工業簿記とは何か
このノートの問いがそのまま復習カードになり、忘れかけたころに出題されます。
出題区分表 工業簿記 第一「工業簿記の本質」1〜6。
0. どういう処理か
商業簿記の会社は、買ってきたものをそのまま売ります。
だから「いくらで買ったか」は仕入の記録を見れば分かります。
製造業は違います。材料を買ってきて、加工して、別のものにして売ります。
売った製品の原価は、どこにも書いてありません。計算して求めるしかないのです。
この「作ったものの原価を計算して帳簿に組み込む」仕組みが工業簿記です。
| 商業簿記 | 工業簿記 | |
|---|---|---|
| 売るもの | 買ってきた商品 | 自分で作った製品 |
| 原価 | 仕入額そのもの | 計算して求める |
| 期間 | 会計期間(1 年) | 原価計算期間(1 か月) |
| 特有の勘定 | — | 材料・仕掛品・製品・製造間接費など |
原価計算期間が 1 か月であることは、思っているより効きます。
工業簿記の問題文が「当月」「月初」「月末」と書くのはこのためで、
商業簿記の「期首・期末」と混ざらないようにしてください。
引っかけの分かれ目は次の 3 つ。
- 原価計算期間は1 か月。会計期間(1 年)とは別
- 完全工業簿記は原価計算を帳簿に組み込む。商的工業簿記は組み込まない
- 工業簿記は「記録する仕組み」、原価計算は「金額を求める計算」。別物だが不可分
1. 工業経営と工業簿記の特色
根拠: 出題区分表 工-一-1、工-一-2、工-一-3、工-一-4
まず「なぜ商業簿記のままでは足りないのか」を押さえます。
ここが分かっていれば、以降の勘定の増え方が理屈で追えます。
工業経営が商業経営と違う最大の点は?
購入したものを加工して、別のもの(製品)にして販売すること
そのため「売ったものの原価」が仕入記録からは分からず、計算して求める必要がある。
工業簿記の特色を一言でいうと?
内部の製造活動(原価の消費と製品への集計)まで帳簿に記録すること
商業簿記は外部との取引だけを記録すれば足りるが、工業簿記は社内でものが形を変える動きも
記録する。材料 → 仕掛品 → 製品、という振替がそれ。
工業簿記と原価計算の関係は?
- 原価計算 … 製品 1 単位あたりいくらかかったかを計算する手続
- 工業簿記 … その計算結果を帳簿(勘定)に記録する仕組み
計算だけでは帳簿にならず、帳簿だけでは金額が決まらない。両方そろって初めて機能する。
原価計算期間は何か月か。会計期間とどう違う?
1 か月(会計期間は通常 1 年)
原価は月ごとに集計して製品原価を出す。
問題文の「月初仕掛品」「月末製品」はこの期間を指しており、
決算の「期首・期末」とは別。
工業経営における責任センターとは?
原価や利益に責任を持つ、組織上の区分(部門・工程など)
原価をどの部門で発生したかまで記録すると、どこに無駄があるかが見える。
部門別計算(第九)はこの考え方から来ている。
2. 原価計算基準
根拠: 出題区分表 工-一-5
原価計算のやり方を統一するために、国が示した基準です。
用語の定義はすべてここから来ています。
原価計算基準とは何か?
企業会計審議会が 1962 年に示した、原価計算の実践規範
原価の意義、原価の分類、原価計算の手続などがここで定義されている。
2 級で条文を暗記させる出題は無いが、用語の定義はすべてこれに従う。
原価計算基準がいう原価計算の目的は、大きく分けて何か?
財務諸表の作成/価格計算/原価管理/予算の編成と統制/経営の基本計画の設定
「製品の原価を出す」だけが目的ではない。
原価管理(どこに無駄があるか)のための計算が、標準原価計算や差異分析につながる。
3. 完全工業簿記と商的工業簿記
根拠: 出題区分表 工-一-6-ア、工-一-6-イ
原価計算の結果を帳簿に組み込むかどうかで 2 通りあります。
2 級で扱うのは完全工業簿記ですが、対比で理解しておくと勘定の役割が見えます。
完全工業簿記とは?
原価計算の手続を帳簿組織(勘定)に完全に組み込んだ工業簿記
材料・仕掛品・製品などの勘定を設け、振替仕訳で原価の流れを追えるようにする。
2 級で扱うのはこちら。
商的工業簿記とは?
原価計算を帳簿に組み込まず、商業簿記と同じように処理する工業簿記
期末に実地棚卸をして、売上原価を「月初 + 当月投入 − 月末」で一括して求める。
製品ごとの原価が分からないので、原価管理には使えない。
完全工業簿記と商的工業簿記の分かれ目は?
原価計算の結果を、勘定として帳簿に組み込んでいるかどうか
組み込んでいれば完全工業簿記。棚卸で差額として原価を出すだけなら商的工業簿記。