の例は?
現金 ¥50,000 を普通預金に預け入れた
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 普通預金 50,000 | 現金 50,000 |
資産が増えて資産が減る。左右が違う要素どうしなら、同じ「資産」でも結合する。
「負債の増加」と「収益の発生」は結合する?
しない。どちらも貸方の要素だから
結合するのは必ず借方の要素と貸方の要素。
同じ側どうしの組み合わせは仕訳として成立しない。
仕訳を作るとき、8 要素をどう使う?
「何が増減したか」を言葉にして、8 要素のどれかに当てはめる
- 商品を掛けで売った → 売掛金(資産)が増えた・売上(収益)が発生した
- 資産の増加は借方、収益の発生は貸方
- →
売掛金 / 売上
仕訳の形を覚えるのではなく、この 3 手順で毎回導く。
初めて見る取引でもこの手順は使える。